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東京湾

中井貴一の父親であり、往年の二枚目俳優だった佐田啓二の企画第一回作品であると同時に、全くスターが登場しない異色の刑事ものの傑作である。

一応、西村晃が主役のようなポジションで、細川俊夫、織田政雄、三井弘次、佐藤慶、高橋とよ…と言った達者なベテラン役者で固められ、野村芳太郎ミステリ映画の常連のような加藤嘉も、意外な形でちゃんと登場しているが、このキャスティングだけでは、とても客を呼べそうな雰囲気がない。

しかし作品は、スタッフ、キャストロールのバックに写る、高島屋近くの路上で発生した狙撃事件の現場検証シーンから大掛かりなロケ撮影が行われており、力の入りようがただ事ではないことを感じさせる。

まず、電柱にぶつかって大破した車が路上に停まっている様子が再現されているのだが、その近くには刑事やパトカー、野次馬などが集結し、さらに、周囲のビルの屋上にまで数人ずつの刑事役が立っている。

モノクロ映像と相まって、あたかも本当の現場検証を観ているような雰囲気である。

事件はその後、妹を巡り感情的に対立している兄と恋人同士のバディ(相棒)ものに展開して行く。

さらに、捜査は、被害者が囮捜査中の麻薬捜査官だったこと、刑事の1人が偶然戦時中に命を助け合った旧友との出会いなど、次々に意外な展開をして行く。

犯人にも同情すべき不幸な過去があったり、今現在、知的ハンデを持った女性と同棲しているなど、泣かせの要素も混入されているし、画像の荒い8mmフィルムなども効果的に使用されている。

物悲しいアンハッピーエンドになっている辺りも印象的。

脚本の巧みさと演出の巧みさが見事にかみ合った秀作だと思う。

これまでタイトルすら知らなかった作品だけに、埋もれた傑作に巡り会えた幸運に感謝したくなるくらいの作品である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1962年、松竹、松山善三+多賀祥介脚本、野村芳太郎監督作品。

東京の空撮を背景に「東京湾ー」の文字

人口一千万のマンモス都市

この映画は、その激しい生存競争の一コマである

タイトル

東京湾から川を上る小舟

川を遡上するその小舟の乗組員から、何かを受け取った男武山(佐藤慶)は、停めてあった車に乗り込むと、とあるガソリンスタンドに来て、さっき船から受け取ったガソリンの小さな缶を所定に棚に置くと、その店の店主らしき男がその缶を手に取って店に持って行く。

武山は、車の運転手の佐伯(浜村純)に、次は午前11時に太陽ビルの前だ。目印はゴルフバグを持っているはずだと教え、1人で向かわせる。

指定の太陽ビルの前に来た佐伯が車を停め目印の男を待ち構えていると、突然どこからともなく狙撃され、思わずハンドルに突っ伏した佐伯はアクセルを踏んだため、電柱にぶつかって車は大破し、佐伯の死体が路上に転がり落ちる。

