2004年01月16日

「白鳥の湖」東京バレエ団(遠藤千春&ロベルト・ボッレ) <★★★★>

 キャスト 

遠藤 千春 * オデット/オディール
ロベルト・ボッレ * ジークフリード王子
高岸 直樹 * ロッドバルト



全幕主役デビューの遠藤千春ちゃん。どんな白鳥を踊ってくれるのか.
相手役は裸が似合う彫像のような男、ロベルト・ボッレ。
千春ちゃんは170センチ以上あるので、ルックスのバランス的に191センチのボッレは申し分ない。(以前新聞のインタビューでご本人も同様のことを言っていた。)
主役デビュー公演としてはこれ以上ないお膳立てだろう。
ボッレは昨夏のバレエフェスで見たボケボケの「イン・ザ・ミドル」と殆ど裸の「エクセシオール」が印象に残っているが、王子役を見るのは初めて。彼に一番合うのは王子だと思うので楽しみ。


*


 第一幕 

昨年ジョゼマルで同じ演目を見たときは出てきた瞬間に「うわ、でか!」、まさにガリバー王国だった。同じ190センチ仲間のボッレ、「今日もガリバーかしら」と心配していたら意外にも東バのコールドに上手く溶け込んでいる。全然違和感なし。
思えば「ドン・キ」のウヴァ様(196センチ)もジョゼマルほど浮いていなかったから、やはりジョゼマルの異様さは身長ではなく細さ、全体的な「細長さ」だと再認識。
ボッレ、やはり王子様が似合う。どこから見ても王子様。顔といい体といい、見た目、美しいよなぁ。踊りもキレイだし。(でも、彼を見てもトキめかないんだよな。なぜだろう?疑問だ。)
よくよく見ると腿の当たり筋肉がすごい。それでもこれだけラインが美しいのは、よっぽと手足が長いということだろう。日本人女性ダンサーの中には西洋人のプロポーションに引けを取らないダンサーがたくさんいるが、男性に関してはやはりまだまだ太刀打ちできない。

【 道 化 】 

大嶋 正樹

彼も昨年に引き続き連投だが、今日は前にも増して踊りが切れている。いいぞー。
ジュテなんてマラーホフを髣髴とさせる瞬間もあった。
が、惜しいかな、時々後ろ足や走り方が汚い。
全体的に踊りにキレがあるだけに、気の抜けた瞬間が余計に目立ってしまう。惜しい。

【 パ・ド・トロワ 】 

高村 順子
佐野 志織
後藤 晴雄

ここのトロワの男性は王子様みたいな格好だ。
他に舞台上にいる男性たち、コールドはコロボックルみたいな衣装だし、あとは家庭教師と道化くらい。そのためトロワ男性は見た目で王子に真っ向勝負を挑む形になる。
うーーーん、ゲスト相手の時は本人も辛いだろうなぁ。
あまりにプロポーションが違い過ぎる。お気の毒だ。
踊りはお三方とも特に惹かれるところ無し。

*

王子の憂鬱な踊り、ボッレはポーズが美しいのでスローな曲で決まっていた。
でも、ジョゼマルの踊りの方が心動かされたけど。


 第ニ幕 

千春ちゃん、登場。
う、美しい。びっくりだ。こんなに美しいとは!
なんだかすごく細くなったみたいだ。(彼女は割と増減が激しいので、ここで一安心)
そして、オデットの衣装が似合うこと。なんて儚げで美しいオデットなんだろう。
一つ一つのパがとても丁寧。ポール・ド・ブラが格別に美しい。とても情感のあるオデットだ。
そして、彼女は踊りにちゃんと自分の個性が出ている。
暖かい春の日差しのような優しいオーラが醸しだされている。
先日見たシェスタコワちゃんの母性的なオーラとはまた違った、優美で優しいオーラ。
こんな空気を醸し出せるなんて、千春ちゃんは只者ではない。
ここまで自分の個性を打ち出せるのは、日本人のバレリーナにはとても珍しいタイプだと思う。

ボッレと二人並ぶと絵になる。
ところどころパートナーリングが危ないところもあったが、ゲストだしその点は仕方ないか。

千春ちゃんのオデットは良い。ボッレの王子も素晴らしい。
が、しかし、ここのバレエ団の振付はどうにかならないものだろうか?
一体この振付で何を表現したいのか、理解に苦しむ。さしずめ「白鳥の大運動会」あたりか。
このバレエ団には演出家に対して「この振付止めませんか?」と進言できる人はいないのだろうか?
せっかく千春ちゃんが情緒ある踊りを披露しているんだから、いっそのことコールドは舞台から消えて欲しかった。ホント最悪。
あれだけ音がうるさい東京文化会館で公演するんだから、あの振付を踊られると、うるさくて、うるさくて、たまらない。
「バタタタタタタ、、、、」という音楽にあわせたコールドの脚音を聞かされるだびに「ケンカ売ってんのか!?」と思って腹が立った。


