TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

陰日向に咲く

2008年、「陰日向に咲く」製作委員会、劇団ひとり「陰日向に咲く」原作、金子ありさ脚本、平川雄一朗監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

夏、蝉がなく中、都心の新宿…

そこには、一台の観光バスが停まっており、その運転席では、シンヤ(岡田准一)が、朝食のジャムパンなど、こまめに購入金額を計算しながら食べていた。

別の都心部の歩道脇では、一人のサラリーマンリョウタロウ(三浦友和)が携帯を見入っていたが、横断歩道から降りて来る一人の異様な姿の男を見つけて驚く。

ホームレスのモーゼ(西田敏行)だった。

新宿を出発した観光バスは、秋葉原で休憩を取っていた。

自動販売機で購入した缶ジュースを飲もうとしたシンヤは、路上のモニターに映る「武田みやこ(平山あや)」と云うアイドル映像の前で、夢中になって見入る三人のオタクの姿を見る。

ゆうすけ(塚本高史)、つよし、はじめの三人だった。

浅草浅草寺にやってきたシンヤは、路上を転がって来る百円玉に気づき、思わず足で踏みつけるが、その直後、百円玉を探しながら近づいて来た若い娘を見て、その百円玉を返してやる。

礼を言って帰りかけたその娘は、今度は、ここで買い求めたらしい縁結びのお守りを落としたので、又拾ってやる。

その娘と別れた直後、シンヤに気のあるバスガイドから、自分のキスマーク付きお守りを渡されたので、仕方なく受け取る事になったシンヤ。

青和観光バス会社に戻って来たシンヤは、節約して浮かせた給料を二万円、所長(北見敏之)に渡そうとするが、社長は、借金返済に回せ、パチンコはまだやりたいのか?と言われる。

もう止めたと云いながら、二万円を受け取ったシンヤだったが、その後、所長と交した「ギャンブルをしない、借金をしない」などと書き連ねた誓約書を想い出しながらも、ついパチンコ屋に入ってしまう。

一方、浅草ゴールデンホールと言うストリップ小屋の前に、先ほど百円玉とお守りを落とした娘が立ち尽くしていた。

タイトル

二万円を元手に始めたパチンコは、面白いように確変を連発し、すぐに大量の玉が溜るが、それで止めておけば良いものを、シンヤはいつもの癖でさらに続けてしまい、すっからかんになる。

サラ金に金を借りに行くが、彼の名は既にブラックリストに載っているので…と断られる。

ゆうすけ、つよし、はじめの三人は、同じレンタルビデオ店で働いていた。

はじめが、ミャーコこと武田みやこにファンメールを送ろうとしていたのを発見したつよしは、メールなど邪道で、ファンレターこそファン道の極みだと主張し、店長のゆうすけの顔を見るが、ゆうすけは、ミャーコは、25になっても新聞で読むのはテレビ欄だけと云うくらい世情に疎いので、世の中の事を分かりやすく解説したものを送っていると話し、二人を感心させる。

金を失い、夜道を帰りかけたシンヤは、道ばたにいた猫にちょっかいを出そうとして、唸られ、驚いて後ずさった所に、チャリが通り抜けたので、避けようとして、ゴミ収集所のポリ袋の中に転げ込んでしまう。

その時、彼は、浅草ゴールデンホールに入ろうとしているあの娘を発見、慌てて駆け寄って声をかけると、一緒にストリップ小屋の中に入る。

何か訳ありと感じたシンヤだたが、彼女の方から、池田寿子(宮崎あおい)と名乗ったので、自分も沢渡シンヤだと自己紹介する。

寿子が説明するには、この劇場に35年前に出ていた漫才コンビゴールデン鳴子・雷太の一人が、自分の母親鳴子(宮崎あおい-二役)で、その相方だったのが雷太(伊藤淳史)と言う青年だったのだと、当時の舞台写真を見せながら打ち明ける。

母親の日記を読んだ所、東京での想い出が書かれており、昭和47年母親はここ浅草でライタに会ったのだと、寿子はシンヤに、当時の集合写真を見せる。

昭和47年、集団から離れ、幸せを呼ぶ金の打ち出の小槌のアクセサリーを買い物をしていた鳴子の前に突然、一人の青年が近づいて来て、「屁をすると金をくれる犬は何?プードル!」と突然話しかける。

