2004年10月15日

「ライモンダ」新国立劇場バレエ団(ザハロワ・ウヴァーロフ)<★★★>

 キャスト 

スヴェトラーナ・ザハロワ * ライモンダ
アンドレイ・ウヴァーロフ * ジャン・ド・ブリエンヌ
ロバート・テューズリー * アブデラクマン

湯川 真美子 * クレメンス
西川 貴子 * ヘンリオット
M.トレウバエフ * ベランジェ
冨川 祐樹 * ベルナール


『ライモンダ』全幕はグリゴロ版でしか見たことが無い。そのため、私の基準はグリゴロ版。それが正しいのかどうか解らないが、グリゴロ版と比べてしまうと今日の舞台の演出はイマイチ。「ライモンダ」という演目で感じられる迫力に欠けた。

 セット 

現代的な中に重厚感を感じさせ、色彩が美しい。
余計なものを削ぎ落としたシンプルで美しいセットなので、日本の狭い劇場に合っている。しかし新国立ですらボリショイと比べると本当に狭い。舞台上にダンサーの数が多くなると、窮屈な感じがするのは仕方ないことなのか。この演目で物量作戦が使えないのはイタイと思う。

プロローグの背景はダンマガに出ていたお城の背景画。
三幕の結婚式の背景はお星様。天体図みたいな感じ。ちょっとシンデレラとタブるけど、美しかった。
ケチを付けたいのは、一幕に出てきたジャンの肖像画。顔が完全に東洋人。もしかして製作者がジャン=サラセン人と勘違いしている?


 衣 装 

女性陣はチュチュもロングドレスも美しかった。
ちょっと変わった角(針金で出来た水牛の角みたいな)の付いた貴婦人など、素敵。
一つ頂けないのは、お役所のおじさんor日焼け防止手袋みたいな袖カバー(素材はオーガンジー)。チュチュ着用女性は肘から下にこれを着けている。ザハロワですら出てきた瞬間「うわ、腕が太った」と錯覚したので、日本人にこの飾り物はキツいでしょう、、、。

男性陣の衣装は着こなせている人があまりいないのが残念。
殆どの男性衣装の生地に厚みがあり(生地に特殊な凹凸の加工をしているか、部分的に革を使っている、かも)上半身が重くブカブカして見える。それに比して下半身はお決まりのタイツだからプリプリのお尻がやけに目立つ。ウヴァ様はともかく、日本人男性諸氏は全く似合っていなかった。新国立の男性は小柄な人が多いせいか七五三感が漂ってしまった。おまけに頭には孫悟空の知恵の輪があったりするので、かなり「とほほ」だった。

ジャンの衣装はタイツがネズミ色なのが許せない。なぜ白にしないのかしら?あの美脚ウヴァ様ですら、おみ足が太く見えた。(いや、実際太ったのかもしれないが)。マントは白ではなく、ゴールドの重たそうなどっしりとしたもの。(残念ながら二幕の一瞬しか御着用しない)。私の希望は「軽くて白いマントを颯爽と翻す」だったんだけど、これはこれで素敵だったので、OK。

そんな中、アブデラクマン役のテューズリーは素敵。セクシィ〜。ただ”サラセンの美しい騎士(牧先生談)”というよりは海賊または漁師のようだったけど。長〜いマントが弱冠足に絡み気味。片耳ピアス、ヒゲ、ノースリーブのお衣装がちょっとゲイぽかった。

アブデラクマンの手下(?)の群舞の衣装は(水色が基調)どう見ても「イタリアの大道芸人」にしか見えなかった。あれはNG。ん、待てよ、もしかしてあれはイタリアの踊りなのか?明日確認しよう。


 演 出 

「休憩込みで二時間に刈り込んだ」という牧先生。一幕を少々刈り込み過ぎ。一番気になったのはジャンが出征する場面が無いこと。プロローグとしてあるにはあるんだけど、これが紗幕が掛かっていたり、アブデラクマンがいたりして現実感が乏しい。この作品はオープニングに「ジャンとラブラブのライモンダ」というスタート地点が無いとお話がスムーズではないし、この演出ではジャンの存在感が無くなってしまう。彼は一幕最後の夢の中に登場するが、これが唐突に感じらる。やはり最初に「二人は婚約者」「ジャンは十字軍で遠征」というしっかりとした説明が必要では。

「刈り込んだ」という割に群舞が多い。また、この振付がつまらない。単純な動きで陣形を変えてばかりで、フォークダンスかと思った。”カゴメカゴメ”し過ぎ。単調な動作&フォーメーションの繰り返しが多く、飽きてしまった。こういう振付どっかで見たなぁ、と思ったら以前見た子供の発表会だわ・・・。

一幕・夢の中のジャンの振付、ここは牧先生が「新しく設定した」とおっしゃっていたので、恐らく彼女オリジナルの振付なのでしょう。妙にカマっぽい。アラベスクやアティテュード・ターンを多用していて、「バラの精」みたい。そりゃぁ飛んで跳ねるだけが男性ダンサーの美ではないけれど、あの振付で美しく見える男性ダンサーなんてそうはいないと思う。十字軍に遠征中の勇壮な騎士ジャンになぜこの女性的な振付???これは私の独り言ですが、牧先生の振付ボキャブラリーは教室の発表会レベルだったりして。群舞を見ても思ったのですが、振付家としての彼女に大劇場の大作を扱う力があるのかしら???

