2015年05月  ガーデニングの基本は水やりだ。

 最近植物栽培にすっかり自信をもってきた。
 逆に言えば、今までは全く自信がなかった。何しろ「絶対に素人でも栽培できる」とされるゴムの木まで枯らせてしまっていた。
我が家は広尾にあるマンションだが、かなり大きな庭がついている。これは都会ではめずらしい。他人様の部屋の上が斜線規制で部屋にできないためにルーフバルコニーで、庭になっているのだが、仮にそういう構造になっていても、庭としては使わせないルールのマンションが多いらしい。ものを落とす人がいたり、たまたま防水が破れて、下の部屋に水が漏ったりした場合、トラブルを避けたいということなのだろう。
 我が家を建設する当時こういうタイプの建物は珍らしかったので、特別扱い(マンション販売の目玉)ということで設置したらしい。ちゃんと1畳ほどの花壇が四面作られている。かっては、前の住人がお金持ちだったせいもあって、30本ちかい木が(ゴールドクレストですが)生い茂っていた。しかしそれが今から7年前にマンション全体の大規模補修工事が行われた際、「花壇の防水をやり直すので、全部撤去してください」と言われて、(それは当然のことと思うが)全部抜いた。抜くために、チェーンブロックを11,000円で買ったり、そのまま修復後に植え戻そうと、土嚢を作って、その中にいけ込んだりして、どえらい苦労をしたのだが、結果的に言えば、大規模補修後に花壇に埋め戻した30本のうち、3年ほど生き残っていたのが4本という惨状であった。今日まで生き残っているのは2本しかない。
 そこで経験に学ぶことをモットーとしている筆者としては、花壇に植えると、数年後(たぶん2019年)の大規模改修の際に、また「植え替えろ」と言われると思い、最初から鉢のママでおいておくことにしたのだが、これが、枯れる枯れる。(数えたこともないが十数鉢枯らせたと思う)
 そこで、有識者の、「水はやりすぎて、やりすぎということはありませんよ」と聞くと、「もっともな意見だ」と思い即実行。(したつもりで、実はちゃんとやってなかったのだが……)
 「水のやりすぎで、根腐れしてるんじゃないか」というアドバイスを受けると、即実行。今度は数週間も断水する。有識者の意見が替わる度に、対応を柔軟に変えて見事に枯らせていた。

 さてそのような試行錯誤が劇的に進化をとげた。
 というのも、私の息子が地方に転勤になってしまったのがきっかけだ。支店が山ほどあるから仕方がないのだが、その際、「今まで大事に育ててきたゴーヤは、引越し先に持って行けないから、預かってくれ」と言ってきた。「それはさぞかしお困りでしょう」と引き受けたのだが、なんと言っても「枯らす名人」だ。しかも実績がある。前回某地方に赴任するに際し、「息子の木」というのを買ってきて一番よく見える場所に飾っておいたのだが、これがなんと僅か数ヶ月後に枯れてしまった。木が枯れたからかどうかは知らないが、息子の帰任が半年遅れた模様なのだ。
 そこで、「絶対枯らしちゃなんねえぞ」と心に定めて具体的な手段を構築した。すなわち自動給水装置を作ることである。
 まず第一に電磁弁を買うのだが、買い方がわからない。スペックがわからない。でインターネットで調べてもプロ用の品物だから素人にはわからない。これでどうだ!と発注したのだが、送ってきたものを調べても、実験してもちっとも作動しない。やり方が悪いのか、電源がおかしいのか……。最終的にはCKDのAB41−04−8という100V交流使用タイプを買って正解になったが、その前に全く無駄に2個買っているので1万4000円丸損した。
 タイマーは比較的安く、2400円ほどで買えた。
 一番高かったのは電磁弁、タイマー等を収納するボックス(鉄製)で、これが14,000円ほどした。この鉄製のボックスに水道を通すために直径30ミリのホールソーを買ってこれが2,500円。
 あとは、水道をつなげて、ホースをつないで、ホースの適当な場所に穴を開けるだけ。
これで、朝の6時から10分間と 夜の6時から10分間 水がでるようになったら、あーら不思議。今まで元気の無かった草木が伸びること伸びること。びっくりするぐらいよく育つ。
 つまり、早い話が、今まで注意して水をあげていたつもりなのが、いかにでたらめで、気まぐれだったのから、証明されてしまった。昨年7月に預かったゴーヤはずたずたの状態で運ばれてきたのにしっかり育って実を成らせたし(小さかったが……)今まで息も絶え絶えに見えたシャクヤクや、アジサイがみごとに息を吹き返した。
 特に特筆すべきはバラだ。今まで十年に限ってもおそらく、数十本植えて大事に育ててきたつもりなのに、一本も育たなかったのが、(しかもバラは安くない)今年はどうだ。4本のバラが競って花をつけ、しかも大輪15センチ。BSNHKでベルサイユのバラの再放送が決まったのを記念するかのごとく咲いている。これだけきれいに咲くと、「楽しみは朝起き出でて昨日まで、なかりし花の咲けるを見るとき」という心境がよく分かる。新しい花が咲いているのではないかと、しょっちゅう庭に出る。最近は夜も鑑賞できるように専用照明をつけた。
 しょっちゅう見ているから「ちょっと弱っているんじゃないか」とか、「追肥をした方がいいかな」と気がつくからますます草木は元気になる。実によいサイクルに入ってきた。
                    ★
 念のために言えば、我が家には生きている植物も多かったが、死なない植物=つまり造花も多かった。
 生きている植物を買ってきても私に断り無く枯れるので、最初の頃は緑のペンキで丁寧に塗ってあげていた。しかも、黄色を少し混ぜたり、グラヂュエーションをつけたりして、なかなか凝った塗り方をしたのに、その努力も評価せずに枯れる。で、最終的にはその木の代わりに枯れない木をおくことになるのだ。ところが、枯れない木も、屋内であればそう簡単には衰えないのだが、屋外になると話は別で色が褪せてくるわ、葉が散ってしまうわ、軸になっている鉄線が錆びて折れ曲がるわでこれもうまくいかなかった。
 その悩みからも解放されそうだ。これから生きていく植物がどんどん増えそうだ。