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山鳩

1957年、東宝、北條秀司原作、井手俊郎脚色、丸山誠治監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

軽井沢にほど近い山の駅「落葉松沢(からまつざわ)」

そこに一人で住む駅長の多木弁造(森繁久彌)は、霧深い夜の8時43分、駅舎の中で、近くにある温泉旅館蓬萊館の番頭(田中春男)と将棋を指していた。

形勢不利な駅長は、番頭が小便に立った後、急いで「将棋の本」を取り出して善後策を練るが上手い手が見つからない。

便所に入った番頭は、ちょうど外の線路を通りかかった保線区工手長 (草間彰夫、夏木順平)らと話を交わした後戻って来るが、まだ駅長は打っていなかった。

結局、将棋はそれ以上進行せず、立ち上がった駅長の尻の下に敷かれていた「将棋の本」を見つけた番頭はからかう。

外で、チンチンとベルが鳴る音が聞こえたので、電車が来たと、行灯片手に線路に出てみた番頭だったが、電車が来る気配はない。

駅長は、ムジナの仕業らしいと言う。

そこに電話が入り、来る予定だった客は、鶴田舞で降りたと言う。

その客を待っていた番頭ががっかりし、そんな所で降りるようじゃ心中者かも知れんなどとつぶやく。

何となく雑談になり、もう嫁はもらわんのかと聞く番頭に、もう十年近く一人だし、おせんのような女房はもうおらんと駅長は答える。

そこに、プーと警笛が聞こえたので、又外に出てみると、今度は本物の電車が近づいて見えた。

ところが、駅の間近に来た所で急停車してしまったので、何事かと、番頭と二人、電車に向かった駅長だったが、電車を降りて車体下を覗き込んでいた運転手(大村千吉)と車掌(佐田豊)は、飛び込みだと言う。

着物を着た若い女が線路に寝ており轢いたかと思ったが、死体が見つからないらしい。

番頭は、ムジナの仕業に違いないと言い出し、客も迷惑そうだったので、電車はそのまま駅に到着、その電車がその日の最終電車だった。

番頭は旅館に帰り、駅舎を閉めようとしていた駅長に、今日はもう電車ねえのか?と、窓口から聞く女の声が聞こえる。

貨物電車もないと答えた駅長がホームに出てみると、着物を着た若い娘がベンチに寝ているではないか。

さては、さっきの飛び込みの本人だと察しをつけた駅長は、娘にあれこれ事情を聞いてみると、女は峠の向こうの坂本の街からやって来たと言う。

飲み屋で勤めていたが、あまり酷い目に遭うので嫌になり、店を逃げ出そうと碓井峠に登ったが、腹が減ってしまったのでここに来たのだと言う。

何か食べるものはないかと云う女を駅長は駅舎脇の自宅に連れて行き、あいにく飯がなかったので、トウモロコシを囲炉裏で焼いてやる事にする。

娘は、内職をしているらしき駅長の生活に興味を持ったらしく、あれこれ聞いて来る。

一日6往復しかない、こんな辺鄙な駅では給料も安く、食べて行けないのだと駅長は答える。

鴨居には、無事故の表彰状も書けられていた。

そこに、蓬萊館の番頭が戻って来たので、駅長が出てみると、キセルを落としたと言う。

誰か家にいるのかと番頭が興味を示したので、ムジナだと駅長が冗談を言うと、窓から中を覗き込んだ番頭は、若い女が振り向いたのを目撃し、肝をつぶして逃げ出してしまう。

中で聞いていた娘は、ムジナ扱いとは酷いとふくれながらも、ムジナが本当にいるのかと聞いて来る。

駅長は、ムジナは時たま、わしの口まねなどをする事があると、本当か嘘なのか分からないような答えをする。

山道を逃げていた番頭は、途中で疑問を感じ、もう一度駅長の自宅に戻って、外から聞き耳を立てる。

すると、若い娘と会話をする駅長の声が聞こえて来るではないか。

駅長が、トウモロコシを食べ終えた娘に、今夜はここに泊れと言うと、娘は、今夜自分を好きにして良い、他に何も礼が出来ないからと言い出したので、駅長は怒りだす。

その時、思わず番頭がくしゃみをしてしまったので、それを聞いた駅長は、ムジナめ、くしゃみのまねまでするようになったかとつぶやく。

布団を敷いた娘は、その布団から綿がはみ出しているを見て、明日自分が繕ってやると云うので、そんな事が出来るのかと駅長が聞くと、昔、母親に教わったと云う。

その母親は、好きな男と一緒に村を逃げてしまったので、捨てられた自分は仕方なく飲み屋で働き始めたが、そこは実は淫売屋だったのだそうだ。

客のない日は、コッペパン一つしか与えられず、ある日、客の金を盗んで警察に逃げ込んだ事があると云う娘に、駅長は、可哀想な話だが、君も考え違いしている所があると諭すと、娘は大人は皆同じことを言うと、布団の中から答える。

