わたくし、特に読書家というわけではないのですが、読んだ本は意外と多いです。なんせ怪我やら故障やらでじっとしてた時間が、クライマーの中ではおそらく突出して多いですからね(子供の頃も含めると入院生活は人生の消費税分くらいに及びます)。
 で、そうして読んだ本の中から「ぜひ」と思われるものをここで紹介してみることにしました。これらは以前に他の媒体に出したものも多いのですが、このホームページも見るところあまりないので改めてここに引っ張り出しました。機会があったらぜひ。
『山の本・2016年秋号』(白山書房刊)「私の3冊」から
  ・『第7級』ラインホルト・メスナー
  ・『野生のうたが聞こえる』アルド・レオポルド
  ・『YOSEMITE CLIMBER』George Meyers
2020年フェイスブック・ブックカバーチャレンジから 
  ・『はじめてのシェラの夏』ジョン・ミュア
  ・『サーフ・リアライゼーション』ジェリー・ロペス
  ・『ヨセミテ・ビッグウォール・スーパートポ』マクマナラ/ルーベ
「山の本」のマストとして、まず、の3冊
  ・『ビヨンド・リスク』ニコラス・オコネル
  ・『森の聖者』加藤則芳
  ・『ビッグ・ウォール・クライミング』ダグ・スコット
アメリカ・クライミングを知る3冊
  ・『YOSEMITE』A・Huber/H・Zak
  ・『THE STONE MASTERS』J・Long/D・Fidelman
  ・『BEYOND THE VERTICAL』Layton Kor
 といううことで、まずは2016年秋、『山の本』という白山書房刊の(クライマーはまず知らないであろう)雑誌に寄せた「私の3冊」から(文章そのまま)。
『第7級』

ラインホルト・メスナー著 横川文雄訳 
山と渓谷社刊 1974年

 R・メスナーというと8000m峰14座登頂やエベレスト無酸素初登頂など、高所登山の大御所という印象をまず受ける。しかし最初にその名が知られたのは、70年代初頭、ドロミテや西部アルプスで驚異的な単独登攀を行なう、クライミングの超新星としてのそれだった。そしてそうした立場から当時頭打ちだった6級神話に楔を打ち込み、クライミングのさらなる可能性を提唱したのが、本書その名も『第7級』である。
 折しも世のクライミング界は物量登攀から離れてよりスポーツ的なフリークライミングへの道を歩みつつあり、ちょうどその頃、山岳会に入って本格的なクライミングを始めたばかりの私は、その影響を大いに受けることになった。といってもそれは外から突然与えられた情報というより、鷹取山などで自分なりにボルダリング(という言葉も当時はまだなかったが)などをしているうちに自然と身についた同感覚としてでもあった。
 だからこの本は自分にとってはまさに指標となるもののように思えたのだが、その中でも特に心捉えられたのは、主題の“フリー“という考え方以上に、その求道者的なクライミングの追求の仕方だった。単独登攀という厳しい行為の中での、成果よりも個人的な内容についての飽くなき自問自答。それこそがマルモラーダやドロワットなどの華々しい記録名よりも強く心に残る。
 この本を何度も読み返しながら鷹取山で一人ボルダリングやフリーソロを繰り返し、クライミングというものは結局、個々の自己完結性に収斂していくべきものだということを学んだ気がする。
『野生のうたが聞こえる』

アルド・レオポルド著 新島義昭訳 
山と渓谷社刊 1986年(講談社学術文庫 1997年)

 D・ソロー、J・ミュア、R・カーソン、G・スナイダーらと並ぶ環境思想の大家による、環境分野のみならず20世紀を通しての偉大な思想書の一つにも数えられる一冊である。特に後半は有名な『土地倫理』(land ethics)が説かれ、これはその後のA・ネスのディープ・エコロジーやその他の多くの環境思想に強く影響を与えたとされている。
 しかし私的にはそのような学問的な価値よりも、前半の「砂土地方の四季」や「スケッチところどころ」で語られるいきいきとした自然描写にこそ強く魅せられる。雪に「俗念をいっさい振り切って進んだように」一直線に残されたスカンクの足跡。「こんな昼ひなかに、どうして外に顔を出したりしたのか」人の気配に気づいて一目散に逃げてゆく野ねずみ。こうした光景を脳裏に浮かべつつ読んでいくと、自然とともにあることの素晴らしさがつくづく身に迫り、また愛おしく感じられてくる。
 またクライマーにとっては、第二章にある「山の身になって考える」という一文も外せない。これは野生動物の数量コントロールに関する話でクライミングとは関係ないものだが、それでもアメリカのワイルドな自然の中で必然的に育まれたのであろうこうした思想を読んでいると、あの国でよりピュアな登山方法としてのフリークライミングが熟成していったのも大いに肯ける気がする。ミュアにしろスナイダーにしろ、彼の地の偉大な自然に向ける内証的な眼差しは、クライマーにとって実に示唆に富んでいるように思える。そしてあの国にこうした思想的歴史と下地があることを、実に羨ましく感じる。
『YOSEMITE CLIMBER』

