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昔は良く作られていたサラリーマンものだが、男手一つで子供たちを育てているまじめ一筋で不器用な中年サラリーマンを暖かいまなざしで描いてあり、大変心地よい作品になっている。

娘役の水野久美さんが、しっかり者で清楚な印象の娘を演じており好感が持てる。

後年多くなる妖艶な役とはひと味違った水野さんが見られる。

もう一つの見所は、その水野さんの弟をやっている中学生くらいの子役が、恋人太郎を演じている久保明の実弟久保賢(山内賢)である所だろう。

つまり、この作品は兄弟が東宝で共演している珍しい作品だと思う。

後半、好子に連れられて家に来た太郎にテレビを観ていた弟健太が挨拶するシーンがある。

同じシーンに兄弟が出ていると言うことだ。

この当時の山内賢は、まだ子供子供した顔つきながら、あれ?ひょっとしたら山内賢じゃないかな?と思わせるような面影はある。

他にも、ゲスト的に坂本九が出ていたり、TVに映し出される落語家役でミッキー・カーチスがちらり出ていたりもしている。

脇役陣も東宝お馴染みの人が多いのだが、キネ旬データに載っている俳優名はかなり怪しい。

社長夫人役は東郷晴子とデータには載っているが、別人のような気がするし、藤尾課長役も桜井巨郎ではないと思う。

野上大助役が桐野洋雄ではないことも確かだし、劇中で中元を買い取る主人の店の名はデータにある「愛知屋」ではなく「三河屋」である。

太郎を陥れる小ずるい悪役的な人物は出て来るものの、かつての部下が今では上役になったと言う設定の佐竹とそのやりての妻は、一見、世渡り上手なだけの嫌な役になりそうだが、むしろ主役の平山の生き方に一目を置いている好人物として描かれている為、ドラマ展開全体が暖かく、見ていて不快なシーンがない。

「身分をわきまえて誠実に生きるのが私のモットーだ。」と言う曲がった事が嫌いな主役のまじめ一筋のイメージは、そのまま演じている加東大介さん、そして、この作品の監督である本多猪四郎さんの人柄にそのままだぶっているように思える。

事実、加東さんが「社長シリーズ」などで演じている役は、そのままこの主人公の延長のようなちょっと堅物に近いキャラクターだし、本多監督の他の一般作品も、誠実でまじめながら、その奥底に素朴な人間性の暖かさを感じる作品ばかりのように感じる。

観て良かった!と思える佳品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、東宝、大和勇三原作、沢村勉脚色、本多猪四郎監督。

都内のビル群を背景にタイトル

「桜レーヨン株式会社」のビルに入った平山周平(加東大介)は、階段を登って営業課の部屋に入ると課長席に着き、周囲の人間に挨拶をする。

その日、「桜レーヨン株式会社」では、新入社員の為の面接を行っていた。

着慣れないスーツを着た面接者鈴木光夫(西条康彦)は、すっかり重役たちが居並んだ部屋の雰囲気に上がっており、佐竹省吾(田島義文)部長から、もっとくつろぎたまえと言われると、勘違いして靴をその場で脱いでしまうほどだった。

重役たちに笑われながら鈴木が退室すると、35番目の面接者中村太郎(久保明)が、推薦者である平山と一緒に入室して来る。

椅子に腰を降ろした太郎は、佐竹部長から、この顔はどうですか?などと重役たちの前で顔をいじられたので怒りだす。

その時、交換手で平山の娘である好子(水野久美)から、佐竹に奥さんから電話が入ったとの知らせが来たので、佐竹は面接部屋を出て行く。

太郎は、母親と二人暮らしである事などを聞かれる。

佐竹が電話に出ると、妻の貴子(久慈あさみ)が、三千代さんが家に来たので6時に「ニュヨーク」でと伝えて来る。

その日の夕方6時、「レストラン ニューヨーク」に、佐竹に誘われて付いて来た平山は、貴子の隣に座っていた池貝三千代(草笛光子)と言う女性を大連におられたんだなどと紹介され、今日は君のお見合いなんだといきなり言われたので驚き慌てる。

