#198 今度は音響操作に挑戦(前編)

2002/05/29

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 以前に、私の属する劇団で照明操作を経験した時のことを書いたが、今度は音響操作に挑戦することになった。

 音響操作とは、芝居を印象的に見せるために、演出の指示した場所で、役者の演技などのタイミングによって音を出す仕事である。照明操作などと同様、進行している演技を見て、適切なタイミングで音を出すわけである。出す音には大きく分けて、場面のムードを演出するBGMと、何かのアクションによって出るはずの音を出す効果音との2種類がある。

 MDが普及する以前は、テープにそれぞれの音を録音し、それを再生するという方法で行われていたものである。頭出し(再生したときに音の始まりが正確に再生できるようにしておくこと)がより正確に出来るように、カセットテープよりもオープンリールテープの方が好んで使われるケースも多いようであったが、いずれにせよ、嵩張るメディアをいくつも用意する必要があったため、結構大変であった。MDが普及してからは、いくつもの音を同じMDに保存しておけるし、ランダムアクセスなので頭出しの必要もないし、メディアも小さくてすむ。一時停止状態にしておけばボタンを押すのとほぼ同じタイミングで音が出るため、再生の時のタイムラグもほとんどなく、非常に便利である。

 ただしMDは、デジタルで音を記録しているため、何かの拍子で異常が起きると中のデータがすべて消えてしまう。以前学校の体育館で公演を行ったとき、コンセントからの100V電圧が安定していなかったために、本番直前にMDデッキが壊れてしまい、中に入っていたMDのデータもすべて消えてしまって慌てたこともある。この時の反省から、芝居の効果音に使うMDはすべてバックアップを取っておくようになった。

 現在、私の属する劇団のスタンダードな音響システムは、MDデッキ3台とサンプラーという、割と贅沢な構成になっている。なぜMDデッキが3台もいるのかと言うと、BGMが流れている最中に効果音が入ったり、きっかけが続く時などに操作が間に合わないことがあったりするからである。またサンプラーという機器は、銃声やドアノックなど、役者の動きに合わせて出す必要がある比較的短い音を出すのに使われ、ボタンを押すとその音が出るようになっている。

 照明の場合と違って音響操作の方は、実際に使用する機材を自分たちが調達するため、劇場に入る前の稽古の段階から、本番で使用するのと同様のシステムを組んで実際に練習することが可能である。というわけで、通し稽古も始まった今、私の方も操作の練習をするのだが、やってみるとこれがなかなか大変で、いつまでたっても操作ミスがなくならない。

 照明の場合、基本的にはAの明かりがBの明かりへ移行するというように、1つの状態が別の状態に遷移するだけなので、あらかじめパターンを作っておけば、切り替えはスイッチ(フェーダー)の操作1つだけで足りる。それに対し音響の方は、Aという音にBの音がかぶり、更にBがCに移り、合間にDという音が入るといった具合に、独立した4つのチャンネル(MDデッキ3台+サンプラー)を一人で操作する必要がある。更にBGMなどの場合それ単独で状態が変化していくので、決められたタイミングで音がちゃんと先頭から始まらなければならない。更に音量に関しても、役者の台詞の邪魔にならないようにするなど、流れている最中でも微妙に調整しなくてはならない。つまり照明の場合よりもはるかに操作が複雑になる場合が多い。

 また万一操作を間違っても、照明の場合は「何かおかしいけどまあこんなもんか」で済むような場合が多いが、音の間違いは誰にでも分かるケースが多い(銃を撃っているのに刀の音が聞こえたら変だというのは誰にでも分かる)。また人間の耳といいのは結構敏感なもので、タイミングがコンマ数秒ずれただけでも、違和感を感じるものである。要するに、照明の場合に比べると、ミスしたときにミスだとわかる確率がはるかに高く、タイミングもシビアなので、相当に困難である。

 そんなわけで、本番まであとわずか2週間ほどしかないのだが、未だ一度として完璧な操作を成功させていない状態である。こんな調子で本番を乗り切ることができるのか。結果は後編に。


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