オーディオ日記 第51章 行く道は果て無く(その5)2021年1月30日


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わが心のデジタル:

ちょっと大袈裟なタイトルとして書き始めたが、この十年余りの当方のオーディオ探求は「デジタル環境」一辺倒であったと思う。現在の集合住宅(家内は自前の老人ホームと呼んでいる)に転居する以前のこととなるが、パソコン部屋での作業の合間にBGM的にインターネットラジオを聴いていたことに端を発する。せいぜい64K~128K程度の圧縮音源で音もたいしたことはなかったのだが、それでも多種多様な音楽を気楽に聴ける、あるいは新しいアーティストや楽曲との出会いがあってお気に入りであった。

この拙い日記を振り返ってみれば、2000年前後には当時のWindowsXP環境でデジタルファイル再生を開始して同時にCDリッピングにも手を付けている。最初はMP3の192Kで、以後256K、320Kと次々にやり直しを重ねる羽目になり、落ち着きを得たのはFLACに統一して以後。また、出力デバイスもPC内蔵のものからスタートし、PCIカード(一世を風靡したONKYO製)、USB DDC(XMOS)と順当な変遷を重ねた。PCも一般的なものから再生専用機へ、更には音質向上施策をあれこれと施すようにもなった。試してみた音楽再生ソフトウエアも幾多あったろうか。

並行的にオーディオ機器の環境においても、デジタルイコライザ(Accuphase DG-28やBehringer DEQ2496)やサンプリングレートコンバータ、クロック(Antelope OCX)そしてDAC(Accuphase DC-91)などに次々とチャレンジしては結局納得の音が得られずに打ち負かされてきた。だが、その可能性自体は疑いようもなく、アナログ再生環境のブラッシュアップなどほぼ疎かにしてデジタル再生に邁進して来たと云って良いだろう。

そして、突き進めばそれなりの成果も多少は出てくる。自分なりにブレークスルーとなったことを挙げれば、音楽再生ソフトウエアとしての「VoyageMPD」との出会いである。それまではWindowsの環境に慣れ親しんでいたので、さすがにLinuxは取っ付き難くもあったのだが、余分な機能はすべて捨て去りシンプルにして軽量、使いこなせばWoindowsの予想外の理不尽さなどのようなものは微塵もないので、習うより慣れろということだと思う。またリモコンソフトの超絶的な使い勝手の良さ(と重要性)にも開眼した。これが2012年。この環境に合わせるように音源はPC内蔵ディスクではなくNASに置く、という現在に通じるスタイル(現状はサーバーPC)へと変化した。

もうひとつの要素は「デジタルチャネルデバイダー」である。当方はオーディオ事始めの時代(1970年代半ば)よりマルチアンプシステムを指向してきたため、チャネルデバイダーは必須の機器。こちらも長らくアナログチャンデバ(Accuphase F-20など)を使用してきたが、同じ2012年にデジチャン(Accuphase DF-55、現在はDF-65)へ切り替えた。チャンデバのデジタル化による恩恵は、スピーカー設定の縦横無尽さにある。もうひとつ大きなポイントはタイムアライメントの制御。これはアナログチャンデバでは実現不可能なもの。いずれもがマルチアンプシステム派にとっては最高の武器となった。

この秀逸な音楽再生ソフトウエアとデジチャンというふたつの画期的なポイントを組み合わせて、PCオーディオからのデジタル出力をそのままデジチャンに入力する、という構成へ突き進むこととなった。いずれは解決できるだろうという淡い期待を持ちつつも「マルチチャネルの音量調節」という大きな課題を残したままに。そして現在に至る中で結果的には対応機器(8chアッテネータ)に巡り会えたのだが、長期間に亘り悩みの種にもなってしまったこともまたひとつの経緯である。だが、これで当方にとって望ましいデジタル再生の「かたち」が出来上がったものと認識している。

最早デジタル音源、再生が一般的であり、アナログ再生の方がやや特殊となっていることは否めない。だが、ハイフィデリティを目指すオーディオ趣味としては、いずれの良否を問うよりも己の選択の中でベストな音を探していくことの方が多分重要なこと。そう考えれば良いのかもしれない。結果的には僅かなアナログ環境は残しているもののほとんどのアナログディスクを断捨離、という流れになった。

(注釈)
デジチャンを使うということは、アナログ音源に対してはA/D変換が行われるということでもある。このことを突き詰めれば、音楽会社がマスター音源に近いものをスタジオ品質?でデジタル化し提供しているものを選択する、ということにも一分の理があると思う。カッティングやヴィニール化、音溝からのピックアップなどのプロセスが全く介在しないという点で。また、元々がデジタル録音の音源であってもCDなどの「媒体」を経由する必然性は既に失われつつあると考えている。

さて、PCオーディオに話を戻すが、時代の変遷と流行廃りもあってあれこれのソフトウエア弄りも忙しくもあった。当方が愛した(と云っても良いと思う位の)VoyageMPDもいつしか消え去って久しいのだが、その頃には逆にネットワークオーディオ機器が相当に盛り上がりを見せる時代ともなってきた。音と利便性が多くの人に受け入れられたものと思う。当方の中では究極のデジタルトランスポートを求めての彷徨が始まっていた頃。CD媒体とデジタル音源の音の差異については様々なファクターが関係するので一概に良否を断ずることはできないのだが、リッピング音源について少なくとも劣化したコピーとは云い切れない、という思いが当方の中では強かったのだ。故にCDトランスポート(現在では置物と化しているAcchuphase DP-90)などにその解を求めることはなくなった。一方で初期の頃のネットワークオーディオ機器における操作性の悪さも痛感させられ、極楽操作の理想はより高くなっていったのかもしれない。そうして行き着いた現状はラズパイとネットワークストリーマである。このような(超の付く)廉価な機器が上流機器として納まるとは予想できなかったこと、、、

