皆様からのリクエストにおこたえする名作劇場。
ああ、あの作品、ああ、この作品。
埃まみれのバックナンバーから掘り当てました。

今回は久々に掲載者本人(佐藤吉臣)様からのリクエスト。

小説前後「鶴の恩返し」!

 

最優秀賞≪後≫

柳の下 
 たんぱね隆一(愛知県)21歳


 ある日、おじいさんは柳の下の水たまりで1匹のカエルが溺れているのを助けました。カエルは

うれしかったのでしょう、「ゲロゲロゲロ」と三べん水を吐いて、それから草むらに入っていきま

した。
 
 「また、めんこい娘になって来てくれないかな」おじいさんは好色そうな笑いを浮かべました。

 はたしてその夜のこと、表の戸をトントンたたく音があります。「そら来た」おじいさんは飛び

起きて戸口の方へかけ寄りました。「松田聖子ちゃんみたいかな、河合奈保子ちゃんみたいかな」

舌なめずりしながらガラッと戸を開けてみると、そこには、

 ヌーーーーーッと、

コルゲンコーワのケロヨン人形が青い顔して立っていました。

illusutration by Masakazu Sato

 

優秀賞≪後≫

早く覗いて!  内藤哲夫(静岡県)19歳


 数年後、どういう訳かこの鶴は、またも猟師のワナにかかって苦しんでいるところを太助という

貧しい家の若者に助けられました。そして、また、人間の娘に姿を変えた鶴は彼の家に住みつくこ

とと相成りました。

 「私が機を織っているところは絶対に覗かないで下さいね」と告げて娘は機を織り始めました。

太助もこれを守りましたし、その時は覗きたいという気も起こりませんでした。

 娘は一週間に三反ずつ織り上げ、太助に町へ売りにやらせました。もちろんたいへんな高額で売

れました。

 そしてそれから一年過ぎました。太助の家は今では村一番の大金持ちです。……しかし、金が人

の心を変えるというのはよくあることで、三週間過ぎても一反も織り上がらないのに腹を立てた太

助は、とうとう娘の部屋を覗いてしまいました。するとそこには……丸裸の鶴が一ぴき、毛糸のセ

エターを編んでいました。


準優秀賞、入選は省略
佳作≪後≫

ツンツルテン  
佐藤吉臣(岡山県)


「おじいさん、大変ですよ。反物の注文が殺到してますよ」

「そんな事言ったって、つうは逃げてしまったんだよ。あの布はつうでなければ織れないんだよ」

 そう言ったあとで、おじいさんの頭に、とてもいいアイデアが浮かびました。

 数日後、素晴らしい反物が織り上がりましたが、不思議なことに、老夫婦の頭のフサフサした

白髪がなくなり、二人ともツンツルテンになったということです。

 

この他にも佐藤氏の入選作品を見つけたのでスペシャルアップ。

サルカニ合戦  1980年1月号

入選≪前≫

野獣一猿の陰謀---食い意地の怪----  佐藤吉臣(岡山県)

 桃太郎は、鬼の首を刃で切り落とした。すると、不思議な事に、鬼の首は、おにぎりに変わった。

桃太郎は「イヤハヤ、これが本当の鬼切りだ」と笑った。猿が「食いてえな」と言うと、桃太郎は

に渡……そうとした。ところが犬が横取りしようとして。あっ、犬の鼻がおにぎりに当たって、

海の中へ。犬は犬かきで、おにぎりを追いかける。猿、猿泳ぎで追う。おにぎりは海上を転がる。

雉が空からおにぎりを追う。あっ、猿が犬を雉に投げつけた。命中!雉が落下。犬も重傷。猿、な

おもおにぎりを追う。おにぎりはなおも転がる。そしてついに海岸へ。あっ、カニがいる。おにぎ

りを拾った。

 猿、しかし、諦めきれない。「さあ、どうやって、おにぎりを手に入れようか。へへへへ。ここ

頭の使い所だぜ」猿は植木屋へ行き、柿の種を一粒買った。

 

花さかじいさん  1980年3月号

入選≪後≫

幸福な男   佐藤吉臣(岡山県)21歳

 「私は幸福だ。『こぶ取りじじい』で鬼にこぶを取ってもらい、美形になった私は、ばあさんと

婚した。ばあさんは『舌切り雀』以来、心を入れかえて正直者になった。老年の為に子宝に恵ま

れなかった私達も、『鶴の恩返し』や『竹取物語』では、短い間だが、自分の娘を持つことができ

た。桃から生まれた『桃太郎』は今、鬼ヶ島に行っている。もうすぐ鬼から宝物を奪って帰るだろ

う。そして今度は花を咲かせて殿様から褒美を貰った。私はいつも幸福だ。ただ一つの心残りは、

もし、あの時玉手箱を開けなかったら、もっと若い娘と結婚できただろう。私の青春は、あまりに

短すぎた」と、正直じいさん(本名は『浦島太郎』)は思いました。

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