2004年09月04日

「ドン・キホーテ」東京バレエ団(上野水香・高岸直樹)<★★★★>
 キャスト 

上野 水香 * キトリ / ドゥルネシア
高岸 直樹 * バジル

井脇 幸江 * メルセデス
後藤 晴雄 * エスパーダ
高村 順子 * キューピッド
遠藤 千春 * ドリアードの女王

柴岡 紀斗 * ドン・キホーテ
古川 和則 * ガマーシュ
飯田 宗孝 * サンチョ・パンサ



先日の「ガラ」ではメタクソだった水香ちゃん。
今後に明るい材料が見つからず不安要素ばかりが見えたので、今日の舞台も全く期待していなかった。ところが、、、、
今日はとても良かった。素直に彼女の踊りを楽しむことが出来た。キトリという役柄も彼女に合っていたのだろう。初めて彼女を見たときに感じた美しさや喜びをもう一度感じられ、嬉しかった。最近の水香ちゃんは踊りに変なアクセントが付いて下品に見えてしまっていたが、本来の水香ちゃんは今日みたいに品のある踊り手なのよ。(変なアクセントは「森の場面」で垣間見せていたが)。この調子で頑張ってもらいたい。今日はメイクも「すっぴん?」て言うくらい薄くて、とても可愛かった。

相手役は高岸氏。昨日はエスパーダ、今日はバジルの38歳。いやぁ、気づいてはいたけど、この人は化け物。人間離れした若さとスタミナ。不老不死の妙薬でも飲んでいるのではないか?そして生まれつき物凄く運動神経が良いのだろう。多少の体力的衰えは持ち前のバランス感覚や運動能力でカバー。きっとダンサーにならなくても別のスポーツでもプロになれていたに違いない。今日は会場にクマテツが姿を見せていたが、彼も高岸さんの踊りには脱帽していたはず。「今はオレのが上だけど、38歳であの踊りは出来るかな〜、オレ」と。

水香ちゃんと高岸氏(189センチ)、身長のバランスはバッチリ。昨日は妙にハイテンションで主役を喰っていた高岸さん、今日は一歩引いて水香ちゃんを立てていた。その水香ちゃん、ガラの「エチュード」では一人で迷宮に迷い込んだかのように自滅していたが、今日は高岸さんの導きがあるせいか、きちんと東バの一員に見えた。演技も二人で練り上げたんじゃないかなぁ。かなりイキが合っていた。少なくとも昨日の主役ペアよりも物語のあらすじが見えたし、仲の良い恋人同士に見えた。主役二人が役になり切りなおかつ華があると、舞台に勢いがある。昨日よりも今日の方が格段に盛り上がった。

脇を固める群舞たちも二日目のせいか今日の方がイキイキとしていた。
そんな中、本日エスパーダ・デビューの後藤晴雄さんは・・・微妙・・・。時々「お!」と目を見張る動きをするのだが、同じくらいの頻度で妙ちくりんな動きもしている。元々振付も変なのだが(首藤さんが踊ったときも変だった)、晴雄さんが踊るとなお変。子供がかんしゃく起こしているみたいで、なーんか笑っちゃう。脇を彩るイケメン闘牛士たちが昨日から踊りなれているもんだから、余計に晴雄さんの妙な動きが目立つ。一人だけワンテンポ遅れていたり。エスパーダは一番の伊達男なんだし、ラーメンパーマの晴雄さんよりも弟の和雄さんの方が合っている気がするなぁ。彼の闘牛士姿、かなりカッコ良かったから。

今日のジプシーは吉岡さん。昨日の井脇さんより幸薄そうでジプシーに合っている。より悲劇的なものを感じさせるジプシーで、なかなか良かった。でもやっぱりユカリューシャの圧倒的迫力には及ばない。ユカリューシャのジプシーは世界的にもトップクラスなのでは。もう一度見てみたい。

キューピッドの高村順子さん、ジュテが物凄く高くキレイ。小柄で可愛らしいのだが、メイク濃すぎ。あの金髪鬘に目張り入れちゃうと、淡谷先生かバーのマダムにしか見えないのが惜しい。森の女王の遠藤千春ちゃん、柔らかで優美な動きが非常に美しく、ピンクのチュチュがよく似合っていた。彼女の森の女王は絶品。千春ちゃん、水香ちゃんが移籍したことにより一番ワリを喰う立場だと思うが(キャラ、被り気味)、その二人が同じ空間に立つのを森の場面で初めて見た。この場面では千春ちゃん圧勝。水香ちゃんはクラシックの純度が高くなると、妙なアクセントがついてしまうのかも。キトリだと目立たないのだが、ドゥルネシアでは周りから浮いていた。今後の課題か。

今日の舞台を見て、水香ちゃんの移籍に納得したお客さんは多かったはず。かくいう私もその一人。やはりガラでは短期間にレパートリーを覚えなければならず、踊りこみが足りなかったのだろう。その点今日の「ドン・キ」は海外公演でも踊っていたせいか、役を自分のものにしていた。そうなると彼女の類稀な身体能力が生き輝きを放つ。このまま順調に伸びていってくれれば、主役を踊るバレリーナとしては申し分ないだろう。それを切に願いたい。と、同時に東バにも「ドン・キ」以外の古典レパートリーの見直しをお願いしたい。今のままじゃ水香ちゃんをはじめ才能あるバレリーナ達が輝く演目が「ドン・キ」しかないんだもん。


* 東京文化会館 *


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