★ 素晴らしきロードレーサー EVEREST ……       【 EVEREST カタログ 】

     趣味の一つに、ロードレーサー(ロードレース用の自転車。軽量で剛性が強い)による散歩(?)
    があった。とにかく、スピードと流れ落ちる汗にまみれる爽快感は、生きてるな〜との素晴らし
    感覚を与えてくれた。過去形であるのは、残念ながら加齢による体力の衰えと、種々の病(知人
    からは、病気のデパートと呼ばれている)のため、現在は散歩を遠慮している。ま、仕方ない。
     ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリヤなどの映像で、ロードレーサーを見た人は多いと思う。
   (競輪の場合は、バンクを走る事に特化した自転車で、変速、ブレーキ、フリーギアなどがついて
    いないピストを使う)
     私は、自転車が大好きである。特に、ロードレーサーの美しさは、いつまで眺めていても飽きる
    ことはない。眺めて美しく、走って爽快…… (自分が汗を掻きながら走っている姿を、第三者的
    に見ることは出来ないが、ひょっとすると自分が思い描くほど格好良くはないように思っている。
    やはり足が長くないと美しくないのである)
     私は、オーソドックスなロードレーサーとファニーバイク(後輪は通常のサイズ:27インチ、
    前輪は、24インチ)を持っているが、このオーソドックス・ロードレーサーが、ちょっと ”由緒
    アリ!” なのである。フレームは、基本的にオーダーメイドである。ロードレーサーは、ヨーロ
    ッパ、特にイタリアで発達し、フレーム・メーカー、パーツ・メーカー …… 涎が出るような
    ブランドが目白押しであった。そんな中で、日本でのフレーム・メーカーとしての草わけが、
    土屋製作所である。ブランド名は、Everest。何故だか理由は不明だが、エヴェレストではなく、
    「エバレスト」と呼ばれている。私は、Everestの美しさに魅せられてしまった。縁とは不思議
    なものである。当時の社長と専務(現在、社長)と、ある人を介して会うことができたのである。
    そして、Argent を購入した。下の写真の赤いフレームの Argent である。

   

     エッ! この写真のArgentかって? 我が家にある Argent の製造番号は、D800001である。
    つまり、製造第1号なのである。土屋さんに確認した。この写真の Argent は、私の……もちろん
    答は、Yesであった。実は、この番号を見つけてくれたのは、石神井警察署の警官である。自転車
    登録の際、あれッ? 1番ですね。エッ! そんな感じである。
     今、ロードレーサーだけでなく、いろいろな自転車が走っているが、そのゴテゴテ感に辟易と
    している。(ママチャリは、別扱いとして) 必要なパーツだけで、しかも、シンプルでオーソ
    ドックスなデザイン・フレームのロードレーサーが良い。極力無駄を省き、軽く、そして強く、
    人間の力だけで疾走するロードレーサー…… 私は、そんな風景が大好きである。

      ★ ロードレーサー & ファニーバイク
     ただ眺め、たまに埃を掃うだけのロードレーサーとファニーバイク。要するに”お飾り”である。
    不要な部品を取り除き、ただ早く走ることだけに特化したロードレーサーは、眺めるだけでも充分
    満足感を与えてはくれるが……
     気候が良くなると、道路を走るロードレーサーを見かけることが多くなる。どうにも気に喰わ
    ないのである。何が? デザインである。ロードレーサーの本来の目的を逸脱しているようなゴテ
    ゴテ自転車。ママチャリに毛の生えたようなものである。だからではないが、益々我が Argent を
    美しいと思ってしまう。走らせてみよう! 
     まず、ペシャンコになっているチューブラーに、7.5Kg/cuのエアーを入れ、簡単マイペット
    を布にしみ込ませて汚れを拭いた。次に、トリフローで各パーツをオイルアップ。とりあえず
    Argent を走らせてみた。ドロップハンドルが恐い。(ドロップハンドルに慣れると、背筋を真っ
    直ぐに伸ばして走らなければならないママチャリは、体のバランスが取り難く、恐くて運転でき
    ないものである) しかし、路面を捉えるチューブラーの金属的な響き。体全体に感じる硬質で
    ありながら淑やかな振動…… 硬質さと淑やかさは相反するものと言われるかも知れないが、
    優れたロードレーサーは、この両極端な感覚を与えてくれる。
     まっ茶色なバーテープを、純白なコットン・テープに巻き替えた。

   
                  Everest「Argent」  (土屋製作所)

