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戦国群盗伝('59)

1959年、三好十郎原作、山中貞雄脚本、黒澤明潤色、杉江敏男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

富士の裾野を拠点とする野伏の集団がいた。

彼らは、山塞で共同生活していたが、今日も戦利品を改めながら浮かれていた。

足柄の岩松(堺左千夫)は、女の移り香が残っている着物を自ら着ると、ふざけて仲間たちにしなだれかかる。

猿丸(山本簾)は、手に入れた鉄砲の使い方が分からないと仲間たちに聞いていた。

元出家していたと言う梵天(田島義文)が知ったかぶりをするが、実は何も知らないことが分かる。

近江の藤太(田武謙三)などは、自分は槍の使い手なので、そんな飛び道具など必要ないと強がりを言うだけ。

そこへ戻って来た首領治部資長(千秋実)が耳寄りな話を聞いて来たとみんなに知らせる。

山一つ向こうにある土岐の城から、明日辺り、小田原の関東管領家北条氏政に奉納する軍資金を運ぶらしいと言うのだった。

その時、猿丸が、鉄砲の火縄に火をつけ、引き金を引いてみた所、弾が発射したので驚いてしまう。

その銃声に驚いたのか、外に繋いでいた一頭の馬が山塞から逃げ出してしまう。

それを知った藤太は、帰って来たら、馬の手綱をしっかり縛っておくのが当たり前だなどと、人ごとだと思って嘲笑していたが、すぐに、逃げたのは藤太本人の馬だと知らされ、慌てて馬を追って山道を下って行く。

馬が走る先には、一人の侍がちょうど通りかかっていたので、藤太は大声で馬を泊めてくれと頼む。

すると、その侍は、向かって来た馬をなだめると、それにまたがって戻って来る。

藤太は安心し、馬を返してくれと頼むが、馬上の侍は、にやりと笑うと、そのまま馬を逆方向に走らせ、山を下って行ってしまう。

あっけにとられた藤太だったが、もはや遠ざかって行く馬を追いかける気力は残っていなかった。

山裾の農家に立ち寄った侍は、馬を買わぬかとその家の主人に持ちかける。

主人は、ちょうどこの前、馬を盗まれたばかりなので、助かると言いながら馬を見るが、その途端顔色が変わり、これはどこで手に入れたと侍に聞いて来る。

侍は、驚きながらも、甲斐の国の俺の家の馬だと抗弁するが、農民は嘘を言うな!これはおらの所から盗まれた栗毛だと言い、馬泥棒だと叫び仲間を呼ぼうとしたんで、侍は這々の体で逃げることにする。

町の飲み屋では、野武士たちが集まり、猿丸の吹く笛に合わせ、みんなで騒いでいた。

そこにひょっこり入って来たのが、先刻の侍で、腰に下げていた小刀を女中に渡して、これで、酒をくれと注文する。

そんな侍の顔を何気なく見やった藤太は、何となく見覚えがある顔だったのでじっと見つめ、侍の方も藤太の顔を覚えているようだったが、知らぬ振りをしていた。

しかし、とうとう二人ともはっきり思い出したのか、同時に立ち上がると「馬泥棒だな?」と互いに言い合う。

その騒動に気づいた野伏の仲間たちが、侍を取り囲み、表に出ろと気色ばむ。

それを止めたのは、首領の治部資長だった。

一旦表に出た侍を、再び飲み屋に呼び入れると、一緒に飲もうと酒を差し出すと、自分たちは、関八州を暴れ回る乱波(らっぱ)だと自己紹介する。

すると、侍の方も、自分は全国を又にしている甲斐六郎(三船敏郎)だと、威張りながら名乗る。

治部は、そんな六郎に、馬が大層達者だそうだな?とおだて、頼みたいことがあると話を切り出して来る。

土岐の城から運び出される軍資金を奪う手伝いをしないかと持ちかけたのであった。

その頃、土岐の城中では、城主土岐左衛門尉(志村喬)が、目の前に呼び寄せた息子兄弟の言い争いを治めようとしていた。

言い争いの原因は、弟の次郎秀国(平田昭彦)が、父親の名を使って、領民から、軍資金用の金を取り立てたことだった。

兄、太郎虎雄(鶴田浩二)は、領民を苦しめるようなことはするな。その金を作るために、我が娘を売った家もあったかも知れぬのだぞと注意し、弟次郎の世間知らずぶりを諌めていたのだった。

