「ジゼル」スターダンサーズバレエ団(吉田都・R・テューズリー)<★★★★★> |
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吉田 都 * ジゼル
ロバート・テューズリー * アルブレヒト
厚木 彩 * ミルタ
新田 智洋 * ヒラリオン
丁度一年前、今日の舞台と同じ都さん主演・スタ団「ジゼル」を見た。その時も良い舞台だったのだが、今日の舞台は昨年の何倍も素晴らしかった。同じバレエ団、同じ作品でこうも違うのか、と驚いたほど。この一年に都さんの中でどのような変化があったのか、興味深い。そして今日の舞台の成功は相手役ロバート・テューズリーが果たした役割も大変大きかった。
都さんとテューズリーのペアのバランスがこんなに良いとは思わなかった。彼の醸し出す温かいオーラと磐石のサポートで都さんの愛らしさが一層引き立った。
スタ団の「ジゼル」はピーター・ライト版。演劇色が強く、マイムも多用されていて物語が分かりやすい。登場人物が皆さんリアルに小芝居していて見ていて飽きない。例えば、バチルド一行が現れる場面、お連れの貴族のおっさんがドサクサに紛れて村娘を口説いていたりする。その他もヒラリオンがアルブレヒトの隠れ家に忍び込む場面、持っているナイフでカギを開けていて「ピッキング?」な感じがリアルで面白かったり。
テューズリー、幕開け舞台に出てきた瞬間から、「お〜、カッコよい。まさしく青年貴族だ」と思った。昨年「マノン」で彼を見たときより、堂々と存在感があるように感じた。彼は舞台栄えするなあ。見た目も◎だが彼が特に良かった点はパートナーと会話して舞台を進めていくところ。昨年のアルブレヒト役・ヨハン・コボーさんは濃い演技が楽しかったのだが、少々ナルシスティックに走っていたと思う。オレ好きアルブレヒト。その点テューズリーは目線が完全に都さんを追っていて、ジゼルを大切に愛している心優しいアルブレヒトだった。踊りも綺麗で丁寧さに好感が持てる。一つ一つのポーズもなかなか美しい。ただ彼の持ち味が生きるのはやはり演技面だろう。現在在籍している踊り重視のNYCBよりロイヤルの方が彼の良さが生きると思うけどな〜。
都さん、可愛い♪昨年よりも更に可愛らしくなっている。メイクと髪型が改良されているぞ。それ以上に仕草と佇まいが愛らしい。誰もが支えてあげたくなるような華奢で儚げなジゼル。そうだよね、ジゼルは本来こういうものだよね。最近見たヴィシやザハロワのジゼルは美しさでは文句の付けようが無かったが、どう見ても村娘ではなく手練手管に優れた愛人系美女だったもん。その点都さんのジゼルは物語に合っている。
◆パ・ド・シス
白椛 祐子
丸山 香織
鈴木 美波
新村 純一
福原 大介
西野 隼人
期待の若手二人が登場。一昨年「くるみ割り」で素敵な士官学校生徒役だった福原大介君、物凄く成長していた。元々頭が小さくてプロポーションが大変綺麗(お顔も◎)だが、更にノーブルさと力強さが加わり想像以上に良くなっていた。これなら11月の「コッペリア」もバッチリだね!一方「くるみ」でクララだった鈴木美波ちゃんは、メイクで損している、濃すぎ。自分の若さと可愛さを引き出すメイクを学んでおくれ。
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狂乱の場面
見応えがあった。派手な動きは無いのだが、都さんの表情がお見事。最初は正気を失いつつもジゼルの愛らしいキャラクターを失わず、走りながら貴族にぶつかると「失礼しました」と謝っていたりする。ところが剣を見つけて手に取った瞬間に「キラッ」と狂気の表情を見せる。その移り変わりが面白い。一方テューズリーの行動にも説得力がある。彼のアルブレヒトは遊び人・貴族ではなく、ジゼルを本当に愛していたのだろう。でも女衒のババアみたいなバチルト(居酒屋の女将みたいなで下品なバチルドだった)に絡め取られてしまったのだな。ジゼル狂乱の事態に直面し、自分ではどうして良いのか分からなくなってオロオロしていた。甘やかされたボン(バカだけど性格は良い)の雰囲気が良く出ている。ジゼルが死んでしまった瞬間に真実ジゼルを愛していたと気が付いたのだろう。最後トンズラするのだが、それもジゼルの死にショックを受けて錯乱してしまったアルブレヒトの行動に見えた。うん、テューズリーは演技が本当に素晴らしい。
ミルタの厚木彩さん、出だしのパ・ド・ブレや手の動きが美しく、なかなか良かった。アラベスク・パンシェが×だった以外は。たまに動きに演歌入るけど。
スタ団のウィリ達は意外にも良かった。ちょっと靴音に神経使い過ぎているキライはあったが、丁寧な踊りが期待以上だった。人数少ないけどね。
問題はドゥ・ウィリのお二人。ここら辺に層の薄さが出るんだな、惜しい。
都さんのジゼルはウィリになっても愛らしさを失わない。より慈愛に満ちて清らかで、幽霊どころか天使のようだった。元々小柄で愛らしく動きが羽根のように軽いので、白い小鳥のようだった。小動物系ジゼル。テューズリーとの息もバッチリ。彼はサポートが凄く丁寧。都さんとは身長差がかなりあるのでリフトも見応えがある。しかも彼の包容力あるオーラに都さんが包まれて、二人で踊るシーンは愛に溢れていた。感動。
朝が訪れ鐘が鳴るシーン、都さんの心底ほっとし安心した表情が切なかった。その後の別れ、アルブレヒトにはもうジゼルが見えなくなっている。それでも彼女の存在を感じ、彼女を探すアルブレヒト。お別れに彼女が残した花を見つけそれを手に取り悲しみにくれる姿、テューズリーは色男だけに絵になる。私も思わず涙。幕が下りる瞬間、テューズリーは舞台正面へ前に向かって歩き出していた。ジゼルの確かな愛と明日への希望を掴み取ったようだった。
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今日の舞台はまるで一冊の絵本や一本の映画を見たような気分だった。ピーター・ライトの優れた演出もあるけど、一番の立役者は主演の二人。都さんとテューズリーの役になり切った素晴らしい演技が化学変化を起こし、+αの感動を生んだのだろう。この二人、今は別々のバレエ団でなかなか共演の機会は無いだろうけど、是非また日本で共演して欲しい。
こんな素晴らしい舞台、平日・横浜公演のみ、というのはもったいない。涙を呑んだ社会人もさぞかし多いことだろう。帰りがけとても気持ちが良かったので、国連に募金しちゃった。
今日はオケも良かった。全体的にスローテンポで音に厚みがあり、特に弦楽器が良かった。たまに金管のテンポがずれるのが惜しかったが、大満足の演奏。
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私は今日の舞台を見て考えを改めた。今までは
演劇色の強いロイヤル系<<<<<<<<グリゴロ系・踊り命!
と思っていたが、ロイヤルの良さが分かった気がする。ストーリーのあるお話しとして舞台を楽しもうと思ったら、英国ロイヤル系の演出も面白いかもしれない。目から鱗。ただし、今日の二人くらい踊りも見た目も演技も良くなきゃダメだけど。
* 神奈川県民ホール *
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