レトロコメディとして作られたGS(グループサウンズ)映画
実はこの作品、冒頭、音楽会社の社長を演じている岸部一徳が、「ザ・タイガースの『銀河のロマンス』は67万枚だってさ」と言う所がポイントのように思える。
岸部一徳が、その「ザ・タイガース」のリーダーのサリーだったと言う事実だけではなく、「銀河のロマンス」は「ザ・タイガース 世界はボクらを待っている」(1968)と言う初主演作の挿入歌であり、この映画は、そのパロディになっていること。
タイツをはいたグループはまだいないよね?と企画会議で言っているが、すでに、「ザ・タイガース 世界はボクらを待っている」の中で、岸部一徳を含めたザ・タイガースの面々が、ちゃんとタイツ姿を披露していることのパロディにもなっているのである。
まず、GSグループの中に、男の子に化けた女の子が交じって一緒に暮らすと言うアイデアが「ザ・タイガース 世界はボクらを待っている」そのもの。
音楽喫茶「ACE」(有名な「ACB」のパロディ)で、「タイツメン」の最初のファンになるマナカナコンビも、「ザ・タイガース 世界はボクらを待っている」の中に登場する小橋玲子、高橋厚子、美保くるりらのパロディだと思われる。
もちろん、それに気づかなくても、特にさしさわりはないのだが、知っているとにんまりしてしまうことは確か。
タイツメンのイメージは、劇中でも赤松愛の名前が出て来る「オックス」がモデルだろう。
タイツを履いていたし、ファンの中で失神者が続出することで有名だったから。
全体的には、一夏の熱狂のようにあっという間に終わってしまったGSブームを、今風のコミカルな演出で描きながらも、その根底には監督のなみなみならないGS愛が込められているのが感じられる。
芸能界の浮き沈みや、素人の幻想とプロの現実の落差などをシニカルに描いており、途中で武田真治演じる梶井が、酔ってぼやくシーン等は、なかなか現実味があるセリフになっている。
当時の流行や風俗等を知らない世代にも、若者の夢と現実のギャップなどはいつの時代も共通するテーマなので、共感できる部分もあるかもしれない。
音楽映画が少なくなった今、久々に音楽映画の楽しさを味わうことが出来る貴重な作品になっていると思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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2008年、「GSW」製作委員会、永森裕二脚本、本田隆一脚本+監督作品。 ベイズリー柄のワンピースにトンボメガネをかけた少女大野ミク(栗山千明)は、憧れの日劇の前に立っていた。 ジャズ喫茶「ACE」 お前ら、絶対言うなよ…と、その店内で坊や志望の若者2人に話していたのは、「ザ・ナックルズ」のボーカルタツオ(高岡蒼甫)だった。 真剣に聞いている、ドラム志望のシュン(水嶋ヒロ)とベース志望のケンタ(浅利陽介)に、今、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが秋田に来ているんだ。従兄弟が山に入る所を見かけたらしい。 何でそんな所に?とジュンたちが聞き返すと、ベースとドラムの教室を開いているんだよ。世界中で教えているらしい。スパイダースもそこで習ったらしい。俺も、ジョンが来ていたら行ってたんだがなと答えるタツヤ。 場所はどこなんですかと聞くと、バカ、たどり着いたもんだけに教えるんだよ。 売り込みとかはこっちでやっとくから、お前ら、まずそこに言って習って来い。腕が上がったら、一緒にステージ立とうぜとタツオは真顔で言う。 「ACE」の客席は女の子だらけだったが、その一つのテーブルに空席があるのを見つけ、相席して来たのは、マッシュルームカットのマサオ(石田卓也)だった。 彼は、あれこれ、テーブルの女の子に話しかけるが、完全に無視されたので、ザ・ナックルズの演奏が始まるのを、目を輝かせ、ステージにかぶりついて待っていた。 タイトル ザ・ナックルズの演奏が始まる。 1968年 夏 演歌専門のファインレコーズの会議室では、バンド見つかりましたか?童謡のソノシートなんかより、GSをやりたいって行ったの君だよ!と、重役の鎌田兼一(大杉漣)が佐々木(杉本哲太)に聞いていた。 社長の松田重吉(岸部一徳)は、GSブーム、すごいよね。ザ・タイガースの「銀河のロマンス」は67万枚だってさと言うと、何か曲を口ずさみ始め、タイトルなんだっけ?