 第三幕 

【 チャルダッシュ 】

佐野 志織
平野 玲

平野さん、ブラボー。男なのに佐野さんよりも足上がってるよ、しかもキレイに。熱演。
日本人のディベルティスマンで「お!」と思うのは珍しいので、嬉しい発見。

【 ナポリ 】

タンバリンを叩くなら、音を外すな。

【 マズルカ 】

ソリストの福井ゆいさん、大好きなダンサーだけどマズルカには全然合っていない。
本人も居心地が悪そう。ヤル気なし。

*


舞踏会に王子が登場。その瞬間のボッレの演技が面白かった。
彼は二幕で既にオデットを心に決めているためか、ファンファーレとともに登場した際、堂々とではなく「え?なんで?」みたいな感じで、ちょっとキョドっていた。

そしてロシアとともにオディール&ロッドバルト登場。


【 ロシア 】

井脇 幸江 ・ 木村 一夫
大島 由賀子 ・ 後藤 晴雄

うわぁ、木村さんがセクシーだ。すごーい。髪の毛が伸びてサラサラストレートになっている。彼はこのバレエ団の中で抜きん出ているダンサーということがよーく分かった。
井脇さん、さすがのワルっぷり。見ていて怖いくらいだ。
大島さんは井脇さんの足元にも及ばない。後ろに反った時扇が床に付かないし。ワルのオーラも全然出ていない。舞台袖に引っ込むときも既に腕が下がっちゃってるし。しっかりやらないと!

*

【 黒鳥のグランPDD 】

遠藤 千春 
ロベルト・ボッレ

千春ちゃん、ボッレ、高岸さん(殆ど踊らないけど見のがせない)と見所満載で目が三つ欲しい。千春ちゃんのオディールはワルではなく、艶やかで魅力的な女性。
ちょっとオデットに似たところがあり、王子はそこから惹かれていく、って感じ。
千春ちゃん、多少技術的に不安定な要素あり。アティテュードをキープする力が弱いのが気になった。でも、彼女は長身なので黒鳥を踊ると非常に華がある。舞台上で見栄えする。

高岸さんは終始小芝居している。アダージオが終わると「うちの娘、いいでしょ」と王妃に話しかけてる風だし、ボッレのヴァリエーション(ワンダフル!)が終わると「あなたの息子もなかなかだねぇ」って感じ。授業参観のお父さんみたいだった。

そしてコーダ。
千春ちゃん、フェッテの最初からビビってるよ。大丈夫か!?見ているこっちがサーッと血が引いた。彼女は回転系が得意だと思っていたが、実は苦手だったのか。
途中でポアントではなくドゥミになってしまい、最後の数回転は回りきれなかったように見えた。
でもすかさずボッレが「俺に任せろ!」と言わんばかりに素晴らしい回転を見せてくれ、場は全然盛り下がらなかった。ボッレ、いい奴じゃん。



 第四幕 

二幕ほど違和感はないが、この四幕もなんだかなぁ。
まず、衣装の色とライトが暗すぎて、せっかくの王子とロッドバルトのジュテ合戦が殆ど見えない。これには閉口した。まるで昔のロシアのバレエ映像を見ている気分だった。

羽根をもぎ取られた高岸さん、すぐには死なずに「なにするんだよー!」と怒ってて笑えた。
瀕死の状態で床に倒れるとコールドの白鳥に激突しているし。(下敷きになった白鳥の子は微動だにせず平静を保ち立派)
悪魔が死んで呪いが解けたオデットは本当に嬉しそうな顔だった。
千春ちゃんは全編を通じて表情が豊かで、本当に魅力的だ。

ボッレの王子は申し分無いし、千春ちゃんも素晴らしく情感のある踊りだし、高岸さんは相変わらず面白いし、と振付以外はとても楽しめた公演だった。
また是非千春ちゃんの白鳥が見たい。今度はもう少し完成度を高めたものを。
が、再演する際に気がかりなのは、千春ちゃんの相手役。
彼女がポアントで立ったときの身長190センチ以上あるダンサーは世界中でもそうはいないだろうし。ボッレ、また来てくれるかなぁ。それともあの変な振付を見てもう来たくなくなったかなぁ、、、。心配だ。

カーテンコールにて、高岸さんはまるで父のような温かい目で千春ちゃんを見守っていて、見ているこちらまで和んだ。ケヴァルさんはなんだか痩せていて、ちょっと心配。

* 東京文化会館 *


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