2004年01月30日

「ジゼル」レニングラード国立バレエ団(ザハロワ&ルジマトフ) <★★★★>

 キャスト 

スヴェトラーナ・ザハロワ * ジゼル
ファルフ・ルジマトフ * アルブレヒト
オリガ・ステパノワ * ミルタ
ロマン・ペトゥホフ * 森番ハンス



昨年、ルジマトフとイヴリン・ハートの「ジゼル」二幕(「バレエの美神」)は凄かった。
歴史に残る名演。あの時は会場であるBunkamuraの舞台に異次元が見えた。
あの舞台を生で体験でき、幸運であった。
カーテンコールにて、ルジマトフはアナザーワールドへ行ったきり帰ってこなかった。
彼にとっても強烈な体験だったに違いない。(ハートは割りと普通にコールに応じていたけど)
今日は相手役を今を時めくザハロワに代え、一体どんな舞台を見せてくれるのか?


 第一幕 

レニ国のアルブレヒトの一幕の衣装は、お父さんのラクダのシャツを彷彿とさせる黄土色。
昨年客演したイレールも相当おっさんに見えたが、ルジもキツイ。
ルジはお顔が老け顔なので妙にラクダのシャツがはまってしまうのが良いんだが、悪いんだが。体のラインはさすがにきれいだけど。
イレールのアルブレヒトはせわしなくジゼルに迫る”セクハラ・アルブレヒト”だったが、今日のルジは落ち着いたアルブレヒト。どこにいても何をやってもルジはルジ。「貴族の若様がが村人に扮して、オイタをしている」という感じはあまり感じられなかった。(←の感じはヨハン・コボーが抜群に上手かった)。

 ザハロワ、可憐で可愛い!
一昨日見た「バヤデルカ」では強面のニキヤに多少の違和感を覚えたのだが、今日の村娘はとっても愛らしい。もっとわざとらしい娘演技をするかと思ったけど、とても自然な演技。早熟の天才とはいえ、実年齢は若いお嬢さんなんだから、ニキヤよりジゼルの方がより近いのかもしれない。笑顔も自然だ。

 森番ハンスのロマン・ペトゥホフ、男くさい容貌がヒラリオンにお似合い。バチルダのナタリア・オシポワは人の良さそうなバチルド。そんなところも含めてちょっとおばさん臭い。あー、このおばさんに絡め取られるのがイヤで、アルブレヒトはジゼルに現実逃避してたんだなぁ、と妙な説得力。

【 ペザントPDD 】

オクサーナ・シェスタコワ
アンドレイ・マスロボエフ

キャスト表で彼女の名前を見た時は嬉しかったなぁ。彼女のペザントは当たり役。シニヨンを二つ結んだ中国人みたいな髪型がとっても似合っていた。ガムザッティの縦ロールも可愛かったけど、やっぱりペザントの彼女が一番可愛い。いつもながら踊りも良かった。彼女の持つ優しげで甘いオーラが輝いていた。ザハロワとは全く違う持味なので、キャラが被らない。一つの舞台で違うタイプの好きなバレリーナが見られるのは嬉しい。
マスロボエフは外国人のダンサーとして致命的にスタイルが悪い。ミハリョフといい、彼といい、レニ国は男性ダンサーのスタイル(と前髪、、、)に難アリかも。

*

狂乱の場面は淡々としていた。上手に演技はしていたけど、特に心を打つものは無かった。ただ、髪がほどけて頭がボサボサになるはずのジゼル、ザハロワのしなやかなロングヘアーは全然クセがつくことなくサラサラだったのには驚いた。彼女は容姿だけでなく、髪質にまで恵まれているとは。つくづく美の神様に選ばれた人だ。
アルブレヒトはとんずらヴァージョン。ルジにはクマテツのように、一度逃げても戻ってきて、ジゼルを抱きしめて欲しかった。



 第ニ幕 

オリガ・ステパノワのミルタ、雰囲気は合いそうと思ったのだが、踊りはあまり感心しなかった。出だしのパ・ド・ブレが滑らかでなく、アラベスク・パンシェが中途半端。ここでしっかり観客の心を掴まないと。踊りに勢いが無く固さが見られ、彼女の持ち味の「極道」を生かせる役なのにもったいない。
二人のウィリーのユリア・カミロワ、イリーナ・コシェレワ、一人で踊っているとキレいなんだけど、二人そろうと振りが合っていない。これはカミロワの腕を上げるタイミングが他の人と違うのが原因。振り、間違ってるよ、些細なタイミングだけど明らかに違った。そんなことあるんだとちょっとビックリ。

ルジ、あれ?お帽子被ってない。絶対被っているほうが良いのに、残念。
ゆーーーっくり舞台を歩いてご登場。この人は本当に歩く姿がキレイで、それだけで存在感がある。黒マント、紫タイツもよくお似合い。

ザハロワ、一幕の村娘も可愛かったけど、二幕の白いロマンチックチュチュもよく似合う。
ミルタに踊らされてアチュチュードで跳びながら回るところ、すっごい高速回転でキレイだった。恵まれた容姿・身体能力を生かした彼女のジゼルはポーズの美しさでいったら世界最高のものだろう。年齢的にも美しさの絶頂であろうザハロワのジゼルを見られて幸せだ。が、その美しさにうっとりとタメイキをつく一方、彼女のジゼルには少々違和感を感じてしまった。それは何かと言うと、身体能力が高すぎてイキが良すぎ、踊りが役柄を突き破ってしまう瞬間。「踊ってます」という力みが感じられ、ジゼルなのにまるで「白鳥」の舞台を見ている気になった。美しいものを見たい、という欲求は満たされたんだけど、果たしてそれがジゼルなのか。彼女が美しいポーズを決めジゼルという役柄から突き抜ける瞬間、そこには「ジゼル」という物語は存在せず、彼女一人、美の女神が存在していた。結果、アルブレヒトへの愛が希薄になってしまった。

ただ今日のザハロワはとても心を込めて踊ってくれたと思う。ポアントの音にもすごく気を使っていたし。やはりイヴリン・ハートのいい意味で”枯れた”名人芸ジゼルと比べるのが間違っているのだろう。ハートのジゼルは踊りの本質がザハロワとは全く違うのである。(ハートは足音を立てないことに命賭けてて、部分的にデゥミ・ポアントだったし)。踊りに焦点を当てたザハロワのジゼルは現時点の彼女に出来る最高のジゼルなのだろう。まだ彼女は20代、この強烈に美しいジゼルの残像をしっかりと目に焼きつけておいて、今後の熟成を見守ろう。

終幕、ルジはジゼルのお墓に向かって這いずっていて、その姿にジーンときた。
ただ、彼の調子はあまり良くなかったと思う。途中「ケガ?」と思った瞬間もあった。(思い過ごしだったけど)。でも、彼はちゃんとアナザーワールドへ行っていたようだ。カーテンコールで微笑んでいるザハロワに対し、相変わらずポカーンとしたルジ。完全にザハロワに引率されていた。
主催者から渡された花束(ザハロワ、ルジ、アニハーノフ)、ルジはそれをザハロワに捧げると、彼女からお返しに紫のバラを一輪贈られていた。ルジ、似合いすぎ!私のツボにはまった。

*

今日はルジマトフ親衛隊の方々のカーテンコールも控えめ。明日の舞台があるからだろうか。ちょっと物足りない。

* 東京文化会館 *


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