と聞くが、他の重役も分からない。 佐々木が「小さなスナック」ですと教えると、それが40万枚超えだそうだとぼやく。 君が、童謡のソノシートよりGSの方が良いと言うんで、3ヶ月でGS部門を立ち上げる、3ヶ月だけだよと重役から念を押された佐々木は緊張する。 自分の部屋に戻って来た佐々木は、呼んでいた芸能プロダクション「オフィス梶井」の社長梶井良介(武田真治)に、良いの見つかった?3ヶ月だからね。頼んでいるのお宅だけじゃないし、それでダメなら一生ソノシートなんだからと、会議で言われたことを繰り返す。 オフィス梶井の事務所に戻って来た梶井は、ドアの前に立っていたミクに気がつく。 雑誌の募集を観て来たんですけどと履歴書を出しながら言うので、男しか募集してなかったはずだけど…と梶井は呆れる。 私、小学生の頃、ピアノの地区大会で優勝したんですけど…とミクが言うと、だから何?君、観た所、もろ家出でしょう?今、GSでしょう?女の子は無理でしょうと梶井は言い聞かせる。 するとミクは、悔しさを込めて、持っていたコーラの缶を握りつぶして帰って行く。 その頃、自宅で友達と2人でエレキの練習をしていたマサオは、友達がやる気なさそうなのでどうしたんだと聞いていた。 まじめにやれば上達するだろうけど…と言いだした友人は、どうなの、受験?と聞いて来る。 俺は日劇に出る。お前、ロマンないな。今、学園紛争すげえじゃん。2学期から俺学校行かないからとマサオが言うと、じゃあ、頑張れよと言い残し、友人は付いて行けないと言う風に出て行く。 1968年 秋 ミクは、安アパートの中で、1人、オープンリールのテープを聴きながら、歌の練習をしていた。 隣から、うるせえ!と文句が出ても、ヘッドホンを付けているミクに聞こえるはずもなかった。 マサオは、1人で「ACE」の楽屋の「ザ・ナックルズ」に会いに行くと、坊やにしてください!と頼み込む。 すると、タツオが又、ジョン・レノンが今、秋田に来ているから、まずはそこに言って教わって来いとからかう。 しかし、さすがにタツオは、そこで教わったら、坊やになる必要ないじゃないですか。第一、ビートルズが秋田にいるはずないでしょう?と正鵠を射る。 その時、いきなり楽屋に乱入して来たのは、「GS」とヘルメットに書かれ、タオルで顔を隠した過激派風の男2人だった。 彼らは楽屋で暴れはじめると、ダイナマイトを取り出し、火をつけてその場に放り逃げ出す。 ナックルズのメンバーたちはみんな楽屋の隅に固まり、恐怖の眼差しで爆発を予期していたが、ダイナマイトからは、ネズミ花火のような黒い固まりがにょきにょき伸びて来ただけだった。 一方、逃げて来た2人組の過激派風男らは、いつの間にか、自分たちと一緒にいたマサオに気づいて驚く。 ヘルメットとタオルを脱いだ2人は、シュンとケンタだった。 タツオの言葉を信じ、3ヶ月も秋田を探しまわっていたのだと聞いたマサオは、ビートルズが秋田にいるはずないじゃないと呆れる。 そんなにGSやりたいの?何で?とマサオが聞くと、日劇出たいからと聞くと、じゃあやるといきなり言い出したので、シュンとケンタは意味が分からず唖然とする。 ドラムとベースと、俺がギターでしょう?と指摘したマサオは、世の中祭りだし…と訳の分からないことを言う。 しかし、明日から何も決まってないんだし…とケンタが呟くと、じゃあ、決まりじゃん!とマサオは結論づける。 取りあえず「ザ・ダイアモンズ」とバンド名を決めた彼らは、アパートの屋上で練習を始めることにするが、ケンタは、これシュンが作ったんだと言いながら一枚の楽譜を取り出す。 秋田の田んぼで思いついたのだと言う。 ちょっと演奏してみたマサオは、「抱きしめたい」に似てない?と指摘する。 所々似ているとあっさり認めるシュンだったが、取りあえず、その辺は気にせずやってみようと言うことになる。 そのアパートの近くの「オフィス梶井」で、佐々木からの催促電話の対応をしていた梶井は、電話を切りながら、ビートルズみたいなバンドが簡単んにいますか!と愚痴るが、次の瞬間、どこからともなく聞こえて来たメロディを耳にすると、いた!と感激し、外へと飛び出す。 屋上で演奏中だったケンタらは、いきなり見知らぬ大人が駆け寄って来たので、文句を言われると思い、すぐに止めますからと謝るが、音を頼りにやって来た梶井は、君たちプロ?どっかのプロダクションに入っている?うちからレコード出さない?