「竹針」って知ってますか? 蓄音機で使う「針」なんです。
 一部の愛好家の人達は、今も使っているかもしれません。
 エディソンが、1877年に、蝋管蓄音機を発明。10年後、ベルリナーが円盤レコードを発明し、大量生産時代を迎えます。1924年にマイクロフォンが発明されてから、音質の良い(?)レコードが出回ります。SP、EP、
LP ……  そして時を経て、アナログからデジタル録音、CD、DVDへ。

 そんな中で、「竹針」は、戦前の一時代を築きました。
 SP(Standard Playing)レコードが担当です。
 SPというと、78回転/分が知られていますが、80回転も活躍しました。
これらのレコードには、溝が刻まれ、その溝の両側にギザギザがあります。
このギザギザが「記録された音」です。「針」が、このギザギザを通る時、振動して音が再生されます。針は、振動版と呼ばれる金属板を振るわせ人間が聞き取れる音にします。原理は、蝋管と同じです。
 「針」は、「鉄針」が主流でしたが、マニアは「竹針」を使いました。レコードを痛めないし、音が柔らかいからです。でも、「竹針」を使うのは大変です。買ってきたら、まず、蝋で徹底的に煮ます。竹に蝋を染み込ませるためです。滑りを良くし、さらに、レコードを保護するためです。
 長さは、3cm位、三角柱の形をしています。これを、斜に削ります。切り口の平面は、底辺が短い二等辺三角形になります。尖った頂点が溝を滑っていきます。削る機械もちゃんとあります。マニアは、綺麗な音を求め、レコードの片面を聞くと針を外し、機械で削り、もう片面を聞きます。そう言う時代ですから面倒とは思わなかったようです。
 SPレコードは、30cm盤で、片面約4分30秒です。ベートーヴェンの第九などを聞く時は、はたして何回
レコードをひっくり返し、竹針を削るのでしょうか? 第九の演奏時間は、約70分、70÷4.5=15.6 
16回になります。

 当時は、アンプなどありませんから機械的再生でした。音量は、蓄音機まかせです。上のような蓄音機が一般的でしたが、音量は小さく、高音は、兎も角、低音が出ません。筒型のフォーンが、大きければ大きいほど良いのです。
 そこで当時の愛好家達は、低音のために、フォーンの
大型化を競いました。でも、これでは人間の居場所が、
なくなります。そこで、この筒を折り曲げ、長さと大きさ
を保つようにしました。
 これですと、ちょうど箱型の蓄音機が出来上がります。
 音の通り道です。(A)は正面。(B)は、斜前から見たものです。

 私の親父も、そのような音楽愛好家の一人でした。とにかくクラシック大好き人間。さらに、父の兄もクラ
シック・ファン。なんと二人で電動モーター駆動式の蓄音機を設計し、オーダーメード……
 高さ:118p、ボックスは、高さ:80.5、幅:52.4、奥行き:52.4と大型です。多分、二人は、自慢げに友人を招きクラシックに耳を傾けたことと思います。この蓄音機、当然ながらブランド名は、ありません。そこで、「Mitani Gramophone」と名付けました。ひょっとすると親父、天国で苦笑いかも知れません。 





















 <付録>
 スピーカーキャビネットの種類に「バックローディング方式」があります。
やはり、余裕のある低音の再生には、30cm程のスピ-カーが必要ですが、
小さなスピ-カーでも低音が出るように考案されたものです。
 私が若い頃、20cm2wayを使い造った事があります。
 厚さ3cmの合板を使い、高さは、1m位のもです。
 板と板の間には、パテを塗り、古くなった毛布を内側に貼り付け完成。
 上から高・中音、下から低音が、ビックリする程の迫力で迫ってきました。
ご近所から、「音が、ちょっと……」 と注意されたのは、この時が、最初で
最後。腹に直接感じた音圧と響きは、寒気がするほど素敵なものでした。