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 ガメラ4 邪神<イリス>覚醒(キネ旬投稿バージョン)

ガメラの火炎球によって焼き払われる渋谷の中にあって、唯一助けられる子供。昭和ガメラを連想させるシーンだが、「ガメラ3 邪神覚醒」では、その子供の心をガメラ自身が傷付けてしまったら…という、逆転の発想を通して、かつての怪獣ヒーロー映画という甘口な夢物語を、成長した怪獣世代自らが、あえて今の自分達が納得できる味に調理し直す事により、初代「ゴジラ」がそうであったように、「現代の寓話」として見事に再生させえている。
現実のカリカチュアである寓話は、当然人の内面が抱え持つダークな部分も容赦なく暴き出す事になるのだが、この作品でも綾奈という、一見同情すべき被害者のように見える少女が、やがては感情のままに、他者を傷付ける妖獣となっていく様が描かれ、自然の象徴たる怪獣達も巻き込み、一体誰が誰を傷付け、また傷付けられているのか判然としない、まさに現代の縮図ともいうべき渾沌とした地獄絵図が観客に提示される事になる。
最先端の科学知識を導入し、ハイテンポな娯楽活劇としての完成度を見せた前2作とはかなり趣が変わり、伝奇的要素を前面に押し出した本編は、全体にやや緊迫感に欠けもたついた印象を感じさせるし、理屈付けに終始しているかに見える役者達のセリフも、今一つ観客の心には届きにくいのではないかとも思えるのだが、あらぶる風雨、燃え盛る京都、重量感のある獣達の戦いなど、妖しくも圧倒的な映像の前では不満も薄れていくはずだ。
この作品全編を「黙示録」をテーマとした巨大な映像絵画と解釈すれば、制作スタッフ達が事前に公約していた「誰も見た事のない世界を見せる」というのが、正しくこれであった事に気付かされる。
キングギドラ以来久々の「色気」を持つキャラクター「イリス」をはじめ、従来の国産技術では実現不可能だと思われていた臨場感溢れるビジュアルの数々は、陰鬱な物語と共に、永く観る者の心に消し難い余韻を与えずにはおかないだろう。