「バヤデルカ」レニングラード国立バレエ団(ザハロワ&ルジマトフ) <★★★★> |
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スヴェトラーナ・ザハロワ * ニキヤ
ファルフ・ルジマトフ * ソロル
オクサーナ・シェスタコワ * ガムザッティ
昨年2月に新国立でザハロワ&ゼレンスキーで見た「ラ・バヤデール」、イキをするのも忘れるくらい美しかった舞台。そのザハロワが相手役をカリスマダンサー・ルジマトフに代え、どのような踊りを披露してくれるのか?
ルジマトフ、彼が参加するレニ国の舞台には素晴らしい化学反応が起こるのは昨夏に経験済。
ダンサーの顔と名前もだいぶ一致して愛着が沸いて来たレニ国のバレリーナたち、中でもシェスタコワちゃんと美しいコールドが楽しみ。
ソロルはジュテで登場するものだと思っていたので、歩いて登場したルジマトフは意外に地味な登場。が、それは一瞬だけ。彼は一つ一つの動作が素晴らしく美しく目が釘付け。彼の動きを見ていると跳んだり回ったりするのだけがバレエではない、と深く納得。歩くだけで絵になる男。
マグダヴィアのラシッド・マミンはなかなか。踊りにキレがあった。苦形僧には全然見えなかったけど。大僧正のアンドレイ・ブレグバーゼは外国人にしては顔が大きい。日本の時代劇スターみたいだった。寺院の巫女たち登場。みんななんてスタイルが良いのだろう。しかも可愛い。レニ国は可愛い子組とそうでない組が天と地ほど差があるのだが、ここは可愛い子組。水色の衣装がよく似合っている。(二幕にそうでない子組が登場していた。なにもここまでキッチリ分けなくても良いのに)
そして、ザハロワ登場。
プロポーションの良いレニ国に混ざっても群を抜いたスタイルの良さ。
手足が長いのはもちろんだが、とにかく頭が小さい。そして、細い。ジョゼマル効果というか、横に異様に細いため、その分縦に長く見える。その頂点に小さな小さな頭が乗っかっているから、天下無敵のプロポーション。ラカッラがザハロワがバレリーナとして最も理想的なプロポーションだろうな。(ポリーナちゃんは胸があり過ぎ)
そして、彼女の持ち味はガラス細工のような繊細な愛らしさ。踊りだけ見ると、ポール・ド・ブラなんかパキパキしていて、愛らしさよりも勢いや強さが勝つくらいなのだが、佇まいがオルゴール人形のように愛らしい。本当に容姿に恵まれたバレリーナだ。
ルジとの間にはあまり愛は感じられなかった。お互い相手を見ていないというか、目指すものが違うというか。その点ゼレンスキーの時は愛に溢れていたのだが。ザハロワの演技が「上手に演技してます」と言った感じで、ちょっとこ慣れてしまったせいかもしれない。
ガムザッティのシェスタコワちゃん、登場。
彼女はロシアのプリマとしては元々細い訳ではないのだが、今日はザハロワ相手のせいか、前回見たときよりも随分プクプクしていた。でも、可愛い。
「美味しいもの一杯食べているお嬢様なのね」といった感じ、豊かさの象徴?