パトカーが急行し、現場検証を刑事たちが始める様子を背景にキャストロール

現場に出向いた荒牧捜査第一課長(細川俊夫)は、凶器はまず間違いなく猟銃だと部下の刑事から聞く。

荒牧一課長は、弾が天井を貫通している所から、狙撃者は、ビルの4階か5階以上上から撃ったに違いないと推理する。

しかし、周囲のビルの該当階をしらみつぶしに調べていた刑事たちから、それらしき場所は見当たらないとの報告が次々に届く。

近くに高島屋があるので、周囲のビルの窓から撃ったりすると、高島屋の屋上にいた人間から丸見えになるというのだった。

鑑識で指紋の照合結果を聞いた秋根信次刑事(石崎二郎)が、被害者は免許証の男に間違いないとの報告を電話で、現場にいた鈴木捜査主任(織田政雄)に知らせて来る。

鈴木主任は、築地署の誰かを応援に行かせると秋根に伝え、その後、ベテラン刑事の澄川登(西村晃)に、秋根のこと知っているだろう?手伝ってくれと頼む。

電柱に激突していた車を、急発進した場所へ押して移動させた荒牧一課長は、自分が運転席に座ってみて、天井に開いた銃痕から見える場所を探し始める。

そして、とあるビルの屋上に目をつけた荒牧一課長は、鈴木主任らを伴いその場所に登ってみることにする。

だが、そこも高島屋の屋上から丸見えと分かるが、その時、鈴木主任が、給水塔の陰から狙えば撃てるのではないかと言い出す。

しかし、実際にそこに立って銃を構えてみると、今度は狙った車が見えなくなることに気づく。

荒牧一課長は、一旦諦めかけるが、ふと銃の引き金を左手に持ち替える位置に立つと車が見えることを発見する。

ホシは左利きだと分かった。

佐伯のアパートの部屋を管理人(山本幸栄)から見せてもらっていた秋根は、佐伯がもう3ヶ月ばかり帰っていなかったことを聞かされる。

佐伯は、普段から何日も出かけていることが多かったという。

そこに澄川がやって来て合流したので、秋根は佐伯の写真を渡す。

管理人は、佐伯は1度だけタクシーを運転して帰って来たことがあると思い出す。

タクシーの名前は、確かカイシンとか何とか言ったと曖昧なので、秋根は電話帳で該当のタクシー会社が何カ所かあることを調べるが、澄川は、刑事は足で調べるんだと言って、どんどん歩いて行く。

快心タクシーでは、佐伯は1日だけ、運転手が病気になったので臨時に雇った男で、葵クラブから来たと言う。

次いで、ドライブクラブ「葵クラブ」に行って、秋根が主人(上田吉二郎)に佐伯を知らないか?と写真を見せるが、主人は、そんな男はここにはいない、間違いだろうと否定する。

遅れて入って来た澄川が警察手帳を見せると、急に主人は卑屈になり、その男は来り来なかったりで…とクラブにいたことを明かす。

その場にたむろしていた授業員たちにも佐伯の写真を見せ、この男を知らないかと聞くと、1人の男が、観たことがある。確か、「湖月」のミっちゃんという、きれいなんだかきれいじゃないのか良く分からない女がその男を訪ねて来たことがあると言い出す。

小料理屋「湖月」にやって来た秋根は外で情報を集め、澄川が店の中に入ってみるが、眼帯をした女将(高橋とよ)は、今日は休みだと言い、迷惑そうな態度で何を聞いても満足に答えようともしなかった。

さらに、あんた、どこの署のデカ?と聞いて来たので、さすがに澄川も正攻法では無理と感じ、一旦店を出る。

すると、外で情報を集めていた秋根が、ミツという女は、船橋の病院に入院しているらしいと教える。

2人は捜査本部に戻り、今まで判明したことを一課長と主任に報告する。

鈴木主任は、石川県からの報告として、殺された佐伯は戦時中特務機関にいたらしいと秋根に教える。

その時電話がかかって来たので、秋根が取って主任に渡す。

佐伯が乗っていた車は両国自動車販売の盗難車だったことと、ライフルの方は、射撃大会の入賞者クラスの腕前だと思われるが、現在左利きで入賞者はいないと言う報告が入る。

佐伯は45才で無職だという報告も入る。

丸善写真の増田(富田仲次郎)という男が、注文通りのブツが届きましたと依頼主の小川(加藤嘉)に電話をかける。

徳光精神病院という場所に来た秋根と澄川は、そこに入院していたミツ(村上記代)と言う女に面会を申し込むが、ヘロインの禁断症状と言うことで、佐伯の写真を見せた瞬間、発作を起こしてしまい、とても話を聞くどころではなかった。

