賛歌   水と土と   戦争に反対する  作品紹介一覧へ

連読のための詩

讃 歌       


作・構成・演出 秋村 宏

朗読 はなすみ まこと
美異亜
秋村宏

いつも想っている

手のことを

おまえは……

と言ってみたくなる

おまえは心だ

だから

おまえには暮らしがある

高くなった税金

高くなった医療費

低くなった年金

どこか悪い身体とうちあけられないおもい

いつも飲んでしまう酒

テレビが伝える政治のウソ

企業合併・買収

過酷な労働・解雇

大企業のとてつもない利益

世界は! 

人は!

と言いたくなる憤りの感情

ああ!

と叫びたくなる社会

だからダメだと言い

けれどそこでじぶんはなにをしているのか?

と問いかけてみる

暗い夜にみえるのは

みえない明かり

みようとする夢

たしかめあう言葉

平和な

やさしい心をもった人たちがいっぱいの街

生きものの力にみちた村

夢みることを受け入れる人たち

わたしが

と言ったら

わたしが

と耳を傾けてくれる人たちがいて

差別しない

見下さない

愛を探り

闇のなかを走る人たち

世界は光にみち

暗い心を包んでいる

いつも陰でしか言わない言葉

まっすぐ物を言う人を茶化す言葉

いつも力のある方につく言葉

弱点しかみない言葉

一人では決して言わない言葉

横一線が好きな組織

それらを撥ねのけたいと思っている言葉よ

片手を腰にあてて

片手を空にむかわせよう

差しだすと差しだしてくる手

ただなんとなく握ってしまう手

物をつくる手

夜のなかの手

さわってもいいかい?

手と手を握り合う

長い手

短い手

動きだす手

みんな本当は夢みることが好きなんだ

みんないまの社会がどこかおかしいと思っているんだ

手よ

生活保護世帯の一五〇万の人たちよ

働いても働いても最低の暮らししかできない四百万世帯の人たちよ

一日あたり平均一ドル以下の生活費で暮らす一二億の人たちよ

平均二ドル以下の生活費で暮らす二八億の人たちよ

その手が求めている暮らしが

どうしてじぶんのものだといえないのか

限りなく伸びる手よ

いつも出発する手よ

話しかける手よ

たえず絶望を振り払い

希望へむかう手よ

おまえはわたしだ

   *

夜が明けると

光の衣が空から降りてくる

その静けさのなかで

五万人のアメリカ兵が起きようとしている

 グッドモーニング!

日本全国一三五カ所の米軍基地

沖縄三七

北海道一八

神奈川一六

長崎一三

東京八

広島七

青森六

ほか

総面積一〇一一平方キロメートル

東京都総面積の五〇パーセント

赤坂プレスセンター

横田飛行場

府中通信施設

多摩サービス補助施設

由木通信所

硫黄島通信所

ニューサンノー米軍センター

木更津飛行場

キャンプ朝霞

所沢通信施設

大和田通信施設

根岸住宅地区

横浜ノースドック

富岡倉庫地区

キャンプ座間

厚木海軍飛行場

相模総合補給しょう

池子住宅地区及び海軍補助施設

吾妻倉庫地区

上瀬谷通信施設

深谷通信所

横須賀海軍施設

相模原住宅地区

浦郷倉庫地区

鶴見貯油施設

富士営舎地区

沼津海兵訓練所

わたしを取り巻く戦争

許可なくして日本人が入れない土地

そこで六一年間

アメリカ兵が朝のあいさつをしている

かれらは歩かされて

朝鮮へ行った

歩かされて

ベトナムへ行った

歩かされて

クウェートへ行った

歩かされて

アフガニスタンへ行った

歩かされて

イラクへ行った

それが日本の風景なのだ

わたしにはいつもみえない

けれどそこにあるものをみようとしたことがあるのか?

慣れてしまった風景よ

いや みないことに慣れてしまったのではないか

近くでないことによって

わたしの身体から消えてしまっているもの

わたしの目から去ってしまっているもの

それはなにか?

おまえは本当は知っているのではないか?

