SDR

ストリートを駆け抜けるリトルスプリンター

自宅の近所にて


自己採点表(5段階)
高速
ポジション 3 2 4
エンジン性能 4 2 3
ハンドリング 3 3 3
ブレーキ性能 2 1 2
メカ&装備 1 1 2
総合評価 3 2 4

掲載日現在までの走行距離
約 16,000km

購入動機
 セカンドバイクが欲しくなって中古で購入。
 スクエア4Γを手に入れて半年後、冬場でちょっとの用事にΓを出すのが億劫になってきていた。そんな折り、初めてまともなボーナスを貰って懐が暖かくなり、前々からちょっと気になっていたSDRを衝動買いしてしまった。半分はウケ狙いか。

よいところ
軽い小さい
 何よりもこれが一番の長所。乾燥重量で102kgだからモトクロッサー並。これをパンチの効いた2スト単気筒200ccのパワーで引っ張るのだから、加速は良いに決まってる。
 軽さはスピードの乗りの良さにつながり一般道なら交通の流れをリード出来るし、障害物もヒラリヒラリとかわせる。この運動性を利用して街中ではデカいバイクをからかう事が出来る。
 また、余裕で取り回せる事は精神的ゆとり、安心感にもつながる。

エンジン
 2ストらしからぬフラットなトルク特性で、非常に扱いやすい。扱いやすい特性が却って面白くないとも思われるかもしれないが、しっかり2スト200ccのパワーは持っているので、誰でもアクセルを思いっきり開けてその加速を楽しむ事が出来る。とにかくアクセル全開で楽しむエンジン。

構造が単純
 水冷2スト単気筒という単純な構造のエンジンは、メンテナンス性が極めて良い。
 カウルも無いし、隙間だらけのトラスフレームのお陰でキャブの取り外しやエンジン腰上の分解も容易。また、エンジンハンガーのあるフレームのアンダーチューブはメインのトラス部とはボルトで結合しており、エンジンの脱着も容易。軽くて小さいエンジンだから、エンジン降ろすのも一人で簡単に出来てしまう。自分でバイクをメンテナンス、あるいはいじり回したい人にとっては、格好の素材でもある。
 出来るだけ無駄を省いたシンプルな構造が、バイクを「触る」気にさせるのだ。

フレームがカッコイイ
 細身のスチールパイプにメッキを施したトラスフレームが、独特の外観をつくり出している。その小ささから、一歩間違えれば小僧の原付と間違われそうなところを、このフレームが落ち着いた外観と適度な高級感を演出して不思議な存在感を醸し出し、大人のバイクに仕上げている。
 うーん、やっぱりヤマハはセンスがイイね。

マイナー
 発売当時(1985年)、あまりに割り切った造りでその思想が先進過ぎだった為に全然売れなかった。今ではその存在を知っている者すら少ない。しかし、そこがイイ。マイナー故にその正体を知る者は少なく、遭遇した者達の反応を見るのが実に面白い。
 例えばこんなシチュエーションだ。

 街中の交差点で、信号待ちしているデカいバイクの横につける。すると相手のライダーは、物珍しさから一瞬視線を投げかけてくる。が、SDRの小柄な車体を見てすぐに「敵ではない」とタカを括り、一種見下したような視線に変わる。そして信号が青に変わると、その「敵ではない」相手が意外なダッシュ力を見せて前に出る。デカいバイクに乗っているライダーはその自尊心故に、慌ててアクセルを開けて追いすがろうとする。大パワーに物を言わせてSDRに追いつくが、すぐに次の信号に足止めされてしまう。そこでデカいバイクのライダーは思う。「今は油断したが、次は先には行かせない。格の違いを見せつけてやろう」と。シグナルGPに備えて身構え、そして信号が青になった瞬間アクセルを開けてクラッチミート。強大なパワーを路面に伝えて怒濤の発進を開始する。
「どうだ!」
 だが次の瞬間、彼の眼は驚愕の為に大きく見開かれる。視界の隅を小柄なバイクが駆け抜けていくのだ。
「そんなバカな!?」
 彼は動揺するがそれも一瞬だ。
「軽いから出足が良いのだ。パワー勝負になればこちらが勝つ」
 目の前の小兵を視界から消す為に、アクセルを開け愛車を加速させる。
「これでどうだ!」
 だがどうした事だろう。目障りなバイクは一向に視界から消え去らない。それどころか差を縮める事すら敵わないのだ。
「一体どうなっているんだ!?」
 こうなるともう全ての感覚が狂ってしまう。愛車の加速が遅い。エンジンの回転が上昇しない。タコメーターの針の動きがもどかしい。
 そして気がつけば前方に車の集団が近づいてくる。これ以上の加速は危険だ。彼はやむなくアクセルを緩めて愛車を減速させた。
 正体不明の小さなバイクは減速する事もなく、車の群の中に消えていった。唯一度も前を走らせる事無く……。

