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金語楼純情日記 初恋社長

松竹新喜劇「京の雲・大阪の水」の映画化で、上映時間50分の中編。

病弱な妻との暮らししか知らない養子の社長が、若い舞妓と初恋のような気分になり、2人きりの新しい生活を夢見るが…と言う「老いらくの恋」の愚かさを描いた喜劇。

劇中で、皮肉として流れている「今年60のおじいさん♬」と言う、作詞:武内俊子、作曲:河村光陽の「船頭さん」と言う曲も、今となっては違和感あるが、柳家金語楼の姿と若き扇千景の姿を客観的に観ていると、さすがに「おじいさんと孫」にしか見えない。

それにしても、この当時の扇千景さんは可憐と言うしかない。

その扇千景演じる恋人役小峰の、まじめそうな友人としてちらり出演しているのは藤田まことで、気をつけて観ていないと見違えるくらい若い。

ひょっとすると、これが藤田まことのデビュー作かもしれない。

話としては、きわめてシンプルと言うか、ちょっと単純過ぎ?と言う印象もないではないが、中編としてはこのくらいの方が良いのかもしれない。

劇中、ダイマル・ラケットの漫才風の会話が楽しめるのが見所と言えば見所だろう。

主役の柳家金語楼は、後半、豚と一緒にオート三輪で有馬に戻って来る辺り以外は、特に笑いの演技はしていないようにも見えるが、冒頭の社長室で、扇子を拡げて1人で舞妓風の踊りをやる所等は、お得意の百面相で顔を瞬時に変えてみせる芸等を披露しており、やはり「若はげ」だけで名を出した人ではなかった事が分かる。

特にこの年は、「強情親爺」や「おトラさん」などで、柳家金語楼が大活躍だった年でもある。

とは言え、中編と言う事を加味しても、映画としてはやや物足りなさを感じないでもなく、出来は中の下と言った辺りではないだろうか。

余談だが、中編と言う事もあってか、この作品に関するキネ旬データも、役柄等が実際の映画とは違う部分が多い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、宝塚映画、館直志「京の雲・大阪の水」原作、民門敏雄脚色、田尻繁監督作品。

大阪

乗用車が「竹野井製薬株式会社」のビルの前に停まり、コートを着た社長の竹野井壮介(柳家金語楼)が、出会った社員たちに挨拶をされながら、階段を登って社長室に入る。

秘書が、コートとソフト帽を預かり退室すると、おもむろに壮介は、机の引き出しから数枚の写真を取り出し、そこに写った芸者まり子(扇千景)の姿を観ると、相好を崩す。

しかし、そこに秘書が茶を入れて持って来たので、慌てて写真を隠す壮介。

秘書が出て行くと、また、まり子の写真を見ながらデレデレ顔になるが、今度は、社員の川口(湊武雄)がファイルにした書類を持って来たので、また、慌てて隠す。

川口が出て行ったので、もう大丈夫だろうと思った壮介は、扇子を拡げて、自ら芸者になったように踊り始めるが、その背後に沢田常務(中田ラケット)がやって来たのに気づかなかった。

呆れた様子の沢田専務が、内部からドアをノックして知らせたので、慌てて社長の椅子に戻った壮介は、新製品のビタミン剤の試供品を見せられたので、ファイルを観ながら仕事をしている振りをするが、机の上に拡げたままのマリ子の写真は、しっかり沢田専務に観られてしまう。

その時、部屋の電話が鳴りだしたので、受話器を取った沢田専務は壮介に渡す。

電話の相手は、芸者の千弥(万代峯子)で、お母ちゃんに代わると言う。

お母ちゃん事、女将(大路三千緒)に話し相手が代わると、話がついた。あの子、有馬に行きたいと言うとりますねんと伝えて来る。

それを聞いた壮介は、有馬温泉か?とすぐさま承知する。

電話中、外に追い出された沢田専務だったが、ドアの外で社長室から聞こえて来る壮介の会話に聞き耳を立てていると、その背後に、義理の妹の八重子(清川虹子)がやって来て、何となく事情を察しながら部屋の中に入る。

壮介は慌てて、適当なことを言いながら電話を切ってしまう。

姉さんを熱海に転地療養に出すの反対よ。どうせ、どこかの人と羽を伸ばしたりするんでしょう?と八重子は切り出す。

しかし壮介は、これから人に会うので、後にしてくれと八重子に言い、秘書には、ハンコを押したファイルを川口に渡すように託す。

そこに、姪っ子がいきなり訪ねて来て、今度、ハムレットの主役をやる事になったので、おじさんには10枚分2000円、おばさんには5枚分1000円の切符代を勝ってくれとねだるので、壮介と八重子は渋々金を渡してやる。