George Meyers 
Diadem Books/Robbins Mountain Letters 1979年

 1970年代、世界を席巻したヨセミテのクライミングを捉えた写真集である。前半はフリークライミング、後半はエルキャピタンやハーフドームなどでのビッグウォールクライミングに分けられ、いずれも当時の世界の度肝を抜くレベルのものばかりで埋め尽くされている。そして決め手は、レベルの高さばかりでなく、その格好良さ! というのは、なにもその派手な動きや外見ばかりのことではない(確かにそのヒッピー的な服装には憧れはしたが)。なにより目を奪われるのは、その表情――目を吊り上げて歯を食いしばり、さらにそこには恐怖に慄いたような面持ちすら伺える。そしてそれこそが、この写真集のドキュメントとしての素晴らしさなのだろう。
 実際、当時のフリークライミングというものは、登れるかどうかわからない所を、利いているかどうかわからない支点(しかもその数も極めて少ない)頼りに挑むというような、今のスポーツ然としたものからすればかなりに趣の異なるものばかりだった。その緊張感と、それでもそこに挑むという心意気。それがこの写真集からはひしひしと伝わってくる。
 私自身、この本を目にしてほどなくヨセミテに赴き、遅ればせながらもこうしたクラミングに接することができたわけだが、個人的にはこの写真集に表された世界にどれくらい憧れたものか。いくら言っても言い尽くせないだろう。そして上手くなるよりも、強くなりたいと思った。今にすればそういう気持ちを持てたことが、自分にとってのかけがえのない財産であったように思う。
*         *
 ついでに去年(2020年)、第1回緊急事態宣言中(もう懐かしくなっちゃったね)にフェイスブックでブックカバーチャレンジというのが流行って、そこに投稿したものから。この時は7回分8冊を紹介したんだけど、クライミングに関係のないものも含んでいたので、ここでは山関係(でもないのもあるか。御勘弁)だけ。文章もちょっと変えてあります。
はじめてのシェラの夏』

ジョン・ミュア著 岡島成行訳 宝島社刊 1993年
 ブックカバー3日目に出したのは、ジョン・ミュア『はじめてのシェラの夏』。中身も外装もこれ!というやつです。
 ヨセミテに行った、または行こうとしてる人で、ジョン・ミュア知らない人はいないだろうな? と自主警察やってしまいそうなほどこの人は彼の地には欠かせない存在なんだけど、今回のような巣篭り生活でもこの本はとても良いです。シェラの、あのまばゆい光と雄大な景色。その隅々が、読んでいてありありと浮かんできます。その点では『山の博物誌』(立風書房)もより鮮烈で良いけど、こちらの決め手はやはりこの表紙ですね。これ見ているだけで一日充分過ごせそうです(ちなみにこの絵は大正14年に吉田博という人が書いたものだということが、その後の皆さんの投稿で知りました。大正14年つったらあのアンセル・アダムスより20年近くも前ですよ。驚き!)。
 ただこの人の本は日本では入手しづらいのが難。ヨセミテ行くとビジターセンターの書店に一棚全部この人、ってコーナーがあるのになあ。やまのかいしゃの人、なんとかしてくれよ。
『サーフ・リアライゼーション』