それが、芸人の卵だった雷太だった。

唖然とした鳴子は、お笑いのネタを考えている所だと云う雷太が、その後もしつこく「屁」ネタばかりを連発するので、全く無反応で聞いていたが、頭に来た雷太が、これが本当の「ガス欠だ!」と自分の尻を、鳴子の顔に近づけて来たので驚いてしまう。

しかし、その直後、雷太は、近くにいた男から暴行を受け、鼻血を出したので、鳴子は思わず、その鼻血をハンカチで拭いてやり、ついでに彼の鼻の頭にキスをしてやる。

その後、一旦国に帰った母だったが、又、上京して、ゴールデンホールに乗り込むと、一人でストリップの踊り子、ジュピター小島の紹介をうれしそうにやっていた雷太に声をかけ、二人でコンビを組んで、日本一のお笑い芸人になるんやと、一方的に申し込む。

母の顔を忘れていた雷太は、急に自分に近づいて来た彼女に驚くが、その勢いに押される形で漫才コンビを組んだのだと寿子は説明し、今、その雷太を見つけたい。届かなかった母の思いを伝えたいと言う。

その話を聞いたシンヤは、良かったら手伝いましょうか?と、思わず口走ってしまう。

リョウタロウは、自宅で、スーツなどを切り刻み、ぼろぼろの衣装を作っていた。

さらに、ヅラまで各種かぶってみたりするが、似合わないので、髪はそのままにする。

出来上がったボロの服を着て、すっかりホームレスの姿になったリョウタロウは、夜の公園に出向くと、顔なじみのモーゼが仲間らと寝ている側に近づいて行く。

すると、モーゼがいきなり、寝ろ!絶対に目を開けるな!とささやきかける。

訳も分からず、言う通り、モーゼの側に横になり、目をつぶって寝たふりをしたリョウタロウらの側に、近寄って来た一人の若者が「立派なお家ですね」と声をかけ、逃げて行く。

続いて、仲間の別の一人らしき青年が又近づいて来て、彼らをからかうような言葉をかけて逃げる。

リョウタロウは、必死に、モーゼに言われた通り、目をつむったまま、寝た振りを続けていたが、三人目に近づいて来た娘が、急に「おっぱい見ますか?」と言葉をかけて来たので、その場にいたホームレスたちは、一斉に「え!」と目を見開き、彼女の方を振り向いたので、驚いた娘は逃げて行ってしまう。

しかし、これがきっかけとなり、リョウタロウは、すんなりホームレスの仲間に入る事が出来た。

リョウタロウが「モーゼ」と呼びかけると、意外にも、モーゼは、自分がかつて、モーゼと呼ばれていた由来を仲間たちに話し始める。

30年前、人生に行き詰まり、滋賀県の琵琶湖近辺にいた事があり、その時、天に向かって「何でやねん!」と突っ込んだら、琵琶湖が二つに割れて、その中から女神が出て来て「こんにびわ」と言ったのだと云う。

それを聞いた他のホームレスたちは、モーゼの大ボラは有名だとリョウタロウに教える。

モーゼはそれでも、昔、アメリカ兵を殴って、相手を悶絶させたと自慢話をリョウタロウに聞かせる。

その頃、シンヤは、アパートに帰り着いていたが、借金取りが二人、入り口の前で待ち構えているのに気づくと、裏から廻り、部屋の横窓から中に入ろうとするが、気づいた借金取りに捕まり、自宅に連れて行けと迫られるが、それは出来ないとシンヤが断ると、アルミサッシの窓枠で手のひらを何度も挟まれると云う拷問を受けたので、泣きながら詫びるのだった。