尼寺へ行け!と一芝居その場で演じてみせた姪が帰った直後、今度は別の姪(環三千世)が友達を連れてやって来て、これから2人で映画を観て、その後お茶でも飲みに行こうと思うと言い、又しても2人から小遣いを巻き上げて出て行く。

有馬温泉にある旅館「兵衛」に社長が来ているだろうと女中お清(汐風享子)に聞きながらやって来たのは沢田常務だった。

社長さんなら、今、娘さんと蓬莱峡に言っておられるとお清が言うと、何が娘なもんかと沢田常務が呆れたので、ほなら、お孫さんでっか?とお清は驚くが、社長のこれやがな。今日の祇園で舞妓をしておったが、最近、社長が身請けしたんやと教えると、さすがにお清も呆れた様子だった。

蓬莱峡にマリ子と2人で車で来ていた壮介はご機嫌だった。

蓬莱峡って、どんな所かと思っていたけど、偉い禿げ山どすな…とマリ子が言うので、慌てて帽子をかぶった壮介だったが、今日は初恋のような気持だ。先代社長の望みで養子になって以来40年、女房以外の女性は知らなかったんだからね…などと言いながら、ステッキをぶん回して投げたりする元気良さ。

嬉しいわ!とマリ子が感激すると、僕だって嬉しいよと答えた壮介は、いきなり紅萌ゆる〜♬等と寮歌を歌いだす。

そんな2人がいた高台の下の河原では、2人の青年が肩を並べて座って話し合っていた。

暗い表情の青年は、京城高校の野球部でスター選手だった小峰忠夫(小原新二)だったが、惚れていた舞妓がとある社長に身請けされたので、世をはかなんで自殺を仕掛けていたのを、友人の加賀(藤田まこと)が連れ戻しに来た所だった。

壮介とマリ子が車で帰る横を、ピクニックにでも来たのか、子供たちが、今年60のおじいさん〜♬と歌いながら歩いて行く。

「兵衛」の壮介の部屋にいた沢田専務は、京都から2人お見えですとお清が伝えに来たので、マリ子の女将と千弥やな?甘い汁吸おうと思うて来たんやろ。社長は他の旅館に移ったと言って追い返してくれと頼むが、もう2人はその言葉を聞いたらしく、えらい言われようだすな?等と皮肉を言いながら部屋に入って来る。

沢田専務は、そんな2人に、会社の金の捻出はわしが引き受けているんやと説明すると、社長はんは、あんた1人を頼りにしてるんやわと褒め返す。

いまだに社長はわしの事を丁稚小僧みたいに思うてる、三等重役の悲哀ちゅうやつやと嘆く。

女将は、すっかりにや付いた状態の壮介に、前に話した席貸家の事だが、下河原に良い出物があったと報告する。

壮介は、金井が長年喘息で患っているので、この際転地療養させたい。その上、自分まで席貸し屋を始めると今の家に誰もいなくなるので、マリ子に来てもらおうと思ってる、あんたが席貸しをやりたければするが良いと鷹揚な態度で答える。

それを聞いた女将は、ほんなに良くできた方やと壮介を褒めるが、横で聞いていた沢田専務は、歯が浮いた等と言って顔を歪める。

その時、お清が温泉、いかがですか?と勧めに来たので、女将と千弥は、温泉に浸かりに行く。

すると、沢田専務が2人きりで話がしたいと言い出したので、マリ子が散歩に行きますと言うと、君は行かなくて良い。わしたちがホールで話すからと壮介は止める。

その頃、「兵衛」の玄関口に、小峰の部屋はどこや!と言いながら、慌ててやって来たのは、僧侶の間島達造(中田ダイマル)だった。

ホールに来た沢田専務は、浮ついた様子で椅子にちゃんと腰掛けようともしない壮介に、近頃の社長、普通やおまへんで。あんな孫のような…と文句を言おうとするが、それに対し壮介は、我が社は心臓の薬と精力剤で有名だ。その社長がよぼよぼじゃ逆効果だろう。私は若い子と付き合えば信用になるじゃないかなどと屁理屈を言いだす。