仕事と言われて付いて来ただけに、平山は話が違いますと頭を下げ、帰ろうとするが、佐竹がそれを無理矢理引き止める。

平山家に居候している甥っ子の平山洋一(瀬木俊一)は、今日の面接でコールガールのような真似をさせられ憤慨したのでせっかく平山さんに推薦してもらいながら通らないだろうと言う太郎の話を聞き、自分がおじさんに何とか頼んでみてやると慰めていた。

そこに、紅茶を運んで来た好子が、洋一に電話だと知らせる。

洋一に電話をかけて来たのは、ドモン若杉(桜町子)と言う無名のクラブ歌手で、いつものバーで待っていると言う。

ドモンは、楽屋でかけていた電話を切ると、そのまま「クレイジー」と言う店のフロアに出て歌いだす。

洋一は出かけると言い、急いで紅茶を飲み干すと玄関を出るが、そこに、平山を乗せたタクシーが帰って来る。

車には、佐竹夫婦と三千代も同乗していたので、洋一は見慣れぬ千代子をじろじろと外から見たりして、タクシーを降りた平山から叱られる。

佐竹夫婦と三千代を乗せたタクシーが走り去ると、洋一は、面接で失態を演じた太郎を何とかしてやってくれと頼むが、堅物で知られる平山は、何ともならん。男たるもの自力で立ち上がるんだと言い、人の事よりお前はどうするんだ?と聞く。

洋一は、自分はサラリーマンなんかにはならないと言う。

がっかりして帰る太郎を送り出す好子は、すみませんと詫びると、父の平山に、お父さんのこと、会社でピーマンと呼ばれているの知ってる?辛いばかりでちっとも甘くないからよと注意し、何とかして上げたら?と太郎の事を自分からの頼む。

すると、平山は、中村は入社出来るよ。佐竹さんを怒鳴りつけた事で、なかなか気骨があると社長も気に入ったようだからと言う。

その言葉通り、無事「桜レーヨン」に入社した太郎は、他の新入社員等と共に入社式に臨むが、そこに置かれていたのは「三矢サイダー」だったので、仲間たちは失望の声を出す。

相沢信道社長(小田巳之助)が他の重役と共に部屋にやって来て、乾杯の音頭を取ったので、みんな一斉に注がれたコップを口にするが、そこに入っていたのはサイダーではなく本物の酒だった。

社長は、これは生一本の特級の酒だ。これからは君たちも、サラリーマンと言う同じ瓶に入れられるが、今後中味が特級か一級か二級と判断されるかは本人次第だ。ぜひ特級の人物になってもらいたいと挨拶する。

営業部に配置された太郎らには、平山が、サラリーマンは巨大な組織の中のネジになる事だが、ネジはネジでも掛け買いのないネジになるようにと言うのが自分のモットーだと言葉をかける。

さらに、会社の中には女もいるが、つまらん恋愛をする奴は出世せん。仕事はスピーディーに恋愛はスローリーでとも言い添える。

交換室で仕事をしていた好子は、外からかかって来た電話の声を聞き、社長夫人静子(東郷晴子)だとすぐ気づく。

静子の方も、勘の良い交換手が平山好子と言う女子社員である事にすぐに気づき、社長は今お腹の調子が悪いので、お昼に脂っこいものを食べないように伝えてくれと言う。

好子はすぐに社長に内線でかけ、今奥様から伝言がありましたと内容を伝え、さらに食後はピタポリを3錠飲むようにとの事でしたと伝える。

社長はうるさい婆さんだなと苦笑しながらも好子に礼を言い内線を切ると、部長から重役に抜擢したばかりの佐竹が持って来た宣伝案を褒める。

君が考えたのかね?と褒めると、佐竹は恐縮しながら、実はワイフが考えた事でして…と打ち明ける。

営業課では、新しく部長になった藤尾良造(桜井巨郎)と打ち合わせをしている平山を横目で見ながら、太郎の隣に座っていた同僚の中村金持(大前亘)が、佐竹さんが重役になったので、ピーマンは今度は自分が部長になると思っていたんじゃないか?何でもピーマンは大連時代支店長だったそうで、その時佐竹さんは下っ端だったそうだ。今じゃ立場が逆転して…、ピーマン今、どんな気持ちなんだろう?何しろ、佐竹さんの奥さんがやりてだから…などと同僚たちとこそこそ話をしていた。