何とか許されて部屋に入ったシンヤは、そこに置いてあった桃缶を見て、母親が病院んで亡くなったときの事を想い出していた。

8月7日、ラジオでは、刻々と近づく台風の情報を伝えていた。

その日も、シンヤは、観光バスに水をかけ洗っていたが、そこに所長が出社して来る。

秋葉のイベント会場で、その日の振り付けを相談していたゆうすけ、つよし、はじめは、いきなり、ショーの開始を告げられ焦ってしまう。

会場には、彼ら三人しかいなかったからだ。

しかし、幕が開き、後ろ向きのポーズから、ミャーコが「振り向キッス」を歌い始める。

動揺する三人は、次の瞬間、振り向いたミャーコが唖然とする顔を見てしまう。

会場に、ファンが三人しかいない事を知ったミャーコは、ショックのあまり、歌も途切れがちになる。

その姿を見たゆうすけは、いきなり携帯を取り出すと、「みんなどうした?もう始まっているぞ?何?電車が停まった?」と、必死に一人芝居を始める。

モーゼとリョウタロウは、ある天気の良い日、草原に寝そべっていた。

何が見えるとモーゼが聞くので、雲が見えるとリョウタロウが答えると、損な表現じゃダメだと云う。ぽっかり浮かんでいると云うと、ここじゃ、もっと自由で良いんだよとモーゼはリョウタロウに諭す。

その直後、リョウタロウの携帯が鳴り出したので、慌てたリョウタロウは、その場から走って、モーゼから距離を取ると、「今は休暇中だ!」と一歩的に言って切る。

寿子は、ゴールデンシネマと云うピンク映画専門館の上映室に訪れていた。

一緒に付いて来て外で待っていたシンヤに寿子は、そこで上映技師をしていた男(本田博太郎)は、探していた雷太ではなく、ゴールデンホールの元支配人だったと教える。

彼から聞いて所によると、鳴子と雷太の、ジオ出演が決まった時、支配人は鳴子に、雷太には才能がないときっぱり伝えたと言う。

鳴子と雷太は、一緒に自転車に乗って川辺に来たが、川縁に佇んでいたストリッパー、ジュピター小島(緒川たまき)に気づいた雷太は、鳴子を残して、さっさとジュピターの側に駆け寄って行く。

その後、コンビは解散したのだと言う。

その解散には、ジュピターが関わっていたらしい。

話を聞き終えたシンヤは、その縁結びのお守り、ご利益ありましたか?と寿子に聞きながら、自分の財布を開けた時、そこに入っていたローン会社のカードを目に止める。

ホームレス向けの炊き出しが行われた日、公園では、今、鳴海と云う探偵が来て、野球選手川島の父親を探していると噂になっていた。

その時、リョウタロウは、横で食事をしていたモーゼが、何故か顔を伏せるのに気づく。

レンタルビデオ店では、つよしとはじめがが恋の話をしており、ゆうすけにも体験談がないかと聞いて来る。

ゆうすけは、自分が小学五年の時、クラスの女の子からはじめて声をかけられ、彼女に恋をしてしまった事を打ち明ける。

しかし、彼女に話しかけられないまま3年が過ぎ、彼女は急に引っ越す事になってしまった。

花を持って、彼女を見送りに来たゆうすけだったが、女友達たちが、彼女の車を見送っていたので、気後れして後ろの方でもじもじしているうちに、彼女の乗った車は走り出してしまう。

勇気を奮って、その車を追いかけた祐介だったが、途中で転んで、持っていた花束を落として泣いてしまったのだと言う。

しんみり話し終えたゆうすけは、つよしとはじめが、雑誌に読みふけっており、全く話を聞いてなかった事を知る。

しかし、二人が興奮しながら読んでいたのはテレビ雑誌で、何と、あのミャーコが、いよいよゴールデンタイムの番組に出る事を知り、驚喜する。

シンヤは、その日アパートに帰ると、借金取りが勝手に部屋で待ち受けており、シンヤの背後から羽交い締めにして来ると、俺の言う通りにしてみな…と、耳元でささやいて来る。

その後、公衆電話に入ったシンヤは、電話に出た相手に、「俺だけど…」と話しかける。

相手は警戒し、電話を切る。

もう一度気を取り直し、再度電話したシンヤは、又「オレだけど…」と話し始めると、相手は「オレオレ詐欺か!警察に通報するぞ!」と怒鳴ったので、慌てたシンヤは、公衆電話ボックスから飛び出して、ちょうど近づいて来たモーゼとぶつかってしまう。