その報告を聞いた鈴木主任は、麻薬患者か…と嘆息し、澄川刑事は、私の勘では今回の事件は麻薬に関係あるのでは?と推測を述べる。

仮眠室の横に置いてあった佐伯の遺体の腕を調べた澄川は、麻薬はやってないと確認して、秋根の隣に横になるが、勘なんて古いと思っているんだろうと自嘲する。

翌朝、警視庁から外回りに出る澄川と秋根の前に、1人の女性が現れる。

澄川の妹ゆき子(榊ひろみ)だった。

澄川の替え下着を持って来たのだが、ちょっと脱いでくれない、持って帰るからと言うゆき子の言葉に、そんな時間はないと歩き去る澄川、ゆき子は一緒の秋根の顔をじっと見つめるのだった。

澄川は、妹と時々会っているようだな?と秋根に問いかける。

その日2人は、タクシーの運転手らに話を聞いて廻り、麻雀クラブ「竜」で観たことがあるという情報を得るが、その麻雀クラブ「竜」に行って佐伯の写真を見せてもを、見たことないと言うことだった。

その後も歩き回って聞き込みを続けたが手掛かりがなく、再び「湖月」に向かった2人は、とりあえず酒を注文して様子を見ることにする。

今日は眼帯を取っていた女将に、「はこふん」って言うんだってな?と聞いても、知らないというだけ。

その時、澄川らの背後を通って武山がトイレに入る。

武山は、トイレの横壁にある秘密の通路から隣の部屋に入り込むと、そこには君子(楠侑子)が1人ソファに座っていた。

武山がキスをしようとすると、上にいるのよ!と君子は注意するが、武山は構わず抱きしめる。

その2階にいたのは、君子の目の不自由な亭主大野(穂積隆信)だった。

秋根は、なかなか武山が戻って来ないので、自分もトイレに立つ振りをして、ノックをするが、返事がないのでトイレの中に入り、壁の横の秘密の通路を発見すると、何食わぬ顔をして元に戻って来る。

100円勘定を払った澄川と店の外に出ると、先に出ていた客の2人に腕をつかまれ、車に乗せられる。

彼らが連れて来られたのは「厚生省麻薬取締部」だった。

「湖月」で飲んでいて澄川たちを連れて来た男は林麻薬取締官(三井弘次)と名乗り、あの店は以前から内定しているので…と謝罪する。

林は、殺された佐伯は自分の同僚の麻薬取締官であり、彼は囮捜査していたのだと説明し、明日、警視庁の保安課と麻薬取締部で合同捜査会議があるそうですと林は伝える。

会議では、荒牧捜査第一課長が、事件発生時の夜、麻薬捜査の囮捜査中だったことは保安課から知らされたと伝える。

続いて立った保安課の木村(土田桂司)が、今まで、麻薬は渋谷、新宿、池袋と言った山の手を中心に広がっていたが、最近は、千住、立石、小岩と言った荒川を挟んだ下町方面に広がっており、その方面に麻薬の組織の拠点が出来たらしいという。

厚生省麻薬官林が、これは、殺された佐伯が生前隠し撮りしていたフィルムで、画質は悪いが、犯人に繋がる人物が写っている可能性があると言いながら、8mmフィルムを映写し始める。

そこに写っている場所は、京成立石駅や本田立石町付近だった。

最初に写っていた女は、運び屋か売人の1人、続いて写ったクリーニング屋ははっきり運び屋だが、2、3ヶ月姿を消していると言う。住所すら分からない通称武山という男の姿が映った時、観ていた秋根は澄川に、湖月にいましたと耳打ちする。

「湖月」は、麻薬の連絡、販売、取引場所、麻雀クラブ「竜」は連絡場所だというので、秋根たちはまんまと騙されたかと反省する。

最期に写った佐伯の姿を、林麻薬取締官は親友だと言い、彼の霊が鎮まりますように、お願いいたしますと捜査員たちに頭を下げる。

麻雀クラブ「竜」にやって来た君子は、洗面所で水を飲んだだけで帰るが、すぐにマスター(南大治郎)が、その洗面所のコップの下に置かれていたメモを取り上げる。

その後、君子は「湖月」にやって来て、女将に頼まれていたものを買って来たと言いながら、納豆やおつまみなどを取り出し手渡そうとするが、その瞬間、客としてカウンターに座っていた男たちが立ち上がり、君子の手を押さえる。