昨年パリオペで見たマリ・アニエス・ジロの悪代官みたいに恐ろしげなガムザッティを見てしまうと多少の物足りなさを感じてしまうかもしれないが、シェスタコワちゃんらしい愛らしいガムザッティ。大事に育てられた世間知らずのお嬢様の感じは良く出ていた。
ニキヤと奴隷の踊り、奴隷のイーゴリ・フィリモーノフとザハロワのイキがいまいち。また、彼がトロい。音についていくのに必死で振りがおざなりになっていた。
ニキヤとガムザッティの対決シーン。
シェスタコワちゃんは「私、ソロルが欲しくなっちゃったの。下さいな♪。」と言った感じでニキヤにお願いしている。世間知らずで無邪気なお嬢様。ある意味、無自覚の悪意で怖いかも。映画「エイジ・オブ・イノセンス」のウィノナ・ライダーを思い出した。対するニキヤはエキセントリックに怒ってた。おっとりガムザッティよりよっぽど強そう。ニキヤにナイフを突きつけられたガムザッティ、マリ・アニエスからは「おのれ〜」という地を這うような怒りに満ちた声が聞こえてきそうだったが、シェスタコワちゃんは「プン!」って感じで、怒っても可愛かった。
この演目の中で最も派手に豪華なはずの婚約式の行進が「とほほ、、、、」。異様に貧乏くさかった。人数がたくさん必要な演目だからエキストラが混じるのは仕方ないにしても、せめてバレエをかじったことがあるとか、若くてプロポーションのよい兄ちゃん、とか調達のしようは無かったのだろうか?ただの中年のおっさんを舞台に上げるのは勘弁してもらいたい。光覧社さんの社員のおっさんかと思ったよ。行進では象もきっちり登場してくれたが、鞍の天井が低すぎてルジの顔が全然見えなかったのが残念。
【ブロンズ・アイドル】
ロマン・ミハリョフ
金粉キャバレーショーではなく、金の薄いレオタードを着ていて不満。妙な光沢が許せない。踊りはすごく良かった。特に最後の片足を上げたジュテはクマテツを彷彿とさせる足の角度と高さだった。しかし彼はスタイルがあまりにも悪い。びっくりするほどムチムチしていて、衣装のせいで妙な光沢もあり、少々気色悪いブロンズアイドルだった。
【 壺の踊り 】
タチアナ・クレンコワ
まさか、と思ったらドブスキューピッドのタチアナ・クレンコワ。キューピッドもそうだけど、壺もバレエ団の中でも可愛らしい女の子が踊るものだと思っていたし、今後は是非そうお願いしたい。悪いが彼女には全く似合わない。また一緒に踊る子供のパートが、どう贔屓目に見てもおばさんが踊っていて興ざめ。だって、頭に壺をのせた女の子にちょっかい出して許されるのは子供だからでしょ?化粧が濃くて肉好きの良い女がそんなことしたら、ただのイジメだ。
【 太鼓の踊り 】
エカテリーナ・エフィーモワ
太鼓の踊り、ブラボー。特に女性ソリストのエカテリーナ・エフィーモワ。すっごくスタイルが良くて、可愛い。あの、一歩間違えると野蛮人になってしまう踊りをとってもチャーミングに踊っていた。今後彼女に注目しよう。
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【 婚約式のグランPDD 】
ファルフ・ルジマトフ
オクサーナ・シェスタコワ
脇を彩ったユリア・アミロワ、イリーナ・コシェレワ、スヴェトラーナ・ギリョワ、タチアナ・ミリツェワが華やかだった。ほんと、レニ国の女の子は可愛くてレヴェルが高い。キーロフよりよっぽど良いよ。シェスタコワちゃん、白いチュチュに縦ロールが可愛い。踊りはシェスタコワちゃんらしい甘やかで愛らしい踊り。ヴァリエーションの出だしでアチュチュード・ターンがルルベになってしまいハラハラしたが、それ以外はソツなく可愛く終了。
ルジ、彼の踊りには毎回胸を打たれる。観客に今見せられる最高の物を見せようとしてくれる姿勢には頭が下がるし尊敬してしまう。きっと若いときに比べると華やかさやテクニックなど劣る部分もあるのだろうが、これだけ佇まいが美しければ私は大満足。第一、必要充分以上にテクニックも美しく決まっている。(若いときが凄すぎたのだろう)
シェスタコワちゃん、イタリアン・フェッテも美しく決まり、最後のフェッテ・アントゥール・ナンも軸がぶれること無く回りきり、お見事。ほんと、フランス人形みたいに可愛い。
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そこへニキヤ登場。