 このような時、SDRの方はアクセル全開でめい一杯回して、レッドゾーン手前で素早くシフトアップを繰り返して限界の加速をしている。車の無いストレートがもう少し長かったら、あっさり抜き去られてしまうだろう。しかし、東京近郊の道路は車が密集して走っており、オーバー100馬力、最高時速300キロのモンスター達は、その実力の十分の一も披露する事は出来ない。そんな窮屈なところでもSDRは実力を100パーセント発揮できる。実際、R16やR246辺りを走っていると、上述のようなシチュエーションはしょっ中現実のものとなる。
 それから、NS−1の高校生の度肝を抜くのも面白い。信号待ちしている高校生が乗ったNS−1(とかTZM50とか)の横につけると、車格が同じぐらいだから大抵SDRを原付と勘違いする。そこで小僧は「やる気」になっちゃって、空吹かしして煽ってきたりしちゃうんだなぁ〜、これが。んで、信号が青になると一秒でミラーのゴミ粒にされて身の程を知る訳だ。
 実に面白いです。

悪いところ
振動が凄い
 元々オフ車用のエンジンをロード用のトラスフレームにマウントしたものだから、振動が凄い。特に6000rpmを越えると、高周波の振動がハンドルに伝わってきて、手がビリビリする。ホントにバランサーついてるのか?
 しかし、今では慣れてしまったのか気にならない。むしろ、高回転までブン回したときは気分が出て良いとも思う。

タンク容量が小さい
 タンク容量は10リットル。2ストオンロードマシンとしては少ないのだが、これも軽量を追求した結果なので我慢か。

ブレーキが効かない
 フロントブレーキが効かない。
 フロントブレーキは対向2ピストンキャリパーにシングルディスク。車体軽いしパワー無いからこれで十分、軽量化もできてオールオッケー! とかYAMAHAさんは思ったのかもしれないが、これだけは頂けないです。それにこのキャリパー、昔のXJRとかFZのリアに付いてたキャリパーでしょ(昔のV-maxのフロントにも付いてた)。いくらなんでもそりゃ無いでしょう、フロントに。握っても停まらないですよ……。
 このキャリパーだけでもとっとと換えたいです。TZR(1KT)用かFZR400R用の対向4ポットキャリパーとTZ250用フロントディスクが欲しい。誰かくれ。