君子の手には、買ってきた品物の下に明らかに白い薬が入ったビニール袋が握られていた。

地元署に連れて来られた君子は、刑事に事情聴取を受けるが、亭主は目が見えないんですと同情を誘う。

そこに、広瀬刑事(和地広幸)がその大野を連れて来る。

取り調べていた刑事は、武山はお前の何十倍も儲けているし、その上にいる奴はさらに何十倍も儲けているはずだ。悔しくないのか?と君子に迫るが、君子は頑として口を開こうとしない。

すると、大野が突然、武山の電話番号を知っていますと言い出し、刑事に番号を告げたので、驚いた君子は、殺されるわ!と亭主を止めようとする。

やがて、武山が捕まるが、その様子を、野次馬に混じって増田が目撃していた。

警察に連れて来られた武山に、鈴木主任が、佐伯をやったのは誰だ!と迫るが、武山は頑として口を割らない。

ポリグラフ(嘘発見器)にかけ、専任技師(末永功)が佐伯の写真を見せたりすると、明らかに反応があるが、秋根は捜査会議で、あのやり方はやがて慣れて来るから、武山は吐かないと思うので、泳がしたらどうでしょうか?と提案する。

鈴木主任は荒牧捜査第一課長に電話をし、秋根の意見をやってみることにする。

釈放された武山を、澄川と秋根が尾行する。

武山は浅草橋から地下鉄に乗り込む。

麻雀クラブ「竜」近くで、武山に気づかれそうになった澄川は「竜」の店内に逃げ込み、連れが後から来ると店主に断って身を潜めるが、その時、入口近くのテーブルで麻雀を打っていた人物の背中に注目する。

それは、軍隊以来の再会となる井上良平(玉川伊佐男)という男で、彼は左利きだった。

(回想)昭和19年7月19日 中国戦線

丘の上の中国兵に撃たれ、身動きが取れなくなっていた澄川は、撃って来る中国兵が1人、2人とどこかから撃たれて死んで行くのを目の当たりにする。

周囲を見渡すと遠くに小屋が一つあり、どうやらそこから撃っているらしかった。

とすると、すごい射撃の名手だということだ。

おーい!と声をかけ、その小屋に近づいた澄川は、小屋の中で1人、かろうじて生き残っていたらしき衰弱し切った井上と出会う。

(現在)本部に帰って来た澄川は鈴木主任に、その井上のことを左利きの射撃の名手で「竜」の常連ですと報告する。

やりにくくないか?と案ずる主任に、澄川は返ってやりやすい。自分は勤め人をしていると言っておいたし、あいつは西新井橋でボートハウスをやっているそうですと言いながら、井上が怪しいような勘がすると伝える。

一緒に話を聞いていた秋根は、井上が戦後、1年で、故郷の尾道を飛び出して来ているのが気になると言い、澄川は、今度の日曜日に会うことになっていると言うので、鈴木主任は、武山の張込みは交代させようと行ってくれる。

その頃、武山は増田と一緒に潜伏していた。

尾道

出張して来た秋根は、井上の実家で母親(岡田和子)に会う。

母親は、井上は神戸からハガキをもらったくらいで帰って来ることはない。昔、美代と言う人と結婚することになっていたが、終戦後、良平が戻って来た時には、もう別の人と結婚していた。その亭主の服部さんと喧嘩になって、たまたま近くに包丁があったものだから…と重い口を開く。

その服部(高木信夫)に会いに行くと、腕を斬られたことを匂わしただけで、妻の美代(富永美沙子)を呼ぶが、今頃、そんな古い話を聞かれても…と露骨に迷惑がられただけだった。

