真夜中から、次の朝までの間に起こる一幕ものの人情劇といった所か。
派手さはなく、一見古臭いストーリーのようにも思えるが、底辺にあるテーマ性は今でも通じるものだと感じられる。
特に注目したいのは、「カフェースズラン」に、深夜の2時頃、民族服を着た朝鮮人と思われる花売りの幼子が訪れ、彦一が最後の花を買ってやるシーンが登場したり、後半の彦一の打ち明け話などに、在日の人たちの事がそれとなく描かれている点であろう。
戦前の在日の人たちの様子が伺える、貴重な内容だと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1940年、東宝、三好十郎原作、木村十ニ監督作品。 深夜の街角。 古い建物の二階にある「旭亭ビリヤード」という玉突き屋では、アコーデオンの音色に合わせて若い女性三人がタップの練習をしている。 アコーデオンを弾く青年は、外でこちらの様子を伺っているらしい浮浪者風の男たちの様子に気を取られ、何度も途中で曲を間違えている。 それに癇癪を起こしているのは、先ほどから、タップを踏んでいるこの家の娘で踊子のミルこと、お千代。 どうやら、外の連中は、この建物を取り壊そうと、何度も立ち退きの交渉に訪れている、悪徳ブローカー白木軍八郎(小杉義男)の手下連中らしい。 旭亭ビリヤードの主人、正宗彦六(徳川夢声)は、白木の手によって、強引に立ち退きをさせられている周辺の貧しい人々の事を考え、頑固なまでに立ち退きを拒みつづけている、元自由党の闘志だった。 そんな中、「カフェースズラン」では、女給のおあさ(清川虹子)が、主人のテツオと大げんかを始める。 そのけんか騒ぎの中、一人の酔客がこっそり店を抜け出す。無銭飲食だ。 そんな様子を、先ほどから見ていた人夫風の最後の飲み客。 二階から大きな物音が響いてきたのをきっかけに、席を立ちニ階の旭亭へ足を向ける。 彼こそ、長年行方知れずになっていた彦六の息子、彦一であった。 再会に狂喜する妹のお千代。 彦一は、現在更生し、府中付近で朝鮮人の仲間たちと真面目に生活し、子供も生まれたと彦六に報告する。 頑固一徹だった彦六の気持ちに変化が訪れる。
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