【 花かごの踊り 】
スヴェトラーナ・ザハロワ
この踊りは自分を裏切った恋人に祝いの踊りを捧げなければならない切ないニキヤ、後ろめたいソロル、そんなソロルを毅然とたしなめるガムザッティ、と見所満載なので目が四つ欲しかった。
ザハロワ、前に見た時は踊りの最後に歯を見せた笑顔が浮いていたが今日は全体的に抑え目の表情。最初の両手を頭の上で合わせた祈りのポーズが大変美しい。解毒剤を捨て死を選ぶ際は毅然として「プライドを捨てるくらいなら、死にます!」といった決意が見て取れた。死の瞬間、ソロルはニキヤに駆け寄る。新国のソロルとんずらヴァージョンではなく、ニキヤはソロルの腕の中で息絶えた。
レニ国のコールドはなんて美しいのだろう。
新国のコールドの美しさも目を見張るものがあったが、レニ国はそれ以上。美しさ+叙情性があり本当に美しかった。「静謐」という言葉がぴったり。アラベスク・パンシェの連続のとき、薄い紗幕が掛かっていて、より一層現実感が乏しく夢のように美しかった。ヴァリエーション、一人目に踊ったタチアナ・ミリツェワがとても良かった。精霊の割りに妙にせわしない振付をキレイに踊っていた。
「影の王国」のザハロワ、ルジは、ひたすら美しかった。
好みとしては、昨年見たゼレンスキーとザハロワのペアの方が好きなのだが(ゼレンスキーがザハロワを「守ってる」感が強くて、よりいっそうニキヤの儚さが際立った。役作りとしては、少々ズレているのかもしれないが)、今日のザハロワはルジと対等。かなり自立した強い女のニキヤは影の王国でも一貫していた。ハーレムパンツも似合うザハロワだがやはり白いチュチュは格別に似合う。バレリーナとして極上のものを見せてもらい、その幸せに酔わせてもらった。
ルジはもう、年齢・その他の並みのダンサーが障害となるべき物を総て超越してしまっている。役への入り方、こだわり方、魅せ方、総てがよく練られ、最高のものを見せてくれた。彼のバレエ及び観客に対する誠意は本当に素晴らしいと思う。大ダンサーになっても変わらず精進し続けるする真摯な態度。いつまでも舞台に立ち続けて欲しい。
三幕は踊りの随所に彼なりの強いこだわりが感じられた。
例えば、出だしでニキヤを見送るところ、ずっとルルベでアラベスクをキープ。しかも微動だにせず美しいポーズを保ったまま、見惚れた。その他、決め所のポーズがどれもとても美しく、それだけで舞台がぐっと引き締まる。
寺院崩壊。
新国立の寺院崩壊は上から岩が降ってきたりして、まるでドリフのコントなのだが、今日の崩壊はなかなかの迫力。とても良かった。
崩壊前の結婚式には幽霊(精霊)となったニキヤが乱入。ガムザッティとソロルの間をストーカー状態。このときのザハロワは「精霊」というより「悪霊または黒魔術」のようでちょっと怖かった。この演出だとニキヤが自分を裏切った報復に寺院を崩壊させたように思えるが、それでOK?もし正しければ今日の「ちょっと強面のニキヤ」像は全編を通して見て納得。新国立の、最後まで清純なまま神に召されていくニキヤが非常に儚げだったのに対して、強い意思と自我が滲み出ている役作り。同じ役でも演出によって違う演技をするものなんだ、偉い!
崩壊後、ベールだけがスルスルスルと天に召され、なぜか大僧正が嘆いて(?)終わり。ニキヤもソロルも出てこない。ちょっと唐突だったけど、思えば、大僧正だけニキヤに対してまっすぐな純愛を貫いているからこれで良いのかなぁ、ナゾだけど。
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カーテンコールでザハロワがとってもにこやかに嬉しそうに応えてくれた。ルジ公演、しかもザハロワゲストということで会場はスタンディング状態で、特にS席の人たちはオケピットに津波のように押し寄せていた。ザハロワ、昨夏ブッチした「ジゼル」の借りを忙しいスケジュールの中できっちりと返してくれて、なんて良い人なんだろうと感動した。今日の心からの笑顔は日本の観客を愛してくれているようでとても嬉しかったし、彼女の人となりが垣間見えて素敵だった。パリでも大人気らしいが、是非日本でもまた踊って欲しい。
* 東京文化会館 *
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