1963年、日活、長谷部慶次脚本、今村昌平脚本+監督作品。
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へっぴり虫が地面を歩いている。
雪の中、行灯片手に道を急ぐ産婆。
松木忠次(北村和夫)は、自宅の中で力む妻えん(佐々木すみ江)の出産間近の姿を観ながら、自分の子だと舞い上がっていた。
そこへ、産婆が到着する。
それは、大正7年、冬の事だった。
役所に生まれて来た長女とめの出生届けを出しに行った忠次は、一昨日の10月3日に生まれたと報告するが、結婚後、二ヶ月で生まれた事を知っている受付の人間達は、誰の子だか分からないと笑っていた。
納屋でセックスをする忠次と妻、その姿を、子供達が入口から観ている。
それは、大正13年5月の事だった。
少女に育ったとめは、父ちゃんと母ちゃんは夫婦か?と、無邪気な質問を祖母るい(相沢ケイ子)に投げかけていた。
祖母は、そんなとめに、山ノ神を供えさせるのだった。
20才になったとめ(左幸子)は、製糸工場で働きはじめていた。
そこへ、「チチキトク」の電報が届く。
しかし、自宅に戻ってみると、父親の姿はなく、山に行っていると言う。
電報は、彼女を呼び戻す嘘だった。
彼女には、地主の本田家から借りた借金を返さねばならないと、祖母るいから聞かされる
父親の忠次と相談すると抵抗したとめだったが、るいから、地主の家に嫁に行けと言われる。
そこへ、山から、忠次が帰って来て、話を聞くと、妻えんを殴りつける。
その後、忠次は、とめの足の傷を嘗めてやっていた。
それは、まさしく、近親相姦のような図であった。
しかし、結局その後、とめは、本田家の三男坊本田俊三(露口茂)から、倉の中で犯されていた。
それを又、子供が観ていた。
その子供の母親らしき女中から、とめは「鬼!」と罵られる。
りんは、これで工場が手に入ると喜んでいた。
とめが妊娠したからだった。
その事を知った本田俊三の父親は、不始末を犯した息子を殴りつけていた。
生まれて来た子が女の子だと知ったるいは、堕ろすか…と持ちかけていたが、産んだとめは、生かしてくれと願い出る。
それが、昭和18年、正月の事だった。
農作業の合間、赤ん坊の信子に乳を与えていたとめは、赤ん坊があまり飲まぬので、乳が張って仕方がないと、側にいた父親忠次に吸ってもらうのだった。
とめが、本田には10円の借金があると打ち明けると、忠次は、俺が溜めると答える。
昭和20年8月、製糸工場で働いていたとめは、空襲警報の知らせに逃げ出す女工たちの中、過労の為、倒れてしまう。
別室で横になっていたとめの様子を観に来がてら、日本が負けたと教えてくれたのは、係長、松波守男(長門裕之)だった。
実家に戻ったとめは、日記をつけていた。
少女になった信子は、自分は祖父の忠次と夫婦になるなどとませた事を言っている。
祖母るいは掃除をしながら、アメリカは日本を農地改革するらしいなどと噂している。
弟の沢吉(小池朝雄)夫婦も同居していた。
そんな松本家に、ふらりと残務整理していたと言う松波が訪ねて来る。
とめは、そんな松波に、信子を育てていなければ、自分は弱気になっていたなどと打ち明けるのだった。
その後、とめは、又、工場に戻る事にするが、忠次は、自分が10円溜めるから工場には戻るなと止める。
工場に戻ったとめは、松波に感化され、組合活動の手伝いをする事になる。
近くの草むらで抱き合うようになった二人だったが、課長代理になった松波は、明らかにとめと別れたがっていた。
昭和24年夏の事だった。
退職金として5000円会社から受取ったとめは、東京に出る事にする。
バスで、村を出ようとするとめに、忠次は、10円溜まったから行くなと止めるが、貨幣価値が変った今、すでに父の言う10円では何の役にも立たなかった。
満員列車に乗っていたとめは、列車事故の影響で、途中で降ろされる事になる。
昭和25年9月の事であった。
とめは、朝鮮戦争で軍曹になったと言うアメリカ軍人ジョージのオンリー谷みどり(春川ますみ)の家で、メイドとして働いていた。
