1970年、近代放映、ジョージ秋山原作、小滝光郎+高畠久脚本、和田嘉訓監督作品。
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新宿西口のロータリー付近を彷徨う醜い容貌の男、銭ゲバこと蒲郡風太郎(唐十郎)。
道に落ちていたメガネを拾いかけてみる。
擦れた女(塩沢とき)が、タバコの火を貸してくれと言葉をかけて来るが、風太郎はタバコは吸わないと断わる。
しかし、女はしつこく風太郎に迫り、物陰に引っ張り込むと、その場で身体を与えようとする。
風太郎は女は欲しかったが、金がないと言うと、女はバカにしたように去って行く。
ラーメン屋に入った風太郎は、一杯80円のラーメンを50円分だけくれと言い呆れられる。
やがて、本屋に入った風太郎は、植物図鑑を万引きしてしまう。
空き地の土管の中で、その図鑑を眺めていた銭ゲバは、服の中から母親の位牌を取り出すと、それに図鑑を見せる。
少年時代の回想、少年風太郎(雷門ケン坊)は、父親が家に寄り付かず、病弱な母親と極貧生活を送っていたため、新聞配達をして家計の助けをしていたが、中学生たちに、配っていた新聞を奪われるなど、虐められていた。
風太郎は、大昭工業の社長兄丸秀吉(曽我廼家明蝶)の事を知ると、物陰で待ち伏せ、その兄丸が乗った車が近づくとわざと身体をぶつける当り屋をやる。
運転手の新星(岸田森)は慌てて飛び出し、足を怪我した風太郎を見ると、車に乗った兄丸の指示通り、家に連れて帰って治療する事にする。
兄丸の家で、居候する事になった風太郎の憧れは、兄丸の長女三枝子(緑魔子)だった。
ある日、車で買い物で外出した三枝子は、店の前で二人の不良たちに絡まれる。
そこにふらりと通りかかった風太郎は、その不良たちを叩きのめして、三枝子を助ける。
三枝子は感謝するが、三枝子が帰った後、不良たちに金を渡す銭ゲバの事を知らなかった。
全ては、三枝子の関心を引くための、風太郎の仕組んだ芝居だったのだ。
その後、屋敷のプールで泳いでいた三枝子に近づいた銭ゲバは、この家で働かせてくれと頭を下げる。
三枝子は、パパは番犬を欲しがっていたと嫌味な答え方をする。
三枝子にが、足が悪く、器量も悪い妹の正美(横山リエ)がいたが、そのリエに取り入っていたのが運転手の新星だった。
いつも、正美が可愛がっているコリー犬メリーと一緒に遊んでやっていたのだ。
新星は、芝刈りをしていた風太郎の所にビールを持って来る。
その後、新星の部屋で一緒に飲み始めるが、新星は銭ゲバに、自分は行く行く正美の婿になり、大正工業の重役になろうとする野望を話して聞かす。
その新星が、銭ゲバに灰皿を取れと横柄な口を聞いたので、カッと来た風太郎は、ビール敏で新星の頭を殴りつけ、いきなり撲殺してしまう。
その後、風太郎は、新星の遺体を庭に埋めながら、銭のためなら何でもするズラ…と呟くのだった。
翌朝、新星の姿を探していた正美に、風太郎は、今朝、出て行ってしまった。片輪ものの妹には付き合えないなどとひどい事を言っていたなどと嘘をつく。
運転手がいなくなって困惑する兄丸に、風太郎は、トラックを3年運転していたと売り込み、まんまと後釜に座ることに成功する。
しかし、そんな風太郎の前に、秋葉(信欣三)と言う老刑事が現れる。
風太郎の出身地は松崎ではないかなどと切り出した秋葉は、子供の頃、風太郎が熊田正吉と言う人物の家の隣に住んでいた事を確認する。
その熊田正吉なる人物は、祭りの日以来、ふっつり姿を消してしまったと言うのだ。
実は、その熊田を殺害したのは、子供の頃の風太郎だった。
母親が亡くなった後、熊田の金を盗もうとして見つかり、スコップで殴り殺してしまったのだ。
風太郎は、いまだにその事件を追っている秋葉刑事の出現に身構えるが、うわべではしらを切り続ける。
刑事が帰った後、愛犬メリーを探す正美の姿があったが、そのメリーは、風太郎が埋めた新星の遺体を掘り出そうとしていたので、すぐに撲殺し、新星の遺体の上に、同じように埋めてしまう。
メリーの失踪に哀しむ正美に、姉の三枝子は、新星の後を追っていったのだろうと慰めるしかなかった。
ある日、石井課長(藤木悠)を乗せ、興和銀行新宿支店で現金1億円を詰めたトランクを積んで帰りかけた風太郎だったが、突如、若者二人の乗る車に進路を妨害され、1億円を奪い取られてしまう。
しかし、その若者二人とは、風太郎から金で頼まれた男たちだった。
