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狼の紋章

1973年、東宝映画+東宝映像、平井和正原作、石森史郎+福田純脚本、松本正志脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

雪山の中で、三匹の狼と楽しそうに戯れる少年。

そんな山に突如、見慣れぬヘリコプターが飛来、山小屋から出て来た少年の母親を射殺する。

同時に、山小屋は大爆発を起こしてしまう。

少年は、雪の中に倒れた母親に駆け寄り「ア~ア~」と声を上げる。

タイトル

夜の街角、誰かに因縁をつけられた怒声を聞いた青鹿晶子(安芸晶子)が、その声が聞こえた陸橋付近に来ると、一人の若者が数人のチンピラに取り囲まれており、彼女の目の前でナイフで腹を刺されてしまう。

腹を刺された若い男は、そのナイフを自らの手で抜き取った。

その様子を見ていた青鹿晶子は、気絶してしまう。

警官が駆けつけ、気がついたときには、血の付いたナイフが落ちているだけで、陸橋上には誰の姿もなかった。

その夜は満月だった。

後日、博徳学園高校に、不良グループが花壇を踏みにじりながら登校して来る。

校長室では、新しい新入生となる「犬神明」と言う生徒の前歴を確認していた教師たちが驚きの声を上げていた。

喧嘩に明け暮れた毎日を送っている様子だったが、この犬神明と言う少年、「喧嘩上手」と言うか、すべて自分が刑事罰を受けないような状況にする名人なのだと言う。

両親は人類学者だったが、アラスカで明が三歳のときに亡くなり、今の保護者は、アメリカのレストランチェーンで大成功をおさめている山本カツエと言うおばだと大貫校長(今西正男)は説明し、青鹿先生のクラスに入れようと思っていると伝える。

しかし、それでは、同じクラスで、うちの高校を牛耳っている羽黒とすぐに対立してしまうではないかと教師たちは心配するが、校長は、羽黒は学校では一切手を出さないと彼の父親が約束してので、むしろ最初から二人を出会わせておいた方が良いと思う。スキンシップの時代だからねと冗談めかして説明を終えるのだった。

2年C組の前に立った新入生の姿を見た青鹿先生は驚愕する。

あの夜見た少年だったからだ。

「犬神明」と言う名前を書いていた黒板に、どこからともなく飛んで来たメスが突き刺さる。

犬神は、何事もなかったかのように、そのメスを抜くと、後ろの方に座っていた羽黒グループのリーダー格、黒田(伊藤敏孝)の机の上に置く。

黒田は、犬神が無造作に座った机に近づいて来ると、ここは誰の席か分かっているのか?と脅す。

しかし、犬神は、小便臭せぇネズミになど相手にしないと言い放つ。

黒田が、今でも寝小便をしているのを指摘したのだ。

黒田は逆上し、犬神の事を「犬っころ」と呼び続け、青鹿先生が止めても、メスを構えて犬神に挑みかかろうもとする。

その時、羽黒(松田優作)当人が教室に入ろうと扉の所に立っていた。

羽黒は、自分の席に平然と座っている犬神の姿を見て睨みつけると、何も言わずに立ち去った後、屋上に一人登ると、そこでいつも持ち歩いている日本刀を抜いてじっと刀身を見つめるのだった。

音楽室に犬神を呼び出した青鹿先生は、シャツを脱がせ、上半身に刺し傷がないか確認するが、そこには何もなかった。

確かにあなたは刺されたのよと告げる青鹿先生だったが、犬神は何も答えようとはしない。

そこへ、同じクラスで、羽黒グループと親しい小沼竜子(加藤小夜子)が入って来て、羽黒一派が狙っているわよと、犬神に忠告しながら、それとも羽黒と手を握るつもり?と聞く。

