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吉岡 美佳 * オデット/オディール
ウラジーミル・マラーホフ * ジークフリート王子
高岸 直樹 * 悪魔ロットバルト
加茂 律子 * 王妃
古川 和則 * 道化
大好きな『白鳥の湖』。
昨年は当たり年で複数のバレエ団が上演したが、今年は殆ど上演がない。私は1月のシェスタコワちゃん主演のレニ国以来。「とても楽しみにしていた」と言いたいところだが、東バの『白鳥』はクセ物。「あー、あの振付か〜」と不安を抱えながら舞台を迎えた。案の定、見れば見るほど嫌いになる。ダメ、どうしても好きになれない。この振付で何を表現したいのか全く分からない。
『白鳥』を見に行く時は他の演目以上にコールドを見る比重が大きいと思う。主役はもちろんだが、美しいコールドを見ながら青白い静寂の美を堪能するのも目的のはず。この東バ版は一体何を目指しているのだろう?今回のコールドは「お正月の出初式の”はしご芸”みたいだった。主役の脇で一斉にイキを詰めてアラベスクをする様など、高いハシゴの上で気合を入れて「っは!」という掛け声とともにポーズを取る出初式とだぶった。コールドの皆さんが気合を入れて踊れば踊るほど妙な力みが感じられる。今回は主役の吉岡さんが素晴らしかったせいもあり「お願い、邪魔しないで」という気持ちばかりが募ってしまった。主役二人が素晴らしい踊りでに異空間へ誘ってくれたかと思うと次の瞬間に「ドッドッドッドッドッ、、、、、、、」という大音量の足音とともにコールドの出現。直前に見た『リーズの結婚』のオンドリさんたちを思い出してしまった。その度に現実世界に引き戻される。四幕の振付はまだ我慢出来る。せわしない所もあるが、動きに感情の意味を感じるから。でも二幕に関しては謎としか言いようがない。プティパ・イワノフ版を使用すれば済む話ではないのだろうか?以前何かの本で「世界中にある『白鳥の湖』の改作版も最高傑作の二幕の振付は殆どいじっていない」と読んだ記憶があるのだが。
吉岡さんのオデットはとても悲しげで儚げだった。触れると消えてしまいそう。でもオデットの動きが身体に染み付いていて「私の白鳥はこう」という強い自信が感じられた。先日の仏頂面キトリとは別人のようにイキイキと踊っていた。特に手の動きが美しく一つの一つの動きの最後の最後にしっとりと指先がしなり、その神経の張り詰めた丁寧な動きは見ていて快感だった。マラーホフとの相性は抜群。二人は美の感性が同じなのか、それとも役作りについて根詰めて話し合ったのか、こと『白鳥』においては互いにとってベストの相手役なのでは(二人とも『白鳥』は初見だけど、そう思わせるほど相性が良かった)。悲しげな吉岡さんのオデットとナルシスティックなマラーホフの王子には来るべき悲劇の予感が漂い、かなりドラマチック。決してオーバーな表現をする訳では無いのだけど「この二人は絶対幸せになれないな」という破滅的な美しさが漂う。(最後はハッピーエンドだけど)
マラーホフの王子様、今まで東バ版ではジョゼマル、ボッレ、マラと見たが、今日のマラ王子が最弱だった。
◆マザコン度
マラーホフ>>>>>>>>>>>>>>ボッレ>ジョゼマル
◆戦闘能力
ジョゼマル>ボッレ>>>>>>>>>>>>>>マラーホフ
だった。自然界では決して生きられない生物みたいだった。
