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家庭の事情
馬ッ鹿じゃなかろうかの巻

1954年、宝塚映画、三木鮎郎原作、賀集院太郎脚色、小田基義監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

国会の大臣に記者たちが取り囲み、疑獄事件についてコメントを求めると、大臣いわく「家庭の事情」

電気会社に、頻発する停電について首府が質問すると「家庭の事情」

寿司屋を差し押えに来た不動産屋の言い訳も「家庭の事情」

男から結婚を迫られた女性が断わる理由も「家庭の事情」

雨の中で傘を持ったトニー谷が唄いはじめ、タイトル

満員電車の中、連れ添って乗っていた会社の同僚で恋人のハルコ(伊吹友木子)と離ればなれになった戸仁井谷夫(トニー谷)は、目の前で思わぬ美女を見つけ目が釘付けになってしまう。

その美女が駅で降りた所で雨が降っているにもかかわらず、傘を持っていない事に気付いた戸仁井は、自分の傘を差し掛け、家まで送って行く事にする。

途中でどうした訳か、その美女は着ていた洋服を脱ぎ出すと、下着姿になってしまう。

訳を聞くと、洋服が濡れてしまうからだと言う。

そうして到着した彼女の家は、ものすごく立派なお屋敷だった。

中に入った戸仁井は、広い部屋の中で、思わず彼女と一緒に踊りだしてしまうのだった。

その内、その踊りに、春子さんも混ざっていた…

押入の中で目が醒めた戸仁井は、今までの出来事が全て夢だった事に気付き、玄関まで向おうとするが、二つの座敷には目一杯家族が寝ており、その身体を踏みながらたどり着くしかなかった。

母親から、こんなに早く起きなくても、出社時間になったら起こしてやると言われた戸仁井だっtが、とても、もう一度、押入まで戻る勇気はなかった。

立町月賦建設会社に出社した相良(千葉信男)は、机の上で寝ている戸仁井を発見し、驚いて起こすと、家庭の事情で、家では寝ていられないのだと説明される。

それを聞いた相良は、それだったら、早く春子さんと結婚して、彼女の家に転がり込めば良いじゃないかとアドバイスする。

そこへ出社して来たのが、その春子さんだったので、結婚後の生活について話しはじめる戸仁井だったが、春子さんは、二人で毎月500円づつ貯金すれば家が買えると提案する。

しかし、戸仁井が得意の算盤ではじき出した所によると、そのペースでは、41年8ケ月かかってしまい、自分が66才、春子さんが61才になってしまうと教え、いっその事、若い内から、そちらの家に自分が御厄介になるのはどうかと提案してみる。

その後、訪れた春子の家では両親しかいないようだったので喜んだ戸仁井だったが、さらに、祖父と祖母夫婦、そして驚いた事に曾祖父、曾祖母夫婦まで同居している事が分かり、結局自分の家と大差ない事を悟るのだった。

玄関口で二人きりになった春子は、お分かりになって?家庭の事情が…と言い、今度の日曜日くらい、どこか二人きりになれる所に行きたいけど、雨が降ったらどうしようと甘えて来る。

それを聞いた戸仁井は、僕の涙で天気にしてみせると、訳の分からない事を言い、その言葉通り、日曜日は晴天になったので、喜び勇んで春子を連れ、草深い河原にピクニックに来た戸仁井だったが、二人きりかと思った草むらは、木がツクと廻り中、座っていたアベックだらけ。

もう、二人きりになれるような場所はない事を知るのだった。

がっかりした春子に対し、戸仁井は良い考えを思い付いたと言う。

二人は、日曜日の会社にやって来たのだ。

ここなら誰もいないので二人きりになれると喜んだ二人だったが、それもつかの間、「その飯ごうを取ってくれ」と言う聞き覚えのある声が聞こえて来る。

見ると、広川課長(柳谷寛)ではないか。

考える事は誰もが同じだったらしく、彼も又、日曜日は、狭い我が家にいるよりは、電気代も水道代もタダの会社で過ごす事を思い付いた口らしく、何と、女房や子供まで連れて来ていたのだった。

翌日、朝から葡萄酒を飲んでいる戸仁井の姿に驚いた相良に、この葡萄酒には、当選すると文化住宅が当る抽選がついているのだと戸仁井は説明する。

さすがに、そんな戸仁井の姿を観た相良は呆れ、猛然と春子さんにアタックをし始める。

実は、相良も又、前から春子を狙っていた一人だったのだ。

柔道四段の腕前だと言う彼の売り込み言葉を聞いた春子は、ステキと言い出す。

それを観ていた戸仁井は悔しさに身悶えしはじめるが、課長命令でセールスに行かせられる。

群集の中、戸仁井は太平住宅の宣伝を流暢に訴えるのだった。

そんな戸仁井、ある日の電車の中で、夢で観たのと同じ美女に遭遇する。

思わず彼女に近づいた戸仁井だったが、その女性のバッグに手を伸ばしている男に気付き、思わず「懐中ものに御用心ザンスよ」と注意してやる。

夢と同じように、彼女が降りた駅で自分も降りた戸仁井は、ここで雨でも降っていれば最高なのにとつぶやきながらも、彼女の後をついて行くが、いつの間にか迷い込んだ松原で待ち伏せていた彼女から、さっきは洒落た真似をしてくれたなと妙な因縁を付けられてしまう。

