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続御用聞き物語

ニッポン放送連続放送劇の映画化で、「御用聞き物語」の続編に当たり、上映時間60分の中編である。

公開日が「御用聞き物語」と同じ日なので調べてみたら、1957年2月26日の東宝系公開は、この正続2本と、三木のり平主演のコメディ時代劇「次郎長意外伝 灰神楽の三太郎」が同時公開のようで、ひょっとしたら3本立て興行だったのかも知れない。

だとすると、この映画にも三木のり平は出ているので、併映されている2作品両方に出ていたことになる。

今回のテーマは結婚で、前編できちんと描ききれなかったトシ子と平九郎の仲、そして、トシ子の父親の話を中心にまとめられている。

この作品、当時の東京の様子が珍しいが、今回特に珍しいのは、「焼き鳥バー」と言う店だろう。

店内では、皿に焼き鳥が並べてあり、それを肴に酒を飲むバーらしいが、時々、裸体の女が踊ってみせたりするお色気サービス付きでもあるようだ。

当時、実際にあったのかどうかはっきりしないが、今観ると、食に拘っているのか、お色気に拘っているのかはっきりせず、奇妙に見える。

当時のことだから、おそらくどこにも「こだわり」なんてなく、単なる思いつきの店だったのだろう。

昔の娯楽映画には、必ずと言って良いほど、こうしたキャバレーが登場しているが、こんな人情物にまでか…と言った印象で、当時としては、「非日常」を表現できるお手軽な場所だったのかもしれない。

「ジンフィズ100円」等と言う値札が楽しい。ちなみに、タクシーには「80円」と書かれている。

その「焼き鳥バー」のホステスとして、中田康子が登場し、お色気演技を見せているのも見所だろう。

東宝時代の中田康子の、こういう役所は珍しかったのではないだろうか。

劇中では、そろそろお年頃と言う設定のトシ子が出て来るが、演じている中村メイコは、この年、音楽担当の神津善行氏と結婚したらしい。

この続編、その中村メイコ演ずるトシ子の方に比重がかかっているせいか、やや平九郎の方の印象は薄くなっているように見えなくもないが、「御用聞き物語」なので、特に、どちらかが主役ということではないのかもしれない。

劇中、戦争で息子を亡くし、精神に異常を来した老人の妻を演じているのは、戦前から活躍している女優の英百合子である。

劇中、記念写真のシーンで、レンズにキャップを付けたまま、写真を撮ろうとすると言う、昔良くあったギャグが登場するが、平九郎はカメラを覗いて、被写体の列の修正などをやっているので、この段階でレンズにキャップをしたままだと真っ暗で何も見えないはずなのだが…と、思わず突っ込みたくなってしまう。

小さな町の小さなドラマとしても観られるが、同時に最後の主人公たちの言葉「私たち、これからもっと幸せになれるかしら?」「なれるさ。そりゃあ、なれるよ」と言うセリフは、2人の若い男女の仲睦まじいセリフとしても聞こえる一方、戦後、まだ貧しさから完全には脱却出来ていなかった時代の庶民の、明日を夢見る言葉としても聞こえるような気がする。

当時としては、庶民たち全員への応援歌のようなメッセージだったのではないだろうか。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、東宝、山下与志一原作+脚色、笠原良三脚色、丸林久信監督作品。

クリーニング屋「ホワイト軒」では、トシ子(中村メイコ)が配達する服を選り分け、今日、電気代払うから4700円置いといてと、アイロンをかけていた父親の広介(坂本武)に頼む。

今月は少ないなと広介が言うと、不景気だからよ、クリーニング屋が電気代が少なくちゃ困るでしょうと言いながら、トシ子は自転車で配達に出かけて行く。

そんな娘を見送りながら、トシ子の奴、又おふくろに似てきやがった…と感心した広介だったが、いつものように職人の助さん(佐田豊)に、組合の用事で…と断って出かけようとするので、さすがに助さんも切れたのか、あっしがこんなこと言うのも変ですが、親方、少しのんき過ぎますぜ。飲み屋の勘定、トシ子さんが内緒で工面してるんですぜと小言を言う。

すると、おめえ、俺に説教しようってのかい?と気色ばんだ広介だったが、ツケがきく飲み屋があるんだと言いながら出かけたので、組合がツケで飲ませるんで?…と助さんは皮肉を言う。