シンヤは、「この顔忘れて下さい!」とモーゼから顔を隠すように逃げ出し、物陰に隠れる。

シンヤは、近くから聞こえて来たパトカーの音に怯える。

しかし、自分には関係ないと分かると、もう一度電話ボックスに戻り、リダイヤルボタンを押す。

「先ほどのものですけど、どうしても謝りたくて…」と切り出すと、先方の声は女性に変わっており「ケンイチなの?」と聞いて来るではないか。

とっさに、「そうだよ」と答えたシンヤは「母さん、実は金が…」と言い出すが、相手が急にしゃっくりをし出したので、きっかけを失う。

相手が、どうやったらしゃっくりが止まるだろうと聞くので、水を飲んだり、ビックリすればと云うと、じゃあ、驚かしてくれと云う。

仕方なく、何度か電話口で「わ!」と叫ぶと、しゃっくりが止まったらしい相手は、ところで、何の話だったっけと言うので、シンヤは「別に…」と言葉を濁して電話を切る。

ミャーコが出る番組は「爆笑生活百科」と云うバラエティだった。

ホームレスたちは、モーゼが、段ボールハウスの中に、川島の記事をたくさん隠し持っていた当噂が広がっていた。

モーゼこそ川島の父親であり、100万長者の仲間入りかよと、みんなをうらやましがらせる。

そんな中、悩んでいる様子のモーゼに、無理に戻らなくても良いのではないか、難しいから、家族って…とリョウタロウは言葉をかける。

モーゼの方は、まだまだ捨ててないものあるんだろう?ここには、そんなもの、みんな捨てて来いやと、リョウタロウにアドバイスする。

「爆笑生活百科」でのミャーコの役所は、サラサラ血液と対決するドロドロ血液のドロ子の役だった。

テレビで、その悲惨な様子を見つめる祐介たちは凍り付いていた。

全身タイツで、どろんこのセットの中でもがき、あまつさえ、登場して来た「血液サラサラ食品役」のメンバーたちから、パイを投げつけられると云う汚れ芸人レベルの役立ったからだ。

それでも、ミャーコは、画面に向かいドロ子役を熱演していた。

その姿を見ながら、何とかしなければと焦ったゆうすけは、パソコンの番組ページを開くと、その投稿欄に、次々と別人を装い、ドロ子に感動したなど、ミャーコを応援するメッセージを打ち始める。

シンヤは、又、公衆電話からあの見知らぬ女に電話を入れると、相手が風邪を引いたと聞き、それなら桃缶が良いなどと話しかけ、又、母親の事を想い出していた。

電話先の女は、お金がいるんじゃないのと聞いて来る。

この時ばかりと、シンヤは、実は50万ばかり…、ちょっと事故っちゃって…と言ってしまう。

すると、意外にも相手の女は、そのくらいだったら用立てで来そうだと云うので、調子に乗ったシンヤは、後輩に取りに行かせるから、次の休みの日でも…と付け加える。

相手の女は、日曜日は花火だねと云うので、連れてってやろうか?と言ってしまう。

いつしか、相手の女性に母親像を重ねていたシンヤは、本心から、彼女を花火大会に連れて行ってやろうと思っていたのだった。

公園では、モーゼを送る会が開かれていた。

そこに、探偵に連れられて、川島選手()がやって来る。

モーゼと対面した川島は立ち止まったまま動こうとはしない。

耐えきれなくなったモーゼは、良いよ…、オレはここに残る。やっぱり行けねえよと言い出す。

全部捨てたんだから…、20年前、家も仕事も名前も、そしてお前たちも…

こんなオレなんかが幸せになったらおかしいわ。オレなんか、毎日腹空かして、寒い寒いって言いながら死んで行くのが道理なんだ。今さら、どのツラ下げて、お父さんでございますなんて付いて行けば良いんだと独白する。

