丘珠空港滑走路延長に係る諸課題 2023.4.17
1.就航機材
2022.6に札幌市が丘珠空港の滑走路を1500mから1800mに延長する方針を公表したが、下記資料をみると、現状の1500mで冬期間も就航できる機材は、現在HACが運航しているATR42-600のみしか記載されていない。
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しかし、日本国内に就航している機材で、JAC(HACと同じJALグループ)が運航している70席クラスのATR72-600があり、新規航空会社のトキエアは2023年3月に事業認可を取得し、同機材により2023年6月から新潟−丘珠路線の2往復/日の就航計画を発表した。この機材の性能をメーカーのパンフレット、下記コウノトリ但馬空港の資料を見ると、現状の1500mで冬期間も含めた通年運航が可能であると思われるが、残念ながら札幌市の公表資料には、この機材の記載がない。
冬期間における必要滑走路長については、運航会社による滑走路状態や路線を想定した詳細な検討が必要であるが、ここでは、丘珠空港でHACが運航していたSAAB340Bを基に、冬期間における運航制限が発生するかどうか検討する。
下記表からすると、SAAB340B型機の 必要滑走路長は1322mとされており、丘珠空港では冬期間の運航制限は特になかったことを踏まえると、ATR72−600型機の必要滑走路長は1333mであり、ほぼ同程度の離陸性能であると考えられることから、冬期間も運航制限無しに十分に運用できるものと推測される。
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※兵庫県公表資料
2.整備費
札幌市が2022年6月に発表した資料では、フジドリームエアの70席クラスのジェット機を就航可能とするために約290億円の整備費を算出しているが、現状でも70席クラスのプロペラ機の就航が可能であることや、新千歳空港との機能分担が明確でない中、滑走路延長の費用対効果はどの程度になのか明らかにすべきである。
また、整備費の内、障害物件(北電鉄塔、下水道)移設費用が190億と基本施設の整備費100億円の2倍ほどとなっており、障害物件の除去費用が多額になる特殊な滑走路延長整備である。
しかし、2022年11月発表の「将来像」では、整備費に
・空港 整備事 業費(滑走路 300m延伸、駐機場増設、用地費等):150〜200億円 (上 記のうち地 方負担(15%):23〜30億円)
・その 他施設 整備 事業 費(ターミナ ルビル 、搭 乗橋、 立体駐 車場 、格 納庫 ): 100〜 150億 円となっており、障害物件の移転の話しが消えており、整備費も増額になっている。
また、地元負担は整備費の15%であるとしているが、法では基本施設(滑走路、エプロン、誘導路等)の整備に係る国及び地方自治体の負担割合を示しており、障害物件の除去費用の負担については明確になっていない。地元の要望により空港整備する場合は、特に障害物件の移設費用は全額地元負担になる可能性もあるので、情報公開が必要である。
3.新千歳空港との役割分担
新千歳空港は日本における国内線や国際線の拠点空港の一つであり、国際線の充実は本道の国際化に大きく寄与するもので、そのためにも国内線ネットワークの充実が求められるところである。
これまで、新千歳空港には滑走路2本、国内・国際線ターミナルビルの整備や周辺の騒音対策等に多額の税金や民間資金が投資されている。
また、2020年から空港の民営化が行われており、この3年間はコロナの影響により経営が厳しい状況であった者と推測されるが、今年に入ってから回復基調にある。
国内線は、道内6路線、東北6路線、北陸3路線、東京以西15路線の30路線、国際線は韓国、台湾など6カ国8路線就航しており、2019年の国内線は年間2000万人、国際線は380万人の旅客数を数える国内5番目の規模の空港である。
札幌市が想定している丘珠空港からの路線は次の通りである。
※札幌市資料
新千歳空港との機能分担について、札幌市は「「北海道航空ネットワークビジョン(平成 30(2018)年 3月北海道策定)」で示 された“道内空港を一つと見立てた『大北海道空港』(マルチゲートウェイエアポ −ト)の推進”に向け、道内 13空港の連携による航空ネットワーク全体の充実強化に、丘珠空港も道内路線を受け持つことで貢献していきます。 また、道外就航先地域と札幌市・北海道の交流人口を増やし活力を高めるため、 道外の様々な地域の空港との間に路線を結ぶことを、航空会社や関係機関と連携し進めていきます。」としている。
新千歳と空港の機能分担は「航空ネットワーク全体の充実強化」するとしており、新千歳空港の路線と競合する路線を想定しており、機能分担が明確になっていない。
4.整備費用対効果
札幌市の将来像では、整備費は全体で250−350億円(障害物件の移転費は含まない)としている。
効果としては、新千歳空港とは異なる新規路線の開設を想定していない中、新千歳空港と丘珠空港のアクセス時間の差があまりないので、整備効果は少ないものと考えられる。
フジドリームエアラインの70席クラスのジェット機の冬期運航が困難であっても、現状の滑走路長で70席クラスのプロペラ機の通年運航が可能であることを踏まえると、札幌市が主張する丘珠空の機能拡充は可能であり、費用対効果の算定は難しいものと考えられる。
5.考察
丘珠空港の滑走路延長に係る札幌市が発表した「丘珠空港の将来像」において、次の点において、情報開示不足、説明不足が見受けられる。
・70席クラスのプロペラ機の就航が確実視される中、滑走路延長整備の必要性の明確化。
・新千歳空港との機能分担の明確化
・整備費用対効果の明確化 等
滑走路の延長には、まだまだ課題が多い中、国や道、札幌市の税金が投入されることを踏まえると
札幌市民だけではなく全道的な議論が望まれる。