「ドン・キホーテ」東京バレエ団(吉岡美佳・木村一夫)<★★★> |
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吉岡 美佳 * キトリ / ドゥルネシア
木村 一夫 * バジル
遠藤 千春 * メルセデス
高岸 直樹 * エスパーダ
武田 明子 * キューピッド
西村 真由美 * ドリアードの女王
柴岡 紀斗 * ドン・キホーテ
古川和則 * ガマーシュ
飯田 宗孝 * サンチョ・パンサ
スピーディーな展開が魅力の東バ「ドンキ」。
この演目を見るのは昨年世界バレエフェス全幕プロのウヴァ様&ステパ姐さん主演以来。
そんなこちらの事情で、ところどころウヴァ様の幻影がオーヴァーラップされ切なくなってしまう場面もあったが、それ以外では楽しい舞台だった。
吉岡さんと木村氏の主役ペア。
お二人とも存在感と踊りの質が似ている。基本に忠実で丁寧。端正で美しい踊りをするので「バレエ=踊る」という意味では楽しめた。だが、どこか優等生的で面白みと華やかさには欠けていた。筆記試験は満点だけど、面接や自己アピールが苦手なタイプかも。
東バの「ドンキ」は主役ペア+メルセデス&エスパーダの4人で物語を引っ張っていく。今日は遠藤千春ちゃん(艶やかで素敵!来年は「白鳥」リベンジを期待したい)と高岸氏。この二人は上背があり、華やかで見栄えする。その上、高岸さんの「THE・兄貴」「俺が高岸だ」的なパワー溢れる踊りの前では、主役ペアは霞んでしまう。配役のバランスが悪かった。
この演出はとてもよく練られていて、スピーディーな上に舞台上が熱い。特に群舞が華やかで派手。賑やかなミュージカルでも見ているような感じ。ところが、主役ペアが出てくるとなぜか無声映画のように淡々と過ぎていく。二人の間にはもちろん、周りとも全く会話が見えてこない。自分達のことだけで精一杯なのだろうか?
主役二人が熱くないかというと、決してそんなことはないのだが。木村氏なんて、いつも以上にハイテンションで目張りバッチリ!見得を切りまくって気合入っていた。吉岡さんも表情豊かに踊っていた。が、元々役になり切るタイプの二人ではなく、演技をしている瞬間と素に戻る瞬間(=踊り)とにギャップがあり、全編を通してキトリとバジルを演じきっていない。特に周りとの掛け合いや演技の場面になると「お約束」的な段取りになってしまう。これはダンサーの個性だから仕方ないのかもしれない。この二人なら、バランシンや古典全幕物(姫系)のような踊りの枠がしっかりとある型にはめ易い演目の方が合うだろう。実際、形式にはまった最後のグランPDDがお二人とも一番のびのびと踊っていた。
グランPDDと言えば、バジルの衣装がすっごく安っぽい。下品な赤地に金のデカイ装飾がついて、中華街のみやげ物みたいだった。(ウヴァ様は自前だったので素敵だった。)衣装の趣味はともかく、木村氏は最初からバジルの衣装を着こなせていなかった。まくった袖が半袖で、髪の毛も短く刈り込んでおりまるで年を取ったボーイスカウトみたいで妙な違和感があった。吉岡さんも黄色いスカートの衣装ではなく、オーソドックスな赤い衣装。うーん、地味だった。
今日良かったのは武田明子ちゃんのキューピッド。
信じられないくらい愛らしかった。彼女のキューピッドは当たり役というかはまり役。存在がキューピッドそのもの。何度もしていた流し目が愛らしかった。私の周りで「あの人子供?」という声が起きていたが、私も初見は判断しかねた。「やけに上手い子供」と思ったなぁ。
ドリアードの女王西村真由美さんは前回見たとき「発表会かよ」と毒づいたが、とても良くなっていた。踊りにタメが出来、のびのびと優美に女王を踊っていた。
井脇お姉さまの「ジプシーの若い女」は、登場場面から酔っ払いみたいだった。以前見た斉藤友佳里さんのような空間を圧倒的に支配する気迫は感じられなかった。
イケメン(?)で揃えた闘牛士たちも良かった。この中に入ると後藤和雄さんは目立つ。中島周君は埋没していて残念。
キトリの友人、佐野志織さんと小出領子ちゃん。丸顔で愛らしい領子ちゃんに対し、佐野さんは(涙)、、、。もはやお皺が友人というキャラでは無いだろう。ソロのヴァリエーションでは軽やかなジュテを披露してくれたが。領子ちゃんは今回もそつなくこなしていた。彼女の踊りはいつ見ても音に乗っていている。「目で見る音楽」を実感できるダンサーだ。
ガマーシュの古川さん、とても良かった。元々踊りが綺麗なので、こういうキャラクターを演じても品がある。この版のガマーシュは結構見せ場があって、終幕サンチョ・パンサとバジルとワザ合戦をする。古川さんはもちろん、飯田さんもご立派。彼のサンチョ・パンサは明るいおトボケ者で先日ガラで見た「パーフェクト・コンセプション」の彼と同一人物とは恐れ入った。
今日の指揮はソトニコフさん。彼は背が高くてダンディー。いつ見てもロマンスグレー。ハープもボリショイからナターリア・シャメーワさん。キトリのヴァリエーションのハープは大変美しく聞き惚れてしまった。
* 東京文化会館 *
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