それを黙って聞いていた川島選手は、ボクは正直、あなたを許す事が出来ないと切り出すが、でも、許す努力をしようと思います。母さんが、最後まで愛した人だから…。

行きましょう、お父さんとモーゼに近づく。

感激したモーゼは、川島選手と並んで公園を後にする。

それを見送るホームレスたちは、「おっさん、元気でな」と一斉に拍手をし始め、リョウタロウも、いつしか手を叩いていた。

台風情報では、本土に接近中の台風12号は、10日頃、九州に上陸したと報じていた。

シンヤは、いつものように、パチンコにふけっていたが、その現場を上司に見つかってしまう。

掴まえられ会社に戻って来たシンヤは、所長に借りた50万円返すと弁解する。

しかし、所長は、お前に貸した50万円を出したのはオレじゃない。ここにいるみんなのカンパなんだと怒鳴りつける。

その時、シンヤの目の前にいる同僚たちは何も言わなかった。

シンヤも、何も言い返せなかった。

シンヤに片思いのガイドは、黙って「クレジット、サラ金相談所」のチラシを手渡す。

その相談所に出向いたシンヤは、相談員に、昔からパチンコが好きなんですと話し始める。

昔から、何をやってもぱっとせず、うちでは子供の頃から、家族みんなで、裏庭の桃の木の横で毎年写真を撮るような事をやっていて、そんな親の期待に応えられない自分が嫌で、やがて写真を撮らなくなったんだけど、その母親が2年前に死んだんだが、それ以後、かえってパチンコをする回数が増えてしまったと説明する。

その話を記述していた相談員は、では後は弁護士の先生に…と言いながら席を立つ。

その後にやって来て立ったのは、寿子だった。

目を見合わせた二人は凍り付いてしまう。

シンヤは、相談所から逃げ出し、寿子が追って来る。

シンヤは、母親は常日頃から頭が痛いと云っていたが、僕たちは気にしなかった。

ある日、母は脳梗塞で倒れ、延命治療をするかしないかの話になって、オレが桃缶を買って来ている間に、親父が、呼吸器を外させてしまった。

あいつは、母さんを見捨てたんだ。許せねえよ、オレ!と吐き捨てる。

後ろから付いて来た寿子は、でも、お父さんは、1年前にあなたの借金を返済してくれているじゃないですかと質問する。

そのまま、パチンコ屋に入ってきたシンヤに、寿子はなおも、お父さんとちゃんと話合って…と説得しようとするが、聞く耳を持たないシンヤは、弁護士に何が分かるんだと切れる。

寿子は、縁結びのお守りをそっとシンヤに渡し、お父さんと合えると良いですねと言い残して、パチンコ屋を後にする。

リョウタロウは、自宅に戻って来て、家族と一緒に写った写真立てを見つめていた。

第27回大東京花火大会の日、台風は和歌山に接近、関東でも早ければ今夜辺りから暴風圏に入るとニュースが報じていた。

寿子は、事務所で「沢渡伸也」の書類を見ながら、じっと考え事をしていた。

窓の外では花火があがっていた。

横断歩道橋の上で、電話の相手の女を待っていたシンヤだったが、相手が現れないので、又公衆電話から電話してみるが、出て来た女は風邪をこじらせて…と咳き込んでいる。

シンヤは、待って!オレが何とかするから…と電話口で叫ぶ。

リョウタロウらホームレス仲間も、公園のベンチに座り、花火を見ていた。

仲間の一人が、子供はいるのかとリョウタロウに聞く。

その直後、リョウタロウの携帯が鳴り出すが、すぐにスイッチを切り、「もういません」と答える。

シンヤは、無人の自宅前に立ち尽くしていた。

リョウタロウは、奴は借金ばかり繰り返して…と話し続ける。

帰って来ないあいつを待ってイライラして…

その内、待つ事すら苦痛になってきて…、もうあいつを待つのを止めました。

シンヤは、自宅に入り込み、金を物色するうちに、ゴミ駕篭に捨てられた家族写真の写真立てを発見する。

シンヤは、父親の仕業と気づき、激怒すると、写真立てを鏡に映った自分の姿目がけて投げつける。

リョウタロウは、全部捨てましたと仲間たちに答える。

自宅を出て、外の公衆電話に近づこうとしたシンヤは、ポケットから小銭を取り出そうとして道路上にこぼしてしまい、それを拾おうとして屈んだ所に自動車が突っ込んで来たので、慌てて転んでしまう。

