2004年12月17日

「くるみ割り人形」 東京バレエ団(小出領子&後藤晴雄) <★★★★★>

 キャスト 

小出 領子 * クララ
後藤 晴雄 * 王子 

木村 一夫 * ドロッセルマイヤー



東バの「くるみ」はショボくて、ボロい。
昨年初めて見たときは冗談かと思うようなボロさだった。特に背景の幕がひどい。安いとかボロイを通り越して、古い。耐用年数過ぎてますよ〜。もはや色が褪せている。せめて上から色を重ねたらどうだろう?いや、そもそもデッサンが狂っているからそれじゃごまかせまい、などと、どうでも良いことをで考えてしまうほどヒドい。今日もオープニングの舞台前方の紗幕のボロさに「ふ〜」とイヤな溜息をついてしまった。

っが!

舞台上にクララ役の小出領子ちゃんが現れた瞬間、そんなことどうでも良くなってしまった。
本日主役デビューの小出領子ちゃん、彼女のクララについて賛辞を並べたらキリが無い。それくらいすっばーーーらしいクララだった。世界中どこに出しても、パリオペにもボリショイにもロイヤルにも、マリインスキーに出したって恥ずかしくないクララだった。今まではソリスト役でしか彼女を見ることが出来なかったが、今日は主役として全編を通して彼女を堪能でき、その幸せを噛み締めた。

相手役の後藤晴雄さん、彼の王子も素晴らしかった。今日の舞台の成功は領子ちゃんの天性の華もあるけど、晴雄さんの優しさ溢れる王子様のおかげ。二人の間には愛が溢れていて領子ちゃんを見つめる晴雄さんの眼差しが優しい。晴雄さん、今日は踊りも良くて、マネージュは力強く、シェネは軸がぶれずに高速回転、ジュテもあの東バ仕様の床の上で殆ど音を立てずに着地していた。そんな彼は自分のパートではバッチリ魅せて場を盛り上げてくれるんだけど、それ以外では一歩ひいて領子ちゃんを立てていた。領子ちゃんの初主演を彼の精一杯で盛り立てて上げたんですね。


 第一幕 

木村 一夫 * ドロッセルマイヤー

大島 由賀子 * クララの母
森田 雅順 * クララの父
乾 友子 * フリッツ

木村さんのドロッセルマイヤーは子供達を蹴散らしながら美しいジュテで登場。彼のドロッセルマイヤーはとてもカッコ良く面白い。彼の数あるレパートリーの中でも、ヒラリオンと同じくらい好き。登場の仕方が↑なもんだから怪しい人物かと思いきや、意外にも子供好きなドロッセルマイヤー。完全に子供に同化して遊んでいるのがおかしい。

クララの母大島さんは退団した遠藤千晴ちゃんの後継。背が高いので母として申し分無いのだけど、華やかさに欠け生活臭が漂う。どちらかと言うと日本昔ばなしに出てきそうな雰囲気で内職していそうな母。父、森田さんは髪の毛が少々薄くおなりでしょうか?

高橋 竜太 * くるみ割り人形
平野 玲 * ピエロ
高村 順子 * コロンビーヌ
古川 和則 * ムーア人

この脇役四人組については文句なし!手放しで良かったです。

横内 国弘 * ねずみの王様

東バのねずみはオットセイまたはツチノコみたい。体毛のないネズミで結構気持ち悪いんだけど、目が可愛いので許す。王様、ゴンドラの場面で家来の頭を思いっきり叩いていて会場に「バシッ」という音が響き渡っていた。暴力君主?



◆王子とクララの出会い

晴雄さんのくるみ割り人形から王子への変身演技、この場面は昨年のマラーホフの残像が鮮やかに残っているので「晴雄さんじゃねぇ・・・」と思っていたんだけど、意外にもハマっていた。素直に素敵でした。彼ってインタビューなんか読むと、兄だけど弟キャラというか、おっとりとした人の良さそうな方にお見受けしますが、たまに舞台上で物凄いオーラを発する時がありますよね。今日はその当たり日でした。

領子ちゃんについては、総てがパーフェクト。見た目良し、演じて良し、踊って良し。あのボロいセットが彼女の輝きで全く気にならなかったほど。初主役だと言うのに晴雄さんに助けられるどころか、領子ちゃんが引っ張っていたんじゃないかと思うくらい落ち着いて堂々としていた。テクニック的にも全く問題なし。サポートされて(必要無さそうだったけど)の高速ピルエットが大変美しゅうございました。

◆雪の場面

雪については、今日の素晴らしい舞台の中の唯一の汚点。一体どうしちゃったの!?振付&床にも問題あるけど、あの「ドスン」「バタン」というジュテの着地音はどうにかして欲しい。軽やかな雪の精には全く見えない。中にはチュチュが全く似合わない体型の女性がいて、「東バの団員?」と目を疑った。
それよりもっと酷いのは男性陣。水球選手のような妙な被り物、あれはどにかならないか?被るのだったら後ろ髪を帽子に入れ、キッチリ被って下さい。中途半端に被っているから「とほほ」感倍増。おまけにジュテの脚が開いておらず、悪いけどボーイズクラスの生徒さんかと思った。いっそのこと男性陣のパートはカットした方が良いと思います。


 第ニ幕 

この幕では踊りを堪能させて頂いた。
東バの「くるみ」は子供が一人も出てこないのも良い。踊りで魅せてくれる大人の「くるみ」。

◆スペイン

乾 友子 ・ 木村 一夫

乾さんが出だしで思い切りコケてしまった。その後持ち直したのは立派。一夫さんは下手したら気づいていないんじゃないかなぁ。乾さん、音も無く転んだから。
一幕ではドロッセルマイヤーの働き者の一夫さん、彼は踊りだすと同時にマイワールドへ没頭。彼の「壊れちゃってます」な入魂の踊りが好き。今年は退団者が相次いだ東バだけど、一番抜けられて困るのは実は彼かも!?と思いました。