しかし、次郎の方も、軍資金を渡しておきさえすれば、関東管領家への当家の受けも良くなりますと反論する。

土岐左衛門尉は、自分は次郎を甘やかしていたかも知れぬ。明日、そちが軍資金を守って小田原へ出かけている間に、次郎には領内を回らせ、世間を良く観察させるから…と太郎に謝り、二人の仲を取り持つために酒宴の準備をさせると、小雪姫(上原美佐)に舞を所望する。

翌朝、土岐の城から、軍資金を積んだ馬と、それを警護するため、太郎と家臣らが出立するが、その様子を城の中から、左衛門尉と小雪姫が、心配げに見送っていた。

一人、奥の間に残っていた次郎は、兄上など、このまま帰って来なければ良いのだ…と独り言を漏らしていたが、その言葉に反応するかのように、家臣山名兵衛(河津清三郎)が姿を見せたので、今の言葉を聞かれたと察した次郎は叱りつけて下がらせるのだった。

出立した間もなく、太郎たちが警護していた軍用金の列は、野伏たちの襲撃を受ける。

軍用金を積んだ白馬を奪った六郎は逃げ出して行き、それを追っていた太郎は、一発の銃弾を受け、落馬した後、谷底に転落してしまう。

先に山塞に戻っていた野伏たちは、六郎の帰りが遅いのを心配し始めていた。

そもそも、あんな男に協力を頼んだのが間違いだったのでは?と、治部に視線が集まる中、馬が近づいて来るひずめの音がしたので、治部も安堵するが戻って来たのは白馬だけだった。

その頃、一人土岐の城に戻って来た護衛の一人は、山名兵衛と次郎に向かい、賊の襲撃を受け、軍資金を強奪されたと報告するが、その言葉を聞き終わった兵衛は、その場でその護衛を斬り捨ててしまう。

驚いた次郎が訳を聞くと、こやつ、太郎様が軍資金を横領して逃げたなどと戯言を申したので…と、兵衛はすました顔で答える。

それを聞いた次郎は、自分も護衛の言葉を聞いていただけに驚くが、兵衛の企みに気づいたのか黙り込んでしまう。

その直後、次郎はやって来た父、左衛門尉に、今兵衛が言った話をそのまま伝える。

左衛門尉は驚き、そんなはずはないので、そんなことを言う護衛は自分が問いつめ、斬ってつかわすといきり立つが、次郎は冷静に、父上の手を煩わすまでもなく、今しがた兵衛に命じて斬り捨てましたと報告するのだった。

太郎は一命を取り留め、助けてもらった谷川の側にある農家の家で、体力を回復していた。

農家には、父と二人暮らしの田鶴(たづ-司葉子)と言う、今年17になる「山猿」のようにおてんば娘がいた。

田鶴は、初めて出会った太郎に淡い恋心を抱いていたが、正気を取り戻す前、熱に浮かされていた太郎がうわごとで何度も呼んでいた「小雪」と言う名前がずっと気にかかっていたらしく、谷川にやって来た太郎に小雪の素性を聞こうとするが、太郎が答えないと、かんしゃくを起こし、石を岩に打ち付けて割ると、子供のように逃げて行く。

太郎は、助かった今なお、この親子には自分の素性を明かしていなかったのだった。

土岐の城には、関東管領家よりの使者畑山(清水一郎)が軍資金はどうなっていると問いただしに訪れていたが、左衛門尉は、先月12日に間違いなくこちらを出立したと言葉を濁すだけだった。