デビューは今から2ヶ月後といきなり話しかけるが、3人は寄り添いあって、話が巧過ぎる、怪しいと警戒しあう。 それに気づいた梶井は、名刺を渡すと、あっさり本物だ!と3人は納得し、その場で「エイエイオー!」と鬨の声を挙げる。 梶井から、「ザ・ダイアモンズ」の話を聞いた佐々木は、それダメだ。ドラムとベースとギターでしょう?デビュー曲決まってるし、オルガン入ってるんだ。レコードではごまかせても、ライブできないじゃん。3人じゃ音きついでしょうとダメ出しをする。 それを聞いた梶井は、オルガン入れます!と即答する。 出来るの?じゃあ、横峯さんの所の「フレッシュフォー」と一緒に練習して!と佐々木は命じる。 「オフィス梶井」に来ていたマサオたちは、いきなりやって来た梶井から、スーツを着た人物をミックと言うんだと紹介され固まってしまう。 それはどう観ても女にしか見えなかったからだ。 今、GSは、赤松愛とかチャッピーみたいな女の子みたいなメンバーがいる方が人気あるだろう?と梶井は説明するが、まあ良いじゃん、よろしくとマサオが手を差し出し握手を求めると、ミックも応ずるが、マサオに握られたまま手を観察されると、何するんだよ!と女の声を出してしまう。 やっぱり女じゃんか!とシュンが指摘すると、まだなんだよ、声変わり…とミックが言うので、一瞬固まった3人だったが、そんな訳ないじゃん!とシュンが突っ込むと、じゃあ、あれ見せてやれよと梶井はミックに勧める。 ミックは、「オオノミチオ」と書かれた免許証を3人に見せる。 翌日から、「フレッシュフォー」のメンバーと一緒に、作曲家の百瀬あつし(山崎一)の指導を受けることになった「ザ・ダイアモンズ」の4人だったが、「フレッシュフォー」と「ザ・ダイアモンズ」のグループ名を百瀬が取り違えるほど、「フレッシュフォー」の4人は、フレッシュさの欠片もないおっさんたち(温水洋一ら)だった。 発声練習から始めた「ザ・ダイアモンズ」だったが、何故かミックだけは声を出そうとしなかった。 ミックは翌朝、大野ミクの部屋から出て来る所を、管理人のおばさんに見つかってしまう。 すれ違う時、あなた、どなた?と聞かれたので、大野さんと交際している者ですと答えるが、今時の若いもんは、全くハレンチだねぇと眉をひそめられる。 ミックが大野ミクだとは、管理人にも気づかれなかったのだ。 その日、百瀬は、「フレッシュ」のメンバーたちが全員楽器を弾けないと聞いて唖然としていた。 ドヤ街で歌っている時、声をかけられ…と、「フレッシュフォー」のリーダー格らしき大河内宗雄(温水洋一)が戸惑ったように説明する。 その頃、スタジオのトイレに入っていたシュンは、後から入って来たミックが、大の方に入って行くのを目撃し、自分の手が小便で濡れたことにも構わなかった。 やっぱりおかしい!あいつが男なら、ウンコしかしない奴と言うことになる。そう、シュンはマサオとケンタに教える。 下痢だったのかもしれないじゃないか。観たろ?免許証。はっきり男って書いてあったじゃんとマサオはフォローするが、良し、確かめるんだ!とシュンが言い出し、ミックのアパートへ付けて行ってみることにする。 アパートの下から、ミックの部屋を見上げると、女物のパンティが干してあるではないか。 やがて、ミック本人が洗濯物を干すために窓から顔を出し、何となく下を見下ろして、メンバーたちを発見する。 「あ!」ミックはバレたことが分かり、メンバーたちを部屋に招き入れることにする。 何で男の振りなんかしてたんだよ!とマサオが追求すると、しばらく男としてやってたら、歌手デビューさせてやるって言われたから…とミックは答える。 こうでもしないと、お互いデビューできないでしょう?とミックが指摘すると、こっちはロックバンドなんだから、女なんて入れらっかよ!とシュンは言う。 じゃあ、今から振り出しに戻って、秋田行って来るか?とミックが言うので、何で知ってるの?とケンタが聞くと、俺が話した…とマサオが打ち明ける。 シュンは、とにかくロックやる気のない奴と一緒にやるのはまっぴらだし、女なんか入れるのは願い下げだ!とムキになり、何で、女じゃいけないんだ!とミックも切れると、怒って帰ってしまう。 シュンの奴、8人兄弟の一番下で、上、全部女ばかりで虐げられて来たから…とケンタが説明する。 ミック、お前、日劇出たいか?と聞いたマサオは、なら決まりだ。一緒にやろと言い、ミックと握手する。 その後、マサオとケンタは、こんな時間だから泊めてくれる?