燃費
 10キロ/リッターくらい。
 この排気量にしちゃー悪いよなー。満タンでも100kmちょいしか走らない。

主なトラブル
 チャンバーが割れた。
 排気ポートから膨張部につながるダイバージェントコーンの部分がオフ車のようにトグロを巻いているのだが、その部分に長さ6〜7センチ程のヒビが入った事がある。原因はサイレンサーステーのボルトの締め過ぎ。
 なんでそうなったかと言うと、ある日エンジンを掛けて各部のチェックしている最中に、サイレンサーステーのボルトのワッシャーが振動でくるくる回転しているのを見つけ、緩んでいるのかと思ってボルトを増締めしてしまったのよ。あの時は気がつかなかったが、サイレンサーステーはラバーマウントになっており、適正トルクでもワッシャーは回るようになっていた。前述の通りSDRは振動が激しく、エンジンマウントはリジッドじゃなくてラバーマウント(YAMAHAではオーゴソナルマウントと言う)になっている。で、SDRのサイレンサーはチャンバーと一体になっているので、エンジンから排気系までまとめて車体に対してラバーマウントになっていて、言ってしまえば車体から浮いてる。そこを、サイレンサーだけ増締めして振動が逃げないようにしてしまったから、チャンバーが振動で割れてしまったという訳。いやー、反省反省。後日、SDR専門のサイトで調べたら、他にも同じ様な目に遭っている人がいた。気をつけましょう。

ガソリンだだ漏れ
 キャブのオーバーフローとタンクのブリザーパイプから漏れて路面がガソリンの海になったことがある。SDRは燃料移送系が弱いらしい(汚れやすい。タンクがサビやすい)。頻繁にメンテナンスする必要がある。幸いメンテナンス性は良いんだけどね。
 これも前述のSDR専門サイトで調べたら、同じ様な症状に遭っている人が結構いた。他にも燃料コックの前に、車用の高圧フィルターを入れて対処している人もいた。

 他にも不圧パイプが詰まって、高回転でガソリンが供給されずにエンストしてしまったというのもあった。
 SDRってマイナートラブルで悩まされるバイクなのね(トホ

総合評価
 とにかくヤマハらしい割り切った造りで、全然売れなかったのに未だに愛好家がいるマニアックなバイク。これ持ってるのは2ストジャンキーの証!
 始めっからシングルシートで荷物が積めないのでツーリングには使えない。タラタラ走る事もできるけど、ストレスが溜まるから街乗りでのんびり買い物というのも向かない。カウル無いし、2スト200じゃ高速は辛いとか、とにかく実用性というものがまるっきり無い。かと言って峠でバカッ速かと言うとそうでもない。ちょっとストレートが長かったり、車が走りやすいような道だとあっさり大排気量車に抜かされてしまう。2スト250のレーサーレプリカにだって置いてかれる。
 でも、ストレートが短く窮屈なコーナーが連続する典型的な日本の峠では、大排気量車をカモれるしシチュエーションによっては2ストレーサーレプリカも抜ける。とにかく趣味性だけのバイクよ。
 お金や保管場所の関係で一台しかバイクを所持できない場合、購入するのに躊躇してしまうのは当然の事だろう。一台だけ選ぶなら趣味性だけでなく、所有する満足感やある程度は実用性を考慮するのが当たり前。それ故に、SDRは多くの人にとって「ちょっと気になるけれど購入候補からは外れるバイク」となり、不人気車になってしまったのだろう。
 しかしセカンドバイクとして思いっきり趣味に走るのなら、これ程お奨めしたいバイクはない。
 街乗りは不向きと書いたが、チンタラ走らずに街中でもすっ飛ばして走れば楽しめるのだ。飛ばすと言ってもSDRのスピードではたかが知れているし、軽くて取り回しの良い車体は突発的な事態でも対処しやすい。その辺を考慮して走るならば前述のように大排気量車をカモれるし、2ストの加速とアクセル全開を気軽にどこでも楽しめる。それでいて遅過ぎず速過ぎず。最近のスーパースポーツのように、本当に楽しめるのはごく短い間だけというのと違って、常にバイクに乗って走る事を楽しめる点を最も評価したい。
 中間排気量、軽量な車体で走りに特化したバイクというのは、日本人にはなかなか理解されないようだが……。
 排気量や絶対性能でなく、バランスの取れた構成と乗り手の感性と合致しやすい特性が速さを生む。これ2スト乗りの永遠のテーマでしょう。最高速性能で絶対に劣っていると判っていても、高速で大排気量車を追撃せずにはおれない2スト乗りなら判ってもらえると思うんだけどなぁ。
 2ストへの拘りと、男気のある者だけに理解される粋なバイク。ウ〜ン、流石2ストの YAMAHAだね!