その時、「からまつざわ〜」と云う駅長そっくりの声が聞こえて来る。

ムジナの仕業らしい。

娘の名は鶴代(岡田茉莉子)と言い、その日からもう半月ほど、駅長の自宅に世話になっている。

鶴代は、浅間山の噴煙を興味深そうに見つめながら、畑仕事などを手伝っている。

昔の神嘗祭の頃、大噴火した事があると駅長が教えると、神嘗祭と云うのが勤労感謝の日の事と知った鶴代は、それはあたいの誕生日だと教える。

それを聞いた駅長は、だったら、今夜誕生祝いをしてやろうと言い出す。

ちなみに、駅長の誕生日は?と聞かれた駅長は、4年に一度しか来ないと言うので、2月29日だと分かる。

鶴江は、再来年の駅長の誕生日までここにいるかどうか…と顔を曇らせるが、駅長は、ちょうど、昔死んだ妻が流産をしなければ、お前と同じくらいの年頃の子供がいただろうし、お前の事は、自分の娘のように思っているから安心してここで暮らせと言う。

その時、駅舎内の電話が鳴り、出てみると、次の列車で団体客が来るので、蓬萊館に知らせて欲しいと言う内容。

だが、蓬萊館への直通電話が故障しているので、駅長は、鶴代に伝言を頼む。

明るく出かけて行く鶴代を見送った駅長は、電話で、今夜のおかず用に肉とシラタキ、そして一級酒の四合瓶を注文する。

そんな鶴代の姿を山の中で見かけたのが、富山の薬売り森山(中村是好)だった。

蓬萊館にやって来た鶴代は、今やすっかり顔なじみになった番頭に、18人の団体客が間もなく到着し、温泉に入って昼飯を食うと伝えると、顔をのぞかせた女将(出雲八重子)らが、急に忙しくなったので鶴代にも手伝ってくれと頼む。