と頼むが、帰れよとミックから言われてしまう。 練習開始後、1ヶ月が経ち、梶井は「ザ・ダイアモンズ」のためにジャズ喫茶の仕事取って来たと知らせる。 メンバーたちは喜ぶが、梶井はさらに、今日からミックも同じアパートに住むことにしたと言いだしたので固まってしまう。 「四谷コーポラス」と言うのが新しいアパートの名前だった。 スパイダースの「あの時君は若かった」が重なる。 一緒のテーブルで食事をすることになったメンバー4人だったが、シュンはまだ、女がいてロックが出来るか!などと我を張っていた。 そんな考えだから、古いロックしか出来ねえんだよとミックがからかうと、怒って立ち上がったシュンは、それまで読んでいた雑誌をテーブルに落とす。 その時、ケンタがその雑誌を見ると、そこにはあの「ザ・ナックルズ」デビューの記事が載っていた。 こいつら、この人たちに秋田行かされたんだよとマサオがミックに教えると、うるせえ!こいつらだけは絶対許せねえ!いつか絶対見返してやる!とシュンは雑誌をにらみつけるのだった。 そのためには、俺たちが一致団結しなくちゃいけないだって。みんなの目標は一致しているって訳、仲良くやろうよとマサオが言い聞かし、何となく、4人は乾杯をして出発をする。 かくして、「ザ・ダイアモンズ」はジャズ喫茶「ACE」でステージデビューすることになるが、客はほとんどいなかった。 バンドメンバーの写真を観た佐々木は、このオルガンの子、ルックス良いねと梶井に褒めた後、横峯の所のバンド、預かってくんないか?奴ら、何とかしてくれって、俺んちの前で3日間も、土下座して頼むのよと一方的に頼んで来る。 1969年 初春 ファインレコーズの会議室では、「ザ・ダイアモンズ」のデビューシングルのレコード売上が発表されていた。 23枚…会社創設50年はじめての記録だった。 メンバーの親戚とか血のつながった奴しか買ってないんじゃないか?と鎌田が嫌味を言い、何だか陸軍時代思い出すんだよね。これって満州って感じじゃない?などと、レコードジャケットのメンバーが来ているミリタリールックを観ながら、社長の松田やお追従を言う重役が不満そうに呟く。 佐々木は、大至急作戦会議を開き、彼らの衣装、バンド名、楽曲を刷新して、来週提出してくださいと重役から命じられる。 23枚しか売れなかったと「オフィス梶井」で聞いたメンバーたちは、自分たちと梶井自身で4枚買ったので、結局19枚しか売れなかった事を知り肩を落とす。 さらに、シングルレコードジャケットを観ているうちに、バンド名が「ザ・ダイナモンズ」と誤植されていたり、シュンの顔が、タイトルロゴに隠れてしまっていることに気づく。 佐々木は、部下2人と、イメージ刷新会議を開いていた。 熊田恭一(ケンドーコバヤシ)は、スカートを履かせたらどうでしょう?うちには5歳の娘と3歳の息子がいるんですが、息子に娘のスカートを履かせてみたら、娘が可愛いって言いまして…と提案するね。 それ良いね。さすがにスカート履いたバンドはいないだろう?と乗って来た佐々木だったが、大西芳夫(山崎樹範)がいますよ。「ザ・クーガーズ」は全員キュロットスカート履いてますとレコードジャケットを出してみせる。 恐ろしい世界だな、GSって…と驚いた佐々木だったが、すると熊田は、娘の絵本を取り出し、ではタイツはどうでしょう?と、童話の王子様の絵を示しながら言い出す。 タイツはどうだ?と大西に佐々木が確認すると、いませんが、時間の問題でしょう。早いもん勝ちかと…と答える。 もう、あらゆるジャンルをやっています。 リズム&ブルースの「ザ・ダイナマイツ」、ラテンロックの「レオビーツ」、サイケデリック・サウンドの「ザ・ビーバーズ」、英国指向の「ザ・エドワーズ」、シベリアサウンド「ザ・ジェノバ」…と、次々と大西はレコードジャケットを取り出して行く。 楽曲の話になると、屋台で飲んでいた時…と下戸のはずの熊田が言い出したので、佐々木が聞くと、娘と喧嘩しまして…と言うので、5歳の娘と喧嘩してやけ酒はいかんだろと佐々木は呆れる。 その時、「ブルーライトヨコハマ」がラジオから流れていたんですが、日本人て、ロックだなんのと言っても、やっぱり歌謡曲だなと思ったんですと熊田は言う。 「ブルーライトヨコハマ」は誰の曲だ?と聞くと、作詞:橋本淳と作曲:筒美京平ですと大西が答えたので、同じ人に作ってもらおうと佐々木は即決、タイツを履いて歌謡曲か…と、何か手応えを掴んだような顔になる。 