     ファニーバイクが流行った時期があった。欲しかった。しかし、出来合いの完成品を購入する
    つもりはなかった。どこかにオリジナリティーを出したかったからだ。だからと言ってフレームを
    オーダーするほどの金もない。とりあえずフレームを捜した。丸石Emperorに決めた。リムは、
    お気に入りのARAYA。パーツは、Shimano600。で、アッセンブルは? 自分でアッセンブルする
    自信はない。私は、練馬区に住んでいる。近隣のメーカーを捜した。
    「タカムラ製作所」 Ravanello なるフレーム・ブランドを持ち、レーシング・チームも持って
    いる結構、有名なメーカーである。電話を入れた。やはり、Ravanello製作に忙しく、無理だと
    言われた。この頃、私は、ある外資系企業に勤めていたのだが、この企業が「TOUR DU JAPON」
    なるロードレース・イベントを主催していた。当然、高村さんもこのイベントを知っているはず。
    思い切って、XXXの社員だと言ってしまった。高村さんは、う〜ん、ま、とにかくお会いしましょ
    うか、と言ってくれた。
     Everestを走らた。製作所の前には、チームのメンバーらしき、ジャージを身につけた何人かが
    いた。高村さんは、フレームを製作している最中であったが手を休め、彼が録画した「TOUR DU
     JAPON」を観ながらいろいろな話をしてくれた。しかし、ファニーバイクの話になると、う〜ん
    であった。その時、高村さんが外に居たメンバーに、「この人の自転車は何?」と大きな声で訊い
    た。そのメンバーも、これまた大きな声で、「エバレストです!」
     高村さんの顔つきが変わった。
     「土屋さんか。今は、息子さんが専務として経営しているけどね」
     Everest購入のいきさつや土屋さん親子と面識があることを伝えた。結局、Everestが決め手に
    なったような気がする。しかし、考えてみれば、図々しい話である。Ravanello なるブランド名を
    持つフレームビルダーにセッティングを頼んだのである。
     電話があり、製作所に。ファニーバイクは、ほぼ完成していた。高村さんは、ブルホーン・ハン
    ドルにドリルでブレーキ・ケーブル用の穴を開けていた。手際の良さはさすがである。ほどなく
    して完成した。ちょっと走ってみろと言われ、製作所の前を走ってみた。私は、どちらかと言うと
    胴長短足なのだが、全く違和感のない乗り心地。ステム・サイズやブルホーンは、お任せだった。
     「体のサイズなど計ってはいないのに、ピッタリですね」
     高村さんは、笑いながら、
     「一々計らなくても体を見ればサイズは判るよ」
    と言った。つまり胴長用にステムなどをセットしてくれたのである。プロは、やはりプロである。

   
               Maruishi「Emperor」 (Setting:タカムラ製作所)

     話を現在に戻そう。Everestのバーテープを巻き終わり、ファニーバイクを見たが前輪のエアー
    が抜けている。エアーを入れ直した。翌日、やはり空気漏れ…… 困った。

     ★ ファニーバイクとおまわりさん
     ファニーバイクの前輪24inchの方が空気漏れ。チューブラーに穴が開いたのだろうか。バルブ
    コアが駄目になったのか。いずれにしてもサイクルショップに頼んだ方が良い。何軒かのサイクル
    ショップを知っているので電話を入れてみた。ほぼ異口同音に、
     「ファニーバイクは過去の遺物的存在で、24inchチューブラーは在庫していない」
    とのことであった。仕方ない。そこで、自宅から歩いていけるショップに持ち込みはOKか訊いて
    みた。
     チューブラーの取り付けは、実に大変である。古いチューブラーを剥がし、固くなったリム・
    セメント(接着剤)をきれいに取り除き、新しいチューブラーをリム・セメントで接着するのだ
    が、力がいるしリム・セメントの扱いが難しく、リムやチューブラーや手がベトベトになってし
    まう。こうなると出来上がりが実に汚くなってしまうのである。
     Webで調べてみた。かろうじて VITTORIA とPanaracerが見つかった。Panaracerの方は、
    サイズ19mmで、触手が動いたがトラック用とあったので止めた。
     VITTORIA COMPETITION JUNIORES 21-24" KEVLAR Press7-9 BAR 3D COMPOUND を
    注文した。前輪とチューブラーを持ってショップに……
     数日後、ショップからからリム・セメントも乾いたので、と連絡が入った。早速、受け取りに
    行った。美しい出来上がりである。ラーメンでも喰ってから帰ろうかと歩いていたら後から、
    「もしもしッ!」と大声を掛けられた。振り向くと若いおまわりさん。どうやら、ショップの近く
    にある交番から追いかけてきたらしい。
     「これ、どうしたんですか?」
     どうしたと訊かれても…… 
     「どうしたって、どう言うこと?」
     「自転車は、どうしたんですか?」
     ハハ〜ん、タイヤを盗んだとでも思っているのか。キツイ目付きで、挑むような感じで言った。
     「まさか、盗んだとでも思ってるんじゃないの?」 
     「い、いえ、そう言う意味ではないんですが…… ちょっとどうしたのかなと……」
     イジメルのは止めよう。
     「君、ロードレーサーって知ってる?」
     警官だろうが、君である。
     「いえ、知りません」
     「長距離を走る自転車レースなんだけど、一般道路を走るからパンクすることがある。そんな
    時には、すぐにタイヤを交換しなければならない。そこで……」
     そばにママチャリがあったので、フォークの先端を指差して、
     「こんな装着の仕方だとタイヤ交換が大変でしょう。一々、レンチでネジを廻し、タイヤを交換
    し、またネジを締めなければならない。そこで、このレバーを動かせば簡単に外せるようになって
    いる。ここまではOK?」
     「え、え〜」
     「で、このタイヤだけどチューブラーって言って……」
     いやそこまで話すことはない。
     「タイヤがパンクしたので修理に出し、今日、出来上がったって訳」
     「あ、そうですか。そこで、XXXさんから受け取ってきたんですね」
     「そう言う事。なんなら一緒に、XXXさんに行って確認する?」
     「い、いえ、そこまでは…… ど、どうも失礼しました」
     若いおまわりさんは、いそいそと交番に戻って行った。

     口ヒゲと顎ヒゲを生やし、麦藁帽子をテンガロンハットのように被り、見慣れないタイヤを持っ
    てブラブラ歩いている男を見れば、おまわりさんとしては、一応、確認(職務質問?)したくなる
    のであろうか。ま、判らない事はないが……

                                        2010.06.11