台風の影響なのか、雨が降り始める。

シンヤは、寿子から渡された縁結びのお守りを握りしめ泣き出す。

その頃、寿子の携帯が鳴る。

相手は、元ゴールデンホールの支配人で、アドレスが分かったと言う。

しかし、それは雷太の事ではなく、ジュピターの居所が分かったと云う連絡だった。

公衆電話に入り、女に電話を入れたシンヤだったが、出て来た聞き覚えのない女は、親戚の方ですか?自分は大家だが、山村さんは救急車で運ばれたが死んだと言う。

パソコンで、メールチェックをしていたゆうすけは、あの武田みやこ本人からメールが来ている事に気づき読んでみる。

「いつも応援ありがとう。この間も、電車が停まった振りをしてくれてありがとう。あのネットの書き込みもあなたがやってくれたのではありませんか?そうだとしたらありがとう。私、本名は武田よう子と云い、日ノ出町に住んでました。あなたは、あのゆうすけ君ではありませんか?良かったら、今度、一緒に食事でもしませんか?」と書かれていた。

台風の中、シンヤは、亡くなったと云う電話の相手、山村と云う女性のアパートに向かっていた。

その時。母親と一緒に歩いていた男の子が持っていた黄色い傘が風に吹き飛ばされるのを目撃する。

バスで、ジュピターの居場所に向かう寿子も、その黄色い傘が飛ばされているのを観ていた。

リョウタロウは、モーゼから譲られた段ボールハウスを必死に風から守ろうと補修していた。

ゆうすけたち、アイドルオタク三人組も、風に飛ばされる黄色い傘を見ていた。

黄色い傘は、空高く舞い上がって行く…。

秋葉原のイベント会場に着いたゆうすけたちは、会場を埋め尽くすファンの数に唖然となる。

ついに、ミャーコは、テレビの「ドロ子ネタ」でブレイクしたのだ。

ゆうすけが配られた整理番号は「093」番だった。

「拝啓ボクのアイドル様、ボクが初恋の相手と出会ったのは4年前、昔からあなたはボクのアイドルだったね…」

握手会が始まり、93番目にゆうすけの番が回って来た時、彼に気づいたミャーコは、メール読んでくれた?と語りかける。

ゆうすけは、花束を渡し、これからも応援します。頑張って下さい!と答えただけだった。

ミャーコは、複雑な顔で、ありがとう…と答える。

晴れやかな顔で会場を後にするゆうすけは、「拝啓ボクのアイドル様、みんなのアイドル様!」と心の中で呟きながら笑っていた。

シンヤが持っていたビニール傘は、強風で壊れてしまう。

しかし、ようやく目的地「隅田区京島四丁目」のアパートに「山村」と云う名前を見つける。

その時、突然アパートから出て来て鉢植えの片付けをし出した大家(根岸季衣)は、シンヤを見るなり、葬儀とかどうするつもり?うちも店子商売だから、いつまでも部屋を片付けられないと困るのよねと愚痴られる。

恐る恐る山村の部屋に入ったシンヤは「山村さんに挨拶を…」と中に声をかけるが、遺体の前には、一人で座っている喪服の男の後ろ姿があった。

男は、モーゼだった。

その頃、公園のモーゼの段ボールハウスの中で寝ていたリョウタロウは、いきなり入って来た見知らぬ男から「ここは俺の家だ」と蹴り飛ばされる。

「ここはモーゼの…」と反論しかけたリョウタロウは、その見知らぬ男が、奥に置いてあった川島選手の記事を懐かしそうに手に取りながら、これでも、ムショ帰りのオレの大切な息子なんだと云うのを聞いて、全てを悟る。

モーゼが川島選手の父親の振りをしたのは、いつもの大ボラだったのだ。

その頃、川村と云う女性の遺体の前に座ったシンヤは、モーゼから、昔、アメリカ兵を殴った話を聞かされる。

この川村と云う女性は、昔、浅草のストリッパーで、自分は売れない芸人だったとも。

昔、自分は相方の女性に叱られた。

その相方は、金の小槌のお守りを自分を元気づける為にくれた。

しかし、自分は、ジュピターと云うストリッパーの家に行き、同棲していたアメリカ兵に喧嘩を売って、逆に殴り飛ばされたのだと言う。

その時、顔は腫れ上がり、片足を痛めた自分は、いつものように練習をしていた相方に、芸人を辞めると伝える。

そのままストリップ小屋を去りかけた自分の後ろから、舞台上の相方は声をかけてくれた。

「うち、見つけるけ。必ず又、雷太の事、見つけるけ…」と。

オレには、鳴子さんほどの情熱はなかった。オレはただこの人と…と、モーゼは遺体を見ながら泣き出す。

ジュピターさんの側に来たかっただけなんだよ。だから舞台に立ったんだ。浅草で芸人になろうなんて思ってもいなかった。鳴子さんには悪い事したよなぁ…。今頃、どこで何やってんだか…とモーゼは独白する。