二幕・三幕は一幕に比べれば、華やかで場が盛り上がった。が、舞台が狭くて物量作戦が使えないこと、主役以外の男性ダンサーが不甲斐ないことにより、姫バレエには無い「ライモンダ」独特の土くさい迫力が感じられない。それからアブデラクマンの踊りが少ない。グリゴロ版を見慣れていると「なんでここで踊らないの〜」と欲求不満が溜まってしまった。


 ダンサー 

◆ザハロワ

今日はいつもの「完璧過ぎてアンドロイドみたい?私はこれが普通なの♪」ではなく、一生懸命で必死な感じがあった。ボリショイを含めて初役。まだ踊り慣れていないのだろう。一幕と三幕のヴァリエーションでは特にそう感じた。ポアントで止まるべきところで、グラついたり。そんなザハロワを見るのは初めてなので、親近感が沸いた。朝日新聞のインタビューで「オーロラは可愛い女の子、大人の女のライモンダを演じたい」みたいなことを語っていたが、その違いは良く分からなかった。が、愛らしく可愛らしい姫でした。

◆ウヴァ様

出てきた瞬間「ふ、太った?!」と思った。しばし、ガーーーン。幕が進むにつれ、その感じは薄れていったけど。終ってみると、一幕はあまりヤル気が無かった気がする。オーラが消えていた(彼はたまに舞台上でオーラを消してドロンしてしまう)。二幕・三幕の方が断然輝いていた。特に二幕の戦いのシーンは素敵だった。「僕のライモンダに何をする!」といつになく顔を作りこんでいて、凛々しかった。が、ここの演出には激しく疑問点!アブデラクマンとの決闘、最後の決着が「スイカ割り」なのだ!なにこれ!?脳天かち割りだよ!どう見てもコント。笑ってしまった。お気の毒なテューズリー(泣)。彼の断末魔もあっけなく、拍子抜け。

ウヴァ様とザハロワのコンビは完璧。
ルジと踊ったザハロワに比べ、リフトが高い、高い。それだけで華やかだ。
ザハロワも背が高いので、ウヴァ様のガリバー感もかなり薄らいでいた。
ウヴァ様、ザハロワが一瞬ヨロけた時、すかさずフォローしていた。素敵だ。いつになく男らしく見えた。ただ、あまりに美しく完璧すぎるお二人に一抹の寂しさを感じてしまった。ファンの勝手な欲目ですが、私はステパ姐さんと踊っているウヴァ様が好き。

◆テューズリー

いやぁ、意表を突かれました。物凄くカッコ良かったです。暗い色調の衣装の中で彼のブルーアイが輝いていた。上目遣いにシビれてしまった。やっぱり色男はああいう扮装をしても素敵なのですね。て言うか「ハキダメに鶴」で、彼の美しさが一層際立っていた。テューズリー、役得。
でも↑にも書いたが、牧版はアブデラクマンの扱いがぞんざい。最後の死に方しかり、踊りもしかり。一幕のライモンダに貢物を捧げるシーンもテープの早回しかと思うほどやたら急いでいる。人身売買?な子供を贈るのもイヤ〜な感じ。彼のソロの踊りはなかなか良かったのだが(小嶋さんが振付を手伝ったから?)、その他の場面は動作に落ち着きが無かったり、ただ突っ立ているだけだったりで残念。せっかくビッグネームを呼んでいるんだから、もう少し大切にしてあげて欲しい。

◆新国立の皆さん

大森結城さん

二幕のサラセン人の踊り・女性三人の中で一際目を惹いた。びっくりした。彼女、キャラクターダンスの方が輝くかも。思い切りの良い動きの中にチャーミングさがあってとても良かった。

厚木三杏さん

群舞に中に「スタイルの良い外国人がいる」と思ったら、厚木さんだった。日本人離れしたプロポーション。アップで見ると骨皮筋衛門(ホネカワスジエモン)だけど、遠めだとすごく綺麗。

川村真樹さん

お顔が可愛い。これでもう少し踊れたら、主役としての華がありそう。
新国の中では珍しく品のある愛らしいタイプなので、今後も覚えておこう。

寺島まゆ美さん(追記)

さすがワガノワ仕込みだけあって、手の動きが非常に優美だった。
23日は双子のひろ美さんがライモンダ・デビューの予定。同じ顔だけど、大丈夫?と余計な心配。


男性陣

今回の舞台にイマイチ納得いかないのは、演出もさることながら彼らの不甲斐なさだ。このバレエ団の男性ダンサーの層の薄さは深刻。見た目・踊りともあそこまで女性陣と差がついてしまうなら、いっそのこと男性ソリストキャストは作らない、とか。ベランジェとベルナールはいらない。そんな中、三幕のチャルダッシュ踊りのソリストを勤めた吉本さんはすごく良かった。踊りが丁寧で粘っこくて、気合充分。二幕のスペインのソリストの奥田さんも◎。どうもこのバレエ団の男性陣は目が死んでいるように見えるんだけど、彼らはイキイキと楽しそうに演じていた。

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大満足という舞台では無かったけど、キャストも衣装もセットも豪華で楽しめた。今回の舞台は新作を一から共に作り上げたせいか、ゲストのザハロワ、ウヴァ様、テューズリーが劇場の一員に見えたのも好感度大。惜しいのは新国男性陣と一幕の演出。ここら辺にもう少し手を加えたら、もっと良い作品になると思う。

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カーテンコールでウヴァ様にエスコートされ牧先生がご登場。真っ赤なスパンコールの派手〜なドレス。彼女、昔バレエをやっていた片鱗が全くない。ちっこいオバちゃんにしか見えない。190センチ超のウヴァ様に連れられると、まるでよちよち歩きの幼児の散歩みたいだった。何かに似てる〜と思ったが、そうだ!ヨーダ(スターウォーズ)だ。

指揮者の方がとっても嬉しそうだったのが印象的。なんだか可愛かった。

*

以上、初見の舞台なので記憶違いや勘違いも多数あると思います。明日もう一度ウヴァ様を見に行くので、その際気づいたことは訂正いたします。


* 新国立オペラ劇場 *


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