ジョージとみどりの娘キシィは、とめに良くなついていたが、ある日、とめがベッドルームから聞こえて来るみどりの情事の声に気を取られて目を離している隙に、台所で火にかけていた鍋をひっくり返してしまい、その中身のシチューを全身に浴びて、火傷をおい、死亡してしまう。
その事がきっかけとなり、とめは正心浄土会と言う宗教に入信する事になる。
全ての過去を懺悔しろと班長(殿山泰司)から迫られたとめは、かつて製糸工場の妻のある男と関係を結んでいた事や、オンリーの家の娘を、死なせてしまい、今は、化粧品のセールスをしている事を洗いざらいぶちまけてしまうのだった。
昭和26年12月の事だった。
その正真浄土会で知り合った女将蟹江スマ(北林谷栄)に誘われ、その女将の店「ラブラブ」の女中として働くようになったとめだったが、その店とは売春宿であった。
あろう事か、とめまでも着替えさせられ、すぐに客を取らされる事になる。
とめは女将に抗議するが、女将も強かで、金が欲しくないのかと嘯くだけだった。
とめは、そこで溜めた金の中から、少しづつ国の信子に金を送金するようになる。
昭和27年5月1日、メーデーの日だった。
昭和30年9月、とめは外部妊娠で手術を受ける事になる。
そんなとめの元に、信子から4000円送ってくれと言う手紙が届き、 山ノ神が同封されていた。
入院していたとめの元にやって来た女将は、退院したら自分の仕事を手伝ってもらいたいと言い出す。
女将は、浄土会でも、すでに幹部になっていたのだ。
しかし、女中頭にしてやっても、女将は入院費すら出そうとしなかった。
そんなある日、とめはばったり、亡くなった娘の墓参りに来ていたオンリーだったみどりと再開する。
今では、韓国人のけんちゃん(小沢昭一)と言う男がヒモとしてくっついていた。
これがきっかけとなり、とめは、みどりに売春婦の仕事を紹介するようになる。
とめも又、外で勝手に客を取るようになっていた。
ある日、女将はとめに、唐沢(河津清三郎)と言う客が、あんたの面倒を観てやると言っていると伝える。
後日、とめが唐沢と温泉に行っている間に、店が警察の摘発を受け、女将は警察に連行されてしまう。
警察に呼出されたとめは、署内ですれ違った女将から、何も言うなと目で合図するが、自分から何もかも全部打ち明けてしまう。
そして、女将がいなくなった仲間の女たちに、逃げるなら今だ、客の名簿は自分が持っているから、今後は、コールガール組織にしようと提案する。
昔、組合で婦人長をやっていた経験もあるからと売り込んだとめは、仕事は夜だけやれば良く、利益配分は3:7で行こうと女達を口説き落とすと、やがて、とめを中心とする新しい売春組織が誕生する。
昭和34年4月の事だった。
池袋にアパートを借りたとめは、やって来たパトロンの唐沢から、女将が経営していた「ラブラブ」が520万で売りに出されていると聞かされる。
時価の2割安だから買わないかと言う話だったが、とめは金がないからと断わる。
そんな唐沢は、自分の接待用の客が女を要求しているので、とめ自身に言ってくれと言い出す。
さらに、5万立て替えて相手に渡してくれとまで言う。
さすがに今さら、そんな事はしたくなかったが、パトロンのたっての願いとあれば仕方なく、とめは化粧をして、雨の中、出かけて行くのだった。
その日、帰宅して来たとめは、腹立ちまぎれに、鍋を持つのを熱がっていた女中の手を無理矢理鍋の中に突っ込んでしまう。
後日、その女中花子を、とめは整形美容に連れて行き、顔を整形させるのだった。
ある日、とめの元にやって来たみどりは、何故、自分だけ、分け前が4:6なのかと文句を言う。
しかし、とめは、客からサービスが悪いと苦情が来ているのだと反論する。
みどりには、毎回、ヒモの韓国人が赤ん坊を背負って付いて来るのも不愉快だった。
金は欲しくないのか?と問いただすとめの口調は、かつての女将の口調と全く同じになっていた。
女中の花子が、きれいになって戻って来る。
とめは、だんだん女達に口うるさくなっていた。
ある時、かってに電話をしている所を見つかり注意された花子は、みんながとめの事を鬼と呼んでいると怒鳴ると、アパートを飛び出て行く。
そこへ、国から成長した信子(吉村実子)がひょっこり訪ねて来る。
信子は、山形研修農場で知り合った上林と言う青年と一緒に胡桃平を開拓したいので、20万貸してくれと言い出す。
