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博士の愛した数式

記憶が80分しか持たない特殊なハンデを持つ博士と過ごすことになる家政婦とその息子との心のふれあいを描いた静謐な一編。

一見、そんな博士と家政婦とのラブストーリーになるのかと思いきや、ラブストーリーは意外な方に仕掛けてある。

これは、男女の愛が、意外な運命によって別の愛情関係を生み出すという物語である。

もちろんそこにあるのは、通俗な三角関係と言ったようなものではない。

博士と家政婦とその息子の関係は、いわゆる男女間の愛情ではないからだ。

博士は記憶が続かない以上、通常の男女愛は成立しない。

彼の心に残されている愛情は、記憶を失う直前までの義姉への愛情なのである。

2人は、禁じられた愛の代償を払うかのように、共に身体的ハンデを背負わされ、その後、寄りそうかのように近くでずっと住み続けている。

そこに出現するのが、こちらも訳ありながらも屈託のない家政婦とその息子である。

義姉、博士、家政婦母子は、互いを補完し合うように、特殊な絆で結ばれるようになって行く。

数学音痴の私だが、「eπi+1=0」の足された1と言うのは、家政婦の息子ルートのことかもしれないと想像する。

禁断の愛を背負い続けて生きる義姉を演じる浅丘ルリ子の暗い演技と、対称的に明るく積極的な家政婦役の深津絵里の演技の対比。

博士を演じる寺尾聰の、何とも言えない味わいのある存在感。

いかにも誠実そうな先生を演じている吉岡秀隆、その少年時代を演じている齋藤隆成…、皆素晴らしい。

少年野球の監督役としてちらり姿を見せているのは、黒澤映画「どですかでん」の六ちゃんでもお馴染みの頭師佳孝である。エンドロールを観るまで、誰なのか分からなかった。

淡々とした日常生活の積み重ねでいながら、観ていて実に気持ちの良くなる映画である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2006年、「博士の愛した数式」製作委員会、小川洋子原作、小泉尭史脚本+監督作品。

(現在)教室で黒板に落書きしている生徒たちは、新しい数学の教師(吉岡秀隆)がやって来たことに気づくと、慌てて落書きを消し、席に着く。

教師は、黒板に消し忘れた自分の似顔絵らしき落書きを見つけ、もうみんな知っていると思うけど、これから1年、数学を教えるルートだと話し始める。

ルートと呼ばれるようになって19年…

今日は僕のことを話すからノートは取らなくて良い。

どうして、僕が数学を好きになったのか…

と言いながら、教師は窓から見える海に目をやる。

タイトル

(回想)母は結婚できない人を愛し、僕を生んだ。

家政婦をやりながら僕を育ててくれた…

いつも自転車を使って移動していたルートの母親の家政婦(深津絵里)は、家政婦紹介所の中では若手だったが、もう10年もやっているベテランだった。

そんな家政婦は、新たに紹介された家で、依頼人から仕事の説明をされる。

依頼人は裕福そうな家に1人暮らしの女性(浅丘ルリ子)で、足が悪いのか杖を使っていた。

彼女が言うには、世話をして欲しいのは離れにすんでいる義弟で、11時から7時まで、食事と身の回りの世話をして欲しいと言う。

ただし、離れと母屋の行き来はしないで欲しく、トラブルは全て、離れの中で解決して下さいと依頼主は告げる。

義弟にお会いしたいと家政婦が申し出ると、その必要はなく、実は義弟は、交通事故で頭を打って以来記憶が不自由になり、明日になると忘れてしまう。私の足もその時以来だという。

その交通事故は、1975年に2人で薪能を観た晩のことだったらしい。

だから、義弟にとって薪能は昨夜の出来事であり、私のことも10年前の姿が生き続けているのです…と説明する依頼人は、義弟の記憶はきっかり80分しか持ちません。月曜の11時からよろしいですね?と締めくくる。

博士(寺尾聰)がケンブリッジで数学を学び博士号を取ったのも、父親の残した織物工場を兄が大きくした経済的バックアップもあったからなのだが、その兄が亡くなった後は、兄嫁である依頼人が、工場の跡地にマンションを建て、その家賃収入で博士を助けて来たのだが、事故後は、博士も大学の職を失い、今では、離れで隠居生活のような暮らしを送っていた。