羽黒とは、暴力団、東明会を継ぐ若きプリンスだと言うのだった。

学校の屋上では、面をかぶった二人の男子学生が、一人の女生徒に襲いかかっていた。

学校内のレイプ事件を知った教師たちは、警察を呼ぼうと校長に進言するが、当の校長は、年に数回はある事と相手にしない。

黒田たちから屋上に呼び出された犬神は、木刀などでめった打ちにされるが、全く抵抗せず、なすがままにされていた。

それどころか、黒田に向かい、お前が強姦の犯人だなと言い放つ始末。

図星を指され、逆上してナイフを抜いた黒田を、それまで横で黙って見ていた羽黒が止める。

羽黒は、これだけやられて、なぜ手向かいしないと尋ねるが、犬神は、お前らは野良犬だ、資格がないと答える。

日本刀を抜いた羽黒は、犬神の背中に刃を滑らせると、「犬」と言う傷をつけ、お前の相手は俺がする、だが、それは今じゃない。こいつがその気になったときだと告げる。

異変を察した青鹿先生が屋上に上がって来るが、そこには、日本刀の血のりを拭き取った懐紙が残されているだけで、人っ子一人いなかった。

その夜、青鹿先生は、犬神に会うため、山本カツエの屋敷を訪れるが、戸崎と名乗る留守番が門の所で応対し、山本は現在渡米中で不在だし、明もここにはいないと言う。

さらに戸崎は、あの子は不吉な星の元に生まれたので、近づく人間には災いが起きる。あなたも彼には近づかない方が良いと忠告するのだった。

しかし、青鹿先生は、何とか明が一人で住んでいるマンションを見つけ、その部屋に入る。

そこは電器が点いておらず、荒い呼吸音だけが聞こえる部屋だった。

青鹿先生は、その呼吸音に向かい、電器を点けて、私はあなたを心配して来たと言うが、闇の中から出て来たのは、蒼く目が光る狼の顔をした青年だった。

驚いた青鹿先生に、犬神は「これは、人を驚かすビックリマスクだ」と説明する。

「そんなマスクは取りなさい」と命じた青鹿先生だったが、ここは学校ではないので、あなたの命令など聞かないと犬神は拒絶する。

仕方なく、犬神に飛びかかり、無理矢理マスクを取ろうとする青鹿先生だったが、不思議な事にマスクは取れなかった。

いつしか二人は、明るい陽の光のもと、草原で戯れているような錯覚に陥る。

羽黒一派の事が心配だと言う先生に犬神は、あいつらは屑だ。それより自分には、特定の生徒に興味を持ち、近づいて来る美人先生の方が怖い。女は厚かましくて、無神経だからと言い、さらに、俺は人が嫌いなので一人で生きていたいと言い放つ。

犬神のマンションからの帰宅道、青鹿先生は、後ろから迫って来た二人のバイクの男たちに襲われ、レイプしかかる。

そこに突如、野良犬のようなものが走り寄って来て、一人の首筋に噛み付き、バイクで逃げ出そうとしたもう一人は、ハンドル操作を誤り、壁に激突して死亡する。

自宅で休んでいた青鹿先生は、「野犬、女教師を襲う」と言う新聞記事を読んでいた。

そこにノックの音がし、開けてみると、「ルポライター 神明」と書かれた名刺を差し出す一人の男(黒沢年男)が立っていた。

あの晩、先生は何を見たんです?と聞いて来た神は、あの現場で鑑識の人間が野犬の毛を採取したので、それを親しい動物学者に見せた所、狼の毛だと教えられたと言う。

日本には既に、狼は絶滅したはずで、先生は何を見たんです?と、神は重ねて迫って来たが、青鹿先生は、扉を閉めてしまう。

その後も、犬神は、学校の体育館で、剣道着を着たり、柔道着を着た黒田たち羽黒一派から徹底的に痛めつけられた。

とうとう、教室で、後ろ手に縛られた犬神が痛めつけられていた。その様子を傍らから冷ややかに見つけている竜子。

教室の外に追い出された他の生徒たちは、君たちのせいでこの学校は不徳学園と呼ばれているんだと文句を言うが、犬神は無言で立ち上がり、ひもを引きちぎるだけだった。

その様子を興味深げに見つめている羽黒。

さすがに見かねた教師たちが駆けつけて来るが、教室からは、何事もなかったかのように、犬神が出て来る。

羽黒は、犬神への拷問に疲れきってへばっていた一派の連中を蹴り付けるのだった。

委員長の木村紀子(本田みち子)を中心とした一般生徒たちは、犬神の無抵抗主義に感化され始め、彼を前面に押し出して、羽黒一派と戦おうと言う気運が高まっていく。

竜子は、噴水の所で身体を洗っていた犬神に近づくと、青鹿先生はショックで寝込んでいるそうよなどと話しかけて来る。

しかし、犬神は、おしゃべりな竜子を噴水の中に落として無言で立ち去っていく。

犬神は、街の中を一人で彷徨い始め、子供の頃、猟師に射殺された三匹の狼の事を思い出していた。

その夜、どこかからか聞こえて来る狼の遠吠えを、アパートにいた青鹿先生も聞いていた。

黒田たち羽黒一派は、博徳学園の前に立てられた「学園暴力追放」などと書かれた数多くの看板を破壊していた。

一般生徒たちは、犬神に、自分たちと協力して羽黒一派と戦ってくれと頼むが、犬神は、今度からあんたたちが狙われるようになっただけで、俺は楽になったと言うだけで相手にならない。