大西は、キャッチコピーは「タイツ履いてニュー歌謡」でどうでしょう?と提案し、バンド名は「タイツメン」で行くことになる。 「オフィス梶井」で衣装を着せられたメンバーたちは、どう考えても納得いかなかったが、梶井から、もう君たちには後がないんだと言われると、やるしかなかった。 ジャズ喫茶「ACE」で、「タイツメン」として、再デビュー曲を披露したメンバーたちだったが、あの石貫妙子、明美姉妹は、これ!来たんじゃない!断然可愛いよ!と目を輝かす。 しかし、アパートに帰って来たメンバーたちは浮かなかった。 どう考えてもおかしいよ…、これは俺たちのやりたい方向とは違うってことだろと愚痴るシュン。 すると、俺たちのやりたいことって何?とマサオが問いかけると、当のシュンも答えられない。 日劇ってことで良いんじゃない?とミックが言うと、ケンタはそれ!と同意し、何かちょっとおかしくねえか?とシュンは反抗するが、中味ね~とミック。 翌日、「ACE」にやって来たメンバーたちは、店の前に女の子たちが集まっているので、今日、誰か来たっけ?とマサルは聞くが、他のメンバーも首を傾げるばかり。 やがて、彼らに気づいた妙子、明美姉妹をはじめとする女の子たちが、キャー!ミックよ!と黄色い悲鳴を上げながら駆け寄って来たので、仰天したメンバーたちは、急いで楽屋口に逃げ込む。 ステージで演奏を始めると、客席の女の子たちはミックに集中して応援をし、次々と失神して行く。 「オフィス梶井」の事務所では、「ACE」の店長から電話を受けた梶井が、帰って来たメンバーたちに、すげえじゃん!店長が、もっとステージ増やしてくれって言って来たよと伝え、みんなに夢を与えているんだ。ミックが女だとバレないようにしろよと注意する。 そして、狼に育てられた子供が、自分を狼と思い込んでいた逸話を梶井は話しだすが、聞いていたミックは、男として育てられてないけど…と唖然とする。 それでも梶井は、君には、常人の10杯以上の男性ホルモンが流れている等と強引に説得しようとする。 そして、お前ら、今日から一緒に寝ろ!そうすると自然に意識しなくなるから。これから忙しくなるぞ~…と梶井は1人で張り切る。 アパートに帰って来て蒲団に入ったマサオは、あんなに大勢のファンの前で歌ったことなかったから、何だか感動しちゃったよね…と呟くが、シーツで部屋を仕切った向こう側で寝ようとしていたミックが、もう寝るから静かにしろよと注意する。 しかし、蒲団に入った3人の男たちは、シーツの向こうにミックが寝ていることを意識するあまり、全員目を閉じれなかった。 スポーツ芸能ニュース タイツをはいた王子様「タイツメン」のオルガンのミックは、ジュリー二世戸の呼び声も高く、久々に、女心をくすぐる二枚目スターの登場です。 でも時にはこんなやんちゃな面も…とナレーションがかぶさるニュース映像には、ミックが立ちションをしているかのようなイメージカットまで挿入されていた。 「少女50人が失神!」と、タイツメンのコンサートで客が倒れたニュースが新聞に載る。 「タイツメン」の人気が絶好調だった。 1969年 初夏 すっかりイメージチェンジした「ザ・ナックルズ」のタツオから、「タイツメン」のメンバーたちはからかわれていた。 俺たちは体制に逆らって音楽やっているんだ!今はもう、ニューミュージックの時代よ。ジミヘンとかテェッペリンとか。俺ら本当のミュージシャンだから、レコード会社の玩具と一緒のステージ出たくないんだよなどと人気を妬んだように言うので、シュンはむかついて睨みつけるが、他のメンバーがなだめる。 先に「ザ・ナックルズ」がステージに出た後、ミックがタツオのバッグから覗いていた「ギターテクニック 君もジミーになれる」と言う初心者向けの教本を見つけたので、それをこっそり隠すことにする。 「四谷コーポラス」の前は、女のファンで黒山の人だかりだった。 もちろん、妙子、明美姉妹も混じっていたが、タイツ姿のメンバーが見えたので、全員、歓声を上げながら追いかけて行く。 しかし、そのタイツメンは、実は、カモフラージュ用に「フレッシュフォー」の面々が化けていたのだった。 女の子たちがアパートからいなくなった好きに、本物の「タイツメン」の4人が部屋へ入り込む。 もう全員くたくたで、部屋に入るなり、万年床に倒れ込んで寝てしまう。 ミックも同様で、いつも通り、部屋の仕切り代わりのシーツを引こうとする途中で倒れて寝てしまう。 