駅舎にやって来た薬売りの森山は、蓬萊館の女中に聞いたのだが、若い後添えをおもらいになったそうで結構さんでございますなと駅長に愛想笑いを浮かべる。

しかし、駅長は、あの娘とは、そんな関係ではないと慌てて否定する。

蓬萊館から戻る途中、川で選択をしながら唄う女中のお千代(須賀京子)に気づいた鶴代は、年が近い事もあり、仲が良いので話しかける。

千代は、客に東京に来ないかと誘われたのだと言い、いつまでもこんな所にいても…と迷っている様子。

その後、帰る途中の鶴代は、後ろから自転車で近づいて来た青年(佐原健二)に声をかけられ、自転車の後ろに乗せてもらう。

駅舎には、番頭がやって来て、鶴代に座敷の手伝いをしてくれないかと駅長に申し出るが、駅長は即座に断る。

もう、そう云う客商売から足を洗わせたいと云うのだ。

その頃、当の鶴代は、青年の自転車に乗り、駅とは反対方向へ向かうと、じゃれ合って、互いにキスを交わしていた。

駅長は、まだしつこく、鶴代は客商売に慣れているだの、この前も客に誘われて座敷に入ったのに…などとあれこれ言う番頭の話を嫌がっていた。

最後には、もう手をつけているのだろう?などと臭わす番頭に、わしゃあ、あの娘に指一本触れた事だどない!と怒りだす始末。

そこに、当の鶴代がのんきそうに戻って来て、蓬萊館を手伝っても良いかと聞いて来たので、駅長は即座にいけねぇ!と断る。

そこへ、久々の団体客を迎えようと、蓬萊館の老主人(左卜全)が晴れ着姿で駅にやって来る。

やがて、電車が到着し、大量の客が駅に降り立つが、一人の婦人客が酔ったようで具合が悪そうだったので、取りあえず、駅舎の中に案内し休ませる事にする。

それに付いて、一緒に駅舎に入って来た女客(賀原夏子)が、後どのくらいかかるのかと聞いて来たので、駅長は、草津までは3時間ちょっとと答える。

その時、鶴代が駅舎に近づいて来るが、駅舎の中にいた客たちの中に見知った顔がいたので凍り付いてしまう。

客の中にいた男(上田吉二郎)と先ほどの女も、鶴代に気づくと驚いたようだった。

鶴代はきびすを返すと、脱兎のごとく逃げ出し、男がその後を追う。

残った女は、駅長に対し、坂本の飲み屋から逃げたあの娘がどうしてここにいるんだと問いつめる。

どうやら男女は、坂本の飲み屋の経営者夫婦のようだった。

気の弱い駅長は、女の追求にしどろもどろになってしまう。

そこに先ほどの男が戻って来て、鶴代には逃げられたと云いながらも、あの娘がここにいるのは、誰かに頼まれて匿われているに違いない。いざとなれば、警察に訴えると息巻く。

駅長は、今では人身売買は禁止されているので、警察には訴えられないのではないかと、弱々しく反論するだけ。

駅舎にいた、夫婦者の手下と思しき他の男客たちも、駅長を取り囲んだのを見た蓬萊屋の老主人は、わしが何とか話をつけるから、ここは取りあえず、旅館の方で休息していてくれと男女を取りなす。

男女一行が蓬萊館に歩いて向かう様子を、林の中から見ていた鶴代は、こっそり駅舎に戻って来るが、中では駅長と大主人が話をしていた。

老主人は、娘を返した方が良い。噂によると身持ちも良くないようだし…と説得していたが、駅長は、坂本に戻ったらあの娘がどうなるか…、自分の娘だったら、そう気楽に考えられないはずだと反論している。

その二人の会話を、鶴代は外からそっと盗み聞いていた。

駅長は、やっぱり手放せないと決意した様子なので、聞いていた鶴代は思わず泣き出してしまう。

駅長は、一つ手をつけてくれと、通帳と印鑑を老主人に手渡す。

結構貯めたなと驚く老主人に、会社が潰れたら、何かやるつもりだったと答える駅長。

老主人は、三分の一だけ娘にやれ。後は自分が一札取って来ると請け負う。

駅長は、鶴代はどこまで逃げたんだろうと心配し、駅を出ると鶴代〜!もう大丈夫だ〜!と叫びながら田んぼの方に登る。

それを駅舎から眺めていた鶴代は又しても涙に暮れるのだった。

その夜、駅長は、急ごしらえのドラム缶風呂に入りながらご機嫌だった。

これで、自分も鶴代も、これまでのように、蓬萊館までもらい湯に出かける必要がなくなったからだ。

自分の誕生祝いの料理を作っていた鶴代は、駅長から声をかけられ、自分も風呂につかる事にする。

庭先のドラム缶に入浴した鶴代が、「愛ちゃんは太郎の嫁に行く〜♩」などと流行歌を歌い始めたので、それを家の中から何気なく聞いていた駅長は、壁に貼ってあった浅間観光連盟の裸婦が描かれたポスターなどに目をやるうちに、少々ムラムラして来る。

辛抱出来なくなった駅長は、そっと外に出ると、囲いの穴から、ドラム缶風呂の方をのぞこうとするが、急に猫が鳴き、鶴代が「誰だ?覗いているのは!スケベ!」と声を上げたので、驚いて家に中に逃げ込んでしまう。