妻をめとらば才長けてか…などと女子社員をからかっていた金持は、タバコに火を借りようと太郎に声をかけるが、太郎は、自分は酒も煙草もやらないので…と断る。

すると、金持は、お前もピーマンと似ているなと嫌な顔をする。

その直後、平山は太郎を呼ぶと、君は今後TVの担当をやってくれと頼むが、同じ課に中村が2人いるのは紛らわしいから、今後、君は太郎、古参の社員の方は金持君と名を呼ぶと言い出す。

その場にいた新部長が、珍しい名前だがどう言う意味なんだ?と金持に聞いて来たので、古参の中村は、親が金持ちになって欲しいと思ったんでしょうと恥ずかしそうに答える。

三千代はある日曜日、佐竹の家を訪問すると、家の中から歌声が聞こえて来る。

何なの?と応対に出て来た貴子に聞くと、歌の押売だと言う。

応接間に入ってみると、先客の平山洋一が、一緒に連れて来たドモン若杉の唄を録音したテープを佐竹に聞かせ、ドモンと言う名はドモンジョからで、「サクラレーヨン」が提供しているTV番組「歌えば楽し」に出演させてくれないかと交渉している所だった。

出させてくれたら池貝さんとおじさんの事、僕も一肌脱ぎますよと洋一は売り込んで来たので、貴子は、本当に平山さんを口説ける?と確認する。

おじさんは子供たちの手前怯えているだけで、三千代さんはきれいなので気に入っているに決まってますなどと洋一は言う。

貴子は庭先でゴルフの練習をしていた佐竹に、打つべき手は打ってみるのよと勧めると、三千代も、私からもお願いします。あの方の正直な所が好きなんですと、すっかり平山を気に入っている事を明かす。

さらに洋一とドモンも佐竹の元に近づいて来て、レギュラーで出してもらえたらただでも良いんですなどと言い、又、ドモンがデモンストレーションで歌いだしたので、呆れた様子の佐竹はゴルフクラブを持ってその場を離れて行く。

洋一はその後、「桜レーヨン」の会社の前でドモンと落ち合い、そのまま営業課の平山の元に向かう。

一方、、社長夫人の静子も、電話交換室の好子に会いに来ていた。

洋一の顔を見た平山は、昨日も一昨日もどこに行っていた?無断で外泊するなんて!と説教をするが、洋一は平気な様子で、ドモンを紹介すると、TV番組に出ることになったと言いだす。

平山は何も聞いてないぞと驚くが、洋一はその場から佐竹の席に電話をかけ、相手が出ると平山に受話器を渡す。

平山はもう来たのかと呆れながら、藤尾君にはもう話してあるんだが、出演料はいらんと言ってるから使ってみましょうと平山に伝える。

平山は、池貝さんからおじさんに話してもらうつもりだったなどと言い訳するが、常務のお宅に直接言いに行くなんて非常識だと甥っ子を叱りつける。

しかし、常務から頼まれたので仕方なく、その場で部下の太郎と杉本宗雄(渋谷英男)を呼ぶと、ドモンをその場で紹介する。

その時、社長がお呼びだと言われた平山は社長室へ向かうが、何故かそこには、社長夫人の静子と娘の好子がいたのでちょっと驚く。

社長は平山に一札のノートを渡すと、今まで電話で1年間に50万も無駄を出しとった事を知ったと言う。

そのノートに書かれた統計は好子がつけていたと聞いた平山は恐縮して、こんなものを社長にお見せするなんて!と叱るが、見せたのは私なんです。交換室に行くと好子さんが書いていたので…と静子夫人が横から口を挟む。

いつも好子さんの仕事ぶりには感心していたんですと静子は褒め、会沢社長も、今の秘書が結婚して近々辞めるので、ぜひ、好子さんに自分の秘書をやってもらいたいと言い出す。