その頃、とあるお得意さんの家にやって来たトシ子は、外から声をかけても応答がないので、不審に思って窓から玄関口を覗き込むと、その家の主婦(津山路子)が、押売(広瀬正一)を前に困っている所だった。

トシ子に気づいた主婦は目で困っていると言う風に合図をして来たので、頷いたトシ子は、すぐに玄関から中に入って来ると、この間の空き巣が捕まったので、すぐに警察が来ると言ってました。奥さんが覚えていた犯人の人相そっくりだったんですってと声をかけたので、押売は慌てて荷物を畳むと逃げて行ってしまう。

主婦はトシ子に感謝しながらも、今日の洗濯物はないのよと申し訳なさそうに謝る。

外の自転車に戻ったトシ子は、その場に先ほどの押売が居残っていたのでぎょっと立ちすくんでしまう。

押売は、すぐに警察が来るなんて言ってたけど来ないじゃないか!お前、噓つきやがったな!と睨みつけて来たので、怯えたトシ子はすみませんと謝ってしまう。

しかし、トシ子が、あの奥さん人一倍臆病だから、私が来なかったら、今頃防犯ベル押していたかもしれないよ。おじさん、本当の押売なの?そういう風には見えないけどとお世辞を言うと、こうしなければしようがないからやってるだけで、観る人が観れば分かってもらえるんだなどと押売は弁解し始める。

その後、御用聞きに出ていた三河屋の平九郎(小林桂樹)は、自転車を停め、電球を持って困惑しているトシ子に気づくと、どうしたんだと聞きに来る。

すると、丸山さんの所に押売が来たので、撃退したら、逆に買わされちゃったと言うので、そう言う行為は御用聞きとして行き過ぎだと思うよと平九郎は言い聞かす。

しかし、そんな平九郎の助言に対し、うるさい!と退けたトシ子は、日頃、奥さん連中が私のことを御用聞きと呼ばずにトシちゃんと呼んでくれるのは、サービス精神の賜物なのよと自慢する。

そんな会話をしながら、一緒に自転車を押して歩いていた2人だったが、その時、トシ子さんと呼び止めたのは、近くのお得意さんの若奥さん松子だった。

平九郎は、少し脇道にそれ、何事かをその松子から頼まれ、困った表情になったトシ子のことが気になってしばらく立ち止まって様子を観ていたが、松子から、今日は用事はありませんと声をかけられてしまったので、立ち去るしかなかった。

その後、松子の家を訪ねたトシ子は、松子か?と言いながら、今に姿をあたわした主人(三木のり平)にホワイト軒ですと名乗る。

奥さんが…とトシ子が言うと、その主人は、家内はいないよ。二度と敷居をまたがせないから!と厳しい顔で言って来る。

洗濯物だけもらいに来ましたと言うと、ないよと主人は断ろうとするので、あるんです!さっき、奥さんと途中でお会いして頼まれたんですとトシ子が説明すると、首を傾げながらも、奥へ下がり、これかい?とワイシャツを持って戻って来る。

トシ子は、それから奥さんが、戻って来た洗濯物はタンスに仕舞わないで、防虫剤と一緒に支那鞄の方に入れておくようにと…。それから出て行くつもりはないから、絶対探さないでくれと言ってくれって…と伝言を伝える。

すると主人の顔色が代わり、一体、松子とどこで会ったんだ?と聞いて来たので、松子から頼まれた通り、踏切の側で…と噓を言い、その後、駅前の薬局で何か薬を買った奥さんは、川の方にふらふらと…などと噓を並べたので、他に何か言ってなかったか?と主人は青ざめた顔で聞いて来る。

着物を破ってしまったことを後悔してましたと又、噓を言うと、あんなもの、特売品の見切りもんじゃないか!松子、僕が悪かった!と主人は嘆き出す。

一方、別の家にやって来た平九郎は、その家の主人(有島一郎)が、荷物をたくさん積んだ棚の支えが取れたのを両手で支えながら、足下に落ちた金槌を足の先でたぐり寄せようとしているのを目撃する。

主人は平九郎に気づくと、この棚を両手で押さえてくれないかと頼んで来る。

平九郎が上がり込んで棚を支えると、シューズを履いたままである事に気づいた主人は、上がるときは靴くらい脱ぎたまえと叱ったので、平九郎がかがんで靴の紐を解こうとすると、又、手を離しちゃ困るじゃないか!棚を両手で押さえてくれよと言うので、又棚を支えようとすると、靴を脱げと言い出す。