ジェリー・ロペス著 岡崎友子、中富浩訳 美術出版社刊 2008年
 ブックカバー6日目。は、また〜、と言われるかもしれないけど、ぜひの1冊。ジェリー・ロペス『サーフ・リアライゼーション』
 G・ロペスといえば言わずと知れたパイプラインの神様。サーファーでない私もあちこちで「サーフィンはスポーツじゃない。ライフスタイルだ」というこの人の名セリフをクライミングにわざとらしく持って来て使わせてもらっております。
 で、この人がどれだけ神かというと、トム・カレン(80年代のサーフィン・ワールドチャンピオン。若造なのに超カッコいいんだ))だったかな?が言っとりました。「パイプラインの大波の中では誰もが恐怖に顔をひきつらせている。でもロペスだけは鼻歌歌ってるみたいな顔で平然とそこにいるんだ」(細かいところは不問)。
 この表紙の写真がまさにそうだと思うんだけど、いやいや、シビレますなあ。私もそういうクライマーになりたいと、ずっと思っとりました。その挙句は惨憺たるものですが(わたくし常にぶるぶる震えながら登るもんで、あんたのビレイは緊張するとみんなに言われます)、なんせこの人のこの本、というより生き方は、クライミングにも通じるところ盛り沢山だと思います。ちなみに原本はパタゴニアブックス。ん〜、さすが!

 追加:『ステップ・イントゥ・リキッド』っていうDVDも、10年くらい前のものだけど、いいですよ。60歳近くになったジェリロペが出てて、カッコいいこと言ってた。「最初の20年は、そのスポーツを自分が本当に好きなのか、自分はそれをやるべきなのか、問う20年だ。その次の20年が、本当にそれを楽しむことができる」。これを10代半ばでワールドチャンピオンになった人が言うんだからね。いや〜、たいしたもんだ。ちなみに私はもうその次の次の20年に入っちゃってるんだけど、その段階ってのはいったい何なのかね?
『ヨセミテ・ビッグウォール・スーパートポ』

クリス・マクマナラ、クリス・V・ルーベン著 スーパートポ刊
 ブックカバー7日目最終日に出したのは、『ヨセミテ・ビッグウォール・スーパートポ』の、2000年版(左)と2011年度版(右)の2冊。これはこの(FB)チャレンジシリーズで中根穂高君が1日1冊と決まってるのに最後数冊まとめて出すという反則をやったのを真似て、というわけではなく、この2冊の「違い」を見てもらいたかったからです。
 2011年のものは本トポのサード・エディションで、11年でもうそれっ?てのも感心しちゃうけど、表紙の題材が見ての通り、エイドからフリーに完全にチェンジ。これがその辺の壁ならともかく、エルキャピタンのトポだからね。あらそ〜、って感じですか(しかもその第3版も発刊はもう10年近く前だからね)。
 ジョン・サラテの時代から連綿と続くヨセミテの歴史の中で、まあ当然と言や当然の流れではあるんだろうけど、それでも30年前のサラテのフリー化がどれだけすごいニュースだったか。それを今や市販のトポでこれじゃなあ。いや〜、激しい時代に入りました。日本も頑張んなくちゃね。
*         *
 上の6冊は今まで活字になったりSNSに出したりしたものの焼き直しなんだけど、次の3冊は改めて「山の本」のマストとしてはまず、というものです。といっても古いものばかりなのでアップデイト感はやや難あり。でも名作ばかりです(全部ヤマケイ、ってのがいまいちですけどね)。
『ビヨンド・リスク』

ニコラス・オコネル著 手塚勲訳 
山と渓谷社刊 1996年(ヤマケイ文庫 2018年)

