TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

おんな極悪帖

1970年、大映京都、谷崎潤一郎「恐怖時代」原作、星川清司脚本、池広一夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

見世物の「地獄極楽覗きからくり」を演じている様子。

鯉のぼりが上がるとある江戸時代の下屋敷。

その屋敷の主である太主(岸田森)は、配下の首を、高笑いしながら刎ねていた。

その後、上機嫌の太主は、お銀の方(安田道代)を手招くと、又、奥の寝室で、高笑いしながら抱くのだった。

そんな最中、上屋敷に留守居していた奥方が、賊に襲われたとの報告が入り、幸いにも、奥方はかすり傷で済んだと言うが、さすがに太主は一旦、上屋敷に戻る事になる。

その後、入浴を済ませたお銀の方は、お付きの梅野(小山明子)に、いずれ生かしてはおかん。奥方に子供が生まれる前に、殺さねばと相談していた。

実は、奥方暗殺は、お梅の方の差し金だったのだ。

ついでにお銀の方は、梅乃が、上屋敷にいた磯貝伊織(田村正和)という10才も年下の美貌の若侍と、不義密通にしていた事を冷やかす。

その磯貝伊織が、お銀の方の取り計らいで、下屋敷に仕える事になりやってくるが、あてがわれた部屋の前で出会った中間頭の六助(寺島雄作)から、下屋敷とは人間の裏、妾の家の事だと教えられる。

梅野は、30過ぎて初めて知った色恋に、命を掛けてみると、お銀の方の配慮に礼を言う。

太守と自分の子供である幼子、照千代が笑っているのを観ながら、「地獄極楽覗きからくり…」とお銀の方は呟く。

そのお銀の方を訪ねて、赤座又十郎という浪人ものが来る。

奥方暗殺をしくじった男であった。

赤座は、お銀の方と梅野の前に出ると、今や、春藤家の奥方に出世したお銀の方が、昔、深川の岡場所で、櫓下の娼婦だった過去を自分は知っているので、口止め料として千両寄越せと脅して来る。

それを聞いた梅野は「誰に訴える?」と尋ねながら、懐剣を抜きながら赤座に近づくと、女だてらにと子バカな表情だった相手の首を、すばやく斬ってしまう。

梅野は、女ながら、無類の使い手だったのである。

厠に立ったお銀の方は、毒薬を手に入れる為、医者の細井玄沢(小松方正)を仲間に入れようと、梅野に話し掛ける。

その夜、家老、春藤靱負(佐藤慶)がお忍び姿で、お銀の方を訪ねて来る。

春藤は、主君に、自分の女を紹介した男であった。

そして、色事師の玄沢では心もとないのでと、家老も、奥方暗殺に誘おうとする。

明日の夜、来てくれと頼み、春藤を帰した後、玄沢がやって来る。

玄沢は、慇懃無礼な態度で、お銀の方と家老の仲の事を知っているとほのめかす。

実は、玄沢も家老の春藤も、昔、娼婦だったお銀の方の客だったのだ。

そんな玄沢に、実は照千代はお前の子だと言いながら、お銀の方は、家老を殺そうと相談し出す。

約束の薬はと問いかけると、三服持って来たが、今はこれだけと一服だけ渡すと、玄沢は、かつて馴染みだったお銀の方を抱こうと、迫って来るのだった。

お銀の方、少しも騒がず、自ら寝室に誘って「好きなようにしておくれ!」と開き直るが、「千人、万人に一人の女体」と惚れ込んだ玄沢は、「死ぬほど、良い思いをさせてやる!」と抱きつくが、突然、血を吐いて苦しみ出す。