その時、横に控えていた次郎が、実は、護衛に付いていた兄、太郎が軍資金共々行方をくらましたのだと話してしまう。

それを聞いた畑山は驚き、草の根を分けても太郎を探し出し、当方で成敗して良いな?と確認して来る。

使者が帰った後、次郎は差し出がましいことをした父に詫びる。

部屋に戻った次郎は、兵衛から、太郎から手紙が来たと見せられたので驚くが、盗賊に軍資金を奪われたので、取り戻すまで待ってくれと書かれてあると内容を教えた兵衛だが、あなたのお望み通り、兄上は2度とこの城には戻りますまいと言いながら、その手紙をその場で燃やしてしまう。

町の酒屋の前には、軍資金を横領して逃げた太郎を捕らえたものには銀2貫を与えると書かれた高札が掲げられていたが、それを面白そうに読んでいたのは治部たち野伏たちだった。

その後、いつもの飲み屋に入ると、そこで一人酒を飲んでいた六郎を見つけたので、治部たちは唖然とする。

六郎の方は、治部たちを観ても驚いた風もなく、愉快そうに、今日は自分がおごってやるからみんなで飲もうなどと言う始末。

軍資金はどうした?と治部が問いただすと、ある場所に隠してあると六郎は平然と答えるだけ。

あまりにも人を食った六郎の態度に、野伏たち一同は気色ばんで詰め寄ろうとするが、そこにふらりと入って来たのが太郎だった。

藤太は、太郎に向かって、危ないから出て行けと促すが、客は全く気にする風もなく飯を注文したので、藤太は太郎につかみかかろうとするが、逆にはねとばされてしまう。

それに気づいた他の野伏たちも太郎に詰め寄るが、太郎は難なく、全員を店の外に放り投げてしまう。

この様子を観ていた六郎は愉快がり、一緒に飲もうと太郎を誘う。

太郎は表に出て、自分のことが書かれている高札を読み始めるが、店を出て来た六郎も一緒に読む。

あんなのは嘘っぱちだと言いながら、店に戻る太郎だったが、その様子を通りかかった見回り役人が気づき、仲間たちを呼びに走る。

飲み屋に戻って来た六郎は、あの太郎と言う人物は自分の幼なじみであり良く知っていると、太郎に自慢し出す。

太郎は面白がり黙って聞いていたが、六郎は、太郎と言う奴は武芸全般に優れた奴だが、馬だけはまずい…と言うので、どうまずいんだ?と太郎が聞くと、ちょくちょく落ちるのよと六郎は愉快そうに笑う。

そこに、役人たちがなだれ込んで来て、土岐太郎だな?と聞いて来たので、立ち上がった太郎はそうだと答える。

それを聞いた六郎は目の前にいたのが、あの時自分を追って来た太郎本人だったと知り驚愕する。

役人たちは、支配所まで同行願いたいと迫るが、太郎は自分はそのような所に行く覚えはないと拒否し、つかみかかって来た役人と争い始める。

君子危うきに近寄らずと、店の奥に身をよけていた六郎だったが、すぐに太郎を応援し、太郎を店の横から連れ出し、自分のねぐらに連れて帰る。

しばらくここにいて良いと言う六郎に感謝した太郎は、明日からは、ここをねぐらにして御用金を探すと言うので、六郎は複雑な気持ちになる。

軍資金を奪った奴の顔を覚えているのか?と聞くと、覚えていないと太郎は言うので、配布が出回っているので、うかうか外になぞ出られぬぞと注意し、万一軍資金を見つけたらどうするつもりだと六郎が聞くと、そっくり管領家に差し出すと言うので呆れてしまう。

しかし、太郎は真剣で、土岐の浮沈がかかっているのだと言う。

そんな太郎に隣の部屋で寝るように勧めた六郎だったが、なかなか寝付けないのか、本当に軍資金を奪い返すつもりなんだなと確認し、太郎が寝床から肯定すると、よし!と言うなり、鍬を持って太郎の部屋に来ると、絶対怒らないと約束しろと言い出す。

何のことか分からない太郎は、立腹などするはずがないじゃないかと言いながら、六郎に促され裏庭に出る。

そこでさらに六郎が、「絶対怒るなよ。約束だ。金打(きんちょう)だぞ」と言いながら、自らの刀の鍔を鳴らして念を押したので、太郎も呆れて「金打(きんちょう)だ」と答えながら、同じく刀の鍔を鳴らす。

