2004年04月24日

「ジゼル」東京バレエ団(マラーホフ&ヴィシニョーワ) <★★★★>

 キャスト 

ディアナ・ヴィシニョーワ * ジゼル
ウラジーミル・マラーホフ * アルブレヒト
木村 和夫 * ヒラリオン
遠藤 千春 * ミルタ



人気・実力ともに世界的屈指のプリマ、ディアナ・ヴィシニョーワ。
今までいくつか彼女の舞台を見たが、彼女の踊りに誠実さを感じたのは今回が初めてだ。

昨夏の世界バレエフェスではパートナーのマラーホフの精気を吸い尽くしズタボロにし、ヴィシはエロパワー全開。マラーホフのあまりの惨状が悲しかった。
冬のキーロフ公演では、踊りはパーフェクトだったが、どこか心ここにあらずで淋しい舞台だった。。

どうも彼女の踊りは独りよがりで、パートナーとの間に会話が成立していないように感じてしまう。が、今回の舞台ではマラーホフとの間には会話が成立していて、嬉しい発見。
「良いジゼルを踊りたい」という彼女の気持ちがこちらにも伝わってきて、なかなか心を打たれた。

*


ヴィシのジゼルの衣装はピンク色。
ボリショイの黄色でもよく見かける水色でもなく、初めて見たピンクの衣装。とっても可愛い。彼女が愛らしく見えたのは初めて。姫より村娘の方が彼女のキャラクターには合っている。
彼女にはそこにいるだけでパーっと明るくなる華がある。その存在感は絶大。
が、全体的にジゼルを意識し過ぎているように感じだ。
まだ慣れていないのか(普段あまり踊らない?)、ところどころマイムや音を持て余しているのが気になった。ジゼルの愛らしさを表現すればするほど妙な色気が出てしまい、全体的にシナを作りすぎ。ジゼルはチーママではない。方法論が間違っていないか?あれだけ華のあるバレリーナなんだから、むしろ艶を削ぎ落としていく方がジゼルらしく見えるはず。チーママ・ジゼルが彼女らしいと言えば、確かにそうなのだが、、、。

毎回気になるのだが、彼女の踊りを見ていると、腰がしなり過ぎて腕が肩より前に来て猫背に見える瞬間がある。それが彼女の身体能力の高さだろうし、彼女の個性なのだろうが、私はあまり好きではない。腰に負担が掛かりすぎてませんか?。

二幕のウィリになったジゼル、衣装はベルリン仕様?
一人だけ絹のような光沢の重みのある衣装だった。
思ったよりウィリの扮装が似合っていた。
登場した瞬間ミルタに踊らされアチュチュードの高速回転で回るシーン、それはそれは見事な回転だが、思わず頭に浮かんだ言葉は「白魚の踊り食い」。あまりにも元気が良すぎて、とてもウィリには見えない。「愛らしいジゼル」の呪縛から解放されたのか、パワー全開で実にイキイキと踊っていた。特にソロで踊る部分は「それはウィリじゃないぞ〜」とかなり思ったし、途中までは「あっちゃー、こりゃ今日の舞台もダメだ」と思った。その矢先、マラーホフと踊る彼女を見て、二人に対するイメージが変わった。ヴィシ、会話してるじゃん!

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今回収穫だったのはパートナーと会話をしているヴィシを見られたこと。
「”ベストパートナー”とお互いが認め合うほど君たちは合わないよ」と思っていた二人だが、今日のジゼルを見て「案外行けるかも」と考えを改めた。
ヴィシニョーワの荒削りなパワー&アクをマラーホフなら削ぎ落とせるかもしれない。いや、恐らく並のダンサーでは彼女は歯牙にもかけないだろうから、それが出来るのはマラーホフしかいないだろう。
バレエフェスでは華と華がぶつかり合って、マラーホフが完全に食われてしまったが、今回のジゼルのように二人の間に会話が成立し、ヴィシが彼の踊りや表現を尊重すれば二人はベストパートナーになれるかもしれない。
あれだけ稀有な才能を持った二人なのだから、引き算ではなく(マラーホフ−ヴィシ=0)、掛け算(マラーホフ×ヴィシ=∞)をして欲しい。そしてそれが可能な気がしてきた。