それでも沢田専務は、奥さんを熱海に追いやったりして…、邪魔になるさかい言うて…と責めると、わしは、30年間、廃人同様の女房の主治医のように付き添って来たんだ。マリ子とは初恋のような気持ちだ。今日まできれいな関係だったよ。マリ子の方も、若くても働きのない人は嫌いやと言ってたし、ハゲてても働きのある人の方が好きと言ってくれている。あまり刺々しい言葉をマリ子にかけてくれるなと言い聞かせて部屋に戻って行く。

ところが、部屋にはマリ子の姿がなかったので、壮介は慌てて周囲を探しまわる。

マリ子は旅館の前の小川を眺めていたのだった。

ホールに残っていた沢田専務は、僧侶姿の間島から、沢田君やないか?と声をかけられる。

2人は旧友だったのだ。

何しに来たんや?と沢田専務が聞くと、檀家の倅が自殺未遂したので、その死骸…そうやなかったら、生きがい?半がい?それを引き取りに来たんやがなと間島は言う。

その男の相手と言うのは何者や?と沢田が聞くと、何じゃいな?などと間島は惚ける。

女将と千弥が風呂から上がって来ると、小峰と加賀が廊下を通り過ぎて行くのを観かける。

そこに壮介がやって来たので、訳を聞くと、マリ子がいなくなったと言うので、千弥も外に探しに出かける事にする。

すぐにマリ子を見つけたので近づいた千弥は、小峰はんに会うたんやと打ち明けると、うち、小峰はんと会いたいとマリ子が言い出す。

実は、有馬に連れて来て欲しいと言ったのも、小峰はんに会えるかもしれんと思うたからで、実は、前に2人でここに来た事があったんやとマリ子は打ち明ける。

ちょっとした太陽族やないのと千弥が呆れると、1本のストローでカルピス飲んで、一緒になろうと約束しただけです。小峰はん、やっぱりうちの事想うていてくれてたんや…とマリ子は、焼けぼっくいに火がついたように言うので、千弥は小峰の事を教えてしまった事を悔みながら、年は行ってはっても、あの旦はん、良い人やないの?と必死にマリ子の心変わりを止めさせようとする。

考えあぐねたマリ子が庭先で泣き始めると、ちょうどそこに沢田専務と壮介が近づいて来たので、壮介は、沢田がマリ子を泣かしたと思い込み、今度の重役改選の時、覚悟してろよ!と脅す。

沢田専務は呆れ、何で、何もしとらんわしが重役辞めないかんねん?とぼやく。

その後、泣いたのは沢田のせいではなかった事をマリ子本人から聞いた壮介だったが、そこに神戸から特急の電話が入ったとの知らせが入る。

電話に出た壮介は、神戸まで行かなければいけなくなった。外人バイヤーなので、僕のサインがどうしてもいるんだと説明した壮介は、すぐに車で出発する事にするが、女将は、仕度して待ってますさかいすぐに帰って来ておくれやすと、後部座席に乗り込んだ壮介に念を押す。

その頃、小峰の部屋に間島と一緒にいた加賀は、間島はんもああ言ってくれてるや、帰ろうやと小峰を説得していたが、そこに沢田常務がやって来て間島を部屋の外に呼び出す。

沢田は間島に、舞妓を身請けした社長と言うのは、うちの社長やねんと打ち明ける。

君とこの社長、いくつや?と間島が聞くと、63やと沢田は答え、舞妓の方は19だと言うと、いくつ違うねんと計算も出来ない様子の間島は、製薬会社やったら、良く聞く気付け薬でもないんか?と問いかけるが、こればかりは草津の湯でも薬ないらしいと沢田は答える。

神戸で用事を済ませた壮介は、急いで車で有馬温泉へ戻って来るが、途中でその車がエンコしてしまう。

「兵衛」の部屋では、風呂上がりのマリ子が化粧をすませて、壮介の帰りを待っていた。

車の下に潜り込んで修理箇所を調べ始めた運転手松(森川金太郎)は、まだかとせかす壮介に、お急ぎなら歩いて下さいと頼む。

しかし、そんな事も出来ないので、壮介はたまたま通りかかったオート三輪の運転手に札束を渡して、荷台に乗せてもらうことにする。

「兵衛」では、女将が、神戸のホテルに電話して、もう着いているはずやと言うんやけど、何ぞ…と、帰りが遅い壮介の事を案じていた。

壮介の載った荷台には豚が何匹も積んであった。

急発進でその中に転がり込む壮介。

オート三輪は、次々に後続の車に追い抜かれて行き、荷台に立っていた壮介は排気ガスまみれになる。

さらには、後ろから来た自転車にまで追い抜かれているので気が気ではない。

それでも何とか「兵衛」に無事到着した壮介だったが、宿に入ると、女将と千弥とマリ子が、そろって帰り支度をして出て来る所で、妹はんが来て、帰れ言われますので帰らせてもらいますと言うではないか。