何とか、主人が支えを釘で打ち付け、もう大丈夫と言いながら、棚の下からトントン押し上げると、次の瞬間、棚は外れ、乗っていた荷物は全部落ちてしまう。

平九郎は、そんな主人に、仙台ミソの良いのが入ってますけど?と勧める。

その後、質屋「丸林」にやって来た平九郎は、そこの家の老人(御橋公)から、コーイチ!と呼ばれ、抱きつかれそうになったので、慌てて外に逃げ出す。

その老人に付きそって出て来た老婆(英百合子)が、平九郎に詫びながら、店の中に老人を連れ帰る。

そこに、トシ子がやって来て、どうしたの?と聞いて聞いたので、事情を話すと、ここのおじいさんでしょう?息子さんがシベリアで迷子になって死んだらしく、あんたみたいな年の人を観ると、いつも息子だと思い込むらしいのよと同情しながら説明すると、分かるよ、僕の兄も…と平九郎は、戦死した兄のことを思い出すのだった。

私も、その息子さんのお嫁さんの花枝さんって言う人に似ているらしく、良く間違われるのよとトシ子は言い、人を待たせているのでと断って去って行く。

トシ子が喫茶店で待たせていたのは、先ほど頼まれごとをした松子だった。

何か食べない?と松子が言うので、トシ子はエクレアを注文すると、松子も同じものを注文し、あの人どうだった?と亭主のことを聞いて来る。

何だかとっても寂しそうでした。こんな時に僕を慰めてくれるのはあいつしかいないって言ってらっしゃいましたとトシ子が教えると、松子は喜ぶどころか、あの女のことだわ!と怒り出したので、いや…、ご主人があいつと言えば、普通奥様のことでは?とトシ子は慌ててフォローしようとするが、興奮した松子は聞く耳を持たず、隠さなくって良いの!やっぱりあの女のことなのね!喧嘩の原因は、おみおつけのことじゃないのよ!と言うので、ネギのことじゃなかったんですか?とトシ子が聞くと、団子って言う女のことなのよ!と断定した松子は、急に、失礼するわ!と言ったかと思うと、そのまま店を飛び出して行ってしまう。

後に残されたトシ子はあっけにとられていたが、そこにエクレアが2人前届いたので、持ち合わせがあったか不安になりながらもトシ子は諦めるのだった。

公園で、トシ子からその話を来た平九郎は、だから言ったじゃないか。君のサービスは行き過ぎだって…と注意する。

トシ子は、さっきの松子の態度を観て、私、結婚なんて当分したくなくなっちゃった…とため息をつくが、平九郎の方も、僕は一生結婚なんかしないよ。福井さんのご主人が、奥さんのために、磨き砂やちり紙なんか買いに行くのを観るとね…と答えると、奥さんのために磨き砂を買いに行くのがどうして悪いのよ!と突っかかって来る。

平九郎は、そんなトシ子が乗っていたブランコを強く押して、笑いながら自転車の元へと戻る。

トシ子も自転車の所へ戻ると、あのおじいさんの所へ行ってみない?おばあさんから、今日は息子さんの命日なので来てくれって頼まれたのよと言う。

その後2人は、あの質屋「丸林」のお座敷にかしこまって座っていた。

老人は、わしは本当に嬉しいよ。目出たいな〜、こんな目出たいことはないと庭を観ながら一人喜んでいた。

そんな老人を茶室へ行かせた老婆は、平九郎とトシ子に、息子の写真が貼ってある古いアルバムを見せる。

2人は、そのアルバムをひもときながら、コーイチと言う亡くなった息子と、そのコーイチが大学時代、病院で会った看護婦のハナエと言う女性の写真を自分たちに重ねて見る。

戻って来た老婆は、今から思うと、その時代が青春っていうか、一番きれいな時なんですよねと亡くなった息子のことを思い出し、これが大学時代最後の時代と一枚の写真を指すので、平九郎は思わず、学徒出陣されたんですか?と聞き、写真を見たトシ子も、そっくりだわ〜!と感激する。

