Compact Disk Player
SONY CDP-101
ついにデジタルオーディオがやってきました。「コンパクトディスクプレーヤー」オーディオの世界に新しい再生機器が登場し、音の情報がデジタル信号で記録された「コンパクトディスク」は新しい技術を象徴するかのごとくキラキラと輝いていました。このキラキラはすぐに私の心を虜にし、もう欲しくてほしくてたまらなくなりました(後にこのキラキラは畑の鳥よけなどにも使われるくらい安く、ありふれたものになってしまいました)。
時は1982年、私は大学2年生でした。バブルに向けて元気いっぱいの時代です。お金はなくても頑張ってバイトをして、中古のサニーに乗りみんなとドライブ、XL250Rに乗り仲間とツーリング、夏はテニス、冬はスキー…、なのでオーディオにかけられるお金は限られています。
各メーカーからCDプレーヤー1号機が発売になり、田舎町では実機はお目にかかれませんが、雑誌の記事を読むたびに我が家にCDプレーヤーをお迎えしたい気持ちは高まる一方です。しかし、価格が…。そのとき読んだ雑誌の記事にはこんな趣旨の記事が「新しい技術を売り出すために、各メーカはかなり無理をして価格設定をしてあるので、今後しばらくはCDプレーヤーの新製品が出ても価格は下がることはないだろう」そうか、ならば価格が下がるのを待っても仕方がない、いつ買うの?今でしょ!まだまだ若気の至り真っ最中です。ブレーキの利きは甘いです。欲に向かって一直線です。(その後1年もせずにCDプレーヤーの性能と価格はどうなっていったかは皆さんご存じのとおりです。素晴らしきかな、デジタル技術、トホホ)
地元ではほぼ定価販売です。大学生になって街の電気屋さんじゃなくても遠くまで買いに行くことができるようになっています。価格.comはありませんので、オーディオ雑誌の広告を見て値引きの大きそうなお店を探します。といっても私の地元から目指す地は秋葉原一択です。往復の電車賃をかけても地元で買うよりは安くなります。買う機種も決め、東京の友達の年末の帰省に合わせて現金を握りしめて一緒に秋葉原に行ってもらい、何件も店を回りました。初めて行った電気街はワクワクの連続でした。
今では価格.comなどで一番安いところを選んで「ポチッとな」が一般的でしょうが、1円でも安く買うために値引き交渉をします。いくつかピックアップしていたお店を回り、交渉をして、結果、定価168,000円を14万円台、最後はオーディオ小物をおまけにつけてもらって買ったのがSONY CDP-101です。
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他社の1号機はカセットテープデッキのようにCDを縦にセットするタイプが多く、水平トレイ方式はこのCDP-101だけだったように思います。他社が縦置きだったのはCDプレーヤーの試作機がそうだったからだと言われていますが、私は再生中のCDが回っている様子が見えるという視覚効果を狙ったのも理由としてあるのかなと思っています。しかしその後、ほとんどの機種が水平トレイ方式になったことから、視覚効果より他のメリット(ボディーを薄くできるなど)の方が勝ったということでしょうか。個人的にはレコードやテープ、それにメーターのように「音と動きの関係」が見えるのが好きなんですがね。
さて、このトレイ、イジェクトボタン(カセットテープデッキのボタンのいかにもメカニカルなタッチと違って、エレガントなタッチです)を押すと「ジー」というけっこう大きい音を出しながら前にせり出してきます。別の機種ですが、展示品のイジェクトボタンを押したところすごいスピードでトレイが出てきて、そのままトレイが飛び出してしまうのではないかと思わず手で受け止めようとしたなんてことがありましたが、これはゆっくりとせり出してきました。ずいぶん先のことになりますが、何年かして経年劣化でトレイが出てこなくなりました。でも、蓋を開けて駆動用のギアに固着してしまったオイルを清掃し、新しいオイルを塗ると直すことができました。巷では「ソニータイマー」という言葉がささやかれていますが、オイルの固着がたまたま保証が切れたときに起きるのが理由の一つだったようです。