祖父の忠次は、リウマチだと言う。
とめは、お前は騙されているんだ、金はないと言い聞かす。
そこへ、花子が戻って来て詫びを言うのだった。
さらに、「チチキトク」の電報が舞い込む。
国に戻ったとめは、末期の忠次が「乳」と言うので、ためらう事なく、自らの胸をはだけ、乳房を父親の口元に運んでやるのだった。
忠次が亡くなり、通夜の席にやって来た上林(平田大三郎)に信子が寄り添っていたのを観て、とめは信子を叱りつける。
この子も、私生児を産まなければ良いのだがと言う心配だった。
昭和35年6月の事だった。
東京に戻って来たとめは、店の女達が全員いなくなっているのを知る。
唐沢の店に電話を入れても、居留守を使われる。
そこへ、警察がやって来て、とめは連行されてしまう。
警察では、事情聴取で連れてて来られていた花子とすれ違うのだった。
昭和36年春の事だった。
ようやく警察を出たとめは、唐沢に会いに行く。
唐沢は、新しい家が用意してあると言う。
そこで寝込んでいると、信子が、唐沢から電話があったとやって来る。
聞けば、先月始め、家出をして来たと言うのだ。
これから唐沢に20万借りに行き、それと上林が持っている5万、貯金の5万を足せば、開拓資金になるのだと言う。
今は、近くのアパートから洋裁学校に通っているとも。
唐沢が時々来ると聞いたとめは、その関係性に気付き、信子を叩くのだった。
4ヶ月だけ我慢すれば良いのだと信子は抵抗するが、男と女の関係は、4ヶ月では済まないのだと、とめは諭す。
その後、唐沢に抗議しに行ったとめだったが、お前とはこれっきりだと言い渡される。
自宅アパートに戻って来たとめは、忠次の写真を見つめ、昔の事を思い出すのだった。
ある日、信子を抱いていた唐沢は、20万貸す道の他に、もう一つ道がある。それは、東京の道玄坂でアクセサリーの店を持たないかと持ちかけて来る。
月10万利益が出るから、自分が3分もらって、お前には7万入る。自分とは、週2回会うだけで良く、他の日は誰と付き合っても良い。何でも買ってやると条件を提示する。
それを聞いたノブは、アクセサリー店をやると答える。
ただし、一度国に帰って上林に会って来たいからと言い、10万だけ先払いとして受取ると、国に帰ってしまう。
しかし、信子は二度と戻って来なかった。
二ヶ月経っても戻って来ない信子からもらった手紙を携え、唐沢はとめに相談に来るのだった。
その頃、とめは、掃除婦になっており、同じ仕事仲間に、正心浄土会への入信を勧めていた。
そんなとめは、部屋で一人になると、忠次の遺影を観ながら、まだまだ苦労しなければならないと呟くのだった。
その頃、胡桃林では、ブルドーザーの上で、信子と上林が抱き合っていた。
信子の腹の中には、誰の子か分からない命が育っていた。
ある時、とめは、一人で国に帰って来る。
山道を登る途中、とめの下駄は割れてしまうのだった。
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昭和38年度芸術祭参加作品。
貧しい生まれの女が、戦前戦後を通して、その身体一つでたくましく生き抜いて行く姿を、やや醒めた視線で描いている。
娘の事だけを思い、懸命に生き抜いていたつもりだった主人公が、最後には、その娘にしっぺ返しを食らってしまう皮肉が面白いと同時に哀しい。
前半の雪国での描写が圧巻。
出て来る役者たちが、皆、本当に地元の人ではないかと思える程、リアルに描かれている。
そのセリフ回しや仕種など、皆、芝居とは思えない巧みさ。
特に、老女達の存在感がすごい。
さらに、主役を演じる左幸子、娘役の吉村実子、女将役の北林谷栄らが、そろってリアルな女の芝居を見事に演じているので、見ごたえがある。
他にも、春川ますみをはじめ、どちらかと言うと女優陣たちの力で成立しているような作品に見える。
ヒモ役の小沢昭一やパトロンを演じる河津清三郎などの脇役男優陣も安定した仕事振りを見せてくれるが、 近親相姦的な愛情を娘や孫に注ぐ、少し頭の弱そうな父親に扮している北村和夫の芝居は、特に強く印象に残る。
気軽に観れる娯楽映画と言う感じではないが、その独特の世界観についつい惹き込まれてしまう作家世界と言うべきだろう。