老婆は、最後のページの写真を、とうとうあの子の一番お終いの写真になってしまいました。いつまでも甘えん坊でね…と懐かしそうに語る。

その時、奥から老人が呼ぶ声が聞こえたので、お茶の仕度ができたようですと老婆は2人に伝える。

自転車で「丸林」家からの帰り道、トシ子は平九郎に、よくあんな苦いお茶を我慢して飲んだわねと話しかけると、ねえ、コーイチさんと呼びかけたので、平九郎が止せよと怒ると、私、何だか、ハナエさんの気持ちになったんですものとうっとりする。

そんな2人は、高井屋の御用聞き鉄(堺左千夫)と六(大村千吉)から、三笠軒に来てくれないかと声をかけられる。

「ミルクホール 三笠軒」にやって来てみると、近所の御用聞きが全員集まっており、代表して、六が事情を説明し出す。

今度、鉄兄いが通い番頭になるのでお嫁さんをもらうことになったと言うのだ。

相手は、河合さんのうちの女中をやっているアサちゃんだと言うので、みんな喜ぶ。

すると、そこに当のあさ子(河美智子)もやって来て、緊張している鉄の横に座らされる。

六は、俺たち3丁目の仲間で2人をお祝いしようじゃないかと言い、全員賛成する。

トシ子が、式はどこでやるの?と聞くと、18日に常念寺だと言う。

みんなは、お寺で?と意外そうにするが、あさ子が言うには、うちのご主人が檀家だし、お寺が一番安上がりだということらしかった。

取りあえず目出たいということで、みんな、ミルクで乾杯する。

三河屋へ戻った平九郎は、店の前にいた女性から、チーズを1箱とマヨネーズを1つ届けて頂戴と注文を受けたので、どちら様でしょう?と聞くと、その女春美(中田康子)は呆れたように、曙荘7号の石川よと答える。

ちょうどそこに店に奥から、主人の常吉(富田仲次郎)が顔を見せると、春美は常吉に対して、おじさん、随分ご無沙汰ね。すっかりお見限りだからでかけて来たのよなどと馴れ馴れしく話しかけ、煙草をくわえて近寄った常吉にマッチの火を付けてやる。

それを見たのが女将のミネ(沢村貞子)で、おじさん、知ってるんですか?と帰って行く春美を観ながら平九郎が聞くと、「キャラバン」の春美ちゃんだよなどと嬉しそうに教えている側に近づいて来ると、平九郎さん、あんなバーに勤めているような女には気をつけてねと嫌味ったらしく言って来る。

うちの父ちゃん、あの女から借金取れないばかりか、反対に渋谷の店に借金までしたのよと呆れたように教える。

一方、ホワイト軒に戻って来たトシ子は、まだ助さんが残っていたので、父ちゃん、まだ帰って来ないの?と聞き、高井屋の鉄さんが、今度お嫁さんをもらうのよと教えると、助さんは、へえ、あの鉄の野郎が!と驚く。

そして、お嬢さんだって、そろそろ…とトシ子のことを言うが、トシ子は私なんかまだまだ…と謙遜する。

それがいけないって言うんですよ!と言い出した助さんは、そのしっかりが親を甘えさせているんですよ。たまには親不孝してみなきゃ。親の目を覚まさせるための親不孝、それが本当の親孝行ですよ。店の犠牲になってばかりじゃいけませんぜと言い聞かせる。

でも、親不孝ってどうやるの?とトシ子が聞くと、手始めに夜遊び…、それから酒、煙草、博打…、今流行りの太陽族で行くとかね…、とにかく、親方をハラハラさせることでさぁと、助さんは入れ知恵をしてくれる。

夕食時、父親の広介、弟の正夫(伊東隆)、妹の路子(宮本良子)らが卓袱台で夕食を食べていると、トシ子は鏡台の前で化粧をしながら、父ちゃん、最近、心配事ない?と聞く。

広介は、特にないな…。お前がしっかりしてくれるから、父ちゃん、助かっているんだ。後で組合行くるからななどとのんきに答える。

トシ子が、駅前の「千鳥」で飲んじゃダメよと注意すると、広介はバカ言うな!と怒り、弟たちにさっさと勉強しろ!と当たり出したので、正夫と路子は、自分たちの茶碗を持って立ち上がると、「野暮な説教するんじゃないが〜♪」と歌いながら、台所の方へと逃げて行く。