そんな太郎に庭の土を掘らせながら、実は盗んだのは俺だと六郎は告白する。

それを聞いた太郎はさすがに驚き、剣に手をやろうとするが、怒ぬな、金打したではないかと約束したではないかと六郎になだめられると、腹立ちを押さえるしかなかった。

その頃、玄関口から六郎のねぐらに侵入して来た治部たち野伏たちは、裏庭で穴を掘りかけていた二人を発見し取り囲む。

彼らは、飲み屋からずっと、六郎の動きを監視していたのだった。

しかし、これは俺の金だと太郎が立ちはだかったので、酒屋でやられた客だと知った治部は名乗れと迫る。

太郎が名乗ると、治部はさすがに驚くが、六郎もこいつは俺の竹馬の友だ、見殺しには出来んと立ちはだかったので、野伏たちは諦めるしかなかった。

翌朝、軍資金を積んだ馬を連れ、六郎と共に土岐の城に帰ることになった太郎は、俺の城に来ないか?せめて父や弟と会ってくれと六郎に勧めていたが、途中で待ち受けていた管領家である宮崎家の役人たちに囲まれてしまう。

支配所に連れて来られた太郎は、すぐに戻って来るからここで待っていてくれと六郎を門前に残し中に入って行く。

しかし、夕方まで待っていた六郎は、門番(谷晃)が門を閉めようとし始めたので、慌てて、太郎虎雄はどうした?と聞くと、すでに入牢になったと言うではないか。

牢の中に入れられた太郎は、牢番に宮崎様に取り次いでくれと必死に頼んでいたが、全く相手にされなかった。

山塞では、藤太らが踊って盛り上がっていたが、そこに諸君たちの尽力を願いに来たと六郎がやって来たので、今更なんだと、野伏たちは取り合おうとしなかった。

しかし、六郎は、勝手に言いたいことを述べ始める。

太郎虎雄 が、宮崎主水の手のものたちに捕まり、今縛り首になろうとしている。見るに忍びん。金を横領したのは誰だ?と力むので、そいつはお前だろうと茶々が入る。

土岐家の画策の生け贄になろうとしている太郎をどう思う?

わしらは乱波だが、こうした薄汚い連中に比べると、よっぽど純情無垢だ!と言葉を続ける六郎の熱意に打たれた野伏たちは、次々に「太郎を助けよう!」と声を上げ始める。

翌日、六郎と野伏たちは、宮崎家の支配所を襲撃し、太郎を救い出すが、他の牢に入れられていた罪人たちは無視される。

山要塞に連れて来られた太郎だったが、自分は城に戻ると言い出したので、全員不思議がるが、六郎だけは「戻りたがる理由は女だな?」と言い当ててみせる。

その後、土岐城の門前にたどり着いた太郎は、戸を叩き、名乗って開門を迫るが、開けようとした門番たちを山名兵衛が止める。

その直後、銃声が響き、左腕を撃たれた太郎が振り返ると、管領家の捕り手たちに取り囲まれていることに気づく。

さらに、次郎を呼べと門番たちに叫ぶ太郎だったが、その声に気づいて駆けつけて来た小雪が門を開けようとして兵衛に止められる。

小雪は懐剣を抜き、兵衛に立ち向かおうとするが、難なくはねのけられ、お家のためでござると言われてしまう。

兵衛は、さらに外の太郎にも聞こえるように、御用金を横領した罪人を城に入れるような訳には参りませぬと伝える。

自分の城の門前で窮地に追い込まれた太郎は、捕り手の足軽の槍を奪い取って応戦するが、そこに駆けつけて来たのが、六郎と野伏たちだった。

その馬に乗り、山に戻る途中、休憩した太郎は、今こそ目が覚めた。血には血をだ!と言いながら、自分に頭に巻かれていた血染めの布をはぎ取って野伏たちに掲げると、今後自分は、槍も太刀も鎧もすべて、この血の色に染めて戦うと決意を述べたので、それを聞いていた六郎も面白がり、血の中から若大将が生まれたぞ!俺たちも血染めの騎兵になって権力や権謀術数と戦うのだ!と気勢を上げる。