そんな離れにはじめて入って挨拶をした家政婦は、上着のあちこちにメモ用紙が留められている博士から、靴のサイズはいくつかといきなり聞かれる。

24と答えると、潔い数字だ。4の階乗だと感心される。

さらに、電話番号を聞かれた家政婦は、576-1455と答えると、博士は、1億までの間にある素数の数に等しいと又嬉しそうに解説する。

(現在)数学教師のルートは、今の話に出て来た「素数」や「階乗」と言う言葉の解説をし始める。

素数は、独立自尊、オンリーワン。博士を愛したのは素数ですとルートは言う。

(回想)3月31日(月)と博士の部屋の黒板には書かれてあった。

部屋の中で何か考え事をしていた博士に、昼食は何にしましょうか?と尋ねた家政婦は、言うべきことなど何もない。人が数式を考えている時に入って来るなんて、トイレを覗くようなもので失礼じゃないか!と博士から叱られる。

謝って、昼食にはチャーハンを出した家政婦だったが、博士はチャーハンの中の人参をきれいにどけ、数口食べただけで又自室へ戻って行く。

味など、全く気にしていない様子。

博士の黒板に、その日の日付を書き込むのは依頼人の仕事だった。

4月7日と書き込んだ依頼人は、良かったわね。ようやく春になって…と博士に話しかける。

その日、博士から、考えた数式を雑誌「ジャーナル オブ マテマティックス」に郵送してくれと頼まれた家政婦は、喜んで郵便局に出しにいく。

帰って来て、速達で出せば良かったですねと言うと、誰よりも早く真実に到達するのも大切だが、それよりも証明が美しくなければいけないと博士は答える。

そんな博士は家政婦の誕生日を聞く。

2月20日だと答えると、自分が昔学長賞を取ってもらった腕時計を外して裏を見せる。

そこにはNo.284と書かれてあり、黒板に「220」と「284」と言う数字を書き込むと、それぞれの約数を書き始める。

そして、それを合計した数字を計算してごらんと言うので、家政婦が計算すると、「284」と「220」と言う結果になる。

これは「友愛数」と言う滅多に存在しない数字で、神の計らいで生まれた美しい数字だと言う。

(現在)ルートは、友愛数を見つけたのはピタゴラスで、紀元前6世紀頃のことだと説明する。

すると生徒から、そんな昔から数学ってあるんですか?と言う質問が出たので、ルートは、数学は人間が生まれる前から存在し、人間は言葉に表せる一部を理解しているだけなのだと答える。

友愛数には、他に1184と1210があり、これは1861年に16才だったパガニーニが発見したものだから、君たちも自分で友愛数を発見してみないか?コツは諦めずに考え抜くことですなどと勧める。

(回想)どうやら博士が阪神ファンらしきことに気づいた家政婦は、うちの息子も阪神タイガースファンですと教えると、いくつだと聞いて来たので、10才ですと答える。

すると博士は、今誰がその息子を世話しているんだ?ああ、おばあさんがいるんだな…と独り合点するので、自分は息子と2人暮らしで、夫もおばあさんもいないと家政婦は打ち明ける。

すると博士は深刻な顔になり、母親は他人の晩飯を作っている。俺の晩飯だ。こりゃいかん。すぐに帰りなさい。明日から息子をここに連れて来い、夕食は3人で食べることと言い出したので、家政婦は戸惑い、でも規約が…と反論しかけるが、僕は忘れないよと言い、腕に付けていたメモに、新しい家政婦さん(似顔絵付き)息子10歳と書き込む。

翌日、博士の家にやって来た息子(齋藤隆成)は、君はルートだ。どんな数字でも匿ってくれると、出迎えた博士から頭をなでられる。

(現在)ルートと呼ばれたのは、頭が平べったかったからなんだけどねと自分の頭をなでたルート先生は、√-1とは何なのか?と生徒たちに問いかける。

すると、1人の女性とが、そんな数字はないんじゃないですか?と答えたので、ラファエロ・ボンベリという人が「i」を作りました。想像上の数字、つまり虚数ですとルートは続ける。