とある山の中で彼らと出会った風太郎は、金を渡す振りをして、彼らを殴りつけ気絶させ、その身体を乗せたまま車を崖から突き落とし、二人を殺害すると、1億円の入ったトランクを奪い返し、何喰わぬ顔で兄丸社長の元に駆け付け、さも自分が命を賭けて奪い返して来たかのように、大袈裟に吹聴するのだった。
先に戻って、石井課長から報告を受けて動揺していた兄丸社長は、風太郎の言葉を鵜呑みにし、大感激する。
その夜から、風太郎は、兄丸の家で、家族同様に扱われる事になる。
食事も同席を許されるが、その下品な食べ方に、三枝子らは顔をしかめる。
しかし、風太郎は、50円分しかラーメンを食べられなかった貧乏時代の事を思い返し、今の境遇に満足していた。
その夜から、かいがいしく正美の面倒を見る風太郎の姿があった。
正美が転んで足を痛めると、その足を嘗めて、正美に抱きつく。
しかし、その目は、窓を開け、二階でシャワーを浴びている姉、三枝子にしっかり向けられていた。
そんなある日、車庫の中に現れた秋葉刑事が、新聞の静岡版を風太郎に見せ、松崎の河原で、頭が割れた白骨遺体が発見されたと伝える。
どうやら、長い間失踪していた熊田正吉らしいと言うのである。
風太郎は、そんな事は自分には関係ないと、秋葉刑事を追い返す。
後日、兄丸に同行して、ゴルフ場に行った風太郎は、池ポチャのボールを拾い上げてやったり、ごますりの限りをしていたが、そんな姿を気に入られたのか、兄丸は、自分はかねがね、長女三枝子の入り婿には、社長の後を継いでもらい、正美の入り婿には副社長をさせようと思っていたのだが、その正美の婿になってもらえないかと切り出される。
かくして、挙式は執り行なわれ、正美の夫となった風太郎は、身体の不自由な人たちへと、ポンと2000万円寄附するのだった。
そんな風太郎の元に、ある日、独りの面会人がやって来る。
長年、音信不通だった実父蒲郡兼三(加藤武)だった。
風太郎は、そんな父親に冷たかった。
幼い頃から家に寄り付かず、たまに帰って来ても、ホステスを従えて、泥酔状態で母親に無理難題を押し付ける有り様で、幼い風太郎は、そんな父親に包丁や斧で立ち向かおうとした事もあった。
父親の右手の甲には、今でも、その時受けた斧の傷があったが、当時の父親は、風太郎に向って、てめえなんか、生まれて来ねえ方が良かったんだよと罵声を浴びせたのだった。
その父親が今、成功した風太郎の前に現れて、金をせびろうとしていた。
父親の暮らし振りは、昔とちっとも変っていないようだったが、風太郎が、きっぱり要求をはねつけると、お前の身体の中には、俺の血が流れているんだと、捨て台詞を吐いて会社を後にしようとする。
しかし、その兼三に近づいて来たのは、秋葉刑事だった。
そのまま、おでん屋に誘った秋葉刑事は、小学5、6年生くらいの時の風太郎の事を聞き出そうとする。
兼三は、自分の手の甲の傷痕を示しながら、隣人殺人は、風太郎の仕業かも知れないなと、他人事のように嘯くのだった。
その夜、寝室にいた風太郎は、いつものように、妻の正美に薬を飲ますが、その晩、飲ませたのは眠り薬だった。
正美がベッドで寝ている間、義父兄丸の部屋に侵入した風太郎は、兄丸を絞殺して、そのまま塀を乗り越えて外に一旦逃げ出す。
外部からの侵入者の犯行に見せ掛けるためだった。
風太郎は、兄丸を殺した事で、資産300億を手にしたと確信する。
しかし、塀から飛び下りた風太郎の姿を目撃している者があった。
たまたま近くにいた父親兼三だった。
兼三は、風太郎が飛び下りた地点に行くと、その場に落ちていた紐を拾うのだった。
正美は、姉三枝子からの電話で眠りから醒める。
そして、父親が殺されたと聞かされると、驚いて、隣で寝ていた風太郎を起こすのだった。
兄丸の邸宅に到着した風太郎は、被害者遺族を装い、兄丸が絞殺された様子などを刑事から聞き出す。
その様子を、家の外から観察している秋葉刑事の姿があった。
兄丸の葬儀の後、とうとう大昭工業の社長になった風太郎は、三枝子と二人、クルーザーで海に出ていた。
しかし、三枝子は、風太郎の事を疑っていた。
風太郎は、そんな三枝子を、船室に閉じ込めると、無理矢理衣服を裂き、乱暴をするのだった。
みんな私のものになるズラと迫る風太郎だったが、三枝子は、心だけは絶対に渡さないと断言する。
翌日、社長室にいた風太郎に、妻正美から電話があり、姉が突然、行き先も告げずに旅行に出かけてしまったと言う。
その夜、バーに出向いた風太郎は、気に入ったホステスに、金で関係を迫るが、ホステスはバカにして相手にしない。
すると、風太郎、金をどんどん積み、最後には、トランク一杯の金を見せると、さすがにホステスも言う事を聞く事になる。
ホテルに連れて行った風太郎は、ベッドの上に札束を巻き、それを拾い集めるホステスの姿を面白そうに眺め、近くにあった花瓶で、そのホステスの頭を殴りつけようとしていたが、そこへ突然、一人のチンピラ風の男が銃を持って乱入して来る。
どうやら、その俊次郎と言う男(左とん平)は、ホステスの愛人らしかった。
風太郎は命を助けてもらおうと、金は全部やると言い、もっと金を欲しくないかと誘い掛け、俊次郎から連絡方法を聞き出す。
自宅では、正美が、いつまでも連絡がない姉の事を案じていたが、風太郎は、そんな正美の服を剥ぎ取って、「化物!「醜い俺を見ていると、自分の事と重ね合わせているのではないか」などと罵倒しながら、杖で、妻の裸体を打ち据えるのだった。
翌日、会社の社長室にいた風太郎の元に、又、父親兼三がやって来て、兄丸殺害現場の平の外で見つけたと言う紐を出してみせる。
取りあえず、口封じのため、金を渡して返した風太郎だったが、すぐに、俊次郎に電話を入れ、指令を伝える。
その夜、泥酔してホステス連れで町を徘徊していた兼三に、秋葉刑事が近づくが、その時、近くの車から拳銃が発射され、兼三は倒れる。
翌朝、寝室で、正美が首吊り自殺をしているのを、お手伝いが発見する。
それを風太郎が見ている所に、勝手に上がり込んで来た秋葉刑事が、あの兼三が持っていた紐を出してみせる。
しかし、風太郎は騒がず、自分にはアリバイがあると主張するのだった。
秋葉刑事は、撃たれた父、兼三は、どうして大金を持っていたんだと追求する手を緩めない。
だが、どうしても、風太郎を追い詰める決定打を持たない秋葉刑事は、お前のような奴を「銭ゲバ」と言うんんだと罵倒して帰る。
そんな風太郎の元に、お手伝いのときが酒を運んで来る。
その時、さり気なく、ときは、妻正美に毒を盛った事を知っている素振りを見せる。
エッフェル塔の写真を眺めている所を見ると、海外へ行く金を要求しているようだった。
それに気付いた風太郎は、すぐさま家を出て行くように怒鳴り付ける。
一方、庭で新しい土が覗いている辺りを観察していた秋葉刑事は、突如、風太郎から殴られそうになり、反撃する。
石灯籠に、風太郎の頭をぶつけ、戦意を喪失させると、急いで、土を掘り起こしはじめる。
しかし、そこから出て来たのは、犬のメリーの死骸だったので、秋葉刑事は落胆する。
後日、風太郎は、会社の前に集まった抗議集団にいらついていた。
工場用水に有機水銀が混入し、患者が多数発生していたのだ。
企業の罪を告発する民衆の姿に、風太郎は混乱する。
工場を潰すと言う事は自分自身を潰す事になると大激怒。
家に帰った風太郎は、そこに三枝子の姿を発見する。
こっそり旅行先から帰っていたらしい。
彼女は、風太郎そっくりの醜い容貌をした赤ん坊を、あなたの子の寛太郎だと手渡す。
その後、庭で、赤ん坊の顔を見つめていた風太郎は苦悩する。
三枝子は、寛太郎の姿が見えなくなったので、心配して探し回っていた。
独り戻って来た風太郎は、そんな三枝子に、何故、あんな化物を産んだのだ、私は醜いものは嫌いなのだと問いつめる。
それを聞いた三枝子は、風太郎が、赤ん坊を殺してしまった事を直感し、これから警察に送り込んでやると迫る。
しかし、風太郎は、そんな三枝子の腹をナイフで突き刺すのだった。
全てを手に入れ、全てを失ってしまった風太郎は、悄然として海辺を彷徨い歩くだけだった。
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ジョージ秋山が少年サンデーに連載したマンガを実写化した作品。
大人の目から見ると、いわゆる「ピカレスクロマン」なのだが、当時は、これが少年向けマンガとして発表されたと言う事で、世間に衝撃を与えた。
金のために人殺しもいとわない主人公の姿は、学生運動などで殺伐とした当時の世相と相まって、大人気となった。
ただ、基本的に「子供向け」のストーリーなので、一つ一つのエピソードは、実写にしてみると、リアリティのない幼稚なアイデアにしか見えない。
例えば、兄丸が殺される所など、動機面から考えて、風太郎が一番疑われるはずなのだが、その辺の掘りさげはない。
又、緑魔子が「主人公が憧れる金持ちの令嬢」に見えないなど、色々気になる点がないではない。
あくまでも、当時の少年マンガの感覚と理解しながら観るべきだろう。
唐十郎は、芝居をしている人間にしては、ぶよぶよの身体をしており、見るからに気持ち悪い。
出番は少ないながら、岸田森も、殺され振りは迫力がある。
まるで、吸血鬼の最後だ。
信欣三、加藤武など、渋い脇役陣にも注目したい。