その態度を見た木村紀子は、嫌な奴と侮蔑の言葉を投げかける。

そんな則子に近づいて来た竜子は、黒田があんたの顔をカミソリで切り刻んでやると言っていたわよと脅す。

その後、屋上にいた犬神の元にもやって来た竜子は、あの子たちはただでは済まないわよと告げる。

生徒たちが自治の回復を目指して大掛かりな集会を行う事になったと知った校長は、青鹿先生に頼んで、犬神を出席させるようにして欲しいと他の教師たちに伝える。

生徒集会は、球場を借り切って行われた。

スタンドには、ぱらぱらとしか集まっていなかったが、そんな同士たちに、木村則子はメガホンを通じて自治の正常化を訴えかける。

そうした様子を、神明も遠くから監視していた。

そこに、ヘルメットをかぶった黒田たち羽黒一派が乱入して来る。

集会に集まった生徒たちに暴力を振るい始めた羽黒一派、逃げ惑う生徒たち。

黒田は木村紀子を捕まえると、ナイフを取り出し、顔に傷を入れようとする。

そのナイフを振り下ろした時、突如腕でかばって来たものがあった。

先ほどから客席で寝そべって待っていた犬神であった。

黒田は、犬神を刺そうと、ナイフを身構える。

そこに校長ら教師数名もやって来て、何とか黒田の強行を止めようと説得するが、黒田はもはや聞く耳を持たなかった。

黒田は完全に逆上していた。

「てめえを殺して、ムショへも死刑台にも行ってやる」と叫ぶと、ナイフを突き出しながら突進して来るが、犬神がひらりと身をかわしたため、つんのめった黒田はグラウンドに落ち、その際、自分のナイフで自らの胸を突き刺してします。

警察を呼ぼうとしていた校長たちは、これは立派な正当防衛だと納得してしまう。

黒田の葬儀には羽黒はやって来なかった。

犬神に心を奪われた木村紀子は、その後も犬神を付け回す事になる。

犬神のマンションの部屋で裸になって待っている事もあったが、犬神はすぐに部屋の外に追い出してしまう。

そんな木村紀子を竜子は学校の屋上で襲撃する。

しかし、そこに犬神がやって来て、竜子が突き出した割れたコーラ便を自らの腕で受け止める。

青鹿の元に再びやって来た神明は、狼は新月のときには生気を失う。羽黒はタフで慎重、新月になるのを待っていたのだと教え、羽黒を止めるのはあなたしかいないと告げる。

犬神は、マンションの部屋に置き手紙が置いてあるのに気づく。

青鹿先生は、単身、羽黒の屋敷に乗り込む。

地下の部屋に通された青鹿先生は、出て来た羽黒に、あなたと犬神との対決をやめさせようと思い来たと告げる。

羽黒は、あいつは人間の敵だ、おれはずっと犬神にやる気を起こさせるにはどうすれば良いか考えていた、そして今やっとそれを見つけたと言うと、青鹿先生を柔道の技で床に投げ、大きなテーブルの上にその身体を横たえると、服を脱がして犯し始める。

