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たそがれ酒場

1955年、新東宝、灘千造脚本、内田吐夢監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

開店間際の大衆酒場のカウンターの左隅に、一人のうらぶれた老人が慣れたように腰掛ける。
梅田(小杉勇)と名乗るその老人は、パチンコで稼いでいるらしい。

舞台では、ピアノに合わせて、青年、丸山健一(宮原卓也)が「菩提樹」の唄を練習している。
ピアノを弾いている老人、江藤欽也(小野比呂志)が、健一の唄の先生のようだ。

遅れてやってきた店のマネージャーに、梅田は、ピアノを弾いている江藤という老人の過去を話して聞かせる。
30年前には、洋行帰りの新進気鋭の声楽家で、歌劇団を作り人気を博していたが、弟子の一人が飛び出して、新しい歌劇団を作ったのみならず、江藤の女房まで、その弟子に付いて行こうとしたので、激情した江藤は、彼女を刺し、死なせてしまったという。

服役後、すっかり没落してしまった江藤という今の名前も、実は本名ではないと聞かされ、意外そうなマネージャー。

やがて、三々五々、客が集まってきて、酒場は賑わいはじめる。

各テーブルを廻っては、他人の酒をおごってもらうだけの「小判鮫」と呼ばれる卑しい男(多々良純)。
偶然再会した元戦友同士、今はブローカーをしている鬼塚大佐(東野英次郎)と、競輪狂いの岐部曹長(加東大介)。

学生達や、店で特別ショーをやるストリッパー(今でいうストリップショーとは別物)のエミ・ローザ(津島恵子)を暗い顔で待ち受ける無気味な男(天知茂?)など…。

やがて、気のある女給のユキ(野添ひとみ)をめぐって、樽見という青年を待つために子分連れで来た、ヤクザの森本(丹波哲郎)。
遅れてやってきた樽見(宇津井健)は、隠し持っていたフォークで森本の手を突くと、森本の金を奪って去って行く。
帰り際に、カウンターの梅田に、自分は今夜中に大阪に逃げるので、10時に東京駅でユキを待っていると伝えて欲しいと言い残す。

そんな酒場に、新日本歌劇団の中小路龍介(高田稔)がやって来る。

ちょうど、客のリクエストに答えて唄っていた健一に、梅田は場違いなクラシックの「カルメンの闘牛士」をリクエストするのだった。

唄い始めた健一の本格的な歌唱力に、中小路は注目する…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「いつかA列車(トレイン)に乗って」(2003)の元ネタである。

基本的に一つのセットで繰り広げられる一晩の出来事。

地味といえば、地味そのものの内容なのだが、戦後間もない頃の世相が良く出ており、じんわり心にしみ入る良質のドラマになっている。

戦争の傷跡を引きずるもの、新しい価値観を代表する学生達、それらが、狭い酒場の中に混在し、互いの価値感を主張しあう…。

本作のテーマも、「いつまでも古い価値観にしがみつくのではなく、若者達に明日を任そう」という所にあると思う。

いくつものドラマが重なりあう、いわゆる「グランド・ホテル形式」ともいうべき構成なのだが、中でも、中心的存在となる梅田を演ずる小杉勇という人、個人的には馴染みのない俳優さんだったのだが、調べてみたら、戦前は、日活の俳優だった人で、戦後は、東映で監督兼俳優として数多くの作品に携わっている人だったらしい。(本作のタイトルでも、名前の横に「東映」と書いてある)

一見、うらぶれた老人ながら、重要な役所を見事に演じきっているのが見事。

天知茂の名もタイトルに登場していたのだが、どこに出ていたのか正直分からなかった。
ポジション的に考えると、おそらく、エミを待ち受けていた無気味な男が、天知だったのだろう。
宇津井健や丹波哲郎は一目で判別できたのだが、天知はちょっと自信がない。

キワものイメージの濃い新東宝にも、こういう作品があったのかと正直驚かされた。