その後、広介が出かけようとすると、厚化粧したトシ子が、派手なドレスを着て立っているので、まるで赤線にいる女のようじゃないか!と叱りつける。

これはお客さんの服よとトシ子が言い、今夜、ちょっと1人で遊びに行って来ようと思うけど、良い?と聞いて来る。

広介が唖然としていると、大丈夫よ、ボーイフレンドと一緒だもんと言うので、ボーイフレンド!とますます驚く。

その後、「三笠軒」で、黒人ドラマーがドラムを叩いているTV番組を見ていたトシ子の元に、呼びだされた平九郎が、どうしたんだ一体?と言いながらやって来る。

今夜、どっかに連れてってくれない?うんと遅くまで遊べる所…とトシ子が頼むと、親子喧嘩でもしたのかい?と平九郎が聞くと、ハラハラさせたいのよ。ナイトクラブとか深夜喫茶とか…と言うので、覚悟できているんだろうな?と平九郎は言い渡す。

僕も男だよ。深夜、薄暗い店でくっついていたら、どうなるか分からないぞ!と脅し付け、言葉に詰まったトシ子に、震えてるのかい?とからかう。

しかし、トシ子は勇を決したように、震えてなんかないよ、行こう!と言うので、じゃあ、着替えて来るから待ってなと言い残し、一旦平九郎は三河屋へに戻る。

2人はその後、渋谷の焼き鳥バー「キャラバン」にやって来る。

こんな所に来たことがないトシ子は、始めから緊張しており、店に入った平九郎は、取りあえずビールを注文する。

やがて、場内がざわめき、あられもない格好をした女性がスポットライトの中浮かび上がると、踊りながら客席を廻り出す。

トシ子は、自分たちの席に、その踊子が近づき、スカートを外して下着姿を披露すると、さすがに羞恥心が耐えかねたのか、急に立ち上がると帰ると言い出す。

どうしたんだよと平九郎も立ち上がり、トシ子を止めようとしている所に、ビールを持ったホステスがやって来て、どうしたんですか?と聞いて来る。

その様子を、二階席から目撃したのが春美だった。

あ〜ら、三河屋さんじゃないのなどと言いながら春美が近づいて来たので、ホステスは、お馴染みさんなのねと言い、その席は春美に任せて去って行く。

春美は、嬉しい!等と言いながら、ビールを注ごうとして、あら?洗濯屋さんじゃないのとトシ子に気づくと、お安くないわね〜などと言い、平九郎をからかう。

そんなんじゃないよと慌てて平九郎が説明しようとすると、言い訳なんか良いわよ。ぐっと行きましょう!あのおじさんなら平気よなどと笑いながら、春美は平九郎にべったりくっついて来る。

それを観ていたトシ子は、耐えきれないと言う顔で立ち上がると、平九郎さん!私、帰る!と言い残して店を出て行く。

春美は、行った方が良いんじゃない?と平九郎をからかうが、平九郎は憮然として、ビールのお代わりをする。

店の玄関口で、平九郎が来てくれるのを待っていたトシ子だったが、いつまで経っても平九郎は出て来ず、通りかかった中年男に、ねえ君、お茶でも飲みませんか?と声をかけられたので、思わずその男の頬をビンタして逃げ帰ってしまう。

翌日、常年寺では、先約の葬儀が行われていたが、1人先に来て待っていた平九郎の元に、トシ子がにこやかな顔で近づいて来ると、どうしたのよ?何、怒ってるの?としらっと聞いて来る。

人を誘っておいて、先に帰ったりするからさ!と平九郎が抗議すると、曙荘の人がいたので良かったでしょうなどとトシ子は言うので、人をバカにするな!と叱りつける。

そこに、六さんがやって来たので、遅いよ!と平九郎が文句を言うと、大変なんだ!あさ子さんの様子を見に美容院に行ってみたら、あさ坊、倒れちゃったんだ。床屋のタケ坊は、緊張し過ぎで、兄貴の眉を半分剃っちゃうし…と言うではないか。

そこに、他の御用聞きたちが集まって来る。

住職(沢村宗之助)は、今日はこの寺のかきいれ時で後の予約がつまっているので、早くしてくださいとせかし始めるが、当の花嫁、花婿が到着していないので、平九郎たちは困惑してしまう。

