幻の宣戦布告通知書

宣戦布告通知書(複写)

 これは、人外協に対する宣戦布告通知書のコピーである。
 オリジナルは現在も所在不明なのだが、おそらく、人外協の機密文書保管室の奥深くに埋葬されていると思われる。

 外惑星聯合側は宣戦布告にあたり、あえて正式な外交的手続きを踏んだという。
 わざわざ大量の推進剤を消費して特使を派遣し、通知書を人外協隊長に直接手渡した、はずだった。
 いや、確かに手渡されたのだが、その事実はすぐには公表されず、通知書自体もかなりの期間存在しないかのように扱われた。
 開戦当初、人外協側は、外惑星聯合は正式に交渉する対象ではないとの見方をとっていて、この対応もその延長線上にあったと考えられる。

 この件に関しては、人外協隊長が手渡された通知書を、うっかり自分のカバンのなかにつっこんでそのまま忘れていたせいだ、というジョークが、当時の外聯市民の間で広まっていたという。
 敵方の首脳をバカにするジョークは戦時中は珍しくないし、それが真相だなどと本気で考える者は誰もいなかっただろう。
 しかし、こんなジョークが作られるほど「黙殺」が不自然かつ異例であった、とは言えるかも知れない。

 今後、時が経つに連れ、第一次外惑星動乱に関係する多くの資料が公開されてゆくだろう。「幻の」通知書や、この前後の経緯を伝える資料が世に出る日を待ちたい。

(中谷2号 記)

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