そこへ帰ったはずの家老春藤が、突然入って来て、一部始終を聞いた、ハラハラしたぞと、お銀の方に告げる。

お銀の方は、ただふてぶてしく笑うだけ。

その頃、梅野は磯貝伊織と抱き合っていた。

一方、そんな下屋敷に勤めるお由以(丘夏子)に、こっそり金の無心をしに来たのは、中間部屋で博打をしていた兄の奥坊主、珍斉(芦屋小雁)だった。

そのお由以と珍斉、お銀の方の部屋に連れ立ってはいっていく、梅野と磯貝の姿を見かけ、好奇心から近づいて聞き耳を立てる事にする。

すると、奥方に毒を盛る役目は、憶病者の奥坊主、珍斉が良いのではないかと、伊織が、お銀の方に進言するではないか。

それを聞いた二人は、床下を逃げ回り、奥方を殺さなければ兄さんが殺されると、お由以は案ずる。

いっその事、この事を奥方に密告してはと助言するが、珍斉は、おびえるばかりで返事も出来ない。

一方、入浴していたお銀の方は、花火を見た遠い昔を思い出していた。

それは川芸者をやっていた頃で、商売敵たちから、櫓下へお帰り!と虐められていた。

しかし、お銀の方は、すでに家老と付き合っており、その春藤から、お前を殿が見初めた。女の出世が始まるぞと教えられていた。

お銀の方は、今まで私を痛めつけてきたやつらを見返してやる…と、決意する。

その頃、伊織と梅野は、玄沢の死骸を入れた葛籠を運び、沼に沈めていた。

ある日、照千代の節供を祝う席で、太守は、飾ってあった五月人形の首を、ひっこ抜いてみせたりする。

そんな所へ、藩の方から使いが来たとの知らせが入る。

城代が、進言に来たかと気色ばむ太主に、やって来た二人の使い菅沼八郎太(早川雄三)、氏家左門(伊達岳志)は、お銀の方にたぶらかされている殿の目が覚めるまで帰らぬと言う。

二人の進言を聞きたくない太守は、馬で外に逃げ出すが、二人もそれを追って来る始末。

太守は、鞭でしつこい二人を叩くが、二人はびくともしない。

そんな二人を消したいお銀の方だったが、帰宅後、そう勧めてみた当の太守は、あの二人は命を捨てているので、殺しても面白くないと言い放つだけ。

屋敷内では、菅沼が、殿を早く隠居させないと家が断絶お取り潰しになると、氏家と相談していた。

世継ぎができるまで、腕利きの自分達がここに居座れば、殿はおとなしくなるだろうと、覚悟をきめる。

そんな様子を庭で盗み聞いていたのが、珍斉と妹のお由以。

しかし、梅野に見つかり、蔵の中に連れ込まれたお由以は、その場で梅野に刺し殺されてしまう。

翌日、太守は、屋敷内で、逃げ回る配下の者を的にして、矢を射って遊んでいた。

そんな殿の様子を見た菅沼と氏家は、お銀の方を毒婦と罵り、放逐しろと言い出す。

その言葉を聞いたお銀の方は、しおらしく泣いてみせると、あの二人は私を殺すつもりだから、早く奥方をやらねばと梅野に訴えていた。

蔵の中に縛っておいた珍斉の所にやって来たお銀の方と梅野は、散々いたぶったあげく、珍斉に毒を渡して、奥方暗殺の役目を承知させるのだった。

その頃、太守は、屋敷内でますます荒れ狂っていたが、それを菅沼と氏家が必死に諌めていた。

そんな所へやって来たのが、江戸家老、春藤と伊織。

伊織は、その二人と真剣勝負をさせてくれと、太守に願い出る。

それは面白いと、すぐに快諾した太守の面前で、午前試合が行われる事になる。

伊織は、まず、氏家と対峙するが、すぐさま、相手を斬ったかと思うと、後ろで控えていた菅沼も一緒に斬り殺してしまう。

これには太守、いたく御機嫌になり、梅野に、伊織に褒美の酒を振舞うよう命ずる。

自分の愛人が認められ、自らも嬉しくなった梅野は、笑顔で伊織の盃に酒を注いでやるが、その嬉しげな表情を覗き見た太守は、急に思い付いたように、梅野も腕利きだそうだが、この場で伊織と立ち会ってみろと命ずる。

驚き狼狽する梅野だったが、その場にいた春藤もお銀の方も知らぬ顔。

さらに、愛しあっていたと思っていた伊織さえも、あっさりその申し出を受けるのを見て、「この情なし男め!」と、梅野は逆上して決め立ち向うが、あっさり伊織に斬られてしまう。