「違います!」と、突如声が響く。

ドアの所に、いつの間にか寿子が立っていた。

母も同じなんです。ただ、あなたの側にいたかっただけなんです…と、寿子は続ける。

あなたは、母の初恋の人でした。あなたに会いたい一心で上京し、ようやくあなたを見つけました。元々内気な母親は無理をしていました。慣れない舞台に無理矢理立って、一生懸命勉強し、必死にあなたの夢を叶えさせようとしました。母の夢は芸人になる事じゃなかった。あなたが母の夢だったんです。

そう言いながら、モーゼに近づいた寿子は、持って来た袋から、金の小槌のお守りをモーゼに手渡す。一つではなかった。袋の中にたくさんの小槌が入っていた。

それを手のひらに全部持たされたモーゼは号泣し出す。

もう一度、鳴子さんに会いたかった…モーゼは泣きながら呟く。

会ってやって下さいと答える寿子。

モーゼは雨の中、浅草の浅草寺の中に向かう。

モーゼは、雷太時代、はじめて鳴子に出会ったときの事を次々と想い出していた。

モーゼは発見する。

振り返った昔と同じ鳴子の笑顔を。

鳴子は、金の小槌を手に嬉しそうに言う。

「言ったがな。必ず又、雷太を見つけるって…」

ジュピターこと、山村と云う女性の遺体の前に座る寿子とシンヤ。

シンヤは、部屋の中にある仏壇に置かれた「健一二才」と書かれた写真を見る。

立ち上がって、台所を見ると、ちゃんと、自分が言った通り、桃缶が買って置いてあることを発見する。流し場には、食べた空き缶も。

さらに、部屋を見回していたシンヤは「健一さんへ」と書かれた手紙を見つける。

中の手紙には「二歳の時別れて以来、もう一度会えるとは思いませんでした」と書かれていた。

シンヤは、はっとして仏壇の写真に目をやる。

健一と云う子供は、二歳の時に亡くなっていたのだ。

山村と云う女性は、自分の電話を、最初から他人と分かって話しかけていたのだ。

「お金の方は、用立てさせていただきました」と、手紙は続いていた。

「その代わりと云っては何ですが、私からも一つお願いがあります。これからも、時々で良いですから、電話を下さい。そして、健一さんの話を聞かせて下さい。子供の頃の話を聞かせて下さい。家族で出かけた旅行の話を聞かせて下さい。眠れない夜、何度絵本を読んでもらったか聞かせて下さい。運動会の時のこと、受験のこと、就職のこと、結婚のことを聞かせて下さい。私は良い母親でしたか?あなたを幸せにできましたか?あなたと私が生きて来た話を聞かせて下さい…」

読んでいたシンヤは号泣し始める。

置き手紙の入った空き缶の底には、千円札で50万円入っていた。

「これ、オレの為に…。オレは…、オレは…」シンヤは、借金取りからそそのかされるままに「オレオレ詐欺」をしてしまった自分を後悔する。

そこに、突然入って来た先ほどの大家は、葬儀のことはどうなった?死体をいつまでも置いておかれても…と言いながら、空き缶の中の千円札を見つけ、良かった。家賃溜っていたんだよねと言いながら手に取ろうとする。

