三谷 弘      (2002/07)  
  
<エピソード>

 この写真は、西武池袋線:江古田駅の前にある写真スタジオ・ムサシノで強引に撮られたものである。このスタジオは、美人姉妹が経営している。姉の方は、私の高校の同窓生(同級生か後輩かは想像に任せるが……)である。
 Goecheは、いろいろな病気に好かれているため、よく病院通いをする。自然、スタジオに顔を出す機会が多い。

 ある日、姉妹と話していると、なにやら二人が、いそいそとスタジオにテーブル、椅子を配置しだした。
「さー、こっちに来て、ここに座って」
 嫌な予感がした。
「何をするつもり」
「フィルムが余っているから、撮ってあげる」
「俺は、写真写りが悪いから堪忍してよ」
 所詮、二人の美人にかなう訳がない。とにかく座ったが、こっち向け、もっと顎を引け、目をハッキリ開けろ…… やたらと注文が多い。言われるがままに振る舞う。
パシャッ! ピカッ! パシャッ! 
 フィルムが余ったから、と言った割りには、何回ものシャッター音が続く。
「出来上がったら上げるからね」

 数日後、スタジオを覗いた。撮影中らしい。姉の方が顔を出した。
「すぐ行くからソファーで待っていてね」
 カウンターをふと見ると、20cmほどの写真立てがあった。驚いたことに私の写真。さすがプロフェッショナルである。良く撮れている。まるで自分ではないような写真……
「これあげるわ」
 ありがたく頂戴し、居間に飾る事にした。

 数日後、病院帰りに顔を出した。驚きは、この日の方が大きかった。
 なんと私の写真が引き伸ばされ、しかも大きな額に入れられてスタジオの待合室に掲げてあったのだ。10枚ほどある美男、美女の写真と一緒に……
「良いでしょう。結構、様になっているわ」
「これ…… 営業妨害にならない?」
「大丈夫よ。私、この写真気に入ってるんだから」

 突然、起こった出来事だったが、今、私もこの写真が気に入っている。長生きしていると、いろいろな事がある。

 ちょっと気取ったこの写真を見ていると、何故か子供の頃の事を思い出してしまう。
 武蔵野の雑木林の中で遊び廻った子供の頃を……


  (追記)スタジオは、駅付近の道路拡張のため、2010年10月25日をもって 閉店しました。