あわせて、デジタルフォーマットの拡大(所謂ハイレゾ)もデジタルの強みとして認識させられるにいたった。もちろんフォーマット自体は器の問題なので、中身の音楽そのものと録音の良否が最終的な音源の存在価値を決めるのだが、少なくともそこには単なる商業上の都合だけとは云えないポテンシャルがあることもまた事実。SACDトランスポートからのDSDをそのまま受け入れるようなデジチャンが存在していればまた違う未来としての現状があったのかもしれないのだが、、、

人間の聴く音は所詮アナログ波形、デジタル音源はどこかでアナログに戻してあげなければならないのだが、それをどこで行うのが最適解なのか。プロ用機器から始まったDSPとDAC内蔵(もちろんパワーアンプも)のスピーカーシステムの類も徐々に民生用にも見られるようになってきた。まだ数は少ない(あるいはLINN EXAKTのように超高価)のだが。また、デジタル音源についても自分でリッピングやダウンロードしてNASなどに保有することからネットワークを通じて都度取り込む(ストリーミング)スタイルに変貌しつつある。これらを俯瞰的に考えてみると、ネットワークに接続されたスピーカーシステム、そして音源を選択する仕組みがあれば良いことにもなる。プロ用機器では既に主流にもなりつつあるAudio over IPの構成ではスピーカーシステム自体がネットワークに接続し単体で完結することも可能(DSP処理によるイコライズ、そしてチャンデバ機能、D/A変換、増幅機能の全てを備える:自己流だがNetwork Attached Active Speaker Systemと呼べば良いのかと)。

この姿を突き詰めていくと、最早PCオーディオなどというものはある一時だけ存在する仮初めのものではないかとも思えてくる。WindowsもLinuxもへったくれも無い。オーディオファイルはスマートフォンを手に、ネット上にあるそれこそ膨大な音源ライブラリから選曲するだけで良い。ネットワークストリーマーと呼ばれる機器が介在する必要があるかもしれないが、ここでインターネットから受け取る音源を家庭内のスピーカーシステムに適宜デリバリする。スピーカーシステムはLAN接続してさえいれば有線でも無線でも、どこの部屋に何台あって構わず、単に送り込むスピーカーシステムを選択するだけ(BluOSではこれをマルチルーム機能と呼んでいる)。つまりはデジタル音源の流れを交通整理するだけの機能が極楽の操作性と共にあれば良いことになる。

そして(全能の?)オールインワンのスピーカーシステムは自ら置かれた部屋の特性を検知し、リスナーにとって最適な補正を行った上で音楽を奏でてくれる。ここまで実現(個々の機能はまだ部分として分かれているだけで既に存在するもの)しまったら、オーディオファイルは何をすれば良いのか? ただ首を垂れて音楽を聞くのみ? それは幸せなことなのか、、、

個々の機能(や機器は)そのデザインや音の優秀さ、適切な価格の範囲にて任意に選択して組み合わせも自在、ということも考え得るし、現状はどちらかと云えばまだそれに近い。ただ自分自身の立場としては、当然ながら選択における「こだわり」の部分はどこかに残しておいて欲しいとも思う、、、

これは夢物語か? とんでもない! すでに現実は着々と進んでいる。オーディオファイルを自称する我々が見てみない振りをしているだけ。あるいはPCオーディオやデジタル再生、ましてやストリーミングなどでは最高、究極の音は実現できない、との思いに囚われているのかもしれない。一方で、このこと自体はまた紛れもない事実とも思うのだが。ただ、現状は廉価な機器からこのような実装、対応が始まっているので情報アンテナに引っ掛からず、胎動を見落としているだけかもと自分自身を危惧する。AmazonやGoogleにその先鞭となるような機器も見ることはできるのだが、まだオーディオ的なは評価は難しい。

加速して行く「ストリーミング」の流れの中で、オーディオ機器はどのような激震を迎えることになるのか、自分でもまだ見通せておらず、目先の自分のシステムの音をブラッシュアップさせるだけでも精一杯である。だが、老兵は「必ず」去る。

Japan as No.1に近かったかってのオーディオ機器の全盛を経て、今このデジタルとネットワークの時代にこれらの能力とメリットを取り入れた先進的なコンセプトの機器を日本で生み出すことができないだろうか。そう強く思うのではあるが、残念ながら否であろうと確信せざるを得ない自分も居る。

小難しいことをごちゃごちゃ言わずに音楽を聴け、と自分に命ずる今日この頃でもある。だが、わが心をデジタルの今後の可能性から背けることはできない。


                 4way MW16TX構成の設定暫定値(2021年1月11日更新)
項目 帯域 備考
Low Mid-Low Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
SB Acoustics
MW16TX
Sony
SUP-T11
Scan Speak
D2908
-
能率
能率(90dB基準相対差)
dB 97.0 (+7.0) 87.5 (-2.5) 110.0 (+20.0) 93.0 (+3.0)
定格値
DF-65の
出力設定
dB +0.7 +0.0 -10.5 +5.5
マスターボリューム
アッテネーション
dB -9.0 -3.0 -3.0 -5.0
各チャネル毎の設定
パワーアンプでの
GAIN調整
dB 0 0 -12.0 -12.0
 
スピーカーの
想定出力レベル
dB 88.7 84.5 83.5 81.5
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz pass

250
250

1400
1400

3150
3550

pass
Low Pass

High Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-24 24-24 24-24 24-flat Low Pass
High Pass
DF-55 DELAY
設定
cm -10.0 +28.0 -40.0 +26.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Norm Norm Norm  
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない

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