平山も好子も狼狽し、とんでもないと断るが、静子夫人は、私からもお願い!とても良いお嬢さん、気に入りましたわと頼んで来る。

その後、好子は太郎と待ち合わせて「クレイジー」に向かうと、ドモンが歌っている所を見る。

こういうお店、始めてよと好子は嬉しそうに打ち明ける。

仕事の一環としてドモンの仕事を観に来ただけの太郎は、次の歌手草鹿伸二郎(坂本九)がステージに登場し、スピードボーイはスピードボーイだ!♪などと歌いだすと、もう用事は済んだと言う風に、すぐに店を出ようと言い出す。

好子は今日は金一封が入ったので私がここを払うわと言い、社長からもらった封筒を取り出す。

中には1000円しか入ってなかったが、ここを払っても後800円残るから、中華料理でも食べに行かない?と好子は誘う。

その夜、帰宅した好子は、妹の幸子(幸田良子)と弟の健太(山内賢)が、箒の穂に手ぬぐいを巻き付けているのを目撃する。

台所に連れて行かれた好子は、泥棒が来ているのよ。洋一が変な女を連れて来て、本人はもう先に帰ってしまったと言う。

平山は、洋一が連れて来た三千代と久々に対面し、嬉しそうに大連の思い出話などしていた。

そこにお茶を持って来た好子を、平山は大連で生まれたんですと三千代に紹介し、三千代さんのご亭主はソ連に抑留され、向うで亡くなったそうだと教える。

そして、今まで思い出せなかった大連の赤い花の名前を平山が聞くので、好子がアグイホア(?)でしたわと好子が教えると、平山も三千代も喜ぶ。

そんな平山と三千代の事を、廊下から覗き見していた幸子と健太は、お母さんの事を忘れて、あんな人によろめくなんて…、お父さんを盗みに来たんだよなどと悪口を言う。

そこへやって来たのが洋一で、引っ越すことになったので手伝って欲しいと言う。

洋一は、これ以上おじさんの世話になれないからと平山にも言う。

その後、TVに出るようになったドモン若杉は、「ファニーヴォイス」として一躍人気者になり、新聞に載ったりするようになる。

マネージャー気取りになった洋一は、ある日、佐竹を会社に訪ねて、ギャラアップの交渉をする。

ただで良いと言う話だったじゃないかと佐竹は唖然とするが、洋一は今では人気が出たのだから色をつけてもラウのは当然だと言うような態度。

すぐに、平山に電話を入れその事を佐竹が教えると、平山は憤慨し、はねつけてやって下さいと答える。

しかし、その直後、佐竹の部屋から営業課の平山の元にやって来た洋一は、スターになれば色々お金もいるんです。明日お昼頃もう1度来るので、その時までに契約書を作っておいてくれと言い、まじめに働いていた太郎をバカにしたような態度で帰って行く。

平山は太郎に、洋一はドモンと同棲しているんじゃないか?忠告してやってくれないか?と頼むが、そこに、社長からの書類を持って好子がやって来る。

平山に書類を渡し部屋を出る際、好子は太郎の机に、「5時半にいつもの所で待ってます」と書かれたメモをそっと置いて行く。

ところが、社長室に戻ると、外出すると言う社長から家に届けてくれとふろしき包みを託されてしまったので、そっと太郎に電話をかけ、都合が悪くなった旨を伝える。

電話を受けた太郎の方も、近くにいる平山の目を気にし、仕事の電話のように装う。

会沢社長の自宅にふろしき包みを持って来た好子は、門の所で番犬に吠えられ立ちすくんでいたが、二階の窓から姿を見せた長男の康彦(旗持貴佐夫)が犬を叱りつけて黙らせる。

屋敷からは、お中元を持って夫の事を宜しくと挨拶に来ていた佐竹貴子が帰る所だった。

好子が社長から託されたふろしき包みを出て来た静子夫人に手渡すと、二階から降りて来た康彦が、今、石膏をこねていたんだと汚れた服の言い訳をし、庭に置いてあった彫刻を好子に披露し始める。