シンヤは逆上する。「死体じゃない!オレの母さんなんだ!ずっと一人だったんだ。もうちょっとくらいここにいたって良いじゃないか!」と怒鳴り、泣き崩れる。

大家は驚きながらも、ちゃっかり20万を取って出て行く。

寿子は「知ってます?ジュピターって、ギリシャ神話で、気象現象を司る天空の神様の名前だって」と語り始める。

「今日のこと、全部、意味があるような気がする。誰かが教えてくれているような気がする。きっと明日は晴れるよって…」

夜が開け、台風は去っていた。

シンヤは桃缶を手にして、アパートの近くのバス停から一人バスに乗ると実家に戻って来る。

中の様子をうかがっていると、タオルを頭にかけた父親リョウタロウの姿を見つける。

リョウタロウは、壊れた写真立てを組み立て直していたが、携帯が鳴ったので耳に当てる。

「オレ…、オレだけど…」相手は息子のシンヤだった。

「オレさ、間違いだったんだ。あの日、桃って、母さんが言ったから、又、桃缶が食べたいんだろうと思い買いに行ったけど、後から周りの人に聞いたら…」

リョウタロウは、庭先から見えるシンヤの姿を発見する。

シンヤは、自分に気づいた父親の顔を見ながら、携帯に話しかけていた。

「母さんは、以前のように、桃の木の所で写真が撮りたかっただけだったんだ。オレ、いつもそんなんばっかり…。本当は…、本当は分かっていたんだ、母さん、あの日が最後だってことを…」

「誰にも、オレ言えなくて…。母さんにも、親父にも…、ごめんって…。本当はずっと言いたかったんだ。ごめん父さん!ごめん!」シンヤは泣き出していた。

そんなシンヤに向かい、リョウタロウは「シンヤ、一緒に写真撮ろう」と家に入るよう促す。

東京に、台風一過の太陽が昇る。

レンタルビデオ店では、つよしとはじめがまだ眠りこけていたが、先に目覚めたゆうすけは、シャッターカーテンを開けて、清々しい朝の景色を眺めていた。

同じ頃、ミャーコは、ゆうすけからもらった花を飾り、それを見つめていた。

寿子も、空を見上げた後、持っていた縁結びのお守りを見る。

ゴミ駕篭に捨ててあった黄色い子供用傘を拾ったモーゼは、それを広げて肩に乗せると、浅草から歩いて帰る。

沢渡家では、机の上に、修理を終わった写真立てがいくつも並んでいた。

庭の桃の木の前では、シンヤが照れくさそうに立ち。

タイマーをセットした父リョウタロウが、その横に並ぶが、シャッターが切れた瞬間、カメラは上を向いていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

見終わった感想は、まず、劇団ひとりにこんな才能があったことに驚きを禁じ得なかった。

お涙頂戴目的のフィクションだとしても、並の想像力で書ける内容ではないからだ。

近年、こんなに号泣させられた映画はない。

もちろん、病気や死や別離が、この手の泣かせの作品の定番素材であることは百も承知だが、それにしても巧みすぎる。

途中まで、全く、めそめそした話ではなさそうな展開なのが憎い。

最後で、あらゆる伏線が一つになり、どっと「泣かせ」に持って行く手腕がすごいのだ。

伏線はきちんと張ってある。

モーゼが、「オレオレ詐欺」の電話をかけた直後のシンヤと、公衆電話の前で交差し、同じ公衆電話に入って行ったこと。

その直後、その公衆電話に戻って来たシンヤが、電話機の「リダイヤルボタン」を押した所、先ほど話していた相手とは別の女性が出て来たこと。

もちろん、昔雷太だったモーゼが、浅草時代の憧れの相手ジュピターに電話をしていたと云うことである。

シンヤとリョウタロウの接点なども、後から考えると、色々伏線は張ってある。

シンヤが、借金取りから「親父はまだ元気で働いているんだろう?だったら、息子として、頼りにしろよな」と迫られても、頑として自宅へ行くことを断っていたこと。

桃の木の横で、子供の頃から家族で写真を撮っていたことも途中で説明されている。

シンヤのアパートにあった桃缶は、シンヤ自身の勘違いの象徴でもあると同時に、観客をミスリードする小道具でもあったのだ。

ゆうすけのエピソードなどは、やや偶然性が強すぎる感じがないではないが、他のエピソードの中に混ざると、さほど気にならないものになっている。

あえて、気になる所を指摘するとすると、老けた雷太であるはずのモーゼが、妙に話し上手になっている点だろうか。

笑いの才能は皆無だったはずなのに…

人生の辛酸が、彼の話術を豊かにしたと云うことなのかもしれない。

「泣ける映画=名作」かと言われるとちょっと困るが、観たことを後悔させるような類いの話ではないことは確かだと思う。

主役を演じている岡田准一には、決してアイドル芝居ではない力量を感じたし、ベテラン西田敏行の実力にも感心させられた。