 副題に「世界のクライマー17人が語る冒険の思想」とある通り、20世紀後半を彩った著名クライマーたちへの自身のクライミングに対するインタビュー集。名を連ねているのは古くはR・カシン、W・ボナッティから、メスナー、D・スコット、X・クルティカ、意外と珍しいところではW・ハーディング、P・クロフト、W・ギュリッヒなど。いずれも単に有名というだけでなく、「冒険」というものを語るにふさわしい人たちばかりで、しかもそれにインタビューする著者N・オコネルの突っ込み方も素晴らしい。冒険とは何か、ということに関しては今まで日本でも多くの人が著してきたけど、わたくし的にはどれも(本多勝一でさえも)いまいちなものばかりでした。しかしこの本は本当の冒険をしてきた人たちへのエグイ深掘りという点で、まさに「真の冒険とは何か」を伝えてくれるものだといえるでしょう。
 中でも私的に引き付けられたのは、やはりP・クロフト。言うまでもなくあのアストロマンをフリーソロしたヨセミテのレジェンドで、そのP氏のセリフがまたスルドい。曰く「(冒険とは)自分が積極的な役割を演じることはできるけれど、すべてを支配してはいない何か」。もちろんこれに続いてさらに深い洞察が語られそれを抜きにしてはいけないんだけど、これ読んだ時、あらそー、この人、アストロマンも「すべてを支配していない」状態で平然とソロしたものなの? とびっくりしてしまいました。というのもP氏の全盛時代というのは実は私もよくヨセミテに行っていて、氏のフリーソロ(ナビスコウォールなんかも)はしょっちゅう目にしていました。で、氏のフリーソロは構えてやるというより気楽な散歩みたいな感じでその点がなにしろすごいなと思っていたのですが、その氏がフリーソロをこのように捉え、それなのにあえてその中に常に身を置いていたということに改めて感じ入ってしまいました。しかし考えてみればそうだよね。なんせああいうルートのフリーソロなんだから。
 ちなみにこのP氏の項の扉の顔写真、ボケボケの、何でこんなの使ったんだと思うようなやつは、私が撮ったものです。ついでに単行本の表紙にも実は私が登ってるところが、L・ヒルやJ・ロウ、D・スコットなどと並んで写ってます。というわけで、文庫版も出てるけど単行本の方をできればぜひ。
『森の聖者』

加藤則芳著 
山と渓谷社刊 1995年(ヤマケイ文庫 2012年)

 こちらの副題は「自然保護の父ジョン・ミューア」。もう、説明するまでもありませんね。ヨセミテ国立公園制定の推進者にしてアメリカ最大の自然保護団体「シェラクラブ」の創設者。上の『はじめてのシェラの夏』の紹介文でも「ヨセミテに行った、または行こうとしてる人で、ジョン・ミュア知らない人はいないだろうな? と自主警察やってしまいそうなほどこの人は彼の地には欠かせない存在」と紹介しているんだけど、知らない人は、まじ、い・な・い・よ・ね?
 ただそこでも触れているように、この人の本は日本では確かに入手しづらいのも難。その点この本は文庫版でも出ているし、全体的にその人の人となりをまとめあげた本なので、クライマーでも読みやすい。というより、クライマーこそ読んで欲しいものでもあります。
 というのも、ミュアが単にヨセミテと関係深いというだけでなく、基本的にクライマーって、自然保護とは実は決して無関係ではない、と、わたくし的には勝手に、しかし強く思っているからです。それは今流行(と言っちゃ失礼かな)のアクセス問題とかというのではなく、そもそもの「自然保護」という考え方の部分について、ですね。
 例えば今、巷ではSDGsなんてものがやたら目につくようになっていますが、その中には、何それ? 本末転倒? とか、なんか勘違いしてんじゃないの? というようなものも少なくない。それはもちろんクライマーじゃなくても気づくことではあるだろうけれど、特にクライマーは、普段じかの、かつ必要以上に厳しい自然に接してる分、そして右肩上がり至上主義の経済動向に背を向けている(向けられている?)人が多い分、その矛盾に気づく率が高いのじゃないかと思うからです。だいたいフリークライミングの始まりにしてからがある意味行き過ぎた物質文明への反発でもあったわけですしね。
 そうやって考えると、ミュアのディープエコロジー的な考え方(賛否ありますが)、なにより自然と密に接するという生き方は今こそ大切で、それを山、そしてヨセミテという場所を通じて共有している我々は、より密接に受け止め、そして誇りにしてもいいんじゃないか。そう思っている次第であります。
『ビッグ・ウォール・クライミング』