抽象的な造形は好子を戸惑わせたが、康彦の方は好子の事を一目で気に入ったようで、あなたも一度、モデルになってくれませんか?と誘う。

静子夫人は一緒に夕食でも…と好子に声をかけるが、好子は失礼すると答えたので、その場にまだいた貴子が一緒に帰る事にする。

静子夫人は康彦の様子を見て、あなたも一目で気に入るだろうと思ってたから、わざとパパにこれを渡しておいたのよと言いながら、今好子から受け取ったふろしき包みを拡げてみせる。

中には古新聞が入っているだけで、好子を屋敷に来させる口実用の小道具だった事を康彦に明かす。

後日、平山は部下たちに賞与を渡していた。

その後、女子社員の1人が着物姿で退社の挨拶に来たので、女は良いね。のんびりと遊ぶつもりのご就職か…などと中村金持ちが嫌味を言ったので、他の女子社員から睨まれる。

さらに、金持ちを呼んだ平山が、タクシー代など請求書の数字がおかしいので正確に書き直すようにと指示を出したので、机に戻って来た金持は平山の堅さに恨み言を言い、それを見ていた女子社員が、すねても金持ちになれぬサラリーマン…と先ほどの嫌味の仕返しを言う。

そんな営業課にやって来たのは、定年退社した真下(土屋詩朗)と言う前の課長で、今や、物売りで生計を立てているらしく、財布や腕時計が詰まったトランクを開けて平山に見せたので、仕方なく平山は、室内の応接セットで社内販売の許可を出してやる。

そんな真下の姿を横目で見ながら、ちょっと前まで威張っていたのに、ああなるとみじめだな…と呟く。

その日の退社後、太郎は好子の買い物に付き合ってやる。

好子は妹の幸子の服を買って帰宅する。

すると、幸子は大喜びした反面、弟の健太は何も買ってもらえなかったので膨れる。

それを見かねた平山が、健太にはお父さんが買ってやる。お父さんも後5、6年で定年だからあまりお金の余裕はないけどなと慰め、それを聞いていた好子も、お父さんはこの家を買うとき、かなりの額を前借りしてるのよと健太に言い聞かせる。

それを聞いていた幸子は、急に、これ以上お父さんに面倒かけたくないので自分は大学に行かないと言い出す。

健太は、クラスで腕時計を持ってないのは自分と斎藤君だけなので腕時計が欲しいと言うので、幸子は、腕時計なんて高校入ってからで良いんじゃない?と文句を言う。

平山は、今日もらった賞与袋から3000円出しかけるが、好子が風呂の修理もしなければ…と言い出し、後、中元はどうするの?他の人はみんなやってるわよと言うと、虚礼は止めるべきだと答える。

健太がテレビをつけると、ちょうどドモンが歌っている所だったので、平山は、その娘の顔を観ると不愉快なので消すか他のチャンネルに変えなさいと叱る。

電話がかかって来たので、それに出た幸子は、佐竹さんの奥さんが来て下さいってと好子に伝える。

佐竹の家に行った好子は、そこに貴子と共にいた三千代に、ぜひ私たちのお母さんになって下さい。先日お越し頂いたときのように、あんな楽しそうな父は始めてです。でも、父は、仕事はスピーディーに恋愛はスローリーにと言うのがモットーの人ですから、少し時間はかかるかも知れませんが…と説明する。

そこへ三河屋(広田新二郎)がやって来たと言うので、勝手口に向かった貴子は、中元でもらった品物を買い取らせる。

売り物にならない洋菓子を、中元全部の引き取り価格をつけた三河屋にごちそうした貴子は、その分の商品を取り戻したので、さすがの三河屋も貴子のがめつさに呆れてしまう。

応接室に戻って来た貴子は、中元にお菓子なんかもらっても売れないから困りものよなどと言いながら、その一部を好子や三千代に振る舞うが、そこに洋一がやって来て、今度の土曜日はドモンの誕生日なので来ませんか?と誘う。