(回想)博士は、家政婦が料理を作っているのを興味深そうに観ていた。

そろそろルートが帰って来ますと家政婦が言うと、それは何だという顔を博士がしたので、自分の息子で、ルートとは博士が付けてくれた名前ですと家政婦は教える。

そのルートが家に来ると、博士は前と同じように、なかなか賢い心がつまっていそうだと褒める。

ルートも一緒に3人で夕食を食べている姿を、母屋にいた依頼人は観ていた。

そして、依頼人は、昔博士からもらった手紙を取り出して読み返す。

そこには「eπi=-1」と言う数式と共に、この数式が永遠に-1であるように、宿した命のしずくを取り戻すことは出来ません。道を踏み外した2人に、もう手を取る友達はありません。…愛するNへ

…と書かれてあった。

ある日、ルートは博士に頼みがあると言い出す。

ラジオを修理して欲しいと言うのだった。

テレビもなく、ラジオも故障していたのでは、野球が聞けないからだった。

プロ野球が好きなのか?と聞いた博士は、自分は江夏のファンだと言い出し、今の防御率はいくつだと聞いて来たので、ルートは思わず、トレードされ、引退したよと教えてしまう。

すると、博士は頭を抱えて苦しみ出す。

家政婦の母と一緒に帰宅する途中、ルートは、余計なことを話さなければ良かったと呟く。

母は、これからは、博士に、もうその話は聞きましたって言わないことにしようと約束し合い、明日になれば、博士の江夏はタイガースの江夏に戻るからと慰める。

ある日、あまりに天気が良かったので、家政婦は散歩でも行きませんか?その方が頭にも良いのでは?と勧めるが、博士は足の血流と頭の血流は別だよと答えただけだった。

それでも、桜が満開の近くまで一緒に散歩に付き合ってくれ、数学にもっとも近いのは農業だよ。畑に種を蒔いて苗を育てるように、数学もフィールドを選び、種を撒けば自然と答えは出て来る。大きくなる力は種の方にあるんだと教えてくれる。

野草を摘む家政婦を物珍しいそうに観ていた博士だったが、間もなくルートが帰って来ますと伝えると、君には息子がいたのかと驚き、こんな所でぺんぺん草なんか摘んでいる暇はないと言い、急いで家に帰るのだった。

博士は、ルートの算数の宿題を教えてくれたりもした。

(ルート先生の声)博士が教えてくれるのは数学だけではありませんでした。

野球も教えてと頼んだルートに、博士は、高2の時、県大会で負けてしまったと打ち明ける。

その時、家政婦が、私が発見した数式を話していいですか?と言い出し、28の約数を足すと28になりますと博士に伝える。

すると博士は嬉しそうに、6=1+2+3も同じで、それを「完全数」と言うのだと教えてくれる。

完全数も稀で、まだ30個しか見つかっておらず、28は江夏の背番号だよと言い出した博士は、1967年に10奪三振したなどと江夏の記録を付け加える。

(現在)完全数の意味を詳しく押していたルートに、野球も教わったんですか?との質問があったので、博士は大学の時、肩を壊したんだとルート先生は答える。

(回想)博士は、ルートたち、少年野球のチームに野球の基礎を丁寧に教えてくれた。

その間、博士の部屋の掃除をしていた家政婦は、埃をかぶった古い箱を見つけ、その掃除をしていたが、中には、阪神タイガースの野球選手の写真がたくさん入っていた。

ところが、その下には、昔、博士が書いたらしき手紙が入っていた。

「Nへ捧ぐ」と書かれた手紙の間には、依頼人と博士が若い頃一緒に写った写真が入っていた。

野球の練習中、フライを打ち上げた博士の珠を取ろうとしてバックしたルートは、野手と接触して倒れてしまう。

驚いて駆け寄った博士は、救急車を呼べと野球部の監督(頭師佳孝)に命じる。

病院で家政婦と監督と共に、ルートの診察が済むのを待っていた博士は、受付からサインペンと紙を挟んだクリップを借りて来ると、家政婦に直線を書いてごらん。心が落ち着くと言い出す。