その頃、青鹿先生のアパートにやって来ていた犬神は、そこにあった鹿の置物を見つめ、青鹿先生の着物を触っていた。

そこに神明が現れ、青鹿先生は羽黒の所に行ったと教え、いつまでガキのままなんだと犬神をなじるが、犬神の方も神に対し、あんたも狼じゃないかと反論する。

それに対し神明は、おれは大人になりすぎて狼になれなくなったと答え、お前はいつからダメになった?愛するもののために死ぬのが狼の道だと説得する。

新月を背にして、犬神明は羽黒の屋敷に向かう。

「俺は、人間として生きたかった…」とつぶやきながら…

屋敷に忍び込んだ犬神の背中に、矢が突き刺さる。

護衛が放った矢だった。

倒れた犬神の様子を見るために近づいて来た護衛の男を逆に捕まえた犬神は、青鹿先生がいる部屋を聞く。

地下室で、空気穴として井戸があると口を割らせた犬神であったが、一瞬の油断の間に、護衛の男からナイフで腹を突き抜かれる。

しかし、犬神は、胸から突き出た鏃をへし折っただけで、そのまま男を倒すと、一人井戸から地下に降りていく。

半裸で鎖に繋がれていた青鹿先生は、半死半生の状態でやって来た犬神の姿に気づくと、「逃げて!罠よ!」と叫ぶ。

しかし、犬神は何とか、鎖の所までたどり着くと、残された力を振り絞って鎖を引きちぎる。

自由になった青鹿先生は、「死なさないわよ、死なせるものですか」と言いながら、倒れそうな犬神を必死に支えながら逃げ出そうとするが、そこに拳銃を構えた羽黒が立ちふさがる。

羽黒は、犬神をやる気にさせるためと言いながら、青鹿先生を陵辱したと告白し、日本刀を抜くと、不死身の狼男らしいが、首をすっ飛ばされても生きていけるかなと言いながら迫って来る。

羽黒は、無抵抗な犬神の背中から日本刀を貫く。

すると、狼の顔に変身した犬神は、刀身を腹から突き出したまま、「刀を返してやる。さあ取れ!」と言いながら、呆然とする羽黒の近づいて来る。

さすがに怯えた羽黒は、弾が尽きるまで拳銃を連射し、逃げられないと悟ると、自ら犬神の身体にぶつかっていき、刀身で串刺しになる。

屋敷の塀に登っていた神明は、屋敷に向かって火矢を放っていた。

瀕死の犬神を又支えながら逃げようとした青鹿先生の前に、今度は、羽黒の父親羽黒武雄(河村弘二)とその舎弟たちが立ちふさがる。

「誰がせがれをやった?」と聞く羽黒に対し、青鹿先生は「自分でやったんです、自業自得です」と説明するが、舎弟たちが取り囲み、青鹿先生を再び鎖に繋ぐと、いたぶり始める。

犬神は「母さん、人間は外道だ」とつぶやくと、全身狼の姿に変身し、舎弟たちの首筋に食らいつく。

犬神は、人間に射殺された母親の事を思い出していた。

屋敷には火が回っていたが、犬神を抱いた青鹿先生は外で待機していた神明の車に乗り込み逃げ出す。

迫って来る消防車とすれ違いながら、車を運転する神明は、人間どもに渡せるか。犬神は人間の悪辣非道な世界では生きていけなかったんだとつぶやく。

犬神の身体を抱きしめて後部座席に乗っていた青鹿先生は、私も狼になりたい…と願うのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「狼男」を素材にした日本映画では珍しいタイプの映画、同じ「ウルフガイ」を原作にした作品には、東映の「ウルフガイ 燃えろ狼男」(1975)がある。

監督は「アクション映画」を目指したつもりらしいが、今の感覚で観ると「無アクション映画」と言った感じで、動物以下の愚劣な行動をする人間を軽蔑する「不死身のウルフガイ」犬神明が、学園を支配する不良グループからどんなになぶられても反抗しない…と言った内容なので、爽快なアクション要素など皆無。

アクション映画っぽいと言えば、冒頭のヘリ襲撃のシーンくらい。

テレビとの差別化を図るため、性と暴力を売り物にするしかなかった当時の風潮とは言え、女性をなぶりものするような表現が多いのが、今観るとかなり抵抗を感じる。

人間の獣性、愚劣さを徹底的に見せつけると言う意図は理解できるが、娯楽映画として、何らカタルシスらしき要素がないままと言うのはつらい。

製作費が当時の平均6000万だったとすると、最初から本格的なアクションなど無理だったのだろう。

70年代らしい思わせぶりなイメージカット的な部分も多いが、対比する動的要素が希薄なので、あまり効果的には感じられないのも残念。

狼男に半変身したときの姿は、ちょっと大きな狼の顔マスクをかぶっているだけだし、完全に変身してしまうと、普通の犬にしか見えない。

子供の頃の明は一重まぶたなのに、青年になると、くっきりとした二重まぶたになると言うのも気になる。

これが映画デビューとなる、学生服姿の松田優作は、まるでマンガ「男組」から抜け出して来たかのようなスマートさで、とにかく足が長い!

若さに似合わず、堂々たる「悪」の存在感を見せつけてくれる。

美少年志垣太郎と、若き日の松田優作の迫力の対比だけは観る価値がある作品かも知れない。