最近儲かっているみたいねと貴子が聞くと、おば様のお陰で…と笑った洋一は、新しく引っ越したと言うアパートの住所を書いた名刺を渡す。

月5万もする高級アパートだったので驚いた貴子だったが、さらに洋一は車まで買ったので、好子を送って行ってやるとさえ言い出す。

その言葉に甘え、好子は洋一のオープンカーで帰ることにするが、それを応接室から見送った貴子は、バカバカしくなるわ。あんな人が車に乗るんだものと呆れたように言う。

お宅も重役なんだから車くらい買えるでしょうと三千代が言うと、とんでもない、重役になったら出て行く金も増え、月15~20万くらい使っている。20年近くコツコツやって来ても、車一つ買えやしない!と貴子がぼやくと、私は平凡なサラリーマン生活でも楽しいと思うわと三千代が答えたので、貴子はのろけに当てられたような顔になる。

翌日、三千代を「桜レーヨン」の近くに呼びだした好子は、偶然を装って父の平山と三千代を出会わせようとお膳立てをした後、自分は太郎とお茶を飲みに出かける。

そんな太郎をねたましい視線で見ていたのが、たまたま近くで友人といた中村金持だった。

一方、営業課で帰り支度していた平山は、他の上司たちから、娘さん、社長の息子さんと結婚するそうじゃないですか。我々にも内緒にすることはないじゃないかなどと絡まれ、つまらん噂を流さんで下さい!と怒りだす。

憤慨しながら会社の外を出た平山だったが、近くで三千代を見かけると急に嬉しくなり、お茶でも…と誘いかけるが、慌てて、子供の腕時計でも買おうと思ってまして…と言い訳するが、三千代はお供させて頂きますと言う。

ところが、そこに横付けした車から降りて来た佐竹が、社長の息子さんとの話断ったそうじゃないか!と言い、三千代に断って、車に平山を乗せるとどこかに立ち去ってしまう。

せっかく好子がお膳立てをしてくれたデートが台無しになり、その場に取り残された三千代はがっかりした顔になる。

佐竹が平山を連れて来たのはクラブで、実は社長から娘さんの話を説得してくれと言われたんだと佐竹は説明するが、娘を社長に押し付けたなどと思われては困る。心外だ!不愉快だ!と堅物の平山は固持する。

身分をわきまえて誠実に生きるのが私のモットーだ。このお話は絶対お断りしますとまで言う平山に、古くから人柄を知っている佐竹は感心する。

さらに、店の支払いも自分が出すと言うので、ここは会社の経費で…と佐竹が止めると、公私混同をしちゃいかん。あんたは昔からそうだ!と説教しかけた平山は、急に今の立場の違いに気づき頭を下げる。

結局、マダム(塩沢とき)が言う3800円と言う高額料金に驚きながらも、平山は自分の金で支払いを済ます。

土曜日、洋一は、ドモンのアパートに学生たちを招き、ドンチャン騒ぎの誕生会を開いていた。

ドモンは草鹿伸二郎と踊っていたが、洋一が変わってくれよと声をかけると、あんたメ○ラ?私は今、伸ちゃんと踊っているの!とドモンははねつける。

ところが、面白くない顔でその場を離れた洋一が他の女の子と踊りだすと、ドモンは凄い顔で睨みつけたので、伸二郎は笑って、ジェラシー感じる?とからかう。

いら立ったドモンは、踊りを止めると、その場でみんなにキスしてあげると言い、男子学生を並ばせる。

それに対抗し、洋一も、女性たちには僕がキスをすると言い出すと、ドモンはますますいら立ち、自ら上着を取り、胸を強調したドレス姿になると、男子学生に抱きついてみせる。

そこに入って来たのが、洋一を説教しようとやって来た平山だったが、室内のあまりの乱交振りに唖然としてしまう。

洋一!何だ、この様は!こんな事をする為に契約金を使ったのか!と平山は説教するが、ドモンは、おじ様にもお上げするわと近寄り、一方的に頬にキスする。

無礼者!と平山が怒ると、無礼なのはおじ様の方よ。人の家に勝手に入り込んで!と啖呵を切る。

すると、他の学生たちも、帰れ!年寄の来る所じゃないよ!などと囃し立て、平山を部屋の外に追い出してしまう。

外の通路に座り込んだ平山は、頬のキスマークに気づき、慌ててこすり落とすと、逃げるように帰って行く。

帰宅した平山は、健太から腕時計買って来てくれた?と聞かれるが、忘れて来たと言うと、健太は落ち込む。

翌日、洋一のアシスタントの野上大助(岩本弘司)と名乗る男からギャラを持って来てくれと頼まれた太郎は、アパートの前まで持って行き、そこの廊下で待っていた野上が自分の名刺を差し出し、洋一からハンコを預かっていますなどと言うので、その場で金を渡し、領収書に受け取りのサインとハンコを押させて帰る。