こうして、深紅の衣装に身にまとった太郎虎雄を首領とする義勇軍「天城の赤鬼」軍団が誕生する。

彼らは、軍資金を襲撃し、奪った金を農民たちにばらまくので、近隣の農民たちからは「天城の赤鬼様だ!」と敬われるようになる。

すぐさま、「天城の赤鬼」たちを捕らえたものには賞金を与えると言う高札が立てられるが、それをあざ笑うかのように、赤鬼軍団は、高札をなぎ倒して行く。

そうして持ち去った高札を的にして、山塞では、藤太らが矢の練習用の的にしていた。

それを見物していた猿丸が、ただ高札を打つだけでは面白くないので、管領の「管」の時を狙って命中させてみろとちゃかしたので、それに乗りかけた藤太だったが、自分を始め、その場にいた仲間たちは、誰一人として字を読めないことに気づくだけだった。

抗兵衛(小杉義男)は、ただで見ているのも面白くないので、何かを賭けないか?と言い出し、今度襲う須賀山村の庄屋の娘を賭けるのはどうかと言いかけ、女犯を禁じている規律を思い出したのか、慌てて打ち消す。

そんな話を聞いていた治部も、太郎が唱える義勇軍の窮屈さに飽き飽きし始めていたので、谷川の側にある家に若い娘を見つけたと梵天にそっと教える。

梵天も規律があるので、女犯は慎むべしと注意するが、その時、太郎がいつものように一人で遠出に出かける。

太郎が頻繁に出かけていたのは、あの田鶴の家だった。

一方、商や襲撃に出かける途中、治部は梵天に、娘のいる谷川近くの農家の位置をそっと教える。

谷川に散策に出かけた太郎に付いて来た田鶴は、太郎の素性と、どうして毎晩ここへ来るのか?と問いかけるが、太郎はただ、ここに来ると気が休まるのだと答えるだけだった。

そんな太郎に抱きついた田鶴だったが、太郎が反応しないのを知ると、やはり、小雪と言う女性には勝てないのだと悟り悲しむ。

その頃、小雪姫は、毎日城の窓から外を眺めては太郎のことを案じていたが、その様子を見ていた土岐左衛門尉は、噂では、太郎は山賊郎党に身を落としているらしいと教えるが、小雪姫が信じるはずもなかった。

その頃、一人酒を飲んでいた次郎の側に来た兵衛は、何を怯えておられます?次は父上の番ですと父親抹殺を示唆し、戦乱の今、殺すのが正義、奪うのが正義、なぜ小雪姫を奪われませんと付け加える。

田鶴の父親が、今、須賀山の庄屋が赤鬼様たちに襲われたと痛快そうに報告に来るが、それを聞いた田鶴は、泥棒は所詮泥棒よ。大将は偉くても、その内、手下の中から、本当の泥棒が生まれて来るに違いないわと言い、それを聞いていた太郎は、身につまされていた。

その後、太郎は馬で山に帰りかけていたが、田鶴の家に忍び込んで来たのは、襲撃を終えた帰りに抜け出して来た治部と梵天だった。

驚く父親と田鶴に、自分たちは天城の赤鬼だと名乗り、娘を差し出せば命だけは助けてやると治部は迫って来る。

その時、胸騒ぎを感じて戻って来た太郎が玄関口に立ったので、治部と梵天は仰天して逃げ出して行く。

しかし、田鶴の父親は殺害されており、泣き伏せる田鶴に、太郎はかける言葉もなく、逃げた二人を追いかけるしかなかった。

翌日、山塞に戻っていた太郎は見るからに力を落としていたので、六郎は訳を聞くが、仲間を全員呼び集めてくれと太郎は命ずる。

その頃、昨日逃げ延びた治部は、管領家の捕り手たちを連れて山塞に向かっていた。

自分を罰せられる前に、仲間を皆殺しにしようと裏切ったのだ。

六郎が全員呼び集めたと太郎に報告すると、治部がいないはずだと太郎は指摘する。

確かに、治部の姿が見えないので、全員不思議がっていたが、太郎は、昨夜、治部と行動を共にしていた奴が知っているはずだと皮肉る。

それを聞いた梵天は、自分のことだと分かっていたので、こんな窮屈な組織にいられるか!盗人が女を盗んでどこが悪い!と急に開き直ると、外に出て行こうとするが、その途端、銃声が響き、梵天は倒れてしまう。