そんなミックの寝姿を、窓の外から盗み撮りしている男がいた。 ファインレコーズの会議室では、社長の松田が、民謡風の衣装を落書きしていた。 それを観た佐々木は、GSと民謡の組み合わせは、もう寺内タケシとかスィングウェストがやっておりますが…と言うと、鎌田は、出たよ、出ましたよ、社長批判!などと佐々木を睨みつけ、最近PTAのGS批判がすごいらしいんだよ。これからはこういう風に、子供からお年寄りまで理解されるようにしなきゃダメなんだ!考えることないんだよ!言われた通りやっとっきゃ良いんだよ!と軍隊式に命令する。 佐々木としては、やらせて頂きます!と敬礼して従うしかなかった。 民謡風の衣装を見せられたメンバーたちは、もう脱力するしかなかった。 王子様の段階で、もうロックでも何でもないだろ…とシュンも諦め顔。 その頃、「オフィス梶井」では、怪し気なヒッピー風の男(片桐仁)が、盗み撮りした写真を梶井に見せ、ミックの襟元からブラが見えている。女でしょう?みんなそう思ってるんだからと指摘していた。 梶井は、それは腹巻きの紐で衣装なんですよねととぼけるが、じゃあ、読者に判断してもらいましょうか。どっちでも良いんですよ。写真を買ってくれるんなら、あんたからもらっても、出版社からもらっても、お金はお金…とヒッピー男はあざ笑う。 分かりました。今、現像とプリントって、おいくらくらいですか?と梶井が聞くと、現像代が20円、プリント70円くらいだから、1500円くらい頂ければ…とヒッピー男は乗りかけるが、おい!違うでしょう!実費もらってどうするんだよ!現像写真の焼き増しか!写ってる中味の値段だろ!と切れる。 意外に持った方じゃない?神社で出会った佐々木は、梶井から事情を聞くとそう答える。 世間ってそんなにバカじゃないよ。女の子なんだろうなと世間もマスコミも分かっていて、バレるのを待っていたんだよ…と佐々木が言うと、世間って冷たいですねと梶井が言うと、むしろ、暖かく見守っていた訳じゃない。ちゃんと落ちをつけて、結構楽しんでたじゃない。 「タイツメン」はどうなるんですか?と梶井が聞くと、いくらって言って来たのと佐々木が聞き返す。 100万と梶井が打ち上げると、レコード3500枚分か…、まあ口止め料としては普通かな?もうちょっと引っ張ってみる?「タイツメン」…と佐々木は答える。 それを聞いた梶井は、縁台から立ち上がると、砂利道に土下座をして感謝する。 慌てて止めさせた佐々木は、あれで吹っ切れたかな。大の大人がまじめに考えれば考えるほどああなっていくんだもの、不思議な世界だよ…と、境内の特設会場で演奏を待ち受けていた法被にタイツと言う「タイツメン」の面々を観ながら呟く。 着替え終わって、境内の事務所から出て来たミックは、そこに母親と一緒に待ち受けていた女の子からサインを求められる。 ミックは、喜んでいる少女の姿を観て、何かほっこりした物を感じる。 新曲「レッツゴーよさこい節」を淡々と演奏する「タイツメン」 1969年 秋 京浜テレビの待合室 待機していたメンバーの元に走り込んで来たマサオは、興奮した様子で、今、日劇のプロデューサーが来てるんだって、俺たち候補に上がっているらしく、その下見なんだって、梶井さんが言うにはタイガースも来てるんだってさと言う。 共演?とケンタたちも舞い上がる。 そこに入って来た「ザ・ナックルズ」の面々は、ミックの前に来ると、お前、女だろ?と写真を見せつけ、ブラ写ってるんだよと脅して来る。 ヒッピーみたいな兄ちゃんが10万で勝手くれって来たんだとタツオが教えると、横からその写真を奪い取ったケンタが、口にくわえ食べ始める。 すると、もう1枚取り出したタツオは、2枚で5万に値切ったんだと笑う。 裏切り行為して日劇出ようなんて、良い根性してるな?お前ら、毎日、同じ部屋に寝てたんだろ?今日の演奏、サビ前に演奏を止めろ。バンド、続けたきゃ、頭使えよと命じる。 いよいよ番組収録が始まり、司会者(湯原昌幸)が「タイツメン」を紹介する。 演奏を始めたメンバーたちは無表情だった。 やがて、サビの前に来たメンバーは突然演奏を止めたので、司会者やスタッフたちは驚いて何事かと見つめる。 ボーカルのマサオが何か言いかけると、すみません!私は…、女ですとミックが告白してしまう。 みんなを騙してきました。ごめんなさい… その姿は全国のテレビに写っており、電器屋の前を通りかかったあのサインを求めた少女も観ていた。 