「ルグリと輝ける仲間達」パリオペラ座(ルグリ・イレール・ルディエール)<★★★★★> |
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「Aプロは前座だったのね!」と思わず納得してしまうほどの素晴らしい公演だった。
完成度・濃密度においてAプロとは比較にならず、パリオペの底力を見せてもらった。
ルグリをはじめ、引退間近(イレール)、既に引退した大エトワール達(ルディエール、プラテル)の日本の観客に対する温かい気持ちに感謝。そして恐らく最後になるであろう「ルグリと輝ける仲間達」公演に対するルグリの並々ならぬ気持ちの入れ方にも感動。パリオペに特に思い入れのない私ですらそうなので、ファンの方々の感慨はひとしおではないだろうか。
「滅びの美」と言うと言い過ぎかもしれないが、燃え尽きる寸前の最高に美しい一瞬の輝きとパリオペラ座の歴史の厚みを感じられ、心打たれた公演であった。
【 第一部 】
マニュエル・ルグリ
オーレリ・デュポン
東京バレエ団
齢四十にして、あえてバリバリの正統派クラッシク演目をプログラムに入れるルグリに感動した。コンテンポラリーに逃げる選択肢もあったと思う。それでも敢えてオープニングにこの演目を持ってくるあたり、彼の日本の観客ひいてはクラシックバレエに対する深い敬意を垣間見れた。これまで完璧過ぎて、どこかサイボーグ的な印象のあったルグリに深い人間味を感じてしまった。絶頂期に比べればテクニックはいささかの衰えがあるのかもしれないが、それでも充分にテクニシャンで(5番の着地の美しいこと!)ノーブルな騎士であった。
オーレリはルグリと組むと完全に引いている。私は姐御な彼女の方が好きだけど彼女は案外心地よいのかもしれない。安心してルグリに任せている。ヴァリエーションではさり気無く4回転ピルエットを二回も披露。これ見よがしではないので、テクニック披露的な下品さが全く無く大変気高く美しいパキータだった。
ミュリエル・ズスペルギー
エルヴェ・クルタン
背景にいきなり紅白の垂れ幕!地鎮祭でも始まるのかと思った。
オープニングの「パキータ」が素晴らしく盛り上がったため、弱冠ハンデがあったけど、二人はよく踊っていた。特にクルタンさん、「THE・誠実」な雰囲気に好感が持てる。彼は体格的に恵まれていないので、おそらくキャラクター要員だろうけど、踊りは身体の使い方が美しく魅力的。どの踊りも正確にこなしている。ミュリエルちゃん、もっと派手にはじけて欲しかったけど、一生懸命丁寧に踊っている姿が可愛らしかった。コーダの最後のキメポーズ(ジャンプ?)は豪快に決まり、弾けていた。
エレオノーラ・アバニャート
ステファヌ・ビュリヨン
Aプロでダメダメだったお二人。エレオノーラはこの作品で本来の魅力を発揮することが出来た。やっぱり「ディアナとアクティオン」は彼女には難しかったに違いない。この流れるようなパの続く作品では物凄く雰囲気が出ていて、非常に美しかった。本領発揮。
一方のビュリヨン、濃い紫のドレッシーな衣装がその坊主頭に全く似合っていない。彼はダンサーの割りに首が短くズングリしているので(ムハメドフ系、だから「イワン雷帝」に抜擢されたのかも)胸元が深いV字空きの衣装を着ていると、まるで柔道選手。踊りも背中の硬さが思い切り露呈していた、、、。(沿った瞬間「グキッ」て感じ)
ドロテ・ジルベール
オドリック・ベザール
オドリック君、ドロテちゃんの完全な足手まとい。ここまでパートナーの力量の差があるPDDはプロの公演では珍しいのでは。「いつコケるか」「いつ落とすか」とドキドキハラハラで、スリリングなPDDだった。幸いオドリック君の大きな失敗はヴァリエーションの出だしのジュテと最後の決めポーズだけで済んだが。彼の踊り全体かなりムリがあり、振付をこなすのに一杯一杯だった。それでもオドリック君の踊りからは一生懸命さが伝わり好感が持てた。会場からも温かい大きな拍手(安堵の拍手?)が送られていた。オドリック君、髪の毛を切ってスッキリ、男ぷりは上がっていた。