到着した捕り手たちに撃たれたのだった。

太郎は、治部が裏切ったと明かし、それを聞いた野伏たちは皆驚くが、太郎は落ち着いて、囲みを破って逃げようと皆に言い聞かす。

しかし、捕り手たちは、山塞の藁葺き屋根に火矢を放ち、中にいる連中を全員いぶり出そうとする。

煙で火を放たれたことを知った六郎は、腹ごしらえをしている最中だったが、水をかけて消すように仲間たちに命じる。

そんな中、耐えきれなくなって外に飛び出した3人の野伏は、待ち構えていた鉄砲隊に全員撃ち殺されてしまう。

水を消す水も切れたので、外にある馬用の水を取りに出た者たちも狙いすまされたように撃ち殺されてしまった。

覚悟を決めた太郎は、逃げ延びられたものは、今から一ヶ月後、乙女峠の頂上で会おうと六郎らに注げ、全員、山塞を散り散りに飛び出して行く。

次の瞬間、山塞は焼け落ちてしまう。

翌日の夜、治部は一人、いつもの町の飲み屋で酒を飲んでいた。

裏切った代償で手に入れた金で飲んでいたで、気が大きくなった治部は歌など謳い始めるが、その歌に唱和するように店に入って来た男がいた。

甲斐六郎だった。

それに気づいた治部は、ずいぶん景気が良さそうだなと言う六郎の言葉にちょっと慌てるが、必死に平静を装い、夕べは大変だったとこぼす六郎には、そうだってな…、おれは留守だったので助かったが…とごまかし、ところで、頭はどうした?と聞いてみる。

すると、六郎は、その頭からの頼みでお前を捜していたのだが、お前に鉄砲の使い方を教えてくれと言うのだと言いながら、藁に包んで持って来た鉄砲を出してみせる。

やって来た理由を知った治部は、自分のことがバレた訳ではないと思い一安心すると、その火縄に火をつけて引き金をこう引けば良いのだと余裕で教えてやる。

それを聞いた六郎は、その言葉に素直に従うように、火縄に火をつけると、にわかに銃口を治部に向ける。

次の瞬間、銃声が響き、女中たちの悲鳴が重なるが、飲み屋を出て来た六郎は、又、鼻歌を歌いながら去って行くのだった。

ある日、心痛で寝込みがちだった土岐左衛門尉は、次郎に誘われて、供を連れず、二人きりで遠出をする。

馬を下り、崖っぷちに立った土岐左衛門尉は、お前にとって山名は、家来なのか主人なのか?と次郎に切り出す。

どうも、最近のお前の行動には合点がゆかん。この数年の間、何か陰謀の匂いがする

わしは、この崖から飛び降りるつもりでお前に聞くが、お前は何か、大きな過ちを犯したのではあるまいな?と問いつめるが、黙って父親の側に近づいて来た次郎は、いきなり父親の身体を崖に突き落とす。

土岐左衛門尉が崖から転落死した知らせを受けた小雪姫は、神棚を拝んでいたが、そこにやって来た山名兵衛は、太郎殿が管領家のために亡くなられましたと告げると、これよりは一時も早く、次郎殿とのご縁談を承知されるのが、亡き太郎様への何よりの御回向かと…と勧める。

しかし、太郎は生き延びており、一ヶ月後、乙女峠の頂上に馬でやって来る。

集まっていた元仲間たちの数は激減していたが、六郎を始め、猿丸なども生き残っており、とりあえず仮作りの住まいに太郎を招き入れる。

小屋に入った太郎は、部屋の隅に寝かされてる身知らぬ老人に気づくが、聞くと、谷川に倒れていたのを猿丸が助けて来てやったが、もう助かるまいと言う。

とりあえず、再開を祝って、酒を飲み始めた太郎だったが、横笛を吹く猿丸の腰にぶら下がった刀を目にとめる。

その刀は?と聞くと、寝かせている老人が下げていたものだが、もらって悪かったのなら返すよと差し出したので、良く見ると、やはり見覚えのある父、土岐左衛門尉の刀だと分かったので、驚いて、隣の部屋に寝かせられていた父親を確認する。