言う通りに直線を書くと、直線には本来端がない。真実の直線はどこにあるか?それはここにしかないと言いながら、博士は自分の胸を叩く。

そして、家政婦が書いた直線に√と書き加えると、ルート記号は頑丈だ。あらゆる数字を保護してくれると教えてくれる。

診察室から出てきたルートを観た家政婦は、監督に向かい、どうして博士なんかに任せたりしたの!と声を荒げるが、一緒に出て来た医者は、適切な処置でしたと感心したように告げる。

病院から、ルートをおぶって家に帰っていた博士は、一番星を見つけたとルートに教える。

家政婦と博士とルートが3人仲睦まじく家に戻って来る姿を、母屋にいた依頼人はじっと見つめていた。

博士の家から帰る途中、家政婦である母はルートに、病院で言ったことは間違っていたと言い出す。

ルートも、あの時の博士の哀しそうな顔は忘れないとふくれていたが、母親が心から反省しているのを知り、その場で仲直りする。

ルートが、博士に野球を観に来て欲しいな〜…と呟くので、母親の家政婦は、背番号に工夫したらどうだろうと言い出す。

記憶が続かない博士のことを考えてのことだった。

後日、博士はルートと滝の側に来ると、落ち葉を使って「1」について教えていた。

ルートは母親と一緒に図書館のビデオサービスで、江夏がノーヒットノーランを達成した試合を鑑賞したりする。

いよいよ、ルートたちが参加した少年野球の試合を、家政婦と一緒に博士もやって来て観てくれる日が来る。

博士はもちろん、家政婦の息子が参加しているなどという記憶は既になかったが、ルートたちのチームが着ているユニフォームが阪神タイガースのもので、背番号には、博士がお馴染みの阪神の名選手たちの番号が付いていることに気づく。

ルートの背番号はもちろん「√」だったが、江夏の背番号「28」がないですねと不思議がる博士に、家政婦は、その番号は博士のために取ってあるんですと告げる。

ところが、試合後、博士は熱を出してしまい、家政婦は心配するルートと共に、博士の家である離れで終日看病することになる。

翌朝、朝食の支度をしていた家政婦は、博士が起きているので、寝てなきゃダメですよ。夕べは熱で汗をかきましたから下着を着替えて下さいと注意するが、博士は僕の記憶は80分しか持たないと言いながら泣き始める。

家政婦は、自分はあなたの手助けをする家政婦ですと自己紹介するが、博士は、僕は何の役にも立たないと哀しむ。

それで家政婦は、あなたは私の息子を助けてくれましたし、色々大切なことを教えてもらいました。永遠の真実は目に観えない。心で観るんだってと伝え、息子にルートという名前もつけて下さいましたとも話す。

博士は気を取り直したように、君の誕生日は?と聞いて来たので、2月28日と教えた家政婦は、博士の腕時計を押さえ、友愛の数ですと伝える。

すると博士は、その家政婦の手を握り返し、女の手は冷たいと思っていた…、このぬくもりだけでも…と呟くのだった。

ある日、家政婦紹介所に呼び出された家政婦は、所長(川比佐志)からクレームだよと告げられる。

とんでもない間違いを起こしたそうじゃないか。規則は知っているね?というので看病のためだった仕方がなかったと弁明するが、3泊もしたら勘ぐられても仕方ない。息子さんのことは特例だよと言う所長は、君には担当を外れてもらう。要望は義姉さんだよと告げる。

家政婦は、今日私がいなかったら…、博士は今頃一人ぽっちで…と心配するが、君の代わりがいるとは思えんが、やむを得んねと所長は言う。

その後、家政婦は別の会社の担当になるが、階段を掃除しているときなどにも、良く博士から教わった言葉を思い出していた。

川辺に1人来て思いにふけることもあった家政婦は、レストランで待ち合わせたルートから、どうしてもう博士の所へ行かないの?と聞かれたので、事情が変わったの。込み入った事情よと教えるだけだった。