◆アラビア

西村真由美 ・ 長瀬直義

キャスト表を見たときに「西村さんか〜、イメージに無いよ」と思ったし、彼女は首が短いので衣装が似合わず踊りだすまでは全く期待していなかった。でもすっごく良かったです。最初のポーズ、横に上げた足の上がり方が非常に美しかったので、アラビアにキャスティングされたことに納得。その後は吸い込まれるように見入ってしまった。なんか妙に色っぽかったです。特にエビ反りジュテが美しくエロティックで印象的。
長瀬さんは西村さんの黒子としての勤めは果たしていたけど、もっと存在感を出して男女が拮抗したアラビアになったら面白いと思います。

◆中国

門西 雅美 ・ 氷室友

二人とも笑顔で可愛かった。
今年は顔色が肌色だった。昨年は黄色く塗ってなかったっけ?
男性の「前習え」みたいなジュテは「ドスン」という音が響き渡るわりには見栄えがしない。

◆ロシア

佐伯 知香 ・ 大嶋 正樹

大嶋さんが笑っている。彼はこういう場面に出てくるとやっぱり目を惹く。
佐伯さんは初めて見たけど、ツンとした美人さんでプロポーションも良い。覚えておこう。

◆フランス

村上 美香 ・ 加藤 文 ・ 中島 周

女の子二人は笑顔が可愛いのだけど振付がこなせていない。無理矢理ピケやピルエットをニ回転して観客に不安を煽るくらいなら、一回転で軸をブレずに美しく回りきるべき。
中島周君は踊りは良いけど笑顔が固い。福岡の王子デビュー、大丈夫なのだろうか?

◆花のワルツ

大島 由賀子 ・ 吉川 留衣 ・ 奈良 春夏 ・田中 結子
平野 玲 ・ 古川 和則 ・ 野辺 誠治 ・ 横内 国弘

花のワルツでこんなに感激したのは初めて、かも。
それもこれも平野玲君!のおかげ。彼を見ていると心が洗われます。幸せ〜な気持ちになれる。彼はパートナーをとても大切にしていて、どんなサポートも必ず微笑んでから手を出す。こんな男性、他になかなかいませんよ〜(牧の逸見さんくらいかな。)。素晴らしい!

古川さんの髪型が板前のような短髪になっていて、衣装が全く似合わずおかしかった。

女性陣の衣装が変わった?昨年は裾にゴミみたいな飾りがついていた気がするんだけど、今年はオーソドックスなピンクのものだった。私の記憶違いだろうか?

◆グランPDD

すっばーーーーらしかった!
会場中が固唾を呑んで見守っていて、踊り終わるたびにブラボーの嵐。踊り満載の二幕を締めるに相応しい豪華なPDDだった。

今日は会場にお子さんが多くて、一幕は結構煩かった。(不快ではなく「あ!ネズミだ」とかそんな感じの微笑ましいリアクション)。でも二幕に入りグランPDDが始まる頃には踊りにすっかり魅了されたのか、会場がかなり落ち着いていたのが印象的。

領子ちゃんと晴雄さんは「やっぱり古典のPDDはこうでなくちゃ」と思う愛に溢れた踊り。いつまでも見ていたい、そんな気にさせられた。領子ちゃんは小柄なんだけど、彼女が舞台に出てくると舞台が狭く感じる。彼女の持つオーラはもちろんだけど、位置取りや目線などとても繊細に気をつけて踊っているのだろう。初主役とは思えないソツの無さ。

クライマックス、晴雄さんが舞台の真ん中で一人リフトされ夢の国が終るのだが、このリフトの晴雄さんはとても存在感があった。この人は本当に不思議なオーラがある。
夢から醒めた領子ちゃん、少し前までのあのキラキラ姫オーラは消して、少女そのものに戻っている。くるみ割り人形を可愛く抱きしめ、幕。あー、なんて可愛いクララなのだろう。幕が閉まる瞬間まで領子ちゃんに見とれてしまった。


 カーテンコール 

会場は大拍手&スタンディング&ブラボー。
会場全体に領子ちゃんの初主役成功を祝う暖かい空気が流れていた。長年の東バファンの方も、美しく可憐な純クラシックのプリマ誕生で皆さんお喜びなんだろう。私も嬉しい。こんなに綺麗にクラシックを踊れるバレリーナが主役デビューをしてくれて。こうなったからには領子ちゃんには一つでも多くの主演舞台を踊って欲しい。ササチューさん、お願いしますよ!来年2月の「シルフィード」も追加公演すれば良いのにねぇ。「ジゼル」も「ドンキ」も早く見たい!重ねてササチューさん、ヨロシク!

*

初主役を終えほっとしたのか、領子ちゃんが泣いていた。こちらまでもらい泣き。会場も領子ちゃんの涙に気づいて更に大きな拍手を贈る。そんな領子ちゃんを暖かくエスコートする晴雄さん。二人で何度も丁寧に丁寧にレベランス。晴雄さん、ドサクサに紛れて領子ちゃんの手の甲にキス。日本人にしては珍しい。彼も感極まったんですね。

*

会場中が幸せな気持ちに包まれた、素晴らしい舞台だった。
領子ちゃん&晴雄さん、本当にどうも有難う!

* 東京文化会館 *


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