しかし、いくら呼びかけても、もう土岐左衛門尉は息絶えていた。

その様子を観ていた六郎は、おぬしの父は弟の手に酔って崖から突き落とされたのだと告げる。

ここに運ばれて来た土岐左衛門尉が、おのれ次郎、親を崖から突き落とすとは…と、何度もうわごと言っていたと言う。

一緒に聞いていた仲間たちも、その通りだと頷く。

それを聞いた太郎は、一人馬で出かけて行く。

それを見送っていた六郎は、仲間たちに向かい「大将を見殺しにするな!敵は土岐の城だ!」と時の声を上げる。

太郎が、土岐の城に向かっている同じ頃、城の中にいた小雪姫は、懐剣で自らの胸を突き、自害していた。

山名兵衛から、血の付いた小雪姫の懐剣を見せられた次郎は、山名兵衛に激高していた。

あの姫を得たいがために、お前の言いなりになって来たのを…、その姫がいなくなったのでは、もう生きていけん…と力なく崩れ落ちる。

では…と言いながら、血の付いた懐剣を手に取った兵衛は、その切っ先を次郎に向け、殿もこれよりは私にとって邪魔者に過ぎません。今夜よりは私がこの城の主ですと宣言すると、静かに出て行く。

そんな兵衛に、駆けつけて来た門番が、太郎様が戻られましたと報告したので、開けてはならんと禁ずる。

一人部屋に残った次郎は、兄上が…、姫が…と独り言をつぶやきながら部屋を出て行く。

門の前には、六郎たち野伏たちも集結し、猿丸らは、さっさと石垣を登って中に入ると、内側のかんぬきを抜いて門を開く。

城の中に入った六郎は、城主の部屋を見つけると、そこに座って、呼び鈴など鳴らして浮かれてみるが、そこにやって来たのは山名兵衛だった。

六郎は、愉快そうに歌を歌いながら、右手一本で刀を操る。

兵衛は、燭台の火を消すが、次の瞬間、六郎の手によって斬られてしまう。

一方、次郎を探し求めていた太郎は、小雪の死骸を発見し、驚きのあまり固まってしまう。

そこに、燭台を手に現れたのは次郎だったが、目の前に兄が戻ったことにも気づかぬ様子で、小雪の死骸の側に座ると、ろうそくの火で姫の顔を照らし、姫が笑ったなどと喜び出す。

完全に気がふれていた。

そんな次郎に話しかけようとした太郎だったが、抵抗した次郎は燭台の火を、小雪にかけてあった打ち掛けに落としてしまい、火がついたので慌てて外に放り投げる。

次郎は、窓から落ちていった火の付いた打ち掛けを姫とでも思い込んだのか、それを追うように、自らも窓から身を投げ出してしまう。

驚いた太郎が下を見下ろすと、燃える打ち掛けの側に、転落死した次郎が横たわっていた。

富士山の裾野に作った二つの土山に石を置いた墓に手を合わせた太郎は、同行した六郎に、今や、上杉と武田が競い合う時代だ。行くか?新しい地を求めて…と問いかけると、おう!行こうと、それに応じた六郎は、固く太郎と握手する。

やがて、その場を走り去って行く野伏の一団の後ろ姿があった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦前の1937年、P.C.L.と前進座で製作した滝沢英輔監督版のリメイクであり、カラー作品になっている。

元々の作品も、黒澤の「七人の侍」(1953)に影響を与えたのではないかと思われるようなシーンがいくつか出て来るが、このリメイク版では、その黒澤が潤色を担当し、山中貞雄が脚本を書くと言う贅沢な布陣となっている。

話の流れは、ほぼオリジナル版と同じと言って良い。

オリジナル版の一方の主役で、どう観ても、後年の三船のイメージに重なるキャラクターである六郎を、リメイク版ではやはり三船自身が演じ、もう一人の主役である太郎虎雄には鶴田浩二が扮している。