それを聞いたルートは、ままは美人だから大丈夫だよと励ます。

ある日、会社で働いていた家政婦に、博士の家から電話がかかる。

自転車で急いで向かった家政婦は、博士の離れにルートが来ていることを知る。

新しい家政婦がお茶を出して帰ると、依頼人の義姉から、子供を義弟の所へ寄越すのは、何か意図があるの?と聞かれ戸惑う。

子供ですから、単に遊びにきただけだと思いますが?と答えると、義姉は、お金ですか?と言うので、家政婦はむっとしながらも、友達だからじゃないですか?と答える。

すると義姉は、義弟に友達などいませんと否定したので、私たちが最初の友達なんですと家政婦は答える。

義弟はあなたたちのことを覚えられませんと言い張る義姉だったが、博士と過ごす時間は大切なものでした。直線と同じ。心で観れば、時間は流れない…と家政婦が言い返すと、それまで黙って2人の会話を聞いていた博士が、いかん、子供をいじめてはいかんと言い出す。

子供は大人よりずっと難しい問題で悩んでいる。僕は失うものは何もない…と続けながら、博士は自分の上着に付いていたメモを全部はぎ取ってしまう。

あるがままを受け入れ、自然に任せて、一時一時を生き残ろうと思うと博士は言う。

そして、メモの一枚に何か書き込んで、テーブルの上を義姉の方に差し出してみせる。

そこには「eπi+1=0」と書かれてあった。

その後、家政婦と博士、ルートの3人は湖を見つめていた。

(現在)ルート先生は、この数式に付いて説明をする。

eはネピア数と言い、πと同じ無理数である。

eπiだけでは決して繋がらないが、これに1を足すと0になり、「無」に抱きしめられることになる。これをオイラーの公式と言い、これが博士の愛した数式です。

数式の美しさを説明することは難しい。感じることが大切なのだと博士は教えてくれました。

あなた方も数学にに愛情を持って接して欲しい…とルート先生は生徒たちに呼びかける。

(回想)母は再び、博士の家に行くようになりました。

久しぶりにか政府を出迎えた博士は、靴のサイズは?と又聞いて来たので、24、4の階乗ですと家政婦は答える。

ある日、家政婦は、「ジャーナル オブ マテマティックス」から、懸賞問題1等の知らせが届きましたと博士に告げるが、博士はすでに覚えていないようだったので、私は忘れませんよ。博士とはじめてお会いした日のこと。お祝いしましょう。皆でお祝いすると喜びが倍になります。私とルートが喜びたいのですと訴える。

5月18日は息子の誕生日なので、一緒に祝いましょうと勧めると、息子さんはいくつになるのかね?と博士は聞いて来る。

11の誕生日だと教えると、素数だ。村山の背番号だと博士は喜び、子供には祝福が必要だと言い出す。

ある晩、博士と義姉は一緒に薪能を観ていた。

その間、博士はそっと義姉の手を握り、義姉の方も、その博士の手を握り返す。

後日、義姉は、空にかかった虹を観ていた。

ルートの誕生日を博士の離れで行うことになる。

ルートは博士にプレゼントを渡す。

それは、江夏の背番号28の入ったジャンパーだったので、博士は大喜びする。

その時、ノックが聞こえたので家政婦が出てみると、そこに立っていたのは義姉で、義弟に頼まれたプレゼントのグローブですと手渡す。

家政婦はご一緒にいかがですかと誘うが、母屋の方に帰りかけた義姉は、今夜はご遠慮しますと言い、私が犯した罪は恥ではありません。親、親類、友達を捨て、授かった子を産む勇気あったら、2人の道も…。私は罪深い女ですから…、全て任せますわと告げる。

家政婦は、博士には感謝の気持ちで一杯ですと応えると、この木戸はこれからいつでも開いておきますと言い残して、義姉は母屋に帰って行く。

(現在)中学、高校、大学と、肘を痛めて野球を止めるまで、そのグローブを使っていましたとルート先生は話をまとめようとしていた。

でももっと大切なことは、博士と過ごしたありのままの時間です。僕は今も、博士の観た夢を追い続けている。

黒板には「時は流れず」と書かれてあった。

授業が終わると、女性との一人が、先生ありがとうございましたと感謝の言葉を言う。

ルート先生が外の海辺を観ると、そこには博士が誰かとキャッチボールをしているように見えた。

その浜辺の博士に挨拶に近づいたルート先生は、博士とキャッチボールを始める。

その様子を、近くの砂浜に座って、母と義姉が見守っていた。

キャッチボールをする博士は心底楽しそうな笑顔だった。

「一粒の砂に一粒の世界を…

   ウィリアム・ブレイク」


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