ダグ・スコット著 岡本信義訳 山と溪谷社刊 1977年
 この本はさすがに入手は難しいかな。380ページ超の大判だから文庫化も難しいですね。でももし先輩でこれ貸してくれる人がいたらぜひ借りて、そして返すのはやめましょう。それくらい、クライマーには絶対的価値のある本です。
 内容は歴史編、用具と技術編、各エリア紹介編の3つに分かれていて、後2つは今となっては古すぎる嫌いもあるんですが、前半の歴史編はクライマー必見です。
 歴史というと昔学校でつまらない年号暗記なんかさせられた我々としてはとかく煙たく思ってしまうかもしれませんが、何かしらの文化に身を置こうとするとこれは実に大切なことです。「この時代の人を知ることは、現代のアルピニズムをより深く理解することに通じる。特にビッグウォールクライミングの歴史について、明晰な洞察を得ることにつながるのである。」とは冒頭に寄せられたこの著者の言葉ですが、実際、そこで語られる歴史、そしてそれ以上にそれを俯瞰する著者の歴史観には実に「明晰な洞察」が、強く根底に流れているように思えます。
 それにしても「明晰な洞察」。なんとスバラシしい言葉でしょう。我々に必要なのはまさにこれであって、ルールや学校的知識、SNSのクソ情報などではないのです。
 著者のD・スコットは1975年イギリス隊のエベレスト南西壁初登でサミッターとなったという、いわばかつての物質文明的登山の最高峰にいた人物ですが、その人物が紡いでゆくクライミングの歴史は実に読みごたえがあります。フェアに山と接しようとする古典的なクライミングがいかにすごいものか、そしてそのマインドがいかにクライミングにとって重要なものであるかが、その文章の端々からひしひしと伝わってきます。私が常々取り上げるP・プロイス(初期のドロミテでロープの使用さえ人工的だとして拒否し、そのスタイルでその時代の最難ルートを次々開拓していった猛烈なクライマー)のことを知ったのもこの本からでしたし、そのプロイスについてこの本では「現代登山界にはパウロ・プロイスのスタイルに回帰する動きがある」とも述べております。
 そして、おそらくこうした深い流れは、今も続いているのでしょう。近年のパタゴニアや北アメリカでの驚くべき記録を見るとそれは明確だし、そういうクライマーを生み出してきた歴史の偉大さというものも、感じずにはいられません。
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 私個人的な話をしますと、自分のクライミング観は主にヨセミテ、またはアメリカのそれに由っているように思います。といっても実際にやったことはたいしたことなくて所詮憧れの域を出るものではないのですが、今回紹介するのはそれを如実にインスパイアしてくれる3冊。ですが申し訳ない、全部洋書です。しかし私も当然これらを“読む”なんてことはできなくて、写真を見るか、せいぜいキャプションをなぞるくらい。でもそれだけでもめちゃ楽しめます。機会があったらぜひ。
YOSEMITE 』
Half a Century of Dynamic Rock Climbing



Alexander Huber,Heinz Zak/Menasha Ridge Press 2003年
(ISBN 0-89732-557-5)
 ヨセミテの歴史やクライミングを紹介した本としては、前出『YOSEMITE CLIMBER』の他に『The Vertical World of YOSEMITE/Galen Rowell』や『Defying Gravity/Gary Arce』なんかが有名なんだけど、近年の決定版といえるのはこれかな。著者はなんとアレックス・フーバー。言わずもがな、サラテの初レッドポイントはじめフリーライダー、エルニーニョ、エルコラソン、ゴールデンゲート、ゾディアックなどのフリー化を成し遂げた大絶倫クライマー(杉野保の言)です。
 本書はそのフーバーさんが各時代ごとの最先端クライミングを各タイトルに分けて紹介したもので、主なタイトルは、サラテのクライミング(サラテ壁じゃなくてジョン・サラテのことね)、ゴールデンエイジ(R・ロビンスなんかの話)、エルキャピタン初登(W・ハーディング)、来たるべき新時代(J・ブリッドウェルの話)、アストロマン初登やノーズのワンデイアッセントなどの比較的古いものから、エルキャピタンのフリークライミング(サラテやノーズ、エルニーニョなど)、ボルダリング、フリーソロまで、実に強烈かつ魅力的なものばかり。
 写真もハインツ・ツァックでこれがまたどれもこれも超かっこいいんですが、本書が何より素晴しいのは、その見事なタイトル分けでしょう。フーバーさんて、その絶倫的な力だけじゃなく、クライミングに対する見識や歴史観についても本当に見事なものを持ってたんだな、と、つくづく昇天、いや感心してしまう一冊です。
『THE STONE MASTERS 』
California Rock Climbers in the Seventies