ドロテちゃん、彼女はきっと逸材なのだろう。多少の粗さはあったが音楽に乗って長い手を生かした大きな踊りでブラボーだった。相手役がもうちとマシだったら、もっと踊り易かったことだろう。同じ若手といってもオドリック君とドロテちゃんでは格が違い過ぎる。ドロテちゃんにはちょっとお気の毒だった。
ただ、私はあまり彼女が好みではない。どうも彼女の踊りは自信がハナにつくと言うか、素直さを感じないというか。アラベスクのポアントを床に乱暴に突き刺すところとか、丁寧さに欠けるとことが気になった。それと、彼女の腕は大変長くて綺麗なのだが、肩の筋肉が凄く盛り上がっている。マリ・アニエスにならないよう、これ以上筋トレしないでね。
ローラン・イレール
マニュエル・ルグリ
積年の確執(?)を乗り越え友情に浄化し、今まさにキャリアを終えようとしている二人。そんな二人が舞台上にいるだけで物語が紡ぎだされるかのようだった。
踊りについてはイレールに弱冠崩れが見られたのが惜しい。(M字ハゲも進行中)
カーテンコールでお互いを称えあい、澄み切った笑顔で二人肩を組んでいる姿は感動的であった。こんな記念碑的な作品を日本で上演してくれて、どうも有難う。
【 第二部 】
エレオノーラ・アバニャート
メラニー・ユレル
ドロテ・ジルベール
マロリー・ゴディオン
ヤン・サイズ
Aプロでは若手メンバーだった同作品はドロテ以外メンバーチェンジ。
Aプロでは輝きに欠けたプルミエのお姉さん達が果たして意地とプライドを見せてくれるのか楽しみにしていたのだが、なかなかの出来だった。腐ってもプルミエか。
若手組よりも今日の方が全体の完成度が高く、振付の輪郭がくっきりと見えた。(Aプロではヨロけているのか、振付なのか判断しかねた部分あり)
男性陣には可愛いヤンちゃんが登場。ノビノビと踊るマロリーも動きが切れていた。この作品は視覚的に楽しいのでまた是非見てみたい。
ミリアム・ウルド・ブラーム
マチューガニオ
私的には本日一番のヒット!
二人で並んだ図は「これは夢?」と思うほど美しかった。この瞬間にしかない煌くような若さの美、思わず拝みたくなるくらい「ピカッー☆」と後光がさして見えた。
マチュー君、Aプロで気になった胸毛はその後剃ったのかツルピカ。彼は肌の色が本当に真っ白。ちょっと女性的かも。それだけに余計Aプロの胸毛には違和感感じたのかな。(しかし、マチューの胸毛といい、オドリック君のボサボサ頭といい、Bプロではきちんと日本仕様に微調整しているから立派。NBSの職員さんあたりがリクエスト出すのだろうか?「マチューさん、胸毛剃って下さい」とか)
踊りは多少不安定だが、あれだけ見た目が王子様なら文句なし。総てのマイナス点が若さと美で補える。ただ今後の課題としてはサポートと体力面だろう。コーダを踊り終る頃にはヘロヘロでお顔も白肌も真っ赤。御髪もハラリと乱れて、かなりのお疲れモード。でも彼の踊りは「ハッ」とするテクニックはないのだが非常に丁寧で好感が持て、彼の目指したい方向性が明確に感じ取れる。世界的に見ても王子役がハマるダンサーは貴重だから、今後の成長が楽しみ。
ミリアムちゃんの踊りは正確で透明感があり、姫オーラでキラキラ。今公演の女性メンバーでは彼女がピカイチ。古典の姫を踊らせたら若手の中では世界的にもトップクラスだろう。
オーレリ・デュポン
ローラン・イレール
二人の美しさにブラボー。
NHKで放映されたゲラン/イレール主演の全幕を見たときは、あまりにつまらなくて最後まで見るのに数度挫折したが、今日は静謐な美しさが漂う素晴らしい作品に感じた。
