#070 高画質デジカメに思う

1999/07/02

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 最近のデジカメは、どうも方向性が違うのではないかと思う。少なくとも私の望むデジカメからどんどん離れている気がする。

 私が今でも現役で使っているデジカメ(MINOLTAのDimageV)は35万画素である。35万画素と言えば、Windowsが普及する前の一般的なパソコンの画面の解像度(640×480)である。私は通常はパソコンの画面の解像度を1124×768のフルカラーにしているので、DimageVで撮った写真をパソコン上で表示すると、だいたい画面の1/3くらいの大きさに納まって表示される。このぐらいが画面上で閲覧する場合にちょうど良い大きさであると思う。

 しかし、現在市場に出回っているデジカメは、100万画素をとうに通り越し、今や200万画素時代に入っている。単純に考えれば、35万画素の時代の6倍も画素数が上がっているのだ。今や世の中のデジカメの趨勢は、銀塩写真のクオリティを目指して進んでいるようである。確かに撮った写真の画質は悪いよりは良いに越したことはないだろう。だが果たしてデジカメの写真にそれほどの画素数が必要かどうかと言うと、必ずしもそうではない気がする。

 例えば200万画素の写真を普通にモニタに表示する場合、写真全体を等倍で表示するには、1600×1200の解像度の画面が必要と言うことになる。これだけの大きさの画面は、ノートパソコンではまずないだろうし、デスクトップで辛うじて大きなモニタと沢山のグラフィックメモリを載せている場合のみ可能というレベルである。

 デジカメの写真の利点の一つは、撮った後であれこれとデジタル的に加工が可能であるという点だが、200万画素の写真ともなると、加工するのも一苦労である。もとよりそのままでは画像全体が画面に納まりきらない上に、これだけの大きさの画像をフォトレタッチソフトなどで扱おうと思うと、かなりのメモリを必要とするからである。例えばPhotoshopの場合、扱う画像のサイズの5倍+10Mbyte程度のメモリを必要とするとされている。200万画素でフルカラーの画像を扱うとなると、この式によれば50Mbyteのメモリが必要ということになる。システムを動かすメモリも必要だから、パソコンそのものには最低64Mbyteは必要ということになるだろう。写真1枚を加工するだけで、である。

 また、このくらいの大きさになると、場合によっては1枚1Mbyteという大きさのファイルになってしまう。こうなると到底FDなどに記録しておけない大きさであり、MOなどのリムーバブルメディアを使ってもすぐに一杯になってしまうだろう。また、記録したデータをデジカメからパソコンに転送する場合も、これだけサイズが大きいと、スマートメディアやコンパクトフラッシュをPCMCIAのカードアダプタを使って転送する方式以外では、遅くてやっていられないと思う。フラッシュパス(スマートメディアのFD型アダプタ)はFD並のスピードしか出ないし、ましてやシリアル転送では1枚転送するのにがんばっても1分はかかるだろう。ほとんど実用的ではない。

 そして、そのくらい大きな画像ファイルは、WebやMailなどネットワークでデータをやり取りする時にも難渋する。電話回線で56kbpsのモデムを使った場合、1Mbyteの情報を受信するには約3分かかる計算になる。くどいようだが、写真1枚に、である。これが何枚分もあった日には、一揃い受信するのに1時間くらいかかりかねない。

 結局のところ、画素数の多いデジカメの写真は、そのままでは表示も加工も通信も大変だということになってしまう。従って、多くの場合はそのままプリントアウトするということになる。そのプリントにしても、銀塩カメラのプリント代が限りなく0円に近づいている一方、プリンタにフルカラーで画像を出力すると、消耗品(インク、専用紙)代が1枚あたり10円は下らない。コスト的にも、デジカメの画像をプリントアウトするのは銀塩写真の場合に比べて決して安くはならない。

 デジカメはここ3年くらいの間にどんどん進化した。そのこと自体はもちろん悪いことではない。ただ、その画像を処理する側のパソコンなりプリンタなりの性能、そして通信事情などがデジカメ程には良くなっていないため、大きな画像を持て余してしまっているのではないかと思う。

 前にも書いたが、デジカメにはデジカメならではの使い方楽しみ方があったのではないかと思う。プリントアウトさえしなければ基本的にランニングコストはタダだし、失敗したらその場で削除できる気軽さがあるから、銀塩カメラに比べて手軽にシャッターを切れる。例えば電車やバスの時刻表をその場で書き写すのは大変だが、デジカメで撮影すれば一瞬で終わってしまう。内容はあとでゆっくりパソコンの画面で確認すればよい。そういう「画像メモ帳」的な使い方はデジカメならではのものであろう。

 最近のデジカメは、画質重視に走る余り、普通の銀塩カメラと同じ様なものになって来つつある。考えてみれば、銀塩カメラと同じ市場で争った方が利用人口が大きくマーケットが広いので、より広く売れると言うことなのかも知れない。しかし、銀塩カメラにない魅力をデジカメに求めている私のような人間にとっては、かえってちょっと淋しくなってきたな、と思う次第である。

 まあ私の様な人間にとって救いがあるとすれば、そういう一世代前の小画素数小サイズのデジカメが安くなって、中古市場に大量に出回り始めたことかも知れない。F値の小さい、明るいレンズを備えたコンパクトなデジカメがあったら、乗り換えてみようかなとも考つつ、今日もアウトレット店を回ってみていたりする。


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