John Long,Dean Fidelman/PATAGONIA BOOKS 2009年
(ISBN 978-0-9840949-0-5)
 私的にはこれはもう、チョー涙ものの一冊。バーカー、コーク、J・ロングなどを中心とした70年代ヨセミテクライマー「ストーンマスターズ」たちをドキュメント的に捉えた写真集です。要は前出『YOSEMITE CLIMBER』の姉妹篇のようなものなんだけど、こちらは文章も盛り沢山。残念ながら私レベルでは知ってるルート名や人物名、あるいはクライミング用語をただなぞって読んだ気になるしかないんですが、これが読めたらさぞ面白いだろうな〜、勉強やっときゃ良かったな〜、と、珍しく後悔の念すら抱かせてくれる一品です。
 それにしてもあの時代、70年代のヨセミテっていうのは、単に私が憧れてるというだけでなく、本当に、世界のクライミング界にとっても宝といえるものだったんだろうな、と、つくづく依怙贔屓的に思ってしまいます。中でも素晴しいのが、まだ小僧の頃のバーカーさんとコークさんが、(おそらく)キャンプ4あたりでヒッチハイクをしている写真。たぶん16、7の頃だと思うんだけど、こんな金の無い若者が、ヒッチをしながら、世界の最先端を切り開いていたのかと思うと(世界初の5.12はこの2人によるエレファントロック・ホットライン。1975年――諸説はあるが)実に感動してしまいます。
 また、この本で個人的になにより引き付けられたのは、わたくしめのヒーロー、トビン・ソレンソンのことがやたらたくさん書いてあったことですね。彼は日本ではあまり知られてないんだけど、ストーンマスターズの代表格的存在であり、この時代の際どい系フリールート(今はRが付くようなものばかり)を多く初登した他、ヨーロッパアルプスやカナディアンロッキーでまさに時代の最先端をいくアルパインクライミングも成し遂げたスーパークライマー。個人的な話では私はバーカーさんより実はこのトビンさんにめちゃくちゃ憧れて、それでヨセミテに行ったという過去があるからして、この本はまさに感動ものでした。
 しかし、それらをすべて含めてこの本からあふれ出てくる「若さ」という香り。そのエネルギーにラリってしまうこと請け合いですよ。
  キャンプ4でヒッチをする
  若き日のR・コークと
  J・バーカー
『BEYOND THE VERTICAL』


Layton Kor/FALCON GUIDES
(ISBN 978-0-7627-8139-3)
 レイトン・コアという名前も、日本じゃほとんど聞かれないかもしれません。でもアメリカに行くとこの名前はたいへんなもんです。疾風怒濤、という言葉も今の人はほとんど聞いたことないだろうけど、ともかく、1960年代、その言葉がドぴったりな猛烈なクライミングを次から次へと繰り出し、アメリカの岩壁登攀史に燦然たる足跡を印したクライマーです。J・ブリッドウェルが自分の息子に、レイトン、と名付けていると聞いたらその偉大さがわかりやすいかな。
 ともかく、コアさんの果てなきエネルギーには驚愕の一言。ユタのわけわからん砂岩塔を端から登りまくった記録から始まって、コロラド・ロングスピークのダイヤモンド壁初登、ブラックキャニオン・ノースカムズビューウォール初登、カナダ・アンクライマブルズ溪谷プロボシス南東壁初登、ヨセミテに来てはエルキャピタンでサラテ壁第2登、ノーズ第3登、ウェストバットレス初登。そしてヨーロッパアルプスではジョン・ハーリン、ドゥーガル・ハストンと共にアイガー北壁ダイレクトに臨み、そのほとんどをリードしたりもしてます。
 残念ながらこの世界的プロジェクトはハーリンの墜死で終了し(ハストンのみ同時にトライしていたドイツ隊に合流して完登)、コアはそれを機にクライミングから身を引いてしまうのですが、それにしても彼がその強烈な行動力で築いたアメリカの大岩壁登攀というジャンルは、私的には非常に憧れるものがあります。決して「アルパイン」ではないけど、一つの大きなジャンルとして(特に日本人などは)特筆すべきものであるでしょう。
 ちなみにこの本はロバート・ゴドフリーという人(コロラドで出された『CLIMB!』という本の編集者)がコアからの聞きづてをまとめて作ったもので、最初はALPINE HOUSEという出版社から今のものよりやや大判で出されていました。それを後年、あのファルコンガイド(ヨセミテのトポなどで有名)がパット・アメントなどのプロデュースで再発行したというもので、それを見てもいかにこのコアという人がアメリカで敬われた存在かということが伺えるでしょう。アメリカでもコアの名前を出すと、お、こいつはなかなか知ってる奴だな、という顔をされますよ(キャンプ4の脇にも“コア・ボルダー”というボルダーがあります)。
      1984年のオリジナル版
Book Review
Book Review
菊地敏之 クライミングスクール&ガイド
Kikuchi、Toshiyuki Climbing School& Guide
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