ラインの美しさはさすがで、美しいお尻のラインに見とれてしまったが、踊りについては調子悪かったんじゃないかな。一幕最後のの憂鬱な踊りはかなり危なげだったし、PDDのヴァリエーションも重たかった。でも4幕のロッドバルトとの戦闘シーンではふわりとしたジュテを見せてくれた。それに彼の場合、踊りどうこうより演技が面白い。この人は美しいだけじゃないんだ、と見慣れた作品を踊る彼を見て改めて思った。彼の動作からは台詞が聞こえてくるようだ。ロッドバルトに殴られているときは「あっ、顔は殴らないで」(←殴られたお姿が絶品)、花嫁候補を選べと言われると「ボク選べないよ〜」(←花嫁候補の踊りを見ながら退屈そうに脚を組み替えたり)。オディールに騙されたと知って王妃に駆け寄る王子はよく見かけるが、どれも儀礼的だったのに彼は本当に「ママーーーーーン」とヒシっと抱きついていた。可愛い息子。二幕のオデットの変身シーンでも舞台際端のカーテンの前に隠れ、盗み見ながらもワクワクしている様が面白かった。
高岸さんのロッドバルトは健在だった。
舞踏会にオディールを連れて、例のアップリケ衣装で現れた時は思わず笑ってしまった。お髭がよくお似合い。あの衣装が被り物なしで似合ってしまうんだから、さすがである。
でも、マラーホフとの相性はあまり良くないようだ。いつもは大好きな彼の断末魔に今日は違和感を感じてしまった。だって殺虫剤をプシューッとかけられたゴキブリそのものなんだもん。ボッレやジョゼマルならともかく、あの弱そうなマラーホフにそんな致命傷与えられるかなぁ?儚げで繊細な吉岡さんとマラーホフコンビの前で手足をバタつかせもだえる高岸ロッドバルド、彼だけ浮いていた。
それ以外で目を惹いたのは
道化の古川 和則 さん。今まで大嶋さんの道化しか見たことが無かったので、念願叶って初めての彼の道化。プリプリしていて可愛い。表情がトロけそうだ。一幕の見せ場ではステパ姐さんもかくや、という緩急をつけた素晴らしい回転を見せてくれた。
三羽の白鳥の大島由賀子さん、堂々と美しく、三羽の要所を締めていた。彼女は以前見たカラボスが好きではなかったのだが、今回の三羽がとても良かったので是非オデットを見たくなった。手の動きもポーズも「これ!」と私のツボにはまった。
チャルダッシュの平野 玲君と大嶋 正樹さん。平野君は脚の上がり方が綺麗、大嶋さんはつま先がピーンと伸びて気持ちが良くこの中で一番目立っていた。
ナポリの太田 美和さん、はじけるような笑顔が舞台を明るくしてくれる。古川さんと踊ったこのナポリはとても和んだ。
マズルカの中島周君はナマズ髭もお似合いでとてもカッコ良かった。振付上全く笑わないので、いつになく男らしく見えた。彼の小さな頭と長い首のラインは大変美しく、その美点でよく褒められるマチューにも全くヒケを取らないと思う。早く彼の王子が見たいなぁ。
そしてスペイン、木村一夫さん。彼も先日の仏頂面バジルより弾けている。彼はこのスペインを踊るとき黒髪のさらさらストレートで登場するのだが、とてもセクシーで素敵。黒い衣装も大変お似合いなので、次回の「ドン・キ」ではこの衣装、路線で行くのはいかがでしょう?
それにしても、かえすがえすコールドの振付が残念。主役が素晴らしければ素晴らしいほど、それを破壊するコールドが目立つというのは皮肉だ。お願いです、リニューアルして下さい。お金が無ければ二幕だけでも構いません。衣装がボロいのは我慢しますから〜。(ボロボロの花嫁候補や一幕のコロボックルたちはおニュー希望だけど)。
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コールドの他に今回の舞台に気持ちが乗り切れなかったのは主要ダンサーの突然の退団。
私にとって東バの顔だった遠藤千春ちゃんや武田明子ちゃんがいないのは淋しい。以前三羽を踊った福井ゆいちゃんももういない。トロワもロシアもいつまでもベテラン頼みでは困る。彼らの踊りは素晴らしいかもしれないが、特にトロワは若手の登竜門的ポジションだと思うので、どんどん抜擢して欲しい。(そうすれば退団希望者も減るかも!?)
それからオケは稀に見る酷さでした〜(怒)。
* ゆうぽうと *
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