そして、人相の良くない男たちが現れ囲まれたので、ようやく彼女がスリの仲間だったと気付いた戸仁井だったが、彼女の合図と同時に男たちから袋叩きに会わせられる。

身ぐるみ剥がされ、ランニング姿になった所に現れたのが春子さんで、彼女は、戸仁井が襲われているのを助けようとするが、逆に、スリ一味に車に乗せられると、そのまま誘拐されてしまう。

これを観た戸仁井は、何とか恋人を救おうと、そのまま車を追い掛けはじめる。

見ると、車から何かが投げられた。

それを拾ってみると、春子が身につけていたショールではないか。

それを鉢巻き代わりに額に巻き付けてさらに追跡する戸仁井は、またもや、何かが車から捨てられるのに気付き、拾い上げると彼女のブラウスだった。

これは大変と、追跡を続行していた戸仁井は、いつの間にか、マラソンレースの選手たちと混じってしまう。

さらに、車から落とされたものは、春子さんのスカートだった。

夢中で追い掛ける戸仁井をマラソン選手と思った沿道の群集たちは、やんやの声援を送りはじめる。

途中で、飲み物などをもらいながら、逃げる車を負い続けた戸仁井は、偶然にも、待ち受けていたゴールをトップで通過してしまい、何と、世界一の記録でそのレースの優勝者となってしまう。

たちまち取り囲まれたマスコミ陣から、商品は家具付きの高級住宅だと教えられた戸仁井は、主催者からその場で家の鍵を手渡されると、嬉しさのあまり、思わず、春子さ〜んと叫んでしまうのであった。

春子さんは無事だったので、ある日、二人は手を繋いで、景品で当った高級住宅に向っていた。

やがて、二人は、夢のような一戸建ての大きな家を見つける。

玄関口まで来た戸仁井は、外国映画のように春子を抱き上げると、そのまま家の中に入るのだった。

ところが、無人のはずの家の中では大勢の人の声が聞こえて来る。

不審に思い、近くの応接室の扉を開けた二人は、そこで、自分達に送られた日本酒を勝手に開けて騒いでいる見知らぬ男女の姿を発見する。

思わず家を間違えたかと思い、表の表札を確認に出てみた二人だったが、そこにはちゃんと「戸仁井」と書かれているではないか。

もう一度、家に戻った二人が、中で騒いでいた連中に、自分達がここの家の主人だが、あなた方は?と事情を聞くと、彼らの方も驚いたようで、実は自分達は、近所の団地に住む24世帯の家族だが、今度、電車が通る事になり、その進路にあった団地には立ち退き命令が下ったのだと言う。

それでは困ると考えた彼らは、むしろ、ここの家を通るように変更してくれと電車会社に談判に行ったら、こちらさんが承知してくれさえしてくれたら路線変更に応じると言う返事だったと言うのである。

こんな豪邸を帰るような人なら、さだめし大金持ちだろうから、相談に乗ってくれるはずと待ちかねていたと言うのだ。

驚いた戸仁井は、とんでもない。自分達も貴女達同様に貧乏なんだと説明するが、多勢に無勢、他の部屋にも、団地の住民たちが居座っていた。

がっくりした二人は、玄関の外に出ると呆然としてしまい、春子は泣き出してしまう。

結局、二人は、新婚初夜と言う大切な一夜を、外のベンチで抱き合って眠ると言う悲惨な目に会う。

二人の不幸はそれに留まらなかった。

翌朝ベンチで目覚めた二人は、路線変更運動に支援する近所の民衆たちのデモ隊が家になだれ込んで来たのを目撃する。

彼らは、最初、戸仁井たちも仲間だと思って、署名にサインするよう勧めて来るが、二人がここの家の住人だと知ると、敵だとばかり大騒ぎを始める。

一計を案じた戸仁井は、みんなの前で、ここは歌でも唄って陽気に過ごしましょうと提案し、自ら、算盤を弾きながら唄い出すが、最初はそれにつられて唄っていたデモ隊も、途中から騙されるなと言う声が上がると、又、抗議運動を始める。