私、歌手になりたくて、でも田舎者で何も分からなくて、バンドでオルガンやらないかって…、悪いのは私だから、自分が歌いたいから、色んな物利用して…、でもこの1年楽しかった。みんな似は許してもらえないと思うけど、ご免…、私、楽しかった… そうミックが告白した直後、「しばらくお待ちください」のテロップが入る。 その反響は凄まじく、「オフィス梶井」にも200通くらいの、ミックに歌わせてくれと言う同情と嘆願書が届く。 佐々木はしかし、GSも、もう終わりでしょうと梶井に告げていた。 そうでしょうか?と梶井は低姿勢に反論するが、あんなことが会って続けても、誰もハッピーにならないよ。祭りはお終い…と言う。 マサオたち3人は、「オフィス梶井」で、自分たちのことを気にせずミックに歌うように進めていたが、ミックはなんか自信ないよ…と消極的だった。 ソロで歌えるのは嬉しいけど、目指してたのが何だったのか、今ちょっと思い出せないでいる……とミックが言うと、だったら止めとけとかなり酒に酔っていた梶井が言う。 俺も昔、バンドやってたんだ、ロカビリーの。プレスリーに憧れて…と言い出した梶井は、最初のうちはちゃんとロックンロールやってたんだけど、その内レコード会社の意向で、毎年違ったニューリズムやらされるようになり…、ロカンボ、スクスク、ハチャンガ、ドドンパ…、なんかばからしくなってな、それで裏方になったの。いつの時代も、この世界は一緒。やりたいことは受けなくて、知らない誰かの意思で動かされ…、受けたり、廃れたり…、本当に好きなら仕事にしない方が良い…、そしたら嫌いにならずにすむと。 何か矛盾してません?俺たち誘っといて…とマサオが聞くと、だって、それ分かったの、最近だもの…と梶井は答える。 メンバーたちは、何となく微笑んでいた。 あれこれ誰かに愚痴ったり、評論している方が賢いのかもしれないけど、そんなのつまんない人生だもの。ただやる気だけで突っ走って来たお前らの方が俺は好きだ!と言いながら、梶井は机に突っ伏す。 俺、あの屋上で、梶井さんから誘われて良かったと思うとケンタが言うと、だな…とマサオも同意し、テーブルに寝ていた梶井は微笑む。 その夜、別室から布団を持ち込んで来たミックは、ちょっとここで良いかなと言うので、じゃあ、シートを…と男たちが気を使うと、いらねえよとミックは言い、同じ部屋に布団を並べる。 何か不思議とさみしくないなと、布団に横になったマサオが言うと、 今は4人だから、バラバラになってから急に来るんじゃない?お前どうする?…とシュンが聞いて来る。 旅にでも出るか…とマサオが答えると、安直な答えだなとシュンは笑う、安直に生きて来たからねとマサオも自嘲する。 ケンタは実家に帰ると言う。 ミクは?とシュンが聞くと、今まで自分のことは自分で決めて来たけど、今回はお前ら決めてくれと言い出す。 すると、3人の男たちは歌えよ!とユニゾンで答える。 テレビで応援しているよと言うと、もう良いよ、ありがと…とミックは、男たちに背を向けて呟く。 翌朝、彼らは「四谷コーポラス」から出て行く。 マサオは、俺たちってもう会わないんだよなと言い出し、何か別れの挨拶みたいなのしとく?と言い出す。 しかし結局、普通で良いかと言うことになり、頑張れよとシュンが言い、じゃあ、また!と言い合って、みんな別れて行く。 1970年 新春 雪が降る外に立っていたマサオは、「タイツメン」時代のことを思い出していた。 ジャズ喫茶「ACE」では、「大野ミクソロデビュー ダイヤモンド・ナイト」が行われる日、そのポスターをやって来たマサオは見つめていた。 すると、シュンもやって来て再会を喜ぶ。 すると、その日、ミクと共演する「ザ・ナックルズ」のタツオがやって来て、ちゃんとチケット買って入ってね。ミクちゃん、最近親しくしててさ。彼女変わったよ、もう昔のことなんてきれいさっぱり忘れてね。女はたくましいのよ。もう昔のよしみだなんて言って、ミクちゃん困らせないでね、」チャオ!と言って去って行く。 あんなの噓だとシュンは言うが、俺、何か忘れているような気がする…とマサオは言い出す。 そうだ!祭りだ!メンバー集めなきゃ!と言い出したマサオに、シュンは呆然とする。 メイク屋で鏡の前に座っていたミクに、梶井がいよいよだな、さすがにちょっと緊張しているか?と声をかける。 あいつら観に来るかな?…と梶井が、「タイツメン」の事を思い出していた時、「ザ・ナックルズ」のメンバーがメイク室に入って来て、タツオがミクに馴れ馴れしく話しかけて来る。 