2004年12月26日

「くるみ割り人形」新国立劇場バレエ団(さいとう美帆&逸見智彦)<★★>

 キャスト 

さいとう美帆 * マーシャ
逸見智彦 王 子

I.イリイン * ドロッセルマイヤー
大和雅美 * フランツ
G.バリノフ  * 道 化
高橋有里  * 人 形
江本 拓 * 黒 人
市川 透  * ねずみの王様

遠藤睦子 ・ 西山裕子 * 雪の精

西川貴子 ・ M.トレウバエフ  * スペイン
大森結城  *東 洋
遠藤睦子 ・ 奥田慎也 * 中 国
本島美和 ・ 丸尾孝子 ・ 市川 透  * トレパック
西山裕子 ・ 大和雅美 ・ G.バリノフ * パ・ド・トロワ
厚木三杏・川村真樹・湯川麻美子・寺島ひろみ * バラのワルツソリスト



新国立の「くるみ」は鬘が風物詩。
私的には鬘は全然OK。自毛で勝負されるより、いっそコスプレ入った方が好き。でもヅラを被る時はそれ相応に気合を入れ、まずは後ろ髪をきっちり詰め込み、その上で思いっきり弾けて欲しい。中度半端な照れや後れ毛があると、こちらの気持ちも萎えてしまう。その点フランツを演じた大和雅美さん&ちびっ子男の子軍団(女性ダンサー)は素晴らしかった。「イっちゃってる?」程の弾け方に惚れ惚れした。一方男性には照れが出たか。まぁ、女性に比べ男性の方が吹っ切れるまでのハードルが高かったかもしれない。<金髪・縦ロール・おかっぱ>ヅラを被った君と冨川さん、あれは確かにお気の毒だった。(あれじゃあどう見てもコントだよねぇ、お蝶婦人も真っ青の立派な縦ロールでした)。

ところで衣装がシモン・ヴィルサラーゼって本当ですか?知らなかった。今まで見てきた彼女のデザインとこの衣装のデザインは結びつかない。彼女のデザインしたボリショイの衣装はどれもシックで重厚感があって大好きなんだけど、この版の色彩は好きになれない。あの、ピンクが基調の色彩は日本人の肌色には合わないと思う。ロシアの肌の白〜い、手足長〜い人たちが着たら素敵なのかもしれないけど。衣装に限らず、この版は元々ワガノワの生徒たちのために振付けられたものですよね?日本人のプロのバレエ団が踊る作品としてはあまり相応しくないように思います。もっとバレエ団の魅力を伝えることが出来る版を採用しても良かったのではないかしら。


*


本日の主役、さいとう美帆ちゃんと逸見王子
このお二人、今日は不調だったと思います。新年に踊った「シンデレラ」の方がずっと完成度が高かったです。推測ですが、牧で三日「くるみ」を踊り、新年には「白鳥(トロワ&スペイン)」「ガラ」の舞台が控えている逸見王子、美帆ちゃんとレッスンする時間がそんなに取れなかったのでは。そんなことを想像してしまうほど、二人のコンビネーションは音取りはバラバラだし、サポートのテンポはズレてるし、逸見王子はコケちゃうし(涙)、呼吸が合っていませんでした。二人の間に愛情もあまり感じられなかったし、特に美帆ちゃんが全くアイコンタクトをしないのは気になりました。逸見王子、空回り気味。

この版のようにクララを一人で踊る場合「少女→王子に恋→切ない別れ→夢から覚め、ちょっと成長」という物語を伝えるのは必須だと思うけど、美帆ちゃんからはそれが伝わらなかった。(先日見た東バの小出領子ちゃんはそのあたりの演技が見事!)。三幕では踊りもかなりヘロっていて、もしかしたら体調が万全では無かったのかもしれませんね。それから今回美帆ちゃんを見ていて思ったこと、彼女は手が短いですねぇ〜。これは演じる役柄を選ぶかもしれませんね。「くるみ」「眠り」あたりはバッチリですが「白鳥」「ラバヤ」あたりはキツいかもしれません。でも美帆ちゃんの全編通した「おっとりさん」オーラは好きです。良い意味でバレエ少女の延長、というか人間離れしていないのが彼女の魅力だと思います。