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CDをセットして再生ボタンを押すと静寂の中から音が鳴り始めます。スクラッチノイズもヒスノイズもない。なんせダイナミックレンジ90db以上、SN比90db以上です。デジタル録音のすごさを説明するための当時の話として「花火大会で花火の音とその後の虫の鳴き声が同時にクリアに録音できる」それくらい大きい音と小さい音が歪みや雑音なく表現できるのがデジタルで、それが一般家庭に入ってきたという、オーディオにとって大きな転換点になった時代でした。ちなみに花火大会でデジタル録音をするためには、CDP-101のカタログに載っているものでは、PCMデジタルオーディオプロセッサーPCM-F1(\250,000)と記録用にベータマックスF1(\199,000)のほかマイクやバッテリーなどの付属品を含めてざっと50万円以上必要でしょうか?今ならスマホで手軽にデジタル録音できますので、技術の進歩はすごいですね。
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レコードもテープもA面、B面があります。「A面で恋をして~♪」なんて歌がありましたが、CDになってアルバム全曲はこの直径12cmの片面に記録されるようになりました。途中でひっくり返す必要はありません。AB面の概念がなくなった瞬間です。CDに記録された音楽信号の読み取りはレーザーで行ってるので、曲の頭出しなどが簡単です。この、レーザーによる非接触方式というのは重要な進歩で、針やヘッド、レコードの溝やテープと違って摩耗したり傷ついたりしないということです。レコードは針を通すたびに溝が傷つき音が微妙に変わっていきます。私はそれがいやではじめにテープに録音してしまい、レコードにはほとんど針を通しませんでした。
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全曲演奏が終わると自動で停止しますが、途中でやめるときは…あれ?ストップボタンがない、四角のボタンがない!説明書を読むと再生ボタンの上にある目立たないRESETと書かれたボタンで演奏中止するとなっています。テープデッキのストップボタンは、演奏が止まってメカが解放されますが、テープの、曲の先頭に戻るわけではないので、CDプレーヤーでは完全に元に戻るという意味でRESETとしたのでしょうか?いずれにしても人生リセットボタンはどこにもないようです。
CDP-101の横幅は355mmで、他の機器より小さくなっていました。背面にはトランスと放熱フィンが取り付けられていて、これは後に所有することになるCDP-555ESDでもトランスが背面に取り付けられていたので、ボディーの中に納めないのは技術的あるいはデザイン効果としての意味があるのかと思います。蓋を取って中をのぞいてみると工場の空気はほとんど入っておらず、当時の技術の証が隙間なくびっしりと168,000円分の価値を持って詰め込まれていました。別売りでウッドケースがあって、これに入れると横幅430mmとなり他の機器と同じデザインになりました。
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さて、ソースがなければプレーヤーはただの箱です。CBS SONYとEPIC/SONYからは10月1日にCDが発売されました。CBSからはクラシック15タイトル、ポピュラー8タイトル、国内制作として我らが聖子ちゃんをはじめ10タイトル、その中には「THE SL -SL SOUND IN DIGITAL-」というデジタルサウンドの迫力を表現したものもありました。EPICからはポピュラーが5タイトル、国内制作が3タイトルで、CBS、EPICともクラシックは\3,800、ほかは\3,500でした。私もロリン・マゼール/ウイーン・フィルの「運命」とレコードで持っていましたが松田聖子の「PINEAPPLE」(マニアにはわかると思いますがゴールドディスクです)を買って、毎日聞いていました。
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追加タイトルは11月21日発売でしたが、それに先だって10月21日にCDカラオケが発売になりました。「ランダム・アクセスによる一発選曲」「手軽に繰り返し練習できるリピート機構」「高音質デジタル・サウンド」「レーザー非接触プレイで、ディスクは半永久的に使用可能]という宣伝文句はCDの特徴をよく表しているものでした。カラオケスナックにCDカラオケが普及し、CDが静止画で歌詞が表示できるようになったことで8トラは消滅し、その後レーザー(ディスク)カラオケの登場でCDカラオケも押されていき、さらに通信カラオケの登場で円盤はスナックやカラオケ店から消滅していきました。
私のCDP-101、新しいCDプレーヤーを買ってもラックに居続けましたが、30年近くたってついに完全に動かなくなってしまいました。
SONY CDP-555ESD
準備中