2004年03月30日

「首藤康之最後のボレロ、他2作」東京バレエ団 <★★★★★>
”チケットは直前に買えば良いや”と呑気に構えていたら、発売当日に売切れてしまった本公演。急遽追加公演が決定し、それに救ってもらいました。助かりました〜。これを見逃していたかと想像すると、背筋が震えます。それくらい心に残る素晴らしい舞台だった。

 ペトルーシュカ 

後藤 晴雄 * 青年
井脇 幸江 * 若い娘
木村 和夫 * 友人

 主演の後藤さんの不調が痛かった。
ポーズが止まれない、アラベスクの足が曲がっている、など踊りが汚い。
そのため群舞になると盛り上がるのだが、彼の踊りになると盛り下がってしまう。
三つの影(後藤和雄・平野玲・中島周)もなんだかなぁ。これはキッチリ揃ってもらわないと。
一人、上半身がやたら華奢な影がいたが、あれは平野君?もう少し鍛えて欲しい。
後藤さん、踊りがヘロヘロだったけど、演技は良かった。目がイッってました。あの目には惹かれた。

 若い娘の井脇さん、とても丁寧な役作り&踊りなのだが、「若い」娘に違和感が、、、。
最近の若いお嬢さんのプロポーションと比べてしまうと、どうしても手が短い。そのため踊りだすと肩が上がって見えてしまうのが惜しい。キチっと踊っているのだが。
小出領子ちゃんあたりで見てみたい。

 木村さん、いつ見ても踊りが美しい。
どんな些細なポーズもキリっとつま先まで力を抜かず決めてくれるところが心地よい。
でも、髪型とメイクもう少しなんとかして。アイメイクをソフトにしないと、瞳孔が開いた死体みたいで少々怖い。


 ギリシャの踊り 

後藤 和雄 * ソロ
大嶋 正樹 ・ 古川 和則 * 二人の若者
吉岡 美佳 ・ 中島 周 * パ・ド・ドゥ
井脇 幸江 ・ 後藤 晴雄 * パ・ド・ドゥ

 音楽、振付ともに、とても心地よい作品。
波の音からはじまり、波の音に終わる。
パンフレットでよく見かける”片足上げた幽霊ポーズ”は「波」を表現しているのですね。
よーく分かりました。そしてそれが見事に表現されていた。

後藤和雄さん、初演で某評論家にケナされていたのだが、今日はなかなかの出来。
今まで彼の踊りについては「硬い」という印象を抱いていたが、今日はとても柔らかかった。
ポーズも美しく、魂のこもった美しい踊りだった。会場からも盛んにブラボーが掛かっていた。

二人の若者は先日の『中国の不思議な役人』娘役コンビ。
同じ役をキャスティングされたとは思えないほど、持ち味の違う二人。
古川さんは先生のお気に入りの優等生、大嶋さんはどこか集団からこぼれてしまう劣等生(でも不良ではない)の味。やはり大嶋さんの押し出しの強さが目だって、古川さんは弱冠霞み気味。大嶋さん、体型も異彩を放つ。肩の筋肉が異様に盛り上がっていて、ちょうちん袖みたいなんだな。美しいのかどうかは微妙。(お肌の色も妙に赤くて、ちょっと気になる)。でも、自分の個性を全面に押し出した彼のアクの強い踊りは決して嫌いじゃない。

吉岡さんと中島君のPDD、吉岡さんの美しさに見とれてしまった。
中島君はまだまだ。完全に吉岡さんの黒子になってしまっていた。
中島君、ルックスがとてもキレイで期待の若手だと思うので今後に期待。

『ペトルーシュカ』コンビ井脇・晴雄のPDDは晴雄がお疲れグロッキー。
リフトで落としそうになったり、ヒヤヒヤした。井脇さんのレオタード姿は男前で美しい。

 ボレロ 

首藤 康之 * メロディ 

飯田 宗孝 ・ 森田 雅順 ・ 木村 和夫 ・ 後藤 晴雄 * リズム

特に彼のファンでは無く、ボレロも今日が初見の私だが、非常に心を打たれた。
バレエという枠を飛び越えたその先の奇跡を見せてもらったというか、彼の踊りは踊りの神に捧げられた供物のようだった。男性ダンサーにここまで霊感を感じたのは初めてだ。ダンマガ最新号で彼のインタビューがあり「若さとは演じるものではなく、差し出すものだ」と語っていた。その言葉が踊りにオーバーラップして心を打つ。彼の若さ、そしてダンサーとしてのこれまでのキャリアはこの『ボレロ』に捧げられたんだ、と思った。
『ボレロ』という演目はもっとあざとく踊るものだと思っていたが、彼のボレロから感じたのは清冽さ、清潔感、神々しさ。きっと自分の心を無にして有りのままを晒し、彼の繊細な魂が観客に伝わったのだろう。圧倒的な感動だった

会場は悲鳴・大拍手&スタンディング。そしてカーテンコールの嵐。それに相応しい素晴らしい踊りだった。首藤さんも心からの笑顔。このボレロを踊れたら、ダンサーに未練は無いかもしれない。この瞬間に立ち会えて良かった。

* 五反田ゆうぽうと *


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