尾道簡易裁判所で当時の記録を読んだ秋根は、井上が傷害事件を引き起こしていた事実を突き止める。

結婚の約束をしていたと思っていた相手の美代は、井上と結婚の約束をした覚えなどない。当時、自分の写真を兵隊さんに渡すことは慰みになるなら…という理由でごく当たり前だと思っていたし、昭和20年8月に服部と結婚したときも何とも思わなかった。両親が死んで、当時女1人で生きていくには、嫁に行くか、パンパンになるしかなかったじゃないですか!と証言していた。

東京に帰った秋根は、直接澄川の自宅を訪れ、出迎えたゆき子に手みやげを渡す。

兄の澄川はまだ寝ていると言うゆき子は、たまには会って欲しいと言い、秋根の方も、今度話がある…と伝えるが、その時澄川が起きて来る。

澄川は、報告は本部でしろ。家にまで仕事を持ち込まんでくれと迷惑そうに言う。

それでも秋根は、確かに井上は臭いと思うが、ホシだとすると大変不幸な男だと思うと意見を伝える。

日曜日

井上のボートハウスにやって来た澄川に、井上は芳子(葵京子)を女房と紹介する。

そして、井上は芳子にビールとつまみを買いに行かせるが、その際、紙に「ハム、マヨネーズ、南京豆」などと品名を書いて渡す。

部屋の中の様子を見た澄川は、引っ越すのか?と聞き、井上は尾道に帰ろうと思う。秋には赤ん坊が生まれると答える。

ボートハウスに近くで様子を観ていた秋根の側を駈けて行った芳子が、紙切れの1枚を落としたので、それを拾って後をついて行ってみる。

酒屋でビール1ダースと書いた紙切れを店員に渡した澄子は、次の食料品店でスカートを探り出し、あれ?と困惑していたので、秋根が拾った紙を渡してやる。

芳子は喜んで礼を言い、店員にその紙を渡して楽しそうに帰って行くが、秋津が怪訝そうにその後ろ姿を目で追っていると、店員が、あの人はちょっとパーなので紙に書いてやらないと覚えられないんですよと教えてくれる。

どうやら、芳子は知的ハンデがあるらしかった。

井上は、俺は女で何度も失敗していると打ち明けていた。

それに対し、澄川の方も、俺は1度結婚に失敗していると告白する。

ちょっと井上が外に出た時、澄川は置いてあったゴルフバッグを開け、中に猟銃が入っていることを確認するが、その時、井上が戻って来てしまう。

澄川は照れ笑いしながら、何だ、ゴルフやっているのかと思ったら猟銃じゃないかと言いながらごまかす。

井上はお客さんの預かりものさと答える。

東京来るまで何していた?と澄川が聞くと、お前、軍隊入る前、警官だったなと井上は警戒する。

そこに澄子がにこやかに帰って来る。

井上は澄川に住所を書かせる。

その後、その住所に1人で行ってみた井上は、近所の主婦から、澄川は10年前から刑事をやっていると聞かされる。

その後、井上は競艇場で増田と接触する。

後日、再び澄川が遊びに来ると、ボートに乗らないか?と誘う井上は、ゴルフバッグを持って、一緒にボートに乗り込むと、澄子が見送る中出発する。

ボートハウスの側で監視していた秋根もその様子を見守っていた。

人気のない堤防にやって来た井上は、こんな会い方をするとは思わなかったと言い、澄川も、あの店で会うまでお前のことは忘れていたと告白する。

そんな澄川に井上はゴルフバッグから取り出した猟銃を向け、死んでもらう。俺は貴様が憎いんだ。何故戦友が俺を狙うんだ?と迫る。

澄川は追いつめられ、貴様が今度の事件に関係ないことを明かすためだ。俺をやったら、芳子さんはどうなる?俺の仲間もボートが出発したことを観ていたんだぞと必死に反論する。

