「ザ・カブキ」 東京バレエ団(高岸直樹・首藤康之他) <★★★★> |
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高岸 直樹 * 由良之助
後藤 晴雄 * 直義
首藤 康之 * 塩谷判官
斎藤 友佳里 * 顔世御前
木村 和夫 * 高師直
歌舞伎とは相性の悪い私。過去二度見た演目では二度とも寝てしまった。本日初見の「ザ・カブキ」も前半はキツかった。が!イノシシですっかり目が覚めた。
冒頭、現代の若者がロックに合わせて踊っている。背景に何台ものテレビカメラから映像が流されていたが、そこにはスマップの映像があったらしい(友人談)。だったら衣装も初演当時のものから多少手を入れて欲しい。どうみてもたけのこ族にしか見えない。パソコンを必死に叩いているかのような振付も、現在では多少違和感。今見るとタイプライターの趣で逆に古臭く感じた。
タイムスリップして、『忠臣蔵』の世界へ。直義をもてなす宴。元ネタの歌舞伎を知らない私から見るとモロ歌舞伎の世界。(お詳しい方から見ると、さぞかしクレーム付けたいマガイモノだろうけど)
歌舞伎の所作を意識したのであろう振付は”わざとらしさ”が漂い、あまり感心しなかった。この調子だと寝てしまうかも、と早くも暗雲。
顔世の斎藤さん、白塗りのせいもありすっごく顔が大きく見えた。彼女は首が短すぎる。踊りも彼女独特のドスが利いていなくて、あまり調子がよく無かったのだろう。役の雰囲気は出ていたけど、吉岡さんのラインの美しさで見たかった。
あー、ダメだ、寝ちゃうかもと思っていたら木村師直が楽しそうに首藤さんをイジめてる。木村さん、いつものテンションの高さがこの役ではピッタリ。悪役オーラが出ていて素晴らしい。首藤さんの余計なものを削ぎ落としたクリアーなは踊りは今日も美しい。青という色がこの役の彼によく似合う。
そして、首藤さん切腹。このシーンはさすが。首藤さんの視線が忘れられない。なぜか瞳がブルーに見えた。冷え冷えとしたブルーアイ。そしてやっと高岸さんと由良之助がシンクロしていき
物語に展開が見られる。と、思ったらおかると勘平の逃避行。ぐぐぐ、退屈。後藤和夫、よく見ると頭が大きい。彼の中途半端な個性はこの役に合ってない。勘平の人物像が最後までよく分からないまま。一方おかるの佐野志織さんは失礼ながらブスなお顔が白塗りで隠れ、とても可憐なおかるだった。仕草がとても可愛らしい。役柄の設定が意味不明の現代のおかると勘平、武田明子ちゃんと平野玲君のロリロリカップルは見ていて目の保養にはなったが、あの役は物語に混乱を来たすだけだろう。同じタイムスリップ組の由良之助が高岸さん一人なのに対して、おかると勘平は過去:現代と二組存在する。そのためタイムスリップの設定が中途半端。いっそのこと出さないほうが物語りは分かり易いと思われる。
おかやの大島由賀子さんのメイク、以前テレビで見た商業演劇の5歳くらいの女の子が持ちネタにしている”子守のばあちゃん”にそっくり。笑っちゃうくらいコント仕様。お気の毒になってしまった。お才の遠藤千春ちゃん、人身売買のおかみには全く見えない。楚々としている。そのためかおかるの身売りに悲壮感をあまり感じなかった。ここは井脇さんあたりが適役では。全体的にまったりしたところで、イノシシ登場!丁度昼間ウリ坊の猪突猛進映像を見たばかりだったせいもあり、心の中で大爆笑。おかげで目が覚めた。
その後は怒涛の展開へ。
一幕のラストに高岸さん8分間もあるソロ。素晴らしかった。
脚がつま先まできっちり伸び、非常にキレのある動き。そしてスタミナの配分がパーフェックト。お年を調べたら、今年で38歳!驚異的な体力の持ち主である。
討ち入り。雪の中を颯爽と志士たちが走っていく。中には学芸会?みたいな子供が混じっていたが、まぁ仕方ないだろう、この人数集めただけあっぱれ、である。ただ討ち入りされるはずの木村(<諸直)さんが討ち入りに参加してソロパートを踊っているのはマズイだろう。彼は昨年の「くるみ」でもロッドバルトと花のワルツを踊っていてびっくりしたが、やはり主役級が二役はまずい。(首藤さんは討ち入りにこっそり参加していたけど、ソロパートは無かった)。それはさておき、なかなか迫力ある討ち入りシーンだった。途中、障子破りが出てきたりして(「ヨカナーン」でも同じことやってた、好きなのかな?<ベジャール)時代劇の雰囲気がよく出ていた。新書館が出している『ザ・カブキ』という本の解説に「和製「スパルタクス」」と書いてあり、スパルタクス信奉者の私は「えー、そんな事有り得ない!」と思って舞台に臨んだが、意外にもいい線行っていた。なかなかのものでした。
終ってみると、大満足。かなり面白い演目だった。
そして、首藤さんの塩谷判官が目に焼きついている。あの切腹シーンの瞳はずっと忘れない。
* 五反田ゆうぽうと *
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