風呂から上がった鶴代は、足下に落ちていた内輪を見つけ、含み笑いをする。

さっきまで、駅長が持っていた内輪だったからだ。

肉とシラタキを似たものを肴に、駅長と鶴代のささやかな誕生祝いが始まる。

駅長は、飲みっぷりの良い鶴代に酒を勧め、先ほどのスケベ心をごまかす為か、自分は君に汚い心など持っていないなどと、聖人君子のようなきれいごとを並べ始める。

それに対し、鶴代は、あたいは、良かったら、一生ここに置いてもらいたい。私は若い人は嫌いと言い出す。

それを聞いた駅長は、番頭から聞いていた、客の誘いに応じ座敷について行った事や、馬小屋で若い衆とふざけ合っていたなどと云う噂をに付いて問いただしてみる。

一人手酌で酒を飲んでいた鶴代だったが、その時、浅間山が小さな爆発音をならしたので、もっとでっかく爆発しねえかな…と、物騒な事を言い出す。

その後、鶴代は、この間、蓬萊館の手伝いに行った時、座敷に呼ばれた客の嫁になったと告白する。

駅長は、どうしてそんな嫌らしい事をしたと聞くと、商売でしたんじゃない。駅長さんは女の身体がどういうものか知らないと泣き出す。

駅長は、そんな鶴代にどう対処して良いのか分からず、外に出る。

その後を付いて来た鶴代は、駅長さんはあたいの事嫌いか?好きなら、あたいをお嫁さんにしてくれと言いながら、駅長の背中にしなだれかかって来る。

駅長は、自分は女にもう興味がないなどと答えるが、それならどうして、さっき内輪を落としたと鶴代から突っ込まれてしまう。

そうまで言われた駅長は、君は正直だ。わしの方が不正直だった。わしは、自分の年齢に自信がなかったんだと言い訳し、わしにもまだ、男性としての魅力がちょっぴり残っとるかね?と照れくさそうに聞く。

やがて、季節は雪が降る冬になる。

お千代が電車に乗って出かける時、鶴代の事を聞いて来たので、今日はちょっと加減が悪くて臥せっていると駅長は答える。

駅舎に戻って来た駅長に、一人の老婆が鶴江はいるかと声をかけて来る。

それを聞いた瞬間、その老婆こそ、鶴代を捨てて、男と逃げたと云う母親もと(清川虹子)だと駅長は気づく。

もとは、逃げた男は別の女と上方に去ってしまい、ようやく目が覚めたと言う。

自宅で縫い物をしていた鶴代の元にもとを連れて行った駅長だったが、母親の姿を一目見た鶴代は、おめえみてえな人は知らない!会いたくねえ!さっさと帰ってくんろ!と部屋の奥に逃げ出す。

駅長は、そんな鶴代に、お前を正妻にしたいと許しを得たし、いずれは三人水入らずで暮らす事も…と取りなすが、そんな人の許しを得なくても良い。その人が来るのなら、自分がここを出て行くとまで言う。