世界が軍事力によって支配されようとしているのを

世界がその暴力にふるえているのを

日本を海外へ軍隊を送り込む国にしようとしているのを

アメリカの軍事戦略の中心基地を担おうとしているのを

そのための日本国憲法への攻撃を

みえるだろう

従うことで自分を失くしてしまう人間の正体が

従い そして従わせようとする人間の醜さが

かれらは互いに人を愛する心が好きではない

国家の意志に従う人間をつくりたいのだ

そう

耳を澄ますと

かつて日本がはじめた戦争の音がひびいてくる

アジアの人たちを殺し

日本の人たちを殺し

その責任と反省と決意

それが日本国憲法だ

そこではじめてわたしは国民に主権というものがあることを知った

なによりも人を殺すということを憎んだ

問いかけるといつも答えてくれる思想

未来へむかって歩いている

わたしに死がやってきても

おまえはわたしから抜けだし

わたしの子どもたちと歩いてくれる

おまえはいつも若々しい

目を凝らすと

足がみえる

戦争をやめさせるために集まる人たち

アメリカで

アジアで

ヨーロッパで

南アメリカで

アフリカで

日本で

動いている何千万本の足

人を殺せないと武器を捨てた兵士も

戦争は悪だと言った将軍たちも

小刻みに

大股に

平和にむかっていく世界じゅうの意志

それを伝えようとしないメディア

それはわたしの生きる喜びとはちがう!

伝えられないものにあるものよ

井戸のなかの光よ

出発するわたしの足よ

おまえは裸足だ

うつむいていてなにができるだろう

まっすぐ

いや曲って歩くかもしれない足で

従わせられている心を踏んでいこう

その痛さをかかえて歩こう

踏みだす時の言葉はなんでもいい

小さくても 湧き起こるものがいい

湧き起こるものを伝えるのがいい

おまえはテレビのなかの遠い戦争をみながら

想い描いているのではないか

世界が平和になったときの光景を

その笑いを

   *

おまえに聞きたい

おまえは誰なのか?

おまえは存在するのか?

住む処があり

食べ物があり

花があり

電車があり

たくさんの話し声がするのだから

わたしは存在している

そういえる

けれどおまえはたしかに存在しているのか?

わたしはいま平和のなかですこしばかり苦しんでいるだけだ

わたしの笑いはたしかに大きくはない

心はいつも晴れてはいない

けれどわたしは平穏を崩さないことはできる

すこしばかりの友がいて

すこしばかりの暮らしがあって

すこしばかりの夢があって

それがわたしの人生だ

他人には干渉されたくない

おまえこそ誰だ?

わたしはおまえだ

おまえのなかにいるわたしだ

わたしはおまえに問いかけ

おまえもわたしに問いかけ

わたしが答え

おまえも答える

それがわたしたち つまり一人の人間だ

いつも

なにかを守りたいと思い

もしかしたらそのことによって

豊かな夢を失ってきたのかもしれない

けれど

人よ

起きていて

しゃべり

眠っていて

しゃべる

誰かに聞いてもらいたい

伝えたいなにかが 

怒りが

音を立てていないのか

ためらう心よ

時には知らない場所へ行ってみよう

どうしてじぶんを変えなくて世界が変えられるだろう

どうしてじぶんのなかにもある悪を認めなくて正義だと言えるだろう

やわらかいおもいよ

痛みよ

他人を支える手よ

足よ

くじけない意志よ

そこにもここにも

じぶんと違う顔がみえないか

それらの未来へのぬくもりが伝わってこないか

すべては

いまからはじまる

ここからはじまるのだ




詩・連読

  水と土と

作・ 秋村 宏

朗読 藤井幸子
美異亜
秋村宏

2005年8月7日
詩人会議平和のつど
        
水は

いつも澄んでいて

顔を映した

心がみえて

たしかめるようにつぶやいた

おまえは誰?