小雪姫を演ずるのは、この作品の前年作品「隠し砦の三悪人」(1958)で雪姫を演じた上原美佐である。

カラーで観る上原美佐と言うのも珍しいが、もう一人のヒロインである、司葉子演ずる田鶴が、まさにその「隠し砦」での雪姫を連想させるような男勝りのキャラクターとして登場しているのが興味深い。

残念ながら、この作品での上原美佐も、表情、芝居とも固く、あまり魅力的なキャラクターになっていない。

一方の田鶴の方も、途中から姿を消してしまい、こちらも印象が残るキャラクターになり得ているかと言うと微妙で、こうした女性像の描き方があまり成功していないのは、監督のせいなのか、脚本や潤色に原因があるのか、悩む所である。

では、オリジナル版で、いかにも三船そのものと言ったイメージだった六郎を、三船本人が演じた印象はと言えば、これも実は微妙で、豪放磊落で人を食ったようなキャラクターは、確かに三船にはぴったりなのだが、ぴったりしすぎていて、逆にあまり印象に残らないような気もする。

後年の三船が、「三船敏郎のイメージを演じている三船自身」と言った印象が強かったのと同じ印象を受けてしまうのだ。

特にこの話の場合、途中から、主人公は明らかに鶴田浩二演ずる太郎の方に移行しているため、よけいに三船の印象が弱くなっている部分もあると思うのだが…

他にも小さなアレンジは数シーンに見受けられ、例えば、仲間を裏切った治部が一人酒を飲んでいるのは、オリジナル版では豪華な料亭だが、リメイク版では、いつも野伏たちが入り浸っていた馴染みの飲み屋になっている。

ここも、果たして、裏切った仲間が生きていてやって来るかも知れない酒場などで落ち着いて飲めるだろうか?と言う疑問が起きる。

又、小雪姫が自害した後、この作品では、平田昭彦演ずる次郎が気が触れてしまう…と言う辺りは新しい工夫で、それなりに興味深いのだが、いかんせん演出が平板で、次郎の鬼気迫る最期の悲壮感が今ひとつ出ていないのが残念だったりする。

他にも、オリジナル版では、服毒して自決した小雪姫が、リメイク版では懐剣で自らの胸を突く方法に変わっていたりするが、一番注目したアレンジは、太郎を自分のねぐらに招いた六郎が、夜中に裏庭に呼び出し、埋めておいた軍資金を掘り出そうとするシーンである。

オリジナルにもこのシーンはあり、六郎が太郎に向かい、決して怒らぬと約束させる所も同じなのだが、その時「金打(きんちょう)だぞ」と言いながら、刀の柄を少し持ち上げ、鍔をかちりと鳴らす行為が加わっている。

「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」(2002)での、井尻又兵衛としんちゃんの「金打(きんちょう)」の元ネタは、これではないかと直感した。

これまで、「金打(きんちょう)」などと言う言葉や動作が出て来る時代劇を他に観たことがないからだ。

この作品の全体の印象としては、特に面白くなったと言う訳でも、特につまらなくなったと言う訳でもなく、ほぼ同じような出来だと言う気はするのだが、リメイク版は既に観て知っているストーリーを繰り返して観ているという点や、オリジナル版の方には最初に観たインパクトがあるなどと言う比較論特有の有利不利を十分考慮したとしても、やはり、この作品もオリジナル版の方が微妙に面白かったように感じる。

どこかどう悪いと言うこともないのだが、やはり、リメイク版のいくつかのアレンジ部分は、どれもあまり成功していないような気がするのだ。

黄金期に錚々たるスタッフやキャストで作ってもなお、オリジナル版を知って観てしまうと、リメイク版は分が悪いと言うことが分かった。

とは言え、深紅の衣装に身をまとった「天城の赤鬼」が失踪するシーンなどは、カラー作品独特の醍醐味であると同時に、後年の黒澤作品「影武者」とか「乱」などを連想させる部分があったり、リメイク版にはリメイク版なりの見所もあるので、特に、この作品の方を最初に観た人などは、又全く違った感想が出て来ると思う。