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今月の特集
【軌道兵団秘話】

旧前後方トロヤ連合軍総司令官/村田[従五位治部少輔]健治

 

 外惑星聯合が起死回生をかけて行った第壱號作戦。しかし外聯の総力戦となったこの戦いに、ついに旧前後方トロヤ連合軍は姿を現わすことがなかった。二名もの部下を持ちながら何故、旧トロヤ軍は脱落しなければならなかったのか。今回発見された旧トロヤ軍幹部の当時のひみつ日記から、外惑星動乱の混乱の中で歴史の陰に埋もれた衝撃の事実が今明かされる。


 今日がその日だと私が知らされたのは、わずか数時間前だった。
 作戦開始を意味する暗号を受け取ったとき、さすがに体がふるえた。しかし私には、感慨にふけっている余裕などなかった。時間はかぎられているのに、やるべきことが山ほどあった。これから襲撃までは、息つく暇もないほど忙しくなるはずだ。
 こんな事態が予想されたから、ここ一ヶ月ほど私は執務室の外にほとんどでなかった。起きているときは端末に向かいっぱなしで、暗号の入電を待ち受けていた。だが、端末に向かうのもこれが最後だ。作戦が始まれば、すべての記録を保存して仕事に行くのだ。
 私は端末の前に腰をすえた。仕事の最初は、二人の"部下"に作戦の概要を伝えることだ。さいわいなことに、そのうちの一人であるフランケンは今ここにいる。自分の部屋に戻った彼は、少し前からレコードプレーヤーで遊んでいたのだ。そしてもう一人の部下である白江は、飼育係のところへお使いに行っているはずだった。さしあたっては、彼女にこのことをしらせなければならない。
 流れるようなキイタッチで、私は入力を開始した。


 フランケンは、物かげにかくれて表の様子をうかがっていた。
 ──やられたかな。
 直感だった。セットアップされてまだ日は浅いが、こんな勘だけはよく働いた。おともだち帳が、充実しているせいかもしれない。危険をかぎとる能力が、まちがいなく彼にはあった。
 そのペンギンは、段ボールの陰から部屋の中をうかがっていた。おそらく第三勢力の手先だろう。そうフランケンは判断した。そのペンギンの雰囲気は、いかにもそれらしかった。しかも、その手の中には花束がある。フランケンの線からか、そうでなければ総司令官のサインから、アドレスをつきとめたのかもしれない。
 最近はあまり模様替えをしていなかったから、危険だとは思っていた。だがいつだって危険は、きてほしくないときにやってくる。そして、思いがけないときにもやってくるものだ。
 ──さて、どうするか。このまましばらく、様子をみるか。
ほかに方法も思いつかなかった。フランケンは、習性のようになってしまった用心深さで、じっとそのペンギンを観察していた。


 白江はその知らせを、飼育係のオフィスで受け取った。
 日曜だったこともあって、外聯ビルの館内は閑散としていた。おやつが欲しいわけではなかったが、彼女はいつものようにお使いをしていた。自室にいるよりは、経験値が上がるからだ。彼女が何よりも恐れていたのは、軌道兵団からの脱落だった。 具体的なことは教えられていなかったが、どんな作戦が始まるのか、想像くらいはついた。だから、あまり自室にはいたくなかったのだ。彼女は女性らしい直感から、ここにいる方が安全だろうと考えたのだ。
 彼女は、おやつを食べる手をとめてポストをみた。飼育係からの、メールが入っていた。くるものがきたか──なんとなくそう思った。通信文は、大切に指定されていた。彼女はおやつを中断し、ポストの通信文に目を通した。送られようとしている文章は、簡単なものだった。

   これからパーティーをはじめる イソロク

 彼女は、ポストを離れた。持っていくものは何もなかった。おやつだけを手にして立ち上がり、デスクのまわりを手早く片付けてから部屋を出た。
 誰もいない館内を、靴音高く歩いた。一歩ごとに、床を蹴飛ばすような歩き方だった。気分が高揚していた。こんなに壮快な気分になったのは、久しぶりだった。歩き方までが、さっそうとしていた。
 廊下を曲がったところで、阿部連絡士官と顔を合わせた。連絡士官は、両手にハードコピーの束をかかえていた。彼女の顔をみるなり連絡士官はいった。
「手をかしてほしい。とりあえずこれを、シュレッダーにかけてくれ。それがおわったら、メインコンピューターの初期化を手伝ってくれ。念のためにいっておくが、私が許可するまで館外に出ることを禁じる」
 いつもの丁寧な物腰ではなかった。それは、あからさまな命令だった。連絡士官がやろうとしていることをみて、彼女がうすうす感じていた疑問がはっきりと形をととのえた。そうか、やはりそういった事態になるのか。
 彼女は、胸をはっていった。

「わかりました」

こうしてトロヤ軍は作戦から抜け落ちた。


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