そういってから

自分であることに心が安らいだ

おまえは誰でもない

おまえなんだよ

そういって

またたしかめ

石を投げた

顔が砕けて

どこかへ行ったおまえ

 

水はいいなあ

水はやってくるんだ

魚をつれ

虫をつれ

草をつれて

おまえはわたしを囲んで

わたしを動かした

知らない世界へいこう

わたしより大きなものをみにいこう

おまえといっしょに

わたしはどこへでもいける気がした

もちろん森へも

空へも

わたしは駈けていけた

わたしはイマジネーションの流れだった

 

だからわたしは誰とでも話しができた

鳥とでも

星とでも

花とでも

犬や猫や蛙とでも

すいかやとうもろこしとでも

そして

春とでも

夏とでも

秋とでも

冬とでも

だから

太陽や月とでも

話しができた

わたしはいつもみずみずしく

誰にでも語りかけた

誰にもみえないものがあるから

そのみえないものを探ろうとした

 

わたしはいつも勇敢で

怖れなかった

水の勢いで

世界をみようとした

世界はいつも笑顔で

ゆたかな生命をもっていた

世界は石ころだけではなかった

世界は人と生きもののつながりでできていた

人は生きものとともに夢を追おうとした

人は鹿や猿や熊や烏たちともっと親密だった

けれどわたしは失くしてしまった

生きものとしての力を

その失くした分だけわたしは尊大になり

智恵をなくした

 

わたしはいつも

決められた結論に従うようになった

上の人の意向には逆らわないようになった

上意下達

それがわたしの生きかたになった

 

だがわたしは水ではなかったか?

厚い土手をも崩す水ではなかったか?

すべての生きものの先頭に立って走る

ランナーではなかったか?

水よ

わたしのなかの怒れる意志よ

わたしの顔をつくる鏡よ

 

    *

 

土は

いつもわたしの身体を包んでいた

手でさわって

けものたちとおなじ心になった

生きている

とおもった

 

土といっしょに

なにかできる

いやなんでもできる

とおもった

 

おまえは何んだろう?

おまえは黒く

おまえは赤く

麦を育て

芋を育て

豆を育て

瓜を育て

にんじんを育て

稲を育て

わたしといっしょに考えた

働くということ

育てるということ

わたしはおまえとともに起き

おまえとともに寝た

父や母や祖父母たちとおなじように

おまえといっしょに暮らした

 

大地

それがおまえの呼び名だった

わたしはおまえが呼吸する音を聞き

おまえが怒る姿もみた

うたう歌も聞いた

おまえが育てた

木とも話した

みみずとも話した

苔とも話した

おまえは妥協しなかった

どんなに痛めつけられても

自分を主張した

コンクリートの割れ目からさえ草花の顔をださせた

泥は

わたしの内なる乾いた希望をゆたかにした

 

さあ

眠りから醒めよう

わたしはいくどもおまえのささやきに揺り起こされた

おまえは

永遠なるもの

高いものを求めさせた

おまえはハチを飛ばしてわたしにいった

ゆたかな蜜を探すなら

破壊のない世界をつくることだ

それには

畑を耕すように

固い意志の鍬を入れることだ

 

わたしは慣れてしまった

いつもと同じように

いつも決められたようにしていればいい

ただ出来上ったかたちを守っていればいい

そうすればあまり考えなくていい

なによりも情熱がいらない

 

その時わたしは何者なのだ?

 

    *

 

水も

土も

わたしのなかにある

わたしはすべての生きものとおなじだ

おなじように食べ

おなじように平穏を望んでいる

おなじように家族をもち

おなじように愛を求めている

おなじように暴力を好まない

わたしたちが住んでいるのはこの緑色に輝く地球だ

 

わたしたちは縛られない

身分や財産や職業に縛られない

国家や権力者や軍人や企業に縛られない

わたしたちは「生まれながらにして平等」なのだ

 

水の音がきこえる

遠くから

けれど大きい

土の匂いがする

遠くから

けれど強い

 

わたしは濁った激しいおもいをぶつけ

大きな流れとなっていけるだろうか?

小さくかたまり

仲のいい者だけで慰めあってはいないだろうか?

目のまえの出来事を自分に都合よくみていないだろう

 か?

泥になり土埃になり

どこまでもひろがっていくことができるだろうか?