驚いた壮介は、取りあえず、マリ子だけは帰らんで良いと止め、うち怖いわと怯えるマリ子と一緒に部屋に戻ると、そこには八重子は待ち受けていた。

あの人たちは、獅子身中の虫よ!と先制攻撃を仕掛けて来た八重子に、君こそ、花園を荒らす害虫だ!と壮介は反論。

その頃、沢田専務とまj美馬が旅館内のバーで飲んでいると、女将と千弥がやって来たので、あのおばはん、きついやろ?と沢田は八重子の事を聞く。

その八重子は、その年で、その顔で、その頭で良くこんな子を…と文句を言っていたが、頭で付き合う訳じゃないよと壮介は憤慨し、他所に嫁いだ君に、そんなことを言う資格はありません!と言い返すと、養子の分際で横暴です!と八重子も負けない。

君とは絶対帰らない!徹底的に戦う!マリ子のためなら、社長も辞退します。親類縁者を棄てます!と壮介は言い切る。

そこまで言われた八重子は諦め、マリ子さん、あなたの手玉には感心しましたと嫌味を言い残して部屋を出ようとする。

すると、マリ子は、うち、いっぺん京都に帰りとうおす。あない言われたら、うちかて…と言い出し、壮介はわしも一緒に行くよ。2人だけの世界を作れば良いんだなどと慰める。

そこにやって来た沢田専務は、八重子から、あかん、ものも言えんわと壮介の説得に失敗した事を教えられると、私にも恋の重要さが良く分かるようになりましたと言い出す。

恋のため失意して、自殺しかかった青年に会ったので心境変わったと壮介に伝える。

先の短い社長は好きなようにして欲しい。野球好きな社長もご存知でしょうが、ピッチャーの小峰、あれですねん。自殺未遂の青年と言うのは…と沢田専務が名を明かすと、一緒に聞いていたマリ子の表情が強張る。

ある時、こっそり女とここに遊びに来たそうですと沢田が説明すると、女に棄てられたと言う訳か…と壮介は納得する。

小峰は、女から来た最後の手紙を胸に薬を飲んだらしい。女と1度来た事がある有馬で死のう思うたんでしょう。小峰が胸に抱いていた女からの手紙を読んでみたら、その内、旦那からm逃げて来ると書いてありました。その社長と言うのが人が良いので、小峰君も煩悶しているんですな…と沢田専務が話すと、八重子は、女は物質に転んで恋を棄てたんでしょう?と冷めたように聞く。

今でも、その男は、女が胸に飛び込んで来ると思っているらしい…と沢田が続けると、その男も馬鹿だねと壮介は笑う。

うぬぼれが強過ぎるんですな。金でメガネを曇らせているんでしょうと沢田が言うと、船場の人か?と壮介はそのバカ社長の正体を知ろうとする。

他人に言われんと目が覚めん。全然のバカ!と、ひとごとと思い込み嘲る壮介。

その女も今、男の胸に飛び込もうと思っているはずですと言いながら、沢田は目の前に座っているマリ子の目をじっと見つめる。

この廊下を左に行って、右側が小峰君の部屋だ。僕は行くことに賛成します!行きなはれ!と沢田が独り言のように言うと、マリ子は立ち上がって部屋を飛び出して行く。

どこへ行くんだ?と後を追おうとした壮介に、持っていた手紙を見せる沢田。

その後、廊下で出会った沢田と間島は、事が丸く収まった事を互いに教えあい、その場で抱き合って喜ぶのだった。

部屋で、マリ子が小峰に宛てた手紙を読んだ壮介は机を前にうなだれていた。

兄さん…、心配して、八重子が声をかける。

馬鹿な旦那は、自分だったんだ…と泣き笑いの表情になる壮介。

その時、部屋の電話が鳴ったので八重子が出ると、相手は、姉であり壮介の妻からだったので、壮介に受話器を渡す。

壮介は、妻の言葉を聞き、今夜、熱海へ発つ?わしも一緒に行くから…と言い出す。

本当だから…、どうしたの?泣いてるのか…?バカだな、泣く奴があるか…と言う壮介の会話を横で聞いていた八重子も泣き出す。

明日、大阪発8時30分の「出雲」があるから2人分切符を取っておきなさい。すぐ行くよ…と話していた壮介の目も涙で光っていた。

翌朝、熱海に向かう列車が走って行く。