社長の前でナンパは止めてよと梶井が注意すると、そう言えば、辞めた奴らそこで観たよとタツオは言い、社長、ただ券くらい送ってやれよと梶井に嫌味を言う。 その時、梶井に電話が入ったと言うので、メイク室を梶井が出て行くと、辞めちゃいなよ、実力ないよ、あいつとタツオはミクに耳打ちして来る。 ミクは、そんなタツオの頭からコーラを浴びせかける。 それでもタツオは、可愛いね〜、俺、本気だからと迫る。 電話口に来ていた梶井は、お前ら、それ、マジで言っているのか?と電話の相手に聞いていた。 ステージでは、「ザ・ナックルズ」が歌い始めるが、客は誰もいなかったので、店員がステージにやって来て、途中で演奏キャンセルがかかってしまう。 その様子を観ていた梶井は、GSも終わりかな…と呟く。 仕事が終わり、全員シャワーを浴びている中、自分たちの楽器を誰かが運び出しているのに気づいたタツオたちは、「タイツメン!」やっと会えたぞ!と叫ぶと、腰にバスタオルを巻いただけの姿で後を追いかける。 「ザ・ナックルズ」の面々が、楽器の所に集まって来ると、タイツ姿の男たちが楽器を壊しているではないか。 誰だ?お前ら?と叫んだタツオだったが、振り向いたのは、見知れぬおっさん4人だった。 「ACE」のステージでは、新人バンド「ザ・ラブジェネレーション」が歌っていた。 それを舞台袖から見つめるミクを探し当ててやって来た梶井は、何やってるの?準備まだだろ?急がないとミクをせかす。 ミクは、あいつら…とステージを観ながら言いかけて、何でもないと言って舞台裏に向かう。 楽器を壊していたタイツメンの格好をしたメンバーは後ろを振り返りながらヅラをはぎ取って素顔を明かす。 それは「フレッシュフォー」の4人だった。 彼らは、裸の「ザ・ナックルズ」と壊れた楽器をその場に残し、嬉しそうに笑いながら逃げ去っていく。 ステージに向かおうとしていたミクは、そこにタイツメンの格好をした3人が立っていることに気づき、何やってるの?お前ら?と聞く。 祭りだよとマサオが言い、大丈夫なのか?とミクが聞くと、多分、ダメじゃん…と諦めたように梶井は呟く。 俺たち、オルガン探しているんだけど…とシュンが言い、ご免ね、往生際が悪くて…とマサオが謝り、やろうよ、ミクちゃんとケンタが笑いかける。衣装用意してるよと梶井が笑いかけると、ミクは、女だけど良いのかい?と嬉しそうに聞き返す。 司会者が、ステージに登場し、「ザ・ナックルズの皆さんです!」と紹介するが、暗かったステージにライトが照らされると、そこに立っていたのは「タイツメン」だった。 観客の娘たちは何が起こったのか分からず唖然としている。 タイツメンです。僕たちは既に解散しました。ですが、解散コンサートしていません。それが心残りで…。お別れの一曲を披露しますとマサオが代表して挨拶をする。 演奏が始まり「海岸線のホテル」を「タイツメン」は歌い始める。 会場の観客たちはほとんど無反応だった。 「ACE」の外の「ナックルズ」の移動バスの横で裸で立っていたメンバーたちは、互いに煙草を回し飲みしながら、苦笑していた。 その頃、ファインレコーズの会議室では、相変わらず、佐々木が重役たちから怒鳴りつけられていた。 楽器を壊し終えた「フレッシュフォー」の面々は全員、タイツメンの衣装を着ていながらも、何事かを成し遂げたような清々しい笑顔で歩いていた。 ジャズ喫茶「ACE」の前を、それぞれ、彼氏を作っていた妙子と明美姉妹が楽しそうに通り過ぎていた。 曲の途中から、観客たちは徐々に曲に乗って来ていた。 演奏が終わると、暖かい万雷の拍手が巻き起こる。 舞台袖で見守っていた梶井も惜しみない拍手を送っていた。 拍手はいつまでも鳴り止みそうにもなかった、 メンバーたちは感激し、全員で一礼をする。 1970年 春 日劇から「歌謡パレード’70」の生中継がテレビで放映されていた。 それを自宅の勉強部屋で見るマサオ。 画面の中では、大野ミクが、ソロヒット曲「ダイアモンド・ナイト」を歌っていた。 その曲を聞きながら、マサオはタンスから学生服を取り出すと、扉に引っ掻け、机の上に置いてあった学生鞄に教科書を詰める。 ミクの曲が終わり、その年、100万枚を突破し、レコード大賞最有力と言われている「あなたのフリをして」を歌い始めたのは、「大河内宗雄とフレッシュフォー」の4人だった。 |
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