今日踊られたPDDは最後の「解放」の部分。ゲランが踊ると蓮っ葉な感じが漂っていたが、オーレリが踊ると気品に溢れていた。本来の振付の意味にはどちらが近いのか不明だが、私は今日のオーレリの方が好き。
イレール先生はただひたすら魅力的だった。正直「若者、、」では全身タイツとM字ハゲに少々違和感を感じてしまったのだが、この作品では彼の往年の美しさもかくや、といった素晴らしさ。イレール先生、まだまだイケます。こういう作品では今の彼の味が生きる。
キスをしたまま女性が首にぶら下がり男性が首の力だけでブンブン振り回す振付が大変美しかった。イレール先生の腰の負担が気になるほどムリのある振付だが、この二人で踊ると美しさだけが際立つ。オーレリが安心し切ってイレールに身を任せているのが印象的だった。
オドリック・ベザール
ヤン・サイズ
マチューガニオ
エルヴェ・クルタン
マロリー・ゴディオン
きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!ブラヴォー!
パリオペのイケメン君たちがスーツを着てストリートぽい踊りを披露。パリオペ版・一世風靡セピア。眼福、眼福、眼福。有難う、ルグリ先生、この演目を入れてくれて。(ルグリも当初踊る予定だったが、なぜか欠場。ステファヌ・ビュリヨンも<ハゲ坊主だから?)
男の子達の中にいるとやはりマチューは目を惹く。キャゎゆい♪
Aプロでは「エトワール?」と思ったがやはり彼はエトワールの器だ。(現時点でそうだとは思わないが)。彼と並ぶとヤンちゃんですら、霞んでしまう。
最初に踊った背の高いジュニア組たち(ヤンちゃんはシニアかな?)、最後の掛け声「ヤー」だか「ヘイ」だかがバラバラ。そんなところもキャゎゆい。
次に踊った小さいシニア組。二人とも切れてる!ジュニア組には負けられない、といった意地を見せてくれた。そんなところも見ていて面白い。「精密の」で若手とプルミエを競わせたように、ルグリの演出力はなかなか。
モニク・ルディエール
マニュエル・ルグリ
この二人の踊りは私がとやかく感想を並べ立てられる代物ではない。
「ただ見ればよい、それだけ」と言った感じで、彼らの素晴らしさは言葉ではとても伝えられない。至高の芸術。”パートナーシップ”という言葉はこの二人のためにあると思った。二人の動きが完全にシンクロしていた。「あー、ルグリはきっとルディエールと踊る瞬間が一番幸せなんだろうなぁ」と思わずにはいられない。二人は一緒に踊った時期も長かったと思うけど、ルディエールが先に定年を迎えてしまった。なんだか切ない。ダンサーというのは生身の人間の咲かせる一瞬の美の芸術である、とヒシヒシと再認識してしまった。
ルディエールはビックリするほど踊れていて、校長に納まるのはもったいない、と思った。また是非彼女の踊りを見てみたいな。(出切ればプラテル様もこういう演目で見たかった。「マニフィカト」、殆ど踊らないんだもん、ぐすん。)
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フィナーレでは皆さんメインの衣装に御召し替え。人数の都合上ヤンちゃんがあぶれてしまい、「モーメンツ・シェアード」のアバニャート/ビュリヨン組に紛れ込んでいた。ププッ、ヤンちゃんらしい。しかし豪華な光景だな。世界バレエフェスにも引けを取らないのでは。中でもやはりミリアムちゃんとマチュー君はキラキラして目を惹く。イレール先生とオーレリの「ル・パルク」組も大人の魅力で美しいなぁ。眼福、眼福。
* 五反田ゆうぽうと *
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