しかし住職は、トシ子と平九郎を花嫁と花婿と勘違いしているらしく、早く本堂に上がらんか!わしは忙しいんだ!と怒鳴って来る始末。

まるで脅迫だよ…と平九郎は呆れるが、鉄たちが来るまで繋いでおくしかない。取りあえず式を挙げ、引導を渡されるまで代理をやってくれと仲間たちも平九郎とトシ子に頼んで来るので、君と結婚するのはこれで2度目だぞと、トシ子を睨睨みながら、平九郎は本堂に上がって行く。

その時、ようやく、花嫁姿のあさ子と鉄が駆けつけて来る。

無事式が終わり、全員で寺の前で記念撮影をすることになるが、カメラ担当の平九郎が、タイマーをセットして、自分も列に混じった時、隣に立っていたトシ子は、レンズに蓋がかぶさっているけど、良いの?と聞いて来る。

その後、平九郎と一緒に寺から帰るトシ子は、これからどっかで飲み直さない?と言い出したので、君、この頃、どうかしてるぞ?と平九郎は憮然とする。

2人は駅前の小料理屋「ちどり」で飲むことにするが、何故かトシ子は自らどんどん酒を飲み、ハイな状態になってしまう。

付き合った平九郎は、そんなトシ子の姿を観てうんざりしていた。

しかし、そんな平九郎に、巧いでしょう?今日はちょっぴり酔っぱらいの真似をしてるのよとトシ子は言い訳するが、完全に酔っていることを見抜いていた平九郎は、ガラ悪いな、こいつ…と呆れる。

立ち上がったトシ子は、壁に下げてあった色紙に書かれた「目に青葉 山ほほとぎす 初鰹」と言う俳句を読んでみせる。

すると、付き添っていた女将のとみ子(水の也清美)が、あなたのお父さんが書いたのよと教える。

平九郎は、静かにしろよ、丸で君のお父さんそっくりだな…とトシ子に文句を言っていたが、そこにふらりとやって来たのが、その父親広介だった。

広介は、店で、トシ子が飲んでいるのを発見すると唖然としながらも座敷に上がると、トシ子は父親をとみ子の隣に並んで座らせる。

広介は酔った娘を目の前にして、すっかりしらけてしまったようで、もう飲むのは止せ!と説教する。

しかし、トシ子は、ホワイト軒のために乾杯!今夜は徹底的に酔っちゃいますなどと宣言する始末。

鼻白んだ広介は、俺ゃまるっきり酔えやしないとため息をつく。

その後、広介は、泥酔したトシ子を抱えてホワイト軒に戻って来ると、トシ子は、何だか本当に良い気持ちになっちゃった。分かるな…、父ちゃんの気持ちなどとつぶやきながら、アイロン台の上に突っ伏してしまう。

正夫と路子はもう寝ているので、それを起こさないように台所へ行った広介は、水を汲んで来てやってトシ子に飲ませる。

水を旨そうに飲み干したトシ子は、都々逸行こう!などとまだ言うので、広介は、家庭の教育上良くないんだとなだめる。

そして、トシ子、お前はよっぽどしっかりした娘だと思っていたが、今夜のざまは何だ!この親不孝もの!しっかりしねえといけねえぜ。店を任せられやしねえよ。お前に飲むなと言う以上、俺も止めると説教しながら、こいつ、寝た振りをしてやがると文句を言うが、アイロン台の上に突っ伏したトシ子の顔には微笑みが浮かんでいた。

親の説教と茄子の花は千に一つも無駄はないってな…と広介は独り言のように呟くのだった。

翌日、いつものように、トシ子が御用聞きに出かけると、さっきお父さんが来たわよと言われたので、トシ子は驚いてしまう。

途中で会った平九郎も、そう言えば、三丁目の方で、君のお父さんに会ったよと言うではないか。

トシ子は、助さんの言うの、本当だったわ。親不孝の方が親孝行なのねと納得すると、父ちゃんにお嫁さん、見つけてやろうかな〜…などと嬉しそうに言う。

その頃、当の広介は、親の意見と茄子の花は千に一つも無駄はない〜♪などとうなりながら、自転車で御用聞きに走り回っていた。

線路脇でトシ子は、平九郎さん、私たち、これからもっと幸せになれるかしら…と聞く。

なれるさ。そりゃあ、なれるよと平九郎は太鼓判を押す。

やがて、電車が通り過ぎたので、立ち上がった平九郎は、出かけようかと声をかけ、一緒に自転車に向かうトシ子も、商売、商売…と言いながら歩き始めるのだった。