その後、帰社した太郎は、課長が君を探していたぞと声をかけ、そのまま会議室に連れて行く。

すると、そこに他の重役たちと一緒にいた平山が、今、ギャラを洋一が取りに来たんだが、あのギャラはどうしたんだ?と聞いて来る。

今、洋一のアシスタントと言う人に渡して来たと太郎が説明すると、洋一は、名刺を確認しながら、知らんなこんな奴…と言いだす。

明日の3時に届けてくれと電話があったので持って行ったが、その電話は中村さんも知っているでしょう?と、一緒に付いて来た金持に確認する。

すると金持は、確かにその電話を取り次いだのは自分だが、君が友達かなにかにあの電話をかけさせたんじゃないのか?経理課長もおかしいと言っている。全部現金にさせるなんて…、小切手にすると換金が面倒になるからじゃないのか?などと疑わしそうに答える。

太郎はその場を一旦退室し、平山は太郎の推薦人として、その場にいた社長や重役たちに頭を下げ弁解するが、それを聞いていた藤尾部長は、私情を挟んでいるんじゃないか?身びいきが入っているんじゃないかね?などと揶揄する。

他の重役たちも太郎を疑っているようだったが、相沢社長だけは、中村君の処分はもう少し待とう。時間をかけて調べようと言うことだと重役たちに言い聞かす。

その夜、事件を知った好子は太郎を案じて、彼の家を訪れていた。

太郎は、酷いよ。中には君との結婚費用にしようとしたんではないかなどと言う奴までいるんだと太郎はやり場のない怒りに震えていた。

あの犯人は僕の手で見つけてやる!と太郎は息巻いていたが、2人暮らしの母親シゲ(三條利喜江)は、太郎が渡してしまった10万と言う大金を弁償するため、この家を売ることにしたと明かす。

好子は驚くが、シゲは、もうこれ以上、課長さんに迷惑はかけられないと言う。

太郎ももう決意したようで、どんな困難にも自ら進んで乗り切る…、これが課長のモットーなんだと言うと、これから一緒に不動産屋へ行こうと誘うが、好子は、一度お父さんに話した方が良いと勧める。

自宅のTVで若手落語家(ミッキー・カーチス)の高座を健太が見ていると、そこに太郎を連れて好子が帰って来る。

平山に会った太郎は、家を売ることにしたと打ち明け、明日10万手に入るので、月曜日に会社に持って行くと打ち明ける。

それを聞いた平山は、家を売ったら後が大変じゃないか。僕は出すよ。10万くらいの貯金はあるんだと言い、それを辞退しようとする太郎に、良いから止めなさい。売るのは簡単だが、建てるのは大変だよと家を売る事を止める。

太郎は恐縮し、課長、申し訳ありません!と謝る。

しかし平山は、例え金を会社に帰しても君は首になるかもしれん。人間の信用問題だからね。顔も知らない相手に金を渡したのはまずかった…と平山は暗い顔で伝える。

太郎の方も、覚悟しています…とうなだれる。

その時は、私も一緒に止めるよ。君の責任は僕の責任だ。下役と上役は一蓮托生なんだ。君を信用しないような会社に留まっても仕方ない。首になったら、一緒にニコヨンでもやろう。私だってまだまだやれるよと平山は慰めるが、そこに佐竹さんから電話だと幸子が知らせに来る。

電話口に出てみると、佐竹は恐縮しており、我々は社長から叱られましたよ。あなたにはいつも教えられますと詫びる。

それを聞いた平山は嬉しそうな笑顔で座敷に戻って来ると、犯人が分かったそうだ!金持だ。奴が友達と共謀して仕組んだ芝居だったんだ。その友達と言うのは詐欺の常習犯で、警察に捕まり、あっさり金持の名を出したそうで、君はお構いなしだ。代わりに金持が首になるらしいと太郎に伝える。