それを聞いていたもとは、無理もねえ。今更許してもらおうなどと思ってやって来た自分が間違っていたと言い残し、駅舎に向戻る。

駅長は、そんなもとに、黙って切符を渡してやり、金はいらないと首を振る。

ホームにやって来た電車から、花嫁姿の娘(米山元子)が家族と一緒に降りて来る。

その電車に乗り込んだもとは、見送る駅長に、もとは、あの子の身体を気をつけてやってくれ。ただの身体ではないようだからと伝える。

それを聞いた時はじめて、駅長は、鶴代の具合が悪い原因を察する。

その鶴代は、家の窓から遠ざかって行く電車を見送りながら涙ぐんでいた。

家に戻って来た駅長は、鶴代が縫っていたのが子供服だと知り、身体を大切にしろ。母さんもそう言っておったぞと伝える。

そこへ、蓬萊館の番頭が顔を出し、お千代を見かけなかったかと聞く。

さっき電車で軽井沢へ行ったと駅長が答えると、客の後を追って、東京に行ったのだと云うではないか。

その客と云うのは、太陽族か何かか?と聞く駅長に、ごま塩頭の太陽族だと答える番頭。

やがて、季節は夏になる。

馴染み客の馬喰 (沢村いき雄)が駅舎内でタバコの吸い殻を捨てると、掃除をしていた駅長が注意する。

客が、今日に限ってなぜ?と聞くと、今日は、本社の人が運輸省の偉いさんを連れて、先日の油虫の発生による転覆事故の視察に来るのだと云う。

馬喰は話題を変え、祝言から十月も経たないのに生まれるとは早すぎないかと駅長に聞く。

鶴代が臨月を迎えて来る事を言っているのだった。

駅長は、依頼しておいた産婆さんがなかなか電車で到達しない事を電話で確認していた。

産湯用のたらいも頼む。

蓬萊館の養子(瀬良明)も心配して駆けつけるが、先に手伝いに来ていた女将も女中(河美智子)も、鶴代の難産に困り果てていた。

駅のホームでは、都会から来たらしい若者たちが浮かれていたので、列車が近づいたのに気づいた駅長は慌てて注意する。

到着した電車から、本社の運輸課長(東野英治郎)らが、運輸省技師(千秋実)を連れて降り立つ。

課長が、鼻曲り沢に大量の油虫が発生し、線路1kmに渡って密集、それが原因で、上り列車が転覆したと説明すると、技師は牧歌的な話だねとおうように聞く。

駅舎に案内した技師に、課長は駅長を、今月も後二日で、15年無事故の運輸大臣表彰を受ける事になるまじめな男だと紹介する。

そこに、電話が入り、駅長があたふた応対しているのに気づいた技師が何事かと聞いたので、駅長は、ちょっと病人がありましてと恐縮する。

課長は、30歳も年が違う若い嫁をもらったのだと技師に明かす。

そこに、怪し気な教祖風の婦人がやって来たので、あれは何かと聞く技師に、浅間教と云う一種の邪教の教祖(三好栄子)だと説明する課長。

教祖は、苦しむ鶴代を助ける為に呼ばれたのだった。

蓬萊館の養子は、来ない産婆の代わりに、産婆のまねごとくらい出来そうな老婆を連れて来ると言い残し出かける。

入れ替わるように、蓬萊館の老主人も心配してやって来る。

駅長は、そんな老主人に対し、人間の子種と云うのは、いくつくらいまであるものだろうと質問する。

どうやら駅長、生まれ月が早すぎる鶴代のお腹の子供の父親が、本当に自分なのかどうか疑っているらしい。

そうしている間にも、家の中では、蓬萊館の女将と女中が太鼓を打ち鳴らす中、教祖が踊り回っていた。

駅舎では、まだ、女房が人の子供を産んだなら…などと、まだ駅長が悩んでいた。

老主人は、少し神経衰弱になっているのではないかと注意する。

駅長は、この前も考えすぎて転轍機を誤りかけたと打ち明ける始末。

鶴代は、床の中で苦しんでいた。

祈る駅長。

底に電話が入り、第六試運転車が出発する旨報告が入る。

その時、養子が老婆を連れて家にやって来る。

又電話が入り、試運転車が国平を通過したのと連絡。

それを、次の駅に報告後、転轍機を動かした途端、生まれたとの声が聞こえたので、駅長は無我夢中で家に飛び込む。

無事、男の子が生まれたと聞かされ、喜んだ駅長は、田んぼに登り、万歳を叫ぶ。

しかし、転轍機を戻すのを忘れていたため、課長や運輸省の技師を乗せ近づいて来た試運転車は、車輪が脱輪、転覆してしまう。

駅長の家の前では、蓬萊館の面々や教祖が踊りまくっていた。

そこに,腰を押さえながら課長がヨロヨロとやって来て、転轍機の操作はどうした!大脱線だ!せっかくの大臣表彰も、ふいになった!と駅長を怒鳴りつける。

幸いな事に、人身事故には至らなかった。

それから又数ヶ月が過ぎた。

泣いている赤ん坊をかごに入れ、鶴代は畑仕事に精を出していた。

そこにやって来た駅長は、赤ん坊を背中に背負ってあやし始める。

そこに薬屋の森山がやって来て、挨拶を交わす。

駅舎に戻った駅長は、大きな札しかないから、切符代は帰りに払うと言い、ホームに向かう婦人に注意するが、それが浅間教の教祖だと気づくと、愛想笑いを浮かべ頭を下げる。

電車が到着し、教祖が乗り込む代わりに降り立ったのは、お千代だった。

駅舎に連れて来た所に、鶴代も戻って来て、千代に気づく。

どうしていたと聞くと泣き出したので、どうやら男に捨てられたらしい。

ここに戻って来る途中で,電車を降り、飛び込んで死のうと思ったと言う千代に、鶴代は、あんたみてえな若いのが死んでしまったら台無しじゃねえかと諭すので、それを聞いていた駅長は思わず鶴代の顔を振り返ってしまう。

鶴代は、千代を連れて湯場に出かける。

駅長は、駅舎に忘れられていた鈴を見つける。

先ほどの教祖が忘れて行ったものらしい。

それを手に取り、背中の赤ん坊に鳴らしてみせながら、転轍機の説明をしてやる駅長は、赤ん坊を背負ったままホームに向かうのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「落葉松沢」と言う架空の駅を舞台とした、ゆったりのんびりとしたファンタジーにも似た人情話。

森繁が、珍しく、女に臆病な中年男の姿を演じている。

人間をだますムジナが済むと云う山深い駅が舞台と云う設定だけでもロマンチック。

そこに或る夜、ふらりと出現した美少女…

まるでおとぎ話風の出だしである。

この当時の岡田茉莉子は本当に可愛らしいし、近くにある蓬萊館の人たちも、皆、人情豊か、途中、憎まれ役で登場する上田吉二郎、賀原夏子以外は、登場する人物は皆良い人たちばかり。

いかにも昔風の物語だが、今観ても心癒される内容である。