逸見王子はパーマを掛けていた・・・。まあ、違和感はあったけど変では無いのでこれは置いておくとして、今日もキラキラ☆王子オーラは健在でした。出てきた瞬間「あの人が王子様よ」と説明しなくても誰もが一目で分かる王子の佇まいは彼ならでは。逸見王子が登場した途端、それまでダレていた近くの子供がいきなり立ち上がって前に乗り出していましたもん。子供にも「王子様だ!」と分かるんですね。ヴァリエーションではいつになく素晴らしい出来栄え。特に最後のピルエット(軸がずれない!珍しい!)とキメポーズが逸見さんらしくなくて(失礼)良かったです。彼、最近メキメキ踊りが上手になっていますよね。マネージュも見るたびに軽やかになっているし。でもこの版は踊りなれていないのか、所々かなりギクシャクしていました。笑顔引きつってたし。

それ以外のキャストでは・・・・

高橋有里さんのお人形メイクは悲しかった。あの金髪ヅラ+ピンクのロリロリ衣装は小柄だけどガタイの良い有里さんには厳しい。実年齢より老けて見えました。そして有里さんの踊りは人形ではなかった。ピルエットで顔を付けすぎ。道化バリノフはあいかわらず可愛くて良かった。黒人の衣装は南国の毒イモリにしか見えなかったな。アマゾンライダーみたいだった。イリインの絵本から抜け出たような「これぞドロッセルマイヤー」の外国人ならではの見た目はお得な気分。この版のドロッセルマイヤーは存在感無いけど。

今年のはちょっとボタ雪気味?
一昨年見たキラキラ舞い落ちる様な粉雪では無かったゾ。でもこの版の雪の振付は好き。他の踊りの振付はどれもこれも嫌いなんだけど(特にサポートされて浮いてばかりいるグランPDDのアダージオは大嫌い)。この雪だけは大好き。衣装も鬘も腕に付いているポンポンも可愛かった。最後に坂を上って「サヨナラ〜」としているのも可愛い。

スペイントレウバエフ、いつになく笑顔。(踊りだしたら仏頂面だったけど)。西川さんは無表情。彼女は踊るとき客席を見ない方なのでしょうか?目が泳いでいるというか、キリっとした目なのに目力が無いと言うか。もったいないです。

東洋大森結城さん、彼女のエスニックなキャラクターダンスは「ライモンダ」のサラセン人しかり、とても良い。5人の女性達の中で一人だけお顔が大きくてプロポーション的には「あれ?」なんだけど、踊りだすと動きが一人だけ違う。纏わりつくような感じが◎。でもこのハンカチ・フリフリダンスみたいな振付は嫌い。衣装もヘソだしビキニ+ハーレムパンツのような露出過多な方が盛り上がるよ〜。

トレパックの三人はブラボ〜。本島美和ちゃんがめっちゃくっちゃ可愛かった。丸尾さんのキレのある動きも市川さん(メイクが面白かった)も弾けっぷりも良いぞ〜。大きな拍手を貰っていた。最近の市川さんはデカいだけじゃない自己主張というか、存在感が出てきましたよね。「白鳥」のロッドバルトが楽しみです。

トロワバリノフ君、あの白鬘を被ると彼もオッサンですね。衣装がパツンパツン。脚さばきは綺麗だけど。西山さんの上半身は動きがとても綺麗。でも彼女も無表情。ニッコリ笑って〜。フランツから一転、大和雅美さんは愛らしい女の子そのものだった。

バラの精厚木さんと寺島ひろみさんはこのバレエ団の花ですね、美しかった。

*

上にも書きましたが、新国立のソリストの皆さんはどうしてみんなあんなに無表情なのでしょうか?キャラクターダンスを踊り終わって舞台後方で座っている各国の踊り手たち、ちょっと怖いです。もっと楽しそうにして下さい。踊り終わった人が来て場所を詰める時など全く素の表情で「よいしょ」とお尻を持ち上げオバちゃんになっているし(悲)。舞台上にいる間は踊り以外の場面でも一人一人が最後まで役になり切っていて欲しいのです。新国立の舞台に愛着が沸かないのは多分その辺りにあるのではないかと・・・。

*


全体として「くるみ」に必要な華やかさや盛り上がりに欠けた舞台でした。衣装やセットはボロくても良いから(例:東バ)、バレエ団全体で舞台を盛り上げようという心意気を感じさせて欲しいです。最終日でお疲れだったのでしょうか?

* 新国立オペラ劇場 *



トップへ
戻る