 

さあ

まえをみよう

未知の野原

つくりたい未来をみよう

 

そのときわたしは本当に世界を変えたい自分に出会うだ

 ろう

 

平和は大地の上に血を流さないことからはじまるのだ

平和は水面に破壊の姿を映さないことからはじまる

 

わたしにもできるかもしれない

おまえと並んで

この地球を走り横たわることができるかもしれない

この地球はかぞえきれない異なった生命で充たされてい

 くのだ

 

水よ

土よ

大地よ

勇気よ

いっしょに暮らしていこう

いっしょに


詩人会議のシュプレヒコール

 戦争に反対する

2004年3月20日、東京芝公園でイラク戦争から1年、世界の人々と立ち上がろうと「100万人で平和の声を」集会がもたれました。詩人会議では開会前の文化行事として詩の朗読をしました。

作・構成 秋村 宏

朗読 葛原りょう
鈴木文子
美異亜




いま、わたしたちは芝公園にいる

いま、わたしたちは芝公園にいる

いま、わたしたちは芝公園にいる

あなたは誰だ!

わたしはあなただ

世界中にいるわたしだ

アメリカが戦争をはじめた時

わたしはロンドンにいた200万人だった

わたしはマドリードにいた200万人だった

わたしはローマにいた300万人だった

わたしはニューヨークにいた50万人だった

わたしはラワルピンディにいた40万人だった

わたしはバルセロナにいた150万人だった

わたしは世界60カ国の1000万人だった

わたしのなかに住むあなた

世界は

あなたがいることによって

かがやく

距離を

時間をこえ

そこに

あなたがいることによってかがやく

だからいつもたしかめる

あなたのなかにいるわたしを

あなたが目だとしたら

わたしは口だ

日本国憲法前文より

政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、ここに憲法を確定する。

第二章 戦争の放棄 

第九条          日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、

 国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争

 を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持し

 ない。国の交戦権は、これを認めない。

あなたはかつての戦争で

生き残ったいのちの

わたしの朝から生れた

「戦争で死んだ内外幾千万の人びとの遺言だ」

だから

世界は光にみちていて

人は

前をみ

手をつないで歩いていく

だから

陽の光が

うれしい

木の葉のゆれも

まぶしい

人の声のぬくもりもいい

とりわけ

未来のことを考えると熱くなる

いつまでもつづく

心のつながりをおもうと

強くなる

一人の力でも

世界を動かせる

そう思うことが

すこしなにかを動かすことになる

そう思う

そう思わないかい?

腕をまわすことによって

ひきよせる夢

すべてはいまを生きることによってつかもうと

ひきよせる夢

あなたが生んだのは

人を愛する心だ

けっして戦争を求めない心だ

すべてはいまを

まっすぐみることによって

限りなくひろがっていく

あたたかいもの

すべてが未来へつながるもの

北海道 青森 秋田 岩手 山形 宮城 

福島 栃木 群馬 茨城 千葉 埼玉 

東京 神奈川 山梨 新潟 長野 富山 

石川 福井 岐阜 静岡 愛知 三重 

滋賀 京都 大阪 奈良 和歌山 兵庫 

鳥取 島根 岡山 広島 山口 香川

徳島 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎

熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄

世界中の都市で

イラク侵略と占領に反対する一千万人のあなたたち

占領やめよ!

自衛隊は撤退せよ!

あなたは、いま、芝公園にいるわたしたちだ

あなたは、いま、芝公園にいるわたしたちだ

あなたは、いま、芝公園にいるわたしたちだ

わたしたちはいま、マドリードの一千万人のあなたでもある

わたしたちはいま、平和であることで光っている

わたしたちはいま、戦争に反対することによって輝いている

わたしたちはいま、戦争に反対することによって輝いている

さあ

「戦争をする国」をつくろうとする人たちとたたかおう!

さあ

日本国憲法を変えようとする人たちとたたかおう!

さあ

花も 鳥も

水も 木も

虫も 土も

魚も 草も

ともに生きよう

世界は

戦争のない年月によって

ゆたかな未来をつくる

ゆたかな未来は

わたしとあなたがつくる

ゆたかな未来は

あなたとわたしがつくる
詩「9条で世界をてらせ!」は
各地で朗読される場合の加除、訂正はさしつかえありません。
ことに最終連は集会の性格にそって
書き換えていただいても結構です。