2004年10月22日

「ライモンダ」新国立劇場バレエ団(吉田都・スティーフェル)<★★★★★>
 キャスト 

吉田 都 * ライモンダ
イーサン・スティーフェル * ジャン・ド・ブリエンヌ
イルギス・ガリムーリン * アブデラクマン

高橋 有里 * クレメンス
さいとう 美帆 * ヘンリオット
G.バリノフ * ベランジェ
吉本 泰久 * ベルナール



◆都さん

彼女の踊りからは愛が溢れている。
今日も彼女の周囲はキラキラとで輝いて、雫が宝石となって零れ落ちているようだった。

確かに、造形美の点ではザハロワには及ばないし、圧倒的だったポアントの強さも以前より感じない。途中「踊りこみが足りないのかなぁ」と思う場面も無きにしもあらず。が、そんなことはどうでも良いくらい、見終わった後に幸福感をしみじみと味わった。
圧巻だったのは三幕。天皇皇后両陛下がこの三幕のみをご覧になったのも納得。この踊りは伝説になるのではないか、と思うほどすっばらしい踊りだった。あまりに素晴らしくて背筋がゾクゾクし、涙が自然に溢れてきた。ステパ姐さん以上の手叩き女王はいないと思っていたけど、都さんにはたまげた。彼女のこの踊りは決して威圧的ではない。上手く言葉では言えないのだが「少女への別れ、大人への旅立ち」みたいに感じた。最初、都さんの表情は何かに別れを告げるかのように、憂いを含んでいる。それが段々と祝祭色が濃くなり、最後には自立した一人の女性になっているようだ。色気も群と増している。「もしやこの踊りはライモンダがジャンと結ばれることにより終りを迎える少女時代へ別れを告げ、新たな人生への決意を悟る踊りだったのか?」と考えてみたんだけど、さて?私の拙い考察では上手く伝えられないが、とにかく神々しいまでに格調高い都さんの踊りだった。

都さん、観客に幸福感を与えるだけでなく、舞台上のダンサーにも輝きを与えている。
彼女は自分が何をすれば、どこにいれば舞台全体が一番輝くのかを常に考えて踊っている人だと思う。その点ザハロワは自己完結している。彼女の美しさのみ輝き、舞台全体を光に照らすことは無い。都さんは舞台全体の空間を把握し光を与えている。だから、都さんは太陽。小柄な都さんなのに舞台における存在感はザハロワよりも上。そして舞台も客席も温かな幸福感に包まれる。

結論、都さんは素晴らしい。

◆スティーフェル

出てきた瞬間「うっわーーー、太い」と思った。
直前に見たウヴァ様と比べてどうこうではなく、以前見たときより太ったと思う。それから、、、、彼は「見得パッド」(参照:原田智子「僕は薔薇」)が大きすぎませんか?なんだかオムツをしているように見えたのだが、、、、すみません、私だけですよね。彼はABTの王子様だと思うんだけど、ルックスはボリショイ圧勝。

と、色々と文句を言ってしまったが、では彼に不満だったかと言うとそんなことは無い。都さんとの相性はぴったりだった。サポートもリフトもバッチリ。しかもABT仕込みのオーバーアクションのせいなのか、彼は都さんと踊るのがとても嬉しそう。そんなところも好感度大。回転系はウヴァ様より早かったし、ジュテも大きく手の動きも優美だった。何よりウヴァ様組では感じられなかったライモンダとジャンの愛をたっぷり感じることが出来た。スティーフェルは常に都さんにラブラブ光線を発していて、なんだか可愛かった。また二人でゲストに来て欲しいな。


◆ガリムーリン

テューズリーのアブデラクマンは「ゴレンジャーで例えるとレンジャー。
マジメな優等生的レンジャーは今公演では主役のウヴァ様。
一方レンジャーは一歩引いた立ち位置ながら、主役より色男でたまに主役を喰ったりする。「ガッチャマン」で例えると「コンドルのジョー」。

テューズリーを見た限り、てっきり今回の演出は「アブデラクマン=レンジャー」だと思っていたのだが、今日のガリムーリンはなぜかレンジャー(カレー大好き)だった。
太っているからかなぁ?テューズリーが着るとあんなにセクシーに見えた衣装も今日は野球のアンパイアだし。

テューズリーのアブデラクマンがライモンダに対して「誘惑者」だったのに対し、ガリムーリンは「人さらい」。テューズリーには思わず「私を連れ去って」と思いそうだがガリムーリンには全く思わない。どうもテューズリーと同じキャラクターを演じているとは思えないのだが、うーん、これはこれでアリだとは思う。私はテューズリーのが好きだけど。
感心したのは、彼はジュテの着地で音がしない。あんなに重そうな身体なのにご立派。


■ ライモンダのお友達、4人

今日はちびっ子大集合で可愛かった。
特にさいとう美帆ちゃんとバリノフ君の2ショットはなかなか。身長もギリギリどうにかなりそうだし、おっとりコンビで売り出したらどうだろう?踊りについてはさいとう美帆ちゃんが緊張からか硬くなっているのに対し、高橋 有里さんがベテランの余裕を見せてくれた。有里さんはプロポーションにあまり恵まれず私の好みでは無いのだけど、新国立の女性陣では音楽性が抜きん出ていると思った。曲に乗って非常に軽やかだった。
■ イリイン

決闘の場面にてただの「おせっかいおやじ」にしか見えなかった国王、イリインが演じると「待て〜い、ダンドリを踏んでからじゃ〜」という声が聞こえきそうで、決闘を中断させられても納得してしまった。演じる人によってこうも違うのか。

■ 本島美和ちゃん&市川透さん @スペイン

男数人の中に女一人という、桃レンジャー的立場のスペインのソリストはやはり美人さんに演じて頂きたい。その点本島さんはぴったり。動き自体は先日の遠藤睦子さんの方が良かったと思うけど、本島さんは「若頭の姐さん」的極道な雰囲気が良かった。

市川さん、ハジけていた。いいぞ!それくらいやっちゃって下さい。動きが美しいとは全く思わないけど、何かと去勢されたように見えがちの新国立男性陣の中にはこういう人が必要。

それにしても、男性陣の層の薄さは何度見ても深刻だ。女性コールドがあそこまで揃っているのに、男性コールドは簡単な動作ですら脚の高さがバラバラ。中には普通に立って膝がつかないO脚の人がいて驚いた。うーーーん、この際クマブームでバレエを習い始めた少年達を青田買いしてみるのはどうだろう?

■ サラセン女王・大森結城さん チャルダッシュ・キング吉本泰久さん

ブラボ〜♪ ほんとーに素晴らしいです。
二人とも、どこか吹っ切れた感じのキモの座り方がカッコ良い。

■ 遠藤 睦子さん

彼女のルックスは売れない演歌歌手にしか見えなくて、いつもは苦手なダンサー。が、今回の3幕のヴァリエーションの踊りはとても良い。豪華なアダージオの後の女性ソロって場つなぎ的箸休めが多いが、彼女のこの踊りはきちんと場が持つ。振付はちょっと猿回しのサルっぽいけど。

* 新国立オペラ劇場 *


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