井上は澄川に、美代の事件の後、お前に手紙を出したと言うが、澄川は忙しくて読めなかったんだと詫びる。

神戸を出た後、ひどい女に出会い、自分でも身体を売ってしまったと、銃を降ろした井上は過去を明かす。

そんな井上に、佐伯は囮の取締官だ。だから殺されたんだ。ホシは軽い気でやったのかもしれんが…と教えた澄川は、友達として出来ることは何でもやる。心配なら芳子さんは俺のうちで預かると説得する。

すると井上は、1日だけ待ってくれ。俺の方からお前に会いに行く。俺は戦地でお前を助け、お前に助けられたのかもしれんが、何もかもが無駄だったと思うと呟く。

本部に戻った澄川は、鈴木主任らに報告し、明日1日奴を泳がせると何かつかめるかもしれませんと進言するが、その直後、武山の死体が上がったと言う報告が届く。

秋根は責任を感じ詫びるが、鈴木主任も、自分らがやると判断したことだから気にするなと慰める。

それでも秋根は、井上のことが気になると心配するのだった。

その頃、井上は芳子に、先に俺だけ帰ろうと思うと伝えていた。

1人で大丈夫かい?と聞く井上に、芳子は大丈夫よと答え、2人は抱き合う。

何か困ったことがあったら、この前来た澄川という男に頼むんだと井上は言い残す。

澄川の家に来た秋根は、井上を泳がすのは危険ですと注意するが、吉田らが張っているので大丈夫だ。女房と2人きりの最後の夜かもしれんのに、俺に乗り込めというのか?と澄川は反発する。

あなたは、友情より逮捕することしか考えていないとしか思えませんと感情的になる秋根。

気まずい空気になったことを案じたゆき子が2人をなだめ、兄を台所の方へ連れて行くが、あいつは熱心で優秀な男だ。だからお前をやれんのだという澄川に、義姉さんが逃げたのは、兄さんが変人だかららよと言ったので、思わず澄川は妹の頬を叩く。

澄川は、俺はお前と秋根の交際を許さない。あいつは優秀だからいけないんだ。あいつだって、いつか友情より逮捕の方が大切になる。刑事なんてそんなもんだ…と言い聞かす。

小川は井上から電話を受け、金を払って欲しい。あんたとの縁を切ると言われたので、あんたの信用は出来るのか?と逆に問いかける。

公衆電話からかけていた井上は、信用できないのか?と聞き返し、取りに来いという相手の要求をはねつけ、届けに来て欲しい。場所は浅草松屋屋上の飛行機下、午後3時。目印はチェックのゴルフバッグと指定して電話を切る。

尾行していた吉田刑事(今井健太郎)は、井上の動きを鈴木主任のいる本部に連絡する。

井上は出かける前に芳子に、バッグを返して来ると告げていたそうだった。

ボートハウスを訪れた澄川は、井上は用事が終わったら、1人で尾道に帰るそうですと芳子から聞かされる。

尾道の海ってきれいなんですってね…と芳子は話す。

結婚してはじめてあの船に2本旗を付けて海に出たんです。そしたら東京湾に出たんです。その時、あの人は尾道の海はきれいだって言ったんです。私時々、まだ行ったことのない尾道の海の夢を見るんです。おかしいでしょう?と無邪気に芳子は話していた。

松屋の屋上にやって来た井上を、吉田を含む何人もの刑事が張っていた。

井上は、遊覧飛行機の下のベンチに腰を降ろす。

すると、隣に座っていた老人が、すっと新聞が身に包んだものを押し付けて来たので、井上も驚くが、すぐにそれをポケットに仕舞うと、すぐにエレベーターに乗り込んで逃走する。

