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斉藤友佳里 * ジゼル
ウラジーミル・マラーホフ * アルブレヒト
井脇 幸江 * ミルタ
浜野 香織 * バチルド姫
後藤 晴雄 * 公爵
森田 雅順 * ウィルフリード
橘 静子 * ジゼルの母:
東京バレエ団のプリマ斉藤友佳里さんの古典全幕作品は初めて。
演目は彼女の当たり役と評判高い「ジゼル」。相手役はマラーホフ。
会場はとても盛り上がりましたし、素晴らしい舞台だったと思います。
ただ残念ながら私はあまり感動出来ませんでした。恐らくあの会場の中ではかなりの少数派でしょう。もちろん、たくさんのお客様が感動されたのも彼女のジゼルが評判高いのもよく分かります。でも、私はこの二人の役作りに違和感を感じてしまったのでした。
マラーホフと友佳里さん、年齢的にも雰囲気的にもアダルトな落ち着いた「ジゼル」かと思いきや、意外にも浮かれた二人だった。二人は超ラブラブ、周りが見えておらず二人の世界に浸かっている。「いるよな〜、こういうバカップル」と思ってしまった。友佳里さんのジゼルは喜怒哀楽が激しく情緒不安定に見えた。少しアタマが弱そう。狂乱の前からちょっとイっちゃってる?でも愛らしい少女に見えたのはサスガです。
マラーホフのアルブレヒトは「この若様が治めたら、この国は滅びるな」と思わずにはいられない。恋愛に夢中になるにも程がある。忠実で冷静な主君思いのウィルフリードがバカ殿の尻ぬぐいに大忙しだった。一方、村人からも信頼厚い純愛青年ヒラリオン、ほの暗いマジメな雰囲気で彼の方に正義を感じる。こんな感じで物語が進むものだから、ジゼル死去という悲劇が訪れても主人公二人に同情出来ない。アルブレヒトが二幕で嘆き悲しんでいればいるほど「自業自得だな」と思ってしまった。
友佳里さん、以前「ドン・キ」で見た「若いジプシーの踊り」、空間をギュっと掴むような圧倒的迫力が印象に残り、私にとっては彼女が世界最高のジプシーです。でも古典作品の主役としては好みではなかった。申し訳ないが、ルックス的にちょっとダメかも。肩が張っていて首が短く、そのため頭が前に出て見える(赤ベコ状態)。歯並びが悪い?ライトの角度によってお歯黒に見えた。特に二幕はバレエというより「お能」を見ているような気がした。ウィリというより日本古来の幽霊に近い。でも、脚は好き、特に細い足先が好き。踊りもクリアで透明感がある。ただ音の取り方にたまに違和感を感じてしまった。変な例えですが、往年のアイドルが昔のヒット曲を歌うときにわざと半テンポ遅らせてアクセントを付けるみたいな。(例:松田聖子「Sweet memories」、西城秀樹「哀愁のカサブランカ」など、最近聞いたことあります?)。その人の個性だと思うけど、私は曲に素直に乗った軽やかな踊りが好き。二幕で足音をかなり消していたのはサスガだと思いましたが、体重はあまり消えていなかったな。マラーホフとの体格差にもよると思うけど、イヴリン・ハートクラスのものを想像していたので、ちょっと期待ハズレだったかも。
マラーホフは「白鳥」初日よりもずっと調子が良かった。一幕の役作りには違和感を感じてしまったが、二幕は彼の独壇場。物語に感動は出来なかったけど、彼の美しさは堪能した。特にマントを着て百合を持って登場し、そのマントをパーッと開いた瞬間はまるで美しい蝶々が羽根を広げたよう。今日一番の美的ポイント。非常に美しかった。ミルタに助命をお願いする”舞台斜め横切りブリゼ”も一際美しかった。
今日はいつにも増してヒラリオンの木村さんがとても良かった。
主役二人には感動出来なかったけど、彼のヒラリオンには感動した。純情ヒラリオンの純愛物語。出だしにジゼルのおうちに獲物の鴨をプレゼントしているシーンから「ジゼルのこと大好きなんだね」と思わされる。ちょっと粘着質ぽい暗い感じもプラスだった。アルブレヒトに対しては憎しみを前面に出すけど、ジゼルや村人には優しいヒラリオン。ジゼルが死んでしまったら舞台の床を思いっきり叩いていた。痛そう。二幕の断末魔ダンスでは身体の側面から着地(落下?)。あれはかなり痛かったと思う、見ていてびっくりした。ほら貝を吹いたときもホッペを膨らませて、まるで本当に吹いているようだった。木村さんの熱演に拍手〜。
その他で良かったのは、なんと言ってもパ・ド・ユイット!
高村 順子 - 中島 周
門西 雅美 - 大嶋 正樹
小出 領子 - 古川 和則
長谷川 智佳子 - 平野 玲
男の子組が特に見物。男性ダンサーの層が厚い東バじゃないと出来ないよね。今回後藤和雄さんに代わって登場の平野玲君がとてもニコやかに楽しそうに踊っていた。彼と古川さんはいつ見ても表情が豊かで大好き。中島周君は仏頂面だけど、見た目が素敵だしジュテをした瞬間に「ハッ」とする美しさがある。大嶋さん、今日は髪型が「帽子脱いできたところ」て感じで変だったけど、爪先が伸びた踊りは綺麗。
女の子組、この中に武田明子ちゃんがいないのはイタい、イタ過ぎる。特にこの役は”反則ワザ”な可愛らしいピンクの衣装がお似合いで、キューピッドと並ぶ彼女のアタリ役だった。淋しい、、、。代わりに入った門西さんもにこやかで可愛かったけど。小出領子ちゃんはやはり目立つ。
パ・ド・シスの中で「この人の動き、好き」と思ったら、またしても大島由賀子さんだった。私は彼女のファンなのかもしれない。表情がもっと豊かになったら、かなり好き。
バチルド姫は初役の浜野さん、お顔立ちと立ち居振る舞いが高貴な姫そのもの。かなり良かった。ジゼルに対してはとても優しげなお姫様だったが、アルブレヒトの火遊びがバレると彼のことを凄い勢いで睨んでいた、コワイ。公爵の晴雄さんは相変わらず衣装と口ひげがお似合い。
ミルタの井脇さん、パ・ド・ブーレがとても美しかったが、足音が少々響いたのが残念。(ユカリューシャはかなり消していた。)でも、彼女の存在が二幕を大きく支えていたと思う。
ドゥ・ウィリの佐野 志織さん、 小出 領子ちゃんは花◎。素晴らしい二人だった。特に佐野さん、今日の舞台で一番空気感を感じたのは彼女だったかも。いつもはお皺が気になるんだけど、今日は舞台上も暗かったし、何よりベテランなのに今をときめく領子ちゃんに踊りで全くヒケを取らないのは凄いことだと思った。
ウィリたちは足音にだいぶ気をつけていたと思う。少なくとも白鳥よりは。ただ、アラベスクでふらついている人がいたり、ヒラリオンを殺したあとの撤収ジャンプが美しくなかったりと、以前見た時よりレベルダウンしてる?
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最後に今日の舞台は私の好みでは無かったけど、東バのダンサーたちが一丸となって作り上げた素晴らしい舞台であったことは重ねて付け加えておきます。
* 東京文化会館 *
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