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櫛の火

1975年、東京映画、古井由吉原作、神代辰巳脚本&監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

広部(草刈正雄)は、学生運動をしていた恋人、弥須子(桃井かおり)を病気で失う。
彼女の遺品であった櫛を、時々眺めては脱力感に浸る毎日。

そんな彼が出会った年上の女、征子(ジャネット八田)も、夫(河原崎長一郎)が愛人(高橋洋子)を持っているのを知っていて、自分も男(岸田森)と付き合いながら、生きる事の無力感と戦っていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

…と、背景には当時の時代性を内含した文学味も感じられるのだが、画面上はほとんどが、広部と征子のベッドシーン。

そう…、これは、ATG系などを中心に、70年代に流行った、「芸術性を臭わせながらも、その実体は、客の好奇心をあおるピンク映画のようなもの」だと思う。
逆にいえば、「ピンク映画の形を借りた作家映画」といった所か?

神代監督独特の、呟くような、鼻歌を唄うような主人公の内面の声(?)が、ノイズとして全編にかぶさる。

本作では、森進一の「おふくろさん」のメロディが時代を感じさせる。

大学教授という社会的な地位を持ちながらも、妻に甘えようとする夫、矢沢と、同じように、死ぬ直前まで、恋人に甘えぬく弥須子の身勝手な性格が印象に残る。
征子との仲を清算させようと、ベタベタと、広部に接近して来る得体の知れない中年男、松岡(名古屋章)のキャラクターも忘れがたい。

結局、登場人物全員が生きる事に対する喪失感と戦い、一方では誰かに頼ろう、甘えようとしている…。
そのベタベタ感が、けだるいエロスと重なって、一種独特の世界を作り上げていく。

いかにも、70年代を象徴する一本だと思う。