倒れながらも、「良くも私が殺せるね…。こうなったら、何もかも申し上げます…」と、 太守の元へにじりかけた梅野を、伊織は無言で、背中から突き刺し、とどめを刺す。

その後、伊織は、お銀の方と抱き合っていながら「巧くいきましたな」と囁きあっていた。

二人はとうに出来ていたのだった。

その後、いつものように、お銀の方を抱いていた太守の元に、またまた上屋敷から使いが来て奥方が吐血して事切れたと報告する。

慌てて帰宅した太守だったが、部屋に独り残ったお銀の方は作戦がまんまと成功し、笑いを押さえきれなかった。

彼女は、娼婦をしていた時分の事、仲間たち相手にあばれまわっていた頃の事などを次々と思い出していた。

彼女の部屋にやって来た伊織は、残りは家老…と、ほくそ笑むが、そこへ入って来たのが、当の家老、春藤だった。

彼は、「不義者、覚悟!」と斬りかかって来るが、伊織の技量の方が勝り、逆に斬り殺されてしまう。

その庭先に、上屋敷から姿を消していた珍斉が潜んでいるのを発見。

伊織は捕まえて殺そうとするが、自分が三日経っても帰らねば、御上に訴状が届くようにしてあると言う珍斉の言葉を聞いては、仲間に加えるしかなかった。

憶病者だったはずの珍斉も、仕事をやり終えた今は、度胸も据えたようで、図々しくも、お銀の方に金を要求して来る。

その時、人の気配を感じた伊織が、襖を開けてみると、そこに太守が立っており、「全て見届けたぞ!」と迫って来る。

お銀の方は無表情に「地獄極楽覗きからくり」と呟く。

伊織は、瞬時に護衛の侍を叩き斬ると、おびえる太守に向い、その場で斬殺してしまう。

その後始末を考えていたお銀の方は、家老と太守が相打ちになったと報告しようと言い出すが、御上に知れると春藤家は断絶となってしまう。

結局、幼子の照千代が春藤家6万石の後継ぎになるのだが、その照千代、誰もいないお銀の方の部屋にいる時、そこで見つけた毒薬を、何も知らず無心に酒の中に入れてしまう。

その後、部屋に戻って来たお銀の方は、何にも知らず、それを伊織に振舞いながら、照千代は誰の子か分からないのだと嘯く。

その直後、苦しみだした伊織は、わざとお銀の方から飲まされたと思い込み、刀を抜いて、斬り掛かろうとする。

訳が分からないまま屋敷内を逃げ回っていたお銀の方は、とうとう、照千代が玩具の馬に乗って遊んでいる部屋に入り込むが、息も絶え絶えに追って来た伊織は、そこでお銀の方を捕まえ、照千代の目の前で、その胸を貫くのだった。

それを見て、幼子の照千代は、訳も分からず笑い続ける。

その場に駆け付けて来た家臣たちは、断末魔のお銀の方を冷静に見下ろし、実は、奥方は生きているのだと、申し渡すではないか。

その頃、珍斉は、金を持って、独り町中を嬉しそうに逃げていた。

お銀の方は、最後の力を振り絞り、照千代の前まで這って来て、そこで息絶えるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

極貧生活から、身体一つで成り上がって行く女の執念と破滅を描いた、時代劇版ピカレスクロマンと言った所か。

自分の立身出世の為なら、周囲の人間を次々に踏みにじって行く事もいとわない、冷血漢、悪女、毒婦としてのヒロインを安田道代が見事に演じている。

遅咲きの恋に燃えようと、男と主人に尽くし抜き、最後はあっさり両者に裏切られる女役の小山明子も哀しい。

まだ、お肌がぷりぷりとした美少年が似合う田村正和様の、優男の外見とは裏腹な意外な強さも魅力。

しかし、何と言っても本編の見所は、狂った殿様を演じている岸田森の異様さだろう。

大笑いしながら配下を殺し、大笑いしながら女を抱く。

正に、狂気そのものである。

血筋にその気があるという設定なのだが、それを色仕掛けで増大させたのが毒婦お銀の方という訳。

狂っていても、殺してしまえば、後継ぎがない状態では、お家が断絶させられる為、苦慮する家臣たち。

淡々とエピソードを羅列している感じで、特にサスペンスフルと言う感じでもなく、あまり大きな展開の面白さもないのだが、ちょっと風変わりな異色時代劇と言った感じだろうか。

佐藤慶、小松方正らの渋いキャラクターが、脇を締めている。