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運命じゃない人

2004年、PFFパートナーズ:ぴあ+TBS+TOKYO FM+日活+IMAGICA、内田けんじ脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

婚約を破棄され、一人、住み慣れたアパートを出る事になり、独り外に彷徨い出た桑田真紀(霧島れいか)は、所持金が3500円しかなく、途方に暮れる。

そんな彼女が入ったレストランで、いきなり、向いのテーブル席に座っていた男二人組の一人から声をかけられる。

「一人で食べても、美味しくないでしょうから、一緒に食べない?」と…。

サラリーマン宮田武は、会社で上司から、明日の朝、女の子と会う場所として、お前の部屋を貸してくれと勝手な事を依頼される。
宮田が、倉田あゆみ(板谷由夏)という女性と結婚するつもりで身分不相応なマンションを購入したものの、その彼女に逃げられ、今は独り住まいしている経緯を知っての頼みだった。

面白くない宮田だったが、何となく、その頼みを断わる事も出来ず、夜、自宅マンションに帰ってみると、友人で探偵をしている神田勇介(山中聡)から電話が入り、話があるから、近くのレストランまで来いと言う。

疲れており、気が乗らない宮田は渋るが、その話があゆみの事だとほのめかされると、すぐさま、チャリで飛んで行くのだった。

しかし、呼出した倉田はなかなかなやって来なかった。

しかも、肝心の話の内容を聞いても、あゆみが近々結婚するらしいと言う、聞いても嬉しくない情報。

さらに、倉田は、男もある程度の年齢になったら、女性との出合いなんて自分から積極的に仕掛けなければあるはずがないと、強引な恋愛論を展開しだした上に、いきなり、向いのテーブルに座っていた一人の女性をこちらのテーブルに招き寄せてしまう。

その女性が桑田真紀だった。

真紀が宮田の隣の席で食事を初めてしばらくすると、倉田はトイレに行くと言って席を立ったまま姿を消してしまう。

真紀と二人きりになって対処の仕方が分からない宮田は、ケイタイで倉田を呼出すが、相手は仕事で忙しいので、後は一人でうまくやれなどと無責任な事を言って切ってしまう。

困ったものの、何となく、真紀の話を聞く内に、自分の今の状況とも重なり、同情心から、自分のマンションに泊める事にした宮田だったが、そこに突然、倉田あゆみが訪ねて来て、置いて行った荷物を取りに来たと言う。

真紀は、その場にいたたまれなくなりマンションを飛び出すが、戻って来た元カノと今日知り合ったばかりの女性の板挟みとなり、どう対処して良いのか分からなくなった宮田も、とっさの判断で、真紀を追い掛ける事になる。

今日はホテルに泊まると、タクシーに乗り込んだ真紀を、なす術もなく見送った宮田だったが、すぐ思い返して、そのタクシーを走って追い掛け、彼女に電話番号を教えてくれと打ち明ける。

ようやく、真紀から電話番号を教えてもらって大喜びする宮田だったが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

…ここまで観てくれば、割と良くありそうなラブストーリーの展開である。

ところが、このエピソードに続くのは、今度は、私立探偵神田勇介を追ったエピソードである。

つまり、最初は「桑田真紀」の視点から観たエピソード、次が、宮田武の視点から観たエピソード、その次が神田の視点から観たエピソード…という風に、視点が次々に変化して行くのだが、それが、互いに関連している一夜のドラマを描いているのだと言う事が、段々観客に分かって来ると言う仕掛けになっている。

これは、ミステリー等では昔からある手法で、一見全く別々のエピソードに見えるものが平行して描かれて行き、物語の最後で、一瞬にしてジグソーパズルが完成するように、全てのエピソードがからみ合って大きなドラマを構成していたのだと言う事が判明するというサプライズを狙った発想である。

だから、そういう前例を知っている者にとっては、神田勇介のエピソードの段階で、作者の狙いが分かる仕掛けになっている。

それはもちろん、この段階で「ネタがばれた」という事ではない。

作者の「狙い」というか、「仕掛けの方向性」が見えるという事で、物語の面白さは、この後、どういう風に、作者がパズルを組み合わせて行くのかという「手腕の妙」に興味が移って行く訳である。

ここで、桑田あゆみのキャラクターがなかなか興味深く設定されている事もあり、中盤はついつい展開の意外性に引き込まれて行く。

後半は、そのサスペンスが、ややコミカルな色調を帯びはじめ、さらに意外な方向へ進んで行く事になる。

舐めて行く内に、飴の色がどんどん変化して行く「変わり玉」という菓子があるらしいが、本作は、観ている内に、味わいがどんどん変化して行く、正に「変わり玉映画」ともいうべき作品である。

何より、脚本の面白さ、巧さに感心するが、登場する俳優たちも、各々なかなか巧く演じているように思える。

ヤクザがちょっと迫力不足と言うか、もう少し本物らしく怖く見えた方が、より意外性があって面白かったのでないか…など、若干、欲も出ないではないが、取りあえず、良く出来ていると言うべきだろう。

ただ、この手の「面白さ」というのは、実際に観た人にしか分からない種類のもので、その魅力を人に伝えにくい、つまり、宣伝しにくい作品ではないだろうか。

取り立てて有名な人が出ている訳でもなく、派手な見せ場がある訳でもない。
あるのは、話の面白さ…だけで、地味と言えば、地味そのもの。

そう言う意味では、どちらかと言うと通好みと言うか、メジャー系で大ヒットするようなタイプの作品とは、ちょっと違う種類の映画のような気がする。

かと言って、一部のマニアにしか分からない類いのマニア映画ではなく、誰にでもこの面白さは理解できるはずである。