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マラーホフのアルブレヒトはやっぱり特別だ。
紫のタイツ姿でユリを抱えてマントを翻しているだけで一枚の絵になる美しさ。
彼は演技も芸達者。一幕・狂乱の場面でも従者の森田さんとずっと小芝居していた。
一幕は役者マラーホフ、二幕では美の使者・”ナルシス”の世界を魅せてくれた。
そして朝が来てジゼルとの別離を迎える場面、フェリとの舞台ではお墓にすがって泣いていたが、今回はジゼルから受け取った花を手に舞台のほぼ真ん中で倒れていた。相手役によって表現を変えているのか、その日の気分なのか、色々なヴァージョンがあって今後もまた見たくなった。

*

東バはダンサーの層が厚いから脇役に重みがあり、舞台にも厚みが加わる。
新国立も見習って欲しい。(直前に見た「ロメジュリ」は酷かった)
木村さんのヒラリオンはいつ見ても楽しい。妙にハイテンションで笑っちゃう。かと言って軽々しいヒラリオンではなく、踊りも演技もピカイチの素晴らしい当たり役。でも、ウィリたちに殺される場面、あんなに目玉をひんむいて抗議されたら、私がウィリなら怖くて殺せない。
怖いといえばバチルド姫の井脇さん、姫というより女領主の風情が漂い「これじゃあアルブレヒトも浮気しちゃうよ」と妙な説得力があった。
通常パ・ド・ドゥで踊られるペザントが東バはワシーリエフ振付のパ・ド・ユイット構成。
ソリスト級がずらりと顔を揃え、とっても盛り上がった。思わず私も大拍手してしまった。
中でも武田明子ちゃん、ピンクの衣装がとびきり似合ってロリロリパワー全開!踊りも丁寧で魅力的でとーーーーっても可愛かった。小出領子ちゃんも可愛いんだけど、目が笑っていないのが少々怖い。その点武田さんは表情が何とも言えずチャーミングでホントに可愛い。しかし東バの男性陣はレベルが高いな。この踊りに4人も高レベルのダンサーを登場させるなんてさすが。大嶋・古川@緑組(「ギリシャ」の二人の若者)と後藤和雄・中島周@茶色組(二人とも「ギリシャ」のソロ)。彼らは常にセットなのだろうか?キャラは全然被ってないと思うんだけど、、、。
中島君、お顔もきれい、身体もきれい、踊りも素敵、あとは思わず目をひく強い個性があれば君こそ時代のスターだ。
その他、後藤晴雄@公爵もカッコ良かった。彼はコスチュームプレイが得意。踊っているより立っているほうが絵になるダンサー。(踊ると弱弱しく見えるんだもん)

ミルタの遠藤千春ちゃん。彼女は今年厄年なのかもしれない。年明けの主役デビュー公演「白鳥の湖」で躓き(私が行った日は良かったが、最終日がヘロヘロだったらしい)、今回もヤバかった。二幕の出だしのパ・ド・ブレで後ろ向きに幕に引っ込む場面で墓(幕?)に激突。思わず会場から「あ!」という驚きの声が出てしまった。その後も投げたはずのお花が上手く飛ばずに自分の方に戻ってきちゃうし。踊りが良かっただけにそれ以外の部分の失敗がイタイ。千春ちゃんらしい優しげなミルタは好感が持てたが、井脇さんの「妖怪」のような完成された個性的なミルタに比べると、まだまだ薄っぺらく感じてしまうかもしれない。


 今日の舞台は失態が多く、二幕でヴィシがウィリたちの前に登場してマラーホフが出てくる寸前、舞台裏で「ガラガラ」っと何かを蹴ったような大きな騒音が響いた。今日はビデオ撮りもしていたのに、大丈夫なのかなぁ?
踊りでも珍しくヴィシがミスっていた。アルブレヒトとの決めのポーズでヴィシの足が上がらず3回くらいやり直していた。(彼女も人間なんだ、と私は好感を持ったけど)

今日はソトニコフさん指揮のオケが素晴らしかった。
脇役といい、オケといい、手を抜かず層の厚さを見せ付けてくれた。

* 東京文化会館 *


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