それを聞いた太郎と好子は大喜びするが、そんな2人を前にして座り直した平山は、でも、お前たちも詐欺みたいな事をしているんじゃないか?と笑いかける。

2人がきょとんとしていると、お父さんに隠して、お前たち、相当親密になっているんじゃないか?とからかいながら、角瓶を開け、嬉しそうに飲み始める。

好子は不安そうな顔になり、私たちの結婚に反対なの?と聞くと、大いに賛成だと平山は笑顔で答える。

安心した好子は、お父さんも池貝さんと結婚したら?好きなんでしょう?幸っちゃんや健ちゃんたちもその内好きになると思うわ。お父さんたら、いつもネクタイなくしたり洋服を裏返し出来たりしてるから誰かいないと…、今着ている浴衣も裏返しよとからかう。

すると、又幸子が杉本って言う人から電話よと知らせに来る。

電話に出てみると、部下の杉本からで、ドモンがこちらの番組を無視し勝手に映画に出ていると言う。

電話を終えた杉本は、その場で意気消沈していた洋一に、今後、君との仕事は一切しないよと引導を渡す。

その後の日曜日、平山の家に洋一が戻って来て、又ここでお世話になりたいなどと言うので、あの子に捨てられたそうじゃないか?あの子は今、他の男と同棲しているって言う噂も聞いている。ただ、お前もさんざんあの女を利用して来たじゃないか。お前は寄生虫みたいな真似をして車を乗り回したいのか?と平山は玄関口で説教する。

洋一は返す言葉もなさそうで、部屋代を払えなくなったので追い立てられたんだ…、おじさんなんか過去の遺物だよと嫌味を言い残し立ち去って行く。

その後、子供たちを前にした平山は、お父さんは曲がった事が嫌いなんだ。その分、お前たちには不自由させているが勘弁してくれと詫びる。

いかし健太は、腕時計を買ってもらったので喜んでいた。

そんな中、幸子は、私、やっぱり大学に行くの止めようと思う。学費が大変だものと言い出し、実は、太陽貿易の入社試験を受け、今日がその面接日なのだと打ち明ける。

それを聞いた好子は、幸っちゃんは頭も良いんだから大学に行った方が良いと勧める。

迷った幸子は、じゃあ、大学に行く!と返事をする。

その後、平山たちは会社の運動会へ家族揃ってでかけようとするが、幸子は、大学に行くからには勉強しなくちゃ行けないので一人残ると言い出す。

それで平山と好子、健太の3人が玄関を出ると、ちょうどやって来た太郎が、結婚の日取りは、3日はダメで、10日に決めて来ましたと報告し、一緒に運動会へ同行する。

花火が上がり、「桜レーヨン大運動会」が始まる。

夫婦競争とアナウンスがあったので、平山は出場し、三千代と二人三脚の準備をする。

佐竹夫婦、太郎と好子もコンビを組んでレースは始まる。

その頃、幸子は、「太陽貿易」の面接に臨んでいた。

面接官から、お父様がお一人ですね?と聞かれた幸子は、もうすぐ新しいお母さんが出来ます。お父さんにはもったいないくらいの人ですと笑顔で答え、面接官たちを笑わせる。

うちの会社を選んだ訳を聞かれた幸子は、家系を助ける為と、仕事を覚えるため、そして、良いお婿さんを見つける為です!と答えたので、又しても面接官は笑い出す。

2万円の給料のサラリーマンと結婚すると、400万の定期を持って、その利息を得ているのと同じことになります。3万なら6000万の定期と言うことになりますと幸子は答える。

この試験に通る自信はありますかと聞かれた幸子は、あります!と答え、何故ですか?と聞かれると、私の番号は3番で長嶋と同じです。きっとホームランを飛ばせると思いますとウィットに飛んだ答えをしたので、面接官たちは感心したように笑う。

そんな事も知らずに平山はレースに勝ち、賞品としてインコのつがいの入った鳥かごを三千代と共に受け取り、佐竹夫婦、太郎や好子、健太に囲まれながら喜んでいた。