それに気づいた刑事たちも後を追うが、もうエレベーターのドアは閉まっていた。

そのエレベーターの中に、増田が待ち構えていたことに気づいた井上は、女性がたくさん乗り込んで来た階で飛び出すと、隣のエレベーターに乗り移る。

その後、井上は銀座線の地下鉄に飛び乗る。

澄川は、芳子に電話だと近所の主婦が知らせに来たので、一緒に近くの公衆電話まで付いて行くことにする。

井上は、今用事が済んだ。うちに誰か来ているかい?と聞き、澄川?と聞くと、これから帰らずに尾道に向かうと伝える。

話を芳子の隣で聞いていた澄川は、その受話器を受け取ると、井上!俺との約束はどうしたんだ?と問いかけるが、井上は何も答えずに電話を切ってしまう。

背負っていたゴルフバッグを、その公衆電話ボックスの中に置いた井上はその場を去る。

本部に戻った澄川は荒牧捜査第一課長に、井上の逮捕状を請求して下さいと進言する。

タクシーで駅に向かっていた井上は、信号待ちの時、横に停まった車に増田が乗っており、自分を銃で狙っていることに気づくが、その直後、信号が青になり、タクシーが動き出す。

タクシーを停め、逃げ出した井上を、同じく車から降りて来た増田が追って来るが、その直後、道路を渡りかけていた増田は車に轢かれてその場に倒れる。

井上は最寄りの押上駅に逃げ込む。

ギャンブル場でゲームをやっていた小川は、全て順調だと呟いていた。

品川駅に到着した井上は尾道行きの切符を買うとホームに向かうが、そこに刑事が張り込んでいるのに気づくと、引き返す。

本部には、品川出発の夜行列車を全てチャックしていたが、どれにも井上が乗り込んだという報告が入らなかった。

さらに、横浜出発の列車も洗うが、こちらにも乗り込んだ形跡がなかった。

荒牧一課長は、これは見込み違いだったかもしれんぞと澄川に言うと、私も張ってみますと澄川が部屋を出て行ったので、意地っ張りな男だと見送った鈴木主任は苦笑する。

横浜駅に来ていた井上は、大阪行き最終列車に飛び乗る。

デッキに乗り込んだ井上はポケットから新聞包みを取り出すと、それを広げ、中に入っていた札束をジャンパーの内ポケットにしまうと、包んであった新聞紙を丸め、デッキのドアを開け外に投げ捨てる。

振り返った井上は、目の前に澄川が立っていることに気づく。

俺から逃げられると思っているのか?と問いかけて来た澄川に、芳子をせめておふくろに頼もうと思って…と井上は答える。

金は出来たのか?今ポケットに入れたのがそうか?と澄川が聞くと、そうだと井上が答えた瞬間、佐伯殺人の容疑者として逮捕すると叫んだ澄川は井上に手錠をかける。

金を受け取ったという今の言葉が聞きたかった。物的証拠が今までなかったんだんだと言う澄川だったが、井上は必死に抵抗して来て、2人はデッキ上で格闘を始める。

井上は、手錠の鎖を澄川の首に巻き付けしめ上げて来る。

そして、自らデッキから外に飛び出したので、澄川の手首につけた手錠は引っ張られて血まみれになる。

井上は片手を手錠に繋がれたまま線路上に叩き付けられて行く。

翌朝、手錠で繋がった2つのぼろぼろになった死体が鉄橋に引っかかっているのが発見される。

列車から転落した井上と澄川だった。

その死体の引揚げ作業を遠くから秋根と並んで見守っていたゆき子は、死ぬ前に私たちのことを許してもらいたかったと呟く。

秋津に近づいて来た荒牧捜査第一課長は、すぐ井上の奥さんに知らせてくれと声をかけて来る。

犯人ですか?と問いかける秋根に、荒牧一課長は、分からん。いずれにせよ、捜査はやり直しだと吐き捨てる。

ボートハウスにやって来た秋津は、芳子にご主人が…と話しかけるが、無邪気な笑顔の芳子は、今、6時でしょう?だったらちょうど神戸を走ってる頃ですと答える。

もし何かあったら、澄川さんに相談しろって言われてますと、住所を書いた紙を見せて来たので、それ以上何も言えなくなった秋根は帰りかける。

芳子は、2、3日したら帰って来ます。またいらして下さいねと秋根に声をかけ、愛犬のラッキーを連れ散歩に出かけるようだった。

秋根は無言で帰路についていた。