そんな中、何とか家の中に逃げ込んだ二人だったが、応接室にいたのは、見覚えのあるスリ一味のヤクザだった。

ヤクザの親分らしい男(寺島雄作)が戸仁井に言うには、このままあんたたちはここに居座ってくれと言う。

そうすれば、電車会社は路線変更が出来ず、ここの土地は値下げしてしまう。

そこで自分達が買取って、ここを赤線地帯にして設けると言うのである。

戸仁井が断わると、やくざたちからこてんぱんにやられてしまう。

その後、春子から傷の手当てをしてもらっていた戸仁井だったが、自分は決してやくざたちには負けない良い方法を思い付いたと言い出す。

その後、早井電車の路線は変更され戸仁井家の敷地を通る事に決定し、団地の住人たちは無事で済んだ。

線路工事が終わり、久々に我が家を訪れてみた戸仁井と春子は、線路が通った我が家の姿を観て驚愕する。

何と、線路は、大きな邸宅の真ん中を突っ切って敷かれていたのだ。

つまり、一軒家が、線路に断ち切られて、真っ二つ切断されたように離れているのだった。

これには、路線変更案を受け入れた戸仁井も愕然としてしまう。

新居での生活が始まり、台所で料理を作った春子が、居間で待っている戸仁井の所に鍋を運ぼうと近づいて来ると、突然、電車が通過して、春子は轢かれそうになってしまう。

居間で、二人が甘いムードになろうとすると、その度ごとに電車が通過して、二人の抱擁は振動と、窓から覗く乗客たちの好奇の目に晒され、台なしにされてしまう。

ある時、家のちょうど真ん中で電車が停まったかと思うと、降りて来た車掌が、故障の修理と言いながら車輪の点検を始める。

驚いた事に、その車掌とは、あの相良だった。

二人への嫌がらせの為に転職したのだと言う。

さすがに、精神的にも追い詰められた二人だったが、さすがに終列車が通過し終わったら、二人きりになれるはずと淡い期待を胸に深夜を待ち受ける。

ところが、終電車が通過後すぐに、線路の補修係がやって来て、二人の前で工事を始めるではないか。

その補修工事がようやく終わり、ようやく二人きりになれたと互いに抱擁しようとすると、一番電車が走って来るのだった。

こうした毎日を過ごすようになった二人が精神的に参ってしまうのも当然で、会社では、課長が、すっかり生気をなくした戸仁井を心配する。

自宅にいた春子の方も、そのイライラした様子を見かねた隣の奥さんから、ヒスを起こしているのは神経衰弱になっているのではないと指摘されていた。

思いつめた二人は、ある夜自殺を決意する。

方法は簡単、目の前に走っている線路に二人抱き合って寝ていれば良かったのである。

ところが、そんな二人を奇妙な顔で観ていたのは、一人やってきた相良で、実は、電車会社がストに突入したので当分電車は走らなくなったと言うのだ。

さらに、そこにやって来たのは件のヤクザたちで、戸仁井たちに又因縁を付けようと近づいて来るが、相良が自らの身体を張って、追い返してくれる。

そうした騒ぎの後、戸仁井は又してもグッドアイデアを思い付く。

戸仁井は、早井電車の運転手に転職していた。

自宅の真ん中に来た彼は、急に電車を停めると、満員の朝の通勤客を放っておいて、すたこら居間に降りて行くと、春子が用意していた朝食をその場でゆっくり食べはじめる。

それを観ていた乗客たちは、一斉に文句を言いはじめるが、これまでさんざん嫌がらせを受けて来た仕返しだとばかりに、戸仁井は動ずる事なく食事を続け、さらに、春子までもが、乗客たち相手に、手製の弁当販売を始める始末。

それを観ていた車掌の相良は、困った顔で降りて来ると、二人の前に「発車オーライ」と書かれたプラカードを出し、それをひっくり返すと「終」と書かれてあった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

往年の人気ボードビリアン、トニー谷の生み出した流行語「家庭の事情」をタイトルにし、彼本人が主演するシリーズ第一作。

当時人気者だったトニー谷は、テレビばかりでなく映画にも数多く出演しているが、たいていは顔見せ、ゲスト出演レベルのものが多く、彼の本当の面白さが分かるようなものは少ないのだが、本作は、さすがに主演作だけあって、かなり面白い作品に仕上がっている。

何と言っても感心するのは、アイデアの面白さ。

「雨に唄えば」を連想させるようなタイトルから始まって、夢のミュージカルシーン、そこから一転、現実の世界のせちがらさに展開させ、恋人を追っかけるマラソンシーンと言う昔ながらの身体を使ったスラプスティック、そして、家の真ん中を電車が通ると言うシュールなクライマックスへと、ビックリするようなアイデア満載の中編作品になっている。

もともと、独特の話芸で人気を得たトニー谷だけに、それを映像的な面白さに転化するには、相当アイデアが必要なのは自明で、この作品では見事にそれを実践している。

特に、家のど真ん中を線路が走り、そこを本物の電車が通過する奇想天外さには驚かされる。

このシーンは、合成やスクリーンプロセスなどではなく、本物の電車が使われており、おそらく、支線か何かの両脇に、本当の部屋のセットを作って撮影したものと思われる。

トニー谷も、まだ元気一杯と言う感じで、